新訳:ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

48 / 70
そう言えばペルソナ3・4ってPS2で出たんだよなぁ……(白目)


第四十四話:洸夜の刀と黒き馬を従える者

 悠は洸夜の過去を見ていた。

 自分を襲うシャドウを粉砕する黒き仮面と、その目覚めの瞬間を。

 

「これが兄さんの過去……ペルソナに覚醒した光景」

 

 悠自身は殆ど覚えていない記憶だったが、所々は悠もうっすらだが見覚えがあった。

 それでも、今の今まで思い出せなかったにのは代わりないものだったが。

 

――光景が変わる?

 

 突如、悠の目の前の光景が消え、不思議に光輝く。

 次のフロアへの移動と思う悠だが、新たなに広がる光景は次のフロアではなく、何処か古い雰囲気のある鎧やら何やら飾られている場所が映し出された。

 

 また兄の記憶かと悠は思ったが、その場所の光景に見覚えがある事に気付く、しかもつい最近も見た覚えまである。

「ここは……もしかして<だいだら屋>?」

 

 稲羽で悠達が武器防具、シャドウが落とした物を売って装備を整えている場所。

 目の前に広がる光景は、まさに日頃通っているだいだら屋そのものであった。

 

「でも、なんかいつもよりも綺麗な様な……」

 

 悠は目の前の光景に違和感を覚える。

 日頃行くだいだら屋は、まさに男の仕事場と言わんばかりに年期の入った汚さがあり、少しボロい。

 だが、目の前のだいだら屋らしき店は、なんと言うか周りの年期が浅く感じてしまう。

 

 気のせいと言えばそれまでなのだが、悠の中でその違和感が拭えない。

 

「でも、何故にだいだら屋? しかも、恐らく過去のだいだら屋だろうし……」

 

 今まで洸夜の過去だったが、だいだら屋は洸夜も最近知った店故に、洸夜の心に印象的になるとは思えない。

 新たに増える疑問を抱えながらも、悠は辺りを見渡す。

 すると突如、店の中に怒号が響き渡った。

『返せッ! それはまだ未完成だッ!!』

 

 悠は突然の怒号に驚きながらも、その声の方を見る。

 そこには、渋い雰囲気を醸し出す手拭いを頭に巻いた男と黒服にグラサンを付けた二人の男が対峙していた。

 

「あっ……やっぱり、だいだら屋のオジサン」

 

 頭に手拭いを巻いた男、それは少し若いが悠達がよく知るだいだら屋の店主の姿だった。

 いくらこれが過去の光景とは言え、あんな濃い人物は間違い様がない。

 

「これでここがだいだら屋って分かったけど、一体何をしているんだ?」

 

 悠の目の前では、店主と黒服の男達が揉めているのが分かる。

 黒服の一人は大きなアタッシュケースを手に持っているが、揉め事の中心はもう一人の黒服が手に掲げる様に持つ一本の刀の様だ。

 

 布製の袋に入れられている一本の刀、微かに持ち手の柄が見えたが店主はそれを指差し、黒服へ返せと言っている。

 しかし、それに対して黒服達は店主の言葉を小馬鹿にした様に鼻で笑っていた。

 

『フン! 此方はこれで問題ない。形さえ出来ていれば良いと、御当主は仰っている』

 

『……ほら、これが報酬だ』

 

 黒服の一人が持っていたアタッシュケースを店主と自分達の間に投げ捨てると、アタッシュケースはその振動で開くと、中から大量の札束がこぼれ落ちる。

 

「おっ、旧札」

 

 こぼれ落ちた札束の絵柄、それは悠の知る中、二つ程前の絵柄だった。

 大量の札束よりもそこに目に行くのは悠らしいが、これでこの光景が完全に過去だと確信する。

 

『これは口止め料も含まれているが、それでも無名の職人に与えるに破格の額だ』

 

『桐条現御当主……<桐条鴻悦>様に感謝するんだな』

 

「桐条……鴻悦?」

 

 黒服が口走った当主の名前に悠は首を傾げた。

――桐条鴻悦。

 

 シャドウを捕獲して研究させ、桐条の罪の権化の張本人だが、悠は知る筈もなく美鶴の関係者程度にしか思わなかった。

 

 だがそんな相手と店主が一体どんな関係があるのか、関係しているのは刀だと思うが悠は意外に思えて仕方なかった。

 

『そんな事はどうでも良い! それはまだ未完成、そんな中途半端な仕事もしなければ、刀も可哀想だろうが!』

 

 そう言って黒服の持つ刀を掴む店主。

 しかし、黒服は不気味な笑みを浮かべて言った。

 

『なにが可哀想だ。なんだかんだで金欲しさだろ? それに刀だろうが武器は道具だ。それ以上の価値は……望んじゃいねんだよッ!!』

 店主を振り払う黒服に、だいだらの店主は思わず尻餅をついてしまう。

 だが、黒服達は起き上がらせる事もしないまま、そのまま店を出て行こうとする。

 

『待てッ! 待てぇぇぇぇッ!!』

 

 だいだら屋の店主の声が木霊する。

 だが、黒服達と刀はそのまま出て行くのは止められず、同時に再び辺りが光輝いた。

 

「また光景が……!」

 

 悠が呟く中、辺りの光が無くなると今度の光景はだいだら屋ではなく、沢山の機械や研究員らしき人が沢山いる、所謂研究施設の様な場所だった。

 

 人の声の殆どが辺りの機械音で聞きずらいが、周りの人間全員は平然と会話をしている。

悠は何やら頭がおかしくなりそうな場所に溜め息を吐きながら、辺りを見渡すと気になる物を見付ける。

 

「あれは、さっきの刀か?」

 

 目の前の光景である研究施設の部屋、その中央にある台に一本の刀が寝かされていた。

 先程見た刀が何でこんな場所に、と悠は思うが寝かされている刀の異様な様子を見るとそんな思いでは無くなった。

 

 刀は鞘から出されており、その刀の刃には赤や青色のケーブルが付いた装置が取り付けれており、そこから出される数値等を見て研究員達は頭を抱えている。

 

『クッ! またか……何がいけない!?』

 

『実戦データを踏まえても、シャドウを弱らせる程度しかならないか……』

 

『最悪、後継機の七式アイギスの装備にしてみては?』

 

『七式は火器中心装備だ。刀なんて必要あると思うか!?』

 

『ならば旧式でも……!』

 

『わざわざ旧式なんて引っ張り出してどうする! 七式に幾ら金が掛かってると思っているんだ?!』

 

 何やら揉め出す研究員達、目的は分からないが研究が上手く行っていないのは分かる。

 

 結局、その研究員達が揉め始めた事を皮切りに実験を一時中断し始める他の研究員の一人が刀から装置を取り外し鞘へ戻した瞬間、研究員は異変に気付く。

 

『お、おいッ!? この刀、鞘から抜けないぞ!』

 

 その言葉に、その研究員の下へ研究員達が集まって行く。

 

『どう言う事だ! お前、一体何をしたッ!?』

 

『わ、私はただ鞘に……!』

 

『それで何故、抜けないッ! どうするつもりだッ!!』

 

 再び揉める研究員達、悠には分からなかったが余程の事態の様だった。

 何やら試行錯誤する研究員達だったが、結局、刀は全く抜く事は出来ず研究員達は刀をその場に残し出て行ってしまう。

 

『鉄屑め……!』

 

 研究員のその言葉を最後に、景色は消えて行く。

 消える直前、悠は刀が寂しそうに見えてしまった。

 

▼▼▼

 

 同日

 

 現在:黒の駅

 

 悠の視界に先程のフロアと全く同じ様な広い空間、そして美鶴達の後ろ姿が入る。

 隣ではクマが小さく先程の光景について考えていたのか、唸っていた。

 

「な、なあ……さっきのシャドウに襲われてペルソナが覚醒した子供……なんて言うか……あぁ……その……」

 

 やはり言葉を最初に発したのは順平であったが、順平は気まずそうに言葉を濁す。

 

 気を使っているのは分かるが皆も馬鹿な訳がなく、ここまで来ているのだ、既に先程の光景が誰の者なのかは皆も分かっている。

 そして、先程の光景が一番ショックだった者も。

 

「美鶴先輩……」

 

 ゆかりは美鶴を心配し声を掛けた。

 もし、もしも先程の事が洸夜のペルソナ・ワイルド能力覚醒の引き金ならば、それは即ち……。

 

「巻き込んでいたんだな。既に桐条は、五年前よりも昔に洸夜を……」

 

儚げに語る美鶴。

 幼くしてペルソナに覚醒した者の辛さを美鶴を知っており、記憶が無かったとは言え、それで責任が無くなる訳ではないからだ。

 

 後に洸夜がタルタロスに迷い、シャドウと戦う事となるがその時にワイルドに目覚めたのか、それとも先程の光景の時に既に目覚めていたのかは分からない。

 

「ですが、洸夜さんはあの戦いに巻き込まれました……」

 

「遅かれ早かれ……って事ね」

 

 暗くもフォローする乾とチドリ、だがチドリの言葉には微かに怒気がある。

 先程の桐条の研究員が彼女の心を刺激したからだ。

 

 そして、二人の言葉に悩みながらも頷くメンバー達。

 結局、影時間に適性がある時点で洸夜が何かしら関わるのは決まっていたのは事実。

 だが、美鶴と明彦だけが首を横に振る。

 

「いや、先程の光景を見て確信した。五年前、洸夜がタルタロスに巻き込まれた一件、それは仕組まれていた」

 

「えぇッ!? し、仕組まれていたって……」

 

 不安な口調で言う風花。

 仕組まれていた、その言葉が一番気になったのだ。

 そして、その風花に明彦は腕を組んで説明する。

 

「洸夜が巻き込まれた一番の理由はタルタロスに迷い込んだ事だ。洸夜は言っていた。誰かに眠らされ、気付いたら学校にいてタルタロスに巻き込まれたと……」

 

「眠らされて学校……?」

 

 不思議そうに呟く悠。

 眠らされて学校に連れて行く理由が分からないのだ。

 

「実は影時間中、学校がタルタロスになるの」

 

「へ~変わった学校だったんだクマね?」

 

「兄さん、全国でよくそんな学校をピンポイントで選んだな……」

 

 ゆかりの説明に色々と納得した悠とクマ。

 悠のそんな学校発言に、美鶴達は心に少しグサッと来る物があったのは内緒だ。

 

「けど、そんな事が出来る人って……あッ!?」

 

 順平は思い出した。

 該当者が一人いる事を、絶対に忘れてはいけない人物。

 特に、美鶴は絶対に忘れる事の出来ない人物だ。

 

「幾月ぃ……! あの男なら、理由はどうであれ先程の一件を知り得る事が出来た男だ!」

 

 怒りの瞳の美鶴。

 今になっては知り得る事が出来ないが、恐らくは幾月が裏で糸を引いていたと確信があった。

 

「あの晩、俺、美鶴、シンジの三人は当初タルタロスへ行く予定ではなかった。だが、あの日に理事長はタルタロスのデータが欲しいと言い、俺達はタルタロスへ向かった……そして」

 

「シャドウに襲われている洸夜さんを見付けた……」

 

 アイギスが明彦の話の続きを言い、明彦もそれに肯定の意味で頷いた。

 今思えば『彼』を連れてきたのも幾月であり、ワイルドを持つ者達はあの男に言いように動かされていたのだろう。

 

 最終的には、その思惑と共に帰らぬ人となったが。

 そんな風に会話する中、悠はさりげなくクマに聞いた。

 

「クマ、さっき兄さんの過去以外にだいだら屋のオジサンと刀も見なかったか?」

 

「へっ? あの渋い店主さんと刀?……いや、クマは見てないクマ。クマは大センセイの過去を見たらここにいたクマよ?」

 

「えっ……?」

 

 クマの言葉に悠はそんな筈は、と先程の光景を思い出す。

 気にせいでも幻でもない、あれ程まで鮮明に見せられたのだ。

 

 クマがそんな事で嘘をつく様な奴じゃないのも分かっており、悠が考え始める中、風花が美鶴に近付いた。

 

「桐条先輩……そんなに自分を責めないで下さい。洸夜さんの事は、少なくとも美鶴さんだけが背負う事では……」

 

 心配して風花は美鶴へ言ったが、美鶴はそれに対し首を横へ振る。

 

「桐条としてそれは言えないんだ……私は、桐条は、洸夜を苦しめ過ぎた……!」

 

 そう言って美鶴は何処からともなく錠剤の入った瓶を取りだし、皆に見える様にした。

 

「なにクマかそれ? ラムネ?」

 

 クマが気になってソワソワしながら聞くが美鶴は小さく、いや、これは……と言って否定して説明しようとしたが、それよりも先にチドリが口を開いた。

 

「どうして美鶴がそれを……抑制剤を持ってるの?」

 

 咎める様に言うチドリの言葉に、悠とクマを除くメンバー達の表情が変わる。

 <抑制剤>――ペルソナを抑制させる薬であるが副作用で命を縮める薬。

 

 嘗て、チドリ達ストレガと真次郎が服用しており短命となっていたが洸夜のペルソナによって副作用が消されている。

 しかし、チドリにはそれでも忌々しい物であるのには変わりない。

 

「先輩……それってあの時の……!」

 

 順平の問いにゆかりは思い出し、他のメンバー達は何のことだと不思議そうに美鶴達を見た。

 それに対し、明彦が何か言おうとしたが美鶴がそれを手で制止する。

 

 それは、己で話すと言う覚悟の様だった。

 

「これは、洸夜から私が取り上げた物だ」

 

 その言葉に全員、特にチドリと悠の表情が固く真剣なモノとなった。

 チドリは身を持って知っており、悠は抑制剤という言葉に引っ掛かった。

 そして、それを実の兄が持っていたと知れば尚更だ。

 

「どうして鳴上先輩がその薬を……?」

 

「洸夜が……ペルソナを扱えなくなっているからだ」

 

 全員の表情が更に驚きとショックを隠せなかった。

 だが明彦とアイギス。そして順平とゆかりは知っており、悠もそれは勘づいていた為にその点に関しては驚く事はなかった。

 

 そして、驚くメンバー達を前にするが美鶴は更に話を続ける。

 

「前に会った時、洸夜のペルソナ達は洸夜の意思と関係なく現れ、洸夜を襲っていた」

 

「だからって、洸夜さん……なんであの薬を、荒垣さんやチドリさんの事を分かっている筈なのに……」

 

 美鶴の言葉を聞き、ショックで悲しみの表情を見せる乾。

 だが、美鶴は何となくだがその答えが分かっており、そのまま悠の方を向いた。

 

「洸夜がこの薬を飲もうとした時、私はそれを止めた。だが、その時にこうも言っていた……俺は悠達を殺してしまう……と」

 

「……えっ?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、悠とクマは互いを見合わせる。

 

「ペルソナを使役出来ず。暴走させた結果、悠さん達を巻き込んでしまう……洸夜さんはそう考えていたのでしょう」

 

「だ、だからって使って良い訳じゃない! もし、美鶴が止めなかったら洸夜は命を縮めてたかも知れないんでしょ!」

 

 アイギスの言葉にチドリが怒りの声をあげた。

 そんな事したらどうなるか、洸夜もよく知っているからこそチドリは怒った。

 風花やコロマルもショックが大きく、顔を下に下げてしまう。

 

「……なんで大センセイは、そこまでして背負い込んでしまうクマ?」

 

 気まずそうにクマが美鶴達へ聞いた。

 己をそこまで犠牲にしてまで、何故、背負い込もうとするのかクマには分からなかった。

 そして、そんなクマの問いに答えたのはアイギスだった。

 

「……洸夜さん自身が自分を許せないんだと思います。『あの人』と同じワイルドを持っていたのに、何も出来なかったと思う自分を」

 

「人は己の無力程……許せないモノはない」

 

 アイギスの言葉の後に明彦が呟き、その言葉に何処か強い説得力を悠は感じ取る。

 そして、同時に悠は思った……自分ならばどうだったのだろう。

 

 同じ立場でもそう思ったのか、考えても仕方ないのは分かっていたが、悠は考えずにいられず、そう思った瞬間、思わず呟いてしまった。

 

「背負い過ぎなんだよ。馬鹿兄……」

 

 その呟きが聞こえたのどうかは分からないが少しの間、黙ってしまうメンバー達。

 そんな時、チドリが不意に動き、美鶴の手の抑制剤の瓶を奪う様に取ると上へ放り投げ、そして……。

 

「メーディア!」

 

 メーディアを召喚しメーディアは炎が燃える杯に顔を近付け、息を吹き掛ける様にすると、小さく飛び出した炎がそのまま抑制剤を燃やしてしまう。

 

 突然のチドリの行動に呆気に取られる美鶴達に、チドリはメンバー達を見て言った。

 

「こんな物も、こんな物を使わなきゃいけない人も……もう、ない方が……良い……!」

 

 そう言って一人歩き出すチドリだが、拳を握り締めていたのを悠達は見ていた。

 足を止める事はできない、いやしない。

 皆で決着をつけなければならないのだ。

 

「美鶴……」

 

「分かっている明彦。足を止めるつもりはないさ……」

 

 明彦が美鶴を心配したが、美鶴は頷いて足を動かし始めると他のメンバー達も歩き出した。

 重い足を前に、静の己のするべき事を自覚させながら。

 

 そしてそんな時、悠はフロアの中心に何かが置かれている事に気付く。

 

「あれは……」

 

 少し足を速め、そこに行く悠とそれに続き悠を追い掛けるメンバー達。

 やがて悠は目的の場所へ着くと、置かれている様にある紫色の縦長の袋を拾い上げると、袋の口から刀の柄が飛び出して来る。

 

 黒紫色の綺麗な柄、そして悠はその袋の紐に<黒い鈴>が着いている事に気付く。

 それは、忘れる事も出来ない兄の鈴であった。

 

「これ……兄さんの刀?」

 

 鈴がある事で洸夜の物と判断する悠。

 よく見れば洸夜の愛用の刀である事も理由だが、悠はもう一つある事に気付いた。

 

――これ、さっきの光景の刀に似ている……?

 

 先程の自分しか見ていない光景、それに出ていた刀と洸夜の刀が同じ様に思えたのだ。

 色合いも綺麗で特徴的な刀、素人の悠でも分かる位に存在感を出している。

 

「それは……洸夜の刀か? だが、何故ここにあるんだ? 確か洸夜と一緒にシャドウに呑まれた筈だが?」

 

 明彦も刀に気付き、疑問を覚える。

 そして、それが本当ならば確かに変であり、悠は袋から刀を取り出して両手で持ち、何か異常がないか調べるが洸夜の鈴があった位しか特にはなかった。

 

「元々、その刀自体が不思議な物だ。ここにあっても不思議ではないさ」

 

「ああ……確かに」

 

 慣れている様にに話す美鶴の言葉に、何故か納得する様に頷くメンバー達。

 一体、何が不思議なのだろうか悠は気になった。

 

 今になって見れば、何かあるのかと悠は左手で鞘を持ち、右手で柄を持って抜刀の刀を取ると順平が悠に言った。

 

「あ、その刀――」

 

 順平が何か言おうとしたが、既に悠は鞘から刀をぼ抜いてその姿を出させた。

 

 あまりじっくりと見る事が無かった為に気付かなかったが、刀の刀身はまるで潤う水の様に綺麗なモノだった。

刃に写る模様、光に反射し水晶の様に輝く。

 

 余りの事に思わず刀が趣味になりそうになった悠は寸前で踏ん張り、現実に戻ると刀を再び鞘に戻した。

 

「この刀、本当に凄い刀なんだな……」

 

シンプルだが、本心から感想を呟く悠だったがある事に気付いた。

周りを見ると、美鶴達が眼を開いて驚いた様子で悠と刀を見ていたのだ。

 

 クマは何事かと思い、美鶴達各々を見るがあたふたするだけに終わる。

 一体、本当に何事かと思い悠が、なにか……?と言った時だった。

 

「ぬ、抜いた……!?」

 

 順平が珍しく真剣な口調で言い、それでも言葉が足らない為に困惑する悠に気付き、明彦がその言葉の意味を説明してくれる。

 

「その刀は……誰でも抜ける訳ではないんだ」

 

「……?」

 

 抜けないもなにも、現に目の前で洸夜の刀は抜かれた。

 悠は一体、明彦が何を言いたいのか分からずに思わず黙ってしまい、そんな悠に今度は美鶴が声を掛けた。

 

「悠、君はこの刀をどの程度まで知っている?」

 

「……兄さんが使用している。そして、シャドウの力を少し弱らせる事が出来る程度です」

 

 悠の言葉に美鶴は頷くが、正しいがそれで全てではない、そう言って悠達が知り得ないこの刀の秘密を語りだした。

 

「この刀も桐条の罪であり、対シャドウ武器として開発された物だ」

 

「た、対シャドウ兵器……クマ?」

 

クマの言葉に美鶴はゆっくりと頷いて肯定し、話を続ける。

 

「開発コンセプトは【ペルソナ能力の無い者でもシャドウを倒せる武器】だ。記録が消されて分からないが、何処かの職人に作らせた刀を元に研究していた様だ。今となっては殆ど記録がなく、色々と不明な部分も多いが、結果を言えば研究は失敗。この刀もある事故によってタルタロスの中に消えた……筈だった」

 

「……筈だった?」

 

「君の兄――洸夜がタルタロスに迷いシャドウに襲われ、そこから逃げる途中で偶然その刀を発見したんだ」

 

 悠の疑問に今度は明彦が答える。

 どうやら、刀について詳しく知っているのは美鶴と明彦だけの様であり、その為かゆかり達は刀については沈黙を通す。

 

「その刀はペルソナ使いにしか抜けない様になったと、残っていた数少ない記録に書かれていた……だが、それを抜く事が出来たのは私達の知る限りでは、君を含め<四人>だけだ」

 

「四人だけ……? けど、ペルソナ使いには抜ける筈……美鶴さん達は抜けなかったんですか?」

 

 悠の問いに美鶴と明彦、そして今度は順平達も試したのか全員が頷く。

 

「まるで意思でもあるかの様に、その刀は当時……洸夜と『もう一人』 そしてアイギスの三名しか抜く事が出来なかった」

 

「実際、私達も何度も試したけど文字通り、ビクともしなかったわ……」

 

 美鶴の言葉に続く様に、ゆかりが当時の事を思い出したのか疲れた感じで言った。

 当時はその刀も数少ない形ある桐条の罪であり、貴重な物であったが抜く事が出来たのは三名のみで、何故その三名なのか当時はワイルドしか共通点が分からず終いで終わっていた。

 

 それ以外の人物が抜こうモノならば、まるで拒むかの様にペルソナ使いだろうが一般人だろうが例外なく抜く事は叶わなかった。

 

「へぇ~でも、ちょっと意外クマ。アイギスちゃんってば刀も使うんだクマね?」

 

 抜けたメンバーの中にアイギスがいた事に意外そうに言うクマ。

 

 火器中心のアイギスが刀を使うと言うイメージが無かったのが理由だが、それに対しアイギスもクマの方を見て返答を返す。

 

「はい。二年前の戦いの後、私達はある異変に巻き込まれまして……その時に、私は洸夜さんが残して行かれたこの刀をお借りしたんです」

 

 二年前、繰り返す3月31日の異変によって幕開けとなった事件。

 アイギスの妹を名乗る『メティス』、各々の過去、『彼』のシャドウ、『時の鍵』、そして生を感じる為に触れたがる人々の“負の集合体”『エレボス』

 

 そこでアイギスは『彼』と同じワイルドを、洸夜からは刀を借り受け、その事件に立ち向かったのだ。

 そして、可能性の未来と今の未来、進む各々が望む未来の為に争ったS.E.E.Sメンバー。

 誰もが正しく、誰もが間違いの望みと選択……しかし、アイギス達は知った『彼』の真意、封印の意味。

 ただ一人、洸夜だけが知らない事実を。

 

 因みに余談だが、この時アイギスが『彼』と同じ力、洸夜の刀を持ち使用していた事が理由でゆかりが彼女に嫉妬していたりもしていたりもする。

 

「悠さん。その刀は悠さんをお選びになられたんだと思います。少なくとも、私はそう思います」

 

 アイギスの言葉に少し悠は悩む様に刀を眺めた。

 自分が使っても良いのだろうかと言う考えが頭を過るが、答えは案外早く出され、悠は笑みを浮かべ刀を再度見る。

 

――お前も、兄さんが心配だったのか?

 

チリ~ン……!

 

 返事するかの様に刀に付けられている鈴が鳴った。

 

 ただの偶然かも知れないが、悠はそれを返答として受け取り、刀を鞘に戻すと空いている方の腰のベルトに付け、自分の刀と洸夜の刀を同時に抜き二刀流の型となった。

 

「行きましょう」

 

 悠の言葉に全員が頷き、階段を駆け昇って行った。

 

▼▼▼

 

 悠とクマと美鶴達は、全力で黒の駅を突き進んで行く。

 途中でシャドウと交戦するが、美鶴達の能力と風花のサポートによって撃破して階を進む。

 

 悠も初の二刀流でシャドウと戦い、目の前に出現した大型シャドウを洸夜の刀で攻撃した瞬間、大型シャドウは豆腐の様に呆気なく両断された事に悠は、その斬れ味に驚くばかりである。

 

 使い勝手が良い程の軽さと斬れ味、余程物理防御が高くなければ防がれる事もないだろう。

 悠が刀の性能に驚きながら戦っていた時、明彦がそんな悠に語り掛けた。

 

「力に呑まれるなよ、鳴上悠!」

 

「明彦さん……」

 

「強すぎる力はその者に【慢心】と【自惚れ】と言う副作用を与える。だからこそ、己の心を強く持ち、その刀を使いこなして見せろッ!」

 

 明彦はそう言ってシャドウを殴り倒す。

 

 悠への一喝、それは明彦なりの優しさであり、親友の弟が万が一力に呑まれないようにと言う責任感からくる言葉であった。

 

 勿論、それは悠も察している為、ちゃんと明彦に聞こえる様に、はい、と言って明彦もそれに嬉しそうに笑みを浮かべるのであった。

 

 そんな時であった。そういえばと、不意に悠は思いだした。

 

「……陽介達、どうしてるんだろ?」

 

「……確か風花ちゃんの話だと陽介達は上のエリアにいる筈クマね」

 

「あぁ、そう言ってたな」

 

 先にこの洸夜のダンジョンに入っている筈の陽介達。

 彼等の事を思いだし、悠は静かに上を向くのだった。

 

▼▼

 

 現在:黒の駅【最終エリア】

 

「ぶえっくし!!――っ、誰か噂でもしてんのか?」

 

 陽介達はそう言って頭をかきながら、そんな事を言っていた時だった。

 完二が何をしているんだと、陽介の方を見た。

 

「花村先輩、何してるんスか? あとはこの扉だけっスよ?」

 

「あぁ、わりぃ……にしても凄い場所だよな」

 

 陽介の言葉の意味には異質な駅の光景――ではなく、洸夜関連での意味での言葉だった。

 それを聞いて千枝も何とも言えない表情を浮かべていた。

 

「あのさ……これって私達が見て良いものなのかな?」

  

 千枝の言葉は皆にしても最もだった。

 彼女達もこのダンジョンを上がって行く内に目の当たりにしていた。

 

 洸夜の過去、嘗ての戦いでの記憶や覚醒時の記憶。

 そして仲間との別れなどもだ。

 

「仕方ないよ……強制的に見せられちゃうんだから。――それでも洸夜さん、随分と苦しんでたんだね。それに……寂しかったんだね」

 

「寂しすぎて<負の繋がり>……【黒き絆】すらも他者との繋がりにしちゃったんだね」

 

 雪子とりせは同情的にそう言った。

 全部、洸夜の心の声は聞こえていた。

 

――寂しかった。そう言う幼い洸夜の姿と声。

 

 それを思いだして千枝達は悲しそうな表情を浮かべる中、完二は別の事も考えていた。

 

「それもそうだけどよ……俺は人間同士の――いや、ペルソナ使い同士の戦いが印象的だったぜ」

 

 完二の言うそれは【ストレガ】との事だった。

 人間同士、ましてはペルソナ使い同士の戦いだ。

 族とやり合っている、人間同士の戦いの怖さを知る完二だからこその言葉で、それらを聞いた陽介は複雑な表情をしていた。

 

「……なんか、凄すぎて実感できねぇよ。俺等の活動が本当に遊びみたいじゃねぇか」

 

「遊びって……私達だって真剣じゃん! 洸夜さんの過去は……凄かったけどさ、比べるものじゃなくない?」

 

「分かってるって。――で? その洸夜さんとシャドウは、この扉の先にいるんだろ?」

 

 そう言ってりせの方を向く陽介。

 彼の言葉にりせはカンゼオンを召喚して再度調べてみると、頷いた。

 

「うん! この先から強い力を感じる。きっと、この先に洸夜さんとシャドウがいる!」

 

「なら早く助けないと! 洸夜さん、いつも私達を助けてくれてたんだから……今度は私達が!」

 

 雪子の言葉に皆も頷き、完二は両手の拳を合わせた。

 

「よっしゃ! 鳴上先輩とクマはいねぇけど、俺等で洸夜さん助けようぜ!」

 

「だな……たまには相棒にも楽させねぇとな」

 

 そう言って陽介は扉の方を見るが、りせはカンゼオンの力で悠達の存在を感じ取っていた。

 

「でも悠先輩もクマも上って来てるのが分かるよ……それと他にも大勢の反応がある」

 

「さっきも聞いたけど、一体誰なんだろ? 鳴上くんとクマが一緒にいるってことは悪い人じゃないと思うけど……」

 

「それこそ洸夜さんを助けてから聞けば良いだろ? 速攻で助けて相棒を驚かせてやろうぜ!」

 

 りせと千枝の言葉に陽介はそう言って扉に手を置くと、静かに扉を開いた。

 そして彼等は扉の中へ入って行くのだった。

 

▼▼

 

 現在:テレビの中の世界【黒き駅・入口付近】

 

 空間の先、その先は霧が立ち込める世界。

 現実とは違い不快な気分にさせる霧が世界を包む中、青年は冷静に辺り見回した後、エリザベスから受け取った眼鏡を付けた。

 すると、目の前の霧は消え、その世界が姿を現す。

 

――タルタロス? いや、別物だ……!

 

「……にしても、あの女どこにいきやがった?」

 

 青年は一緒に――というか強制的に連れて来たエリザベスが姿を消した事を冷静に見ていた。

 同時にこの異常な世界も。

 

 黒い世界、多色の月、ごちゃ混ぜにした様な違和感しかない巨大な塔。

 普通ならば何かしらのリアクションを見せるのが普通だが、青年は異常な程に冷静であり、先程のエリザベスの言葉を思い出し、目の前の駅へ歩いて行く。

 

 そして、入口付近に立った時だった。

 

 巨大な姿をしたレスラー姿をしたギガス系のシャドウが青年の前に出現する。

 青年を見つけ、笑い声の様な声を発するギガス系の大型シャドウ。

 しかし、青年はそんなシャドウを見て鬱陶しそうに呟いた。

 

「ハァ……おいおい、こんな所にもいるかよテメェ等は……」

 

 鬱陶しそうに言う青年だが、その瞬間、シャドウが青年へ襲い掛かる。

 丸太の様な巨大な腕、それ風を切りながら青年を放ったのだ。

 

「邪魔だ……」

 

『ッ!?』

 

 しかし、その拳が青年に届く事はなかった。

 届く前にギガスの拳、いや腕が吹き飛び消滅したのだ。

 ギガスは振り返り、いつの間に自分の背後へ移動していた青年を見ると、そこには先程まで丸腰であった筈の青年の手に斧付きの槍、俗に言うハルバードがあった。

 

 そして、ニット帽からの青年の瞳がギガスを睨んだ瞬間、再びギガスが青年へ襲い掛かった。

 今度は笑い声ではなく、怒気丸出しの怒りの遠吠えを吐きながら。

 

「……仕方ねえ」

 

 やれやれ、と言った風にシャドウを見る青年。

 その青年の左手には銃が握られており、青年は目の前に迫るシャドウには眼もくれず引き金を己へ向かって引いた。

 

 その直後、何かが砕ける音と共に、何かがシャドウを背後から貫いた。

 苦しみながらも、振り向こうとするシャドウだったが、その瞬間に地面に叩きつけられ消滅した。

 

「行くぞ……」

 

 シャドウの消滅を確認した後、青年は扉へ向かう。

 大型シャドウと戦ったにも関わらず、青年は息一つ乱れてはおらず、青年はそのまま塔の中へ足を踏み入れた。

 その青年の背後で<黒い馬>に跨がる巨大な何かを従えながら……

 

 

End

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。