新訳:ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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ペルソナ6も完全版出るんだろうなぁ(;´・ω・)


第四十四話:愚者の戯れ

 

「よっしゃ! 行くぜ!」

 

 陽介が扉を勢いよく開けると、そこに広がっていたのは不気味な掲示板に<終着駅>と書かれていた、これまた異様な駅のホームが周囲に点在する広場だった。

 

 屋根はなく、この【黒の駅】特有の黒い満月が天に存在を示しており、思わず陽介達は黒い満月を見上げてしまった。

 

「なんじゃこりゃ……!」

 

「黒い月がこんな近くに……!」

 

 異様な存在感を示す黒い月。

 その光はあまりに不快で不気味で、そして怖かった。

 

「こんな場所にいたら、おかしくなっちゃいそう……」

 

「あぁ、同感だぜ……とっとと洸夜さんを探そうぜ」

 

 りせと完二は互いにそう言うと周囲を見渡した。

 いつも通りならば終着点に具現化したシャドウが存在する筈だと、全員が洸夜はここにいると確信した状態で見渡すと、広場の奥で佇む洸夜のシャドウがいた。

 

 見た目で分かる異様なオーラを纏う洸夜の影。

 それを見つけた陽介達は駆け出して洸夜の影の下へ向かった。

 

「見つけたぜシャドウ!」

 

「洸夜さんは……!?」

 

 陽介が洸夜の影の相手をしている間に雪子は洸夜を探すが、周囲には洸夜らしき人物はいなかった。

 

「いねぇぞ! どうなってんだ!?」

 

「ちょっとシャドウ! 洸夜さんどこやったのよ!」

 

 完二も周囲を探すが洸夜はおらず、我慢できなくなった千枝がシャドウへ食って掛かった。

 すると、洸夜の影は振り向くことはしなかったが、まるで誰かがいるかの様に言葉を呟き始めた。

 

『寂しい……寂しい……一人は嫌だ……もう一人ぼっちは嫌だ。だから繋ぐんだ……お互いに忘れられない繋がり……<黒き絆>を』

 

 まるで幼い少年の様に洸夜の影は呟いていた。

 放っておけば今にも泣きだしてしまいそうな声に、思わずりせは反応してしまう。

 

「やっぱり……洸夜さん、ずっと寂しかったんだね。ご両親も忙しくて一緒に居られなくて、友達もすぐに引っ越しでいなくなっちゃうんだもん」

 

「だからって……あんな狂った繋がりの絆なんて、たかが知れてるぜ! あんなのを絆なんて言わねぇ!」

 

『……ほう、お前達も<黒き絆>を否定するか? 繋がりによって覚醒した者達にも関わらず』

 

 陽介の言葉に反応した洸夜のシャドウは振り返りながら言葉を発したが、その声は先程の幼い声ではなく、不気味な程に冷たい声だった。

 

 その声に思わず陽介達の表情が固まり、冷たい嫌な汗が流れたが、そこはずっと戦い続けていた陽介達だった。

 シャドウ慣れ――していた彼等だからこそ立ち直れたが、逆に言えばそんな陽介達ですら目の前のシャドウに恐ろしさを感じていた。

 

「うっ……凄い冷たい声……まるで死んでるみたい」

 

「うん……そして凄く怖い」

 

「でも……それぐらいで逃げ出す私達じゃないからね!」

 

 りせと雪子が思わず息を呑む中、千枝は強気で無理矢理立て直し、洸夜のシャドウを睨むと、ここぞとばかしに指を差した。

 

「それでシャドウ! 洸夜さんはどこよ!」

 

『……洸夜は俺だ。そして黒きワイルドを持つ者だ』

 

「黒きワイルド? それが何なのか知らねぇが、やっぱしこうなったかよ」

 

「いつも通りじゃねっスか! 洸夜さんがいねぇのは気になるが、完全にシャドウ化する前に大人しくさせようぜ!」

 

 シャドウが自分自身を騙るのは分かり切っていることだ。

 だから陽介もいつも通りかと思い、完二も既に戦闘態勢を整えていると洸夜のシャドウが口を開いた。

 

『愚かだ……お前達のその行動自体が、黒き絆の片鱗であると分かっていないとはな。お前達はこの黒の駅で何を見てきた? 見てきたなら分かっている筈だ……黒き絆こそが最も深く強い繋がりであることを』

 

「分かんねぇな! 確かに強い繋がりかも知んねぇ……けどな、あんなものを絆と呼べる程、こっちは狂っちゃいねぇんだよ!」

 

「繋がった結果、どっちも傷付いてるだけじゃない。そんなのを絆なんて呼ばない! 負の感情が絆の根源なんて認めたくない!」

 

 陽介と千枝が強きで反論する。

 勿論、彼等も洸夜の過去や黒き絆による負の感情の絆を見てきた。

 

 同情も出来るし、気持ちだって理解できる。

 しかしそれを受け入れる気は全くなかった。

 

 それで苦しんでいるのは洸夜だ。そして黒き絆を築いてしまった者達だ。

 なのに、それをどうして受け入れられるだろうか。

 

 答えは否だった。

 そして、それを聞いた洸夜のシャドウは歪んだ笑みを浮かべていた。

 

『……クククッ! アッハッハッハ!! 黒き絆を否定する者達よ! ならば見るが良い……! これが……絆の……黒きワイルドの力だ!!』

 

 そう叫んだ瞬間、洸夜のシャドウから巨大なオーラが溢れ出し、天の黒き月へと伸びていった。

 そして徐々にその姿を変貌させていく。

 

 下半身は闇の穴の中へと沈み、上半身だけがその姿を見せていた。

 顔には愚者のアルカナを彷彿とさせる簡易な仮面を付けた、真っ黒な巨大なシャドウ。

 

 周囲にはステンドグラスの様に美しく輝くアルカナが、その周囲を回る様に存在していた。

 それが洸夜のシャドウ――<洸夜の影>の姿だった。

 

 強い威圧感を放ち、同時に衝撃波も発する変貌に陽介達は吹き飛ばされない様に踏ん張るだけで精一杯だった。

 

 そして陽介達は洸夜の影を見上げると、洸夜の影もまた陽介達を見下ろしていた。

 

『我は影、真なる我……刻もう黒き絆の終着点……<死の絆>を』

 

「どうなってんだ……! 洸夜さんはいねぇし、そもそも否定すらしてねぇじゃねぇかよ!」

 

 ここに来てようやく陽介は狼狽えた。

 本来とは違う展開での暴走状態に誰もが意味が分からなかった。

 

 しかし実際、目の前ではシャドウは暴走状態となり変貌している。

 その答えを出せる者は、ずっと探知していた――りせだった。

 りせはもしかしてと、ある仮説を立てた。

 

「もしかして……洸夜さんはずっと否定してたんじゃ! 黒き絆を……だからペルソナ能力を扱えなくなったんじゃ……!」

 

「それって……自分で望んで……それをずっと否定するなんて、あまりに悲しすぎる!」

 

 りせと雪子がそう言うと、陽介達はまさかと思ったが事実、シャドウは暴走している。

 少なくとも洸夜が否定している。それだけは事実なのだ。

 

「洸夜さん……抱え過ぎだぜ」

 

 完二もあまりの事に思わず同情的な声が出てしまうが、事態はそんな話ではなかった。

 既に目の前には大型シャドウがいるのだから。

 

「おい! 切り替えるぞ! まずはこのデカブツを何とかするぞ!――行け! スサノオ!!」

 

「いっくよー! スズカゴンゲン!!」

 

「アマテラス!!」

 

「行くぜタケミカヅチ!!」

 

「援護は任せて! カンゼオン!!」

 

 陽介達は一斉にペルソナを召喚した。

 そして同時に洸夜の影へ攻撃を仕掛けた。

 

 疾風・炎・雷・物理属性を放ち、りせも援護しながらの万全の全力での攻撃だった。

 だがそれを受けた洸夜の影は――

 

『――無意味』

 

 陽介達の攻撃は洸夜の影に触れる直前で全て消滅してしまった。

 物理攻撃ですら手応えなく、まるで幽霊でも殴っているかの様だった。 

 

「全然効いてねぇ!?」

 

「どうなってるの!?」

 

 陽介と千枝が悲鳴の様に叫ぶが、りせはカンゼオンから取得した情報を見て我が目を疑っていた。

 

「うそ……! このシャドウ……全ての属性に対して耐性を持ってる! こんなの勝てっこない!?」

 

「んだと……! ありえんのかよそんな事……!」

 

 完二はりせの言葉にありえないと、怒りを露わにした。

 

 通常ならばありえない。どんなシャドウにも弱点はあった。

 無くても通じる攻撃は必ずあったのだ。

 なのに、このシャドウだけは特別なのか、皆が理解に苦しむ中で雪子は気付いた。

 

「もしかしたら……! 洸夜さんも鳴上くんみたいに色んなペルソナを使ってた……だから、あのシャドウってもしかしたら洸夜さんが使ってたペルソナ全ての能力を持っているんじゃ……!」

 

「うそ……!? それが本当なら勝ち目ないじゃん!?」

 

 複数のペルソナ所持ですら強力な能力だ。

 なのに、その全てのペルソナの能力を持ったシャドウならば、勝ち目は何一つないことを意味していた。

 

 そして千枝が叫ぶと同時、洸夜の影は声を発した。

 

『言った筈だ……我は影、真なる我。黒き絆より生まれし<黒きワイルド>を持つものだと。全てのペルソナは我の力……』

 

 それは雪子の言葉が真実だと言っているのと同じ意味だった。

 その言葉を聞いて、ここで陽介達は恐怖を抱いたがペルソナは維持していた。

 

 何とか反撃の芽を探そうとするが、りせでもまだ何も分かっていない。

 調べれば調べる程、洸夜の影から異常な耐性とスキルの数があるのが分かり、どうしようもできないと、りせも焦っていた時だった。

 

 洸夜の影が両手を広げると、右手にメタトロンが、左手にはルシファーの影が現れた。

 そしてその腕の中に強力なエネルギーが生まれ始めた。

 

『メギドラオン……明けの明星……』 

 

「っ!? まずい! 大きい攻撃が来るよ!!」

 

 両手に巨大な光の塊が現れたことでりせは叫んだが、陽介達もどうすれば良いか分からなかった。

 攻撃するのか、しても無意味なのに? ならばどうする?

 

 陽介達はパニック状態に陥り、思わず腕や手で顔を覆ってしまった時だった。

 

「メギドラオンでございます!」

 

『っ!?』

 

 突如、洸夜の影が放つよりも先に巨大なメギドラオンが放たれた。

 それは洸夜の影に直撃すると両手の光も暴発し、巨大な爆発を生み洸夜の影を呑み込んだ。

 

「えっ……何が起こったんだ?」

 

「うそ……メギドラオンを更に大きなメギドラオンで相殺したの!?」

 

「一体、誰……!」

 

 陽介、りせ、千枝が驚きの声をあげる中、後ろから足音が聞こえてきたので咄嗟に振り返った。

 すると、そこにいたのは幻想的な蒼い服を着た一人の女性が立っていた。

 同時に、その女性の隣にはペルソナ『ピクシー』が浮いており、陽介達は無意識のうちに彼女が助けてくれたのだと理解した。

 

「あ、あんたは……?」

 

「誰……なんですか?」

 

 完二と雪子がその女性に問いかけると、女性は小さく笑った。

 そして――

 

「通りすがりのエレベーターガール……でございます」

 

 通りすがりのエレベーターガール――<エリザベス>はそう言った。

 そして陽介達の傍まで来ると、エリザベスは洸夜の影を見上げた。

 

「こう見えて洸夜様のご友人でございます。その縁もあり、助太刀させて頂きます」

 

「……何、この人? 凄い力を感じるんだけど……!」

 

 カンゼオンでエリザベスを見たりせは、彼女の潜在的な力などを感じて驚いてしまう。

 あまりにも強すぎるのだ。ここにいるメンバーが束で挑んでも勝てない程の実力者。

 

 少なくともりせはエリザベスをそう見た。

 そして洸夜の影も爆煙が晴れると同時にエリザベスへと顔を向けた。

 

『……エリザベス……エリザベス……! 幻想の住人が今更何を……!』

 

「友の危機に参上……でございます」

 

 そう言ってエリザベスは、洸夜の影を見ながら真剣な表情を見せた。

 同時にエリザベスはペルソナ全書を開くと、新たにペルソナを召喚する。

 

 そして現れたのはトラバサミの様な顔をし、周囲に棺の様な物を漂わせるペルソナ『タナトス』だった。

 

「では……レッツバトルタ~イム! でございます」

 

「よ、よく分かんねぇけど味方で良いんだよな?」

 

「た、多分……?」

 

 エリザベスの乱入に陽介達は呆然とするしかなかったが、まずは味方だと割り切ることにした。

 そうでもしなければ本当にパニックになってしまう。

 

 それに彼女は強いのは先程の攻撃で分かる。

 こうなりゃ正体は二の三の次だと陽介達は切り替えた。

 

 そしてエリザベスを含めたメンバーで戦いが再開された時だった。

 洸夜の影は静かに呟いた。

 

『……“愚者の戯れ”』

 

 その直後、洸夜の影の周辺に浮いたアルカナ達が回転を始めるのだった。

 

▼▼

 

 現在:黒の駅【最上階・扉前の廊下】

 

 悠と美鶴達の眼前に巨大な扉が君臨していた。

 ここは黒の駅の最上階にし、扉の先には洸夜と洸夜のシャドウがいると思われる。

 

「匂う……匂うクマよ。何かヤバイ匂いがするクマ!」

 

 クマのテンションが扉の前で大きくなる。

 風花自身は何も感じ取る事が出来ないが、クマには何かが感じ取れている様だ。

 

 勿論、扉の先から感じる威圧感は美鶴達も感じ取っている。

 この扉の先、そこがこの黒き過去の終着点。

 全員が思わず息を呑んだ時だった、突然風花が膝をついた。

 

「ちょっ!? 風花、大丈夫!」

 

 ゆかりが心配し、風花に近付くと額には汗、息も乱れていた。

 元々、体力が少ない風花だが、理由はそれだけではない。

 よくよく見れば、他のメンバー達も息を乱していたのだ、体力に自信がある明彦と順平や乾も疲れた表情は出ていた。

 

 この世界は、人が長時間いて良い場所でない。

 

「少し、休んだ方が良さそうだな……」

 

 美鶴もそう言って近くの壁の寄りかかり、体力の回復に集中するがやはり自然回復では限界がある。

 まともな準備もされておらず、美鶴も疲れをみせた時だった。

 

「はい、これどうぞクマ!」

 

 声と共に美鶴の前に出されたのは、フワフワしたぬいぐるみの様なクマの手であった。

 そして、その手の中には携帯食料・栄養ドリンク・チョコ等が置いてあり、クマはそのまま美鶴へ渡す。

 

「こ、これは……」

 

「クマ、大センセイ救出の為に色々と持ってきてたから、遠慮せずに食べるクマよ。ほら、フーカちゃんや皆も栄養とるクマ!」

 

「あ、ありがとうクマさん……」

 

 クマは次々とメンバー達に食料やら何やらを取り出し、風花を始めコロマルにも食べれる物を渡す。

 元々、この世界の住人だからか、今のクマの株価は今までで最高である。

 

「ほらほら、ヨースケのママさん特製のレモンの蜂蜜漬けも食べるクマ!」

 

「ど、どっから出したソレ……」

 

「……確かに色々とツッコむのは無理ないが、助かっているのも事実だ。今はありがたく受け取るべきだ順平」

 

 準備の良さに驚くメンバー達、最初から武装等も凄かったクマの準備力は今はありがたいものであった。

 

「ところで、よくこんなに揃えられたな?」

 

 先程から美鶴達に渡していた物を悠は見ていたが、携帯食や栄養食品の値段ははっきり言って高い。

 収入の少ないクマにこれ程まで物が揃えられると思ってもみなかった。

 しかし、クマは悠の言葉に、大丈夫クマよ、と言って笑いながら悠の方を見て言った。

 

「まあ、ちょっと時間もなかったもんだから、全部ヨースケのツケにして貰ったクマから大丈夫クマよ!」

 

(……ヨースケ)

 

 その言葉に悠はホロリと涙が流れそうになりながら、陽介が前に言っていた事を思い出す。

 

『相棒! 俺、旅行から帰ったら原チャリをそろそろ買おうと思ってんだ!』

 

 今思えば、あれは死亡フラグだったのだと悠は思いながらも背に腹は代えられない為、悠はクマから物資を貰う事にした。

 

「クマ、俺にも何か貰えるか?」

 

「ちょっと待ってクマ、センセイ。今取り出すクマよ」

 

 クマのその言葉に、栄養を取っていた美鶴達の動きが停止する。

 気になっていたのだ、一体クマが何処から物を取り出しているのかが。

 

「ゆかりっち、見た感じ何処から出してんか分かる?」

 

「それを知りたいから、皆黙ってんでしょ……!」

 

 息を潜めて周りがクマに集中し、遂にその時がやって来た。

 

「どっこい……せッ! ふぅ~はいセンセイ!」

 

 クマはいつも通り、ジュネスでバイトをする時の様に頭を取り外すと中から金髪の美少年の姿のクマが現れ、クマは栄養ドリンクを悠へ手渡すがそれは美鶴達には衝撃的過ぎる光景であった。

 

「ブフゥッ!!?」

 

 一体、メンバー達の中で何人が吹き出してしまったのだろう。

 少なくとも、美鶴は己の誇りに掛けて踏み止まったが、風花やチドリですら目が点になってしまう程の衝撃だったのは間違いではない。

 

「あぁ、ありがとなクマ」

 

 悠は当然だが知っている為、何も驚く事なくドリンクを受け取って口を付ける。

 おお冷えてる、クマに任せるクマ、等と美鶴達の事態に気付かないまま会話を続ける悠とクマ。

 そんな二人に順平の突っ込みのメスが入った。

 

「お前!? 中身あんのかよぉぉぉぉッ!!?」

 

 メンバーの気持ちを順平が代弁した事で、美鶴達はクマの方へ意識を集中させた。

 そして、順平の言葉にクマと悠も漸く事態に気づく。

 

「あッ!?」

 

 漸く自分の方を向き、やってしまったと言う表情の悠とクマに、順平は頷き真実の回答を求める様な態度を取る。

 だが、素直に言う二人ではなかった。

 

「キャア~! ジュンペーのエッチ痴漢覗きクマァァァ!」

 

「順平さんも罪作りですね」

 

「何でだよっ!?」

 

 顔を赤らめ身体をクネクネしながらクマは叫び、悠は楽しそうな素敵な笑顔を向け、当の順平は眼を全力開眼し、疲労を吹っ飛ばす程の突っ込みを見せる。

 だが、それでも悠とクマは笑みを崩さない。

 どうやら、悠とクマと順平の関係は完成してしまった様だ。

 

「そ、悠君達……なんか輝いてるね」

 

「完全に弄られてる……」

 

 風花とチドリはその光景を見て苦笑するしかなかった。

 完全に遊ばれているとしか思えないが、それでも不思議と笑みが生まれてしまう。

 そんな光景は、風花やチドリ以外のメンバー達にも笑みを生み、レモンの蜂蜜漬けをタッパーごと持った明彦が美鶴の側に行き言った。

 

「なんか、俺達が疲労した後に彼は、ああやって場を明るくしてくれるな」

 

「……ふ、偶然か自然か、鳴上洸夜の弟してではなく、それが鳴上 悠個人としての魅力なのかもな」

 

 そう言う美鶴の笑みは、本当に嬉しそうな静かな笑みを浮かべる。

 目の前で順平に追い掛けられている少年、恐らく自分達は彼に一生敵わないかも知れない。

 美鶴と明彦に、そう思わせる程の魅力を悠は持っている。

 少なくとも、美鶴と明彦は目の前の光景に笑い、疲れすら忘れながらそう思っている。

 

 そして、暫くして疲れを癒した悠とクマ、美鶴達は扉の前へ立った。

 各々が纏う雰囲気は先程とは打って変わり、全員が真剣な物。

 悠と明彦と順平は扉に触れると、ゆっくりと内側に開い行く。

 人一人が通れるか位の隙間が、僅かな時間で全員が一斉に通れる程の広さへとなり、悠達は扉の中へ入って行った。

 

――兄さんの過去、ペルソナ・ワイルド覚醒の理由、そして黒きワイルド……もう、俺は全て知った。だからこそ、兄さんの闇を終わらせる……俺やクマ、美鶴さん達と一緒に……!

 

 悠は決意を胸に扉の中を歩く、兄の苦しみを止める為に戦う覚悟をペルソナの力にして。

 

 バシュ――!

 

「っ……!?」

 

 入った瞬間、悠と美鶴達は何か鈍いが鋭い音を聞いた。

 分厚い肉を斬る様な、そんな音を。

 

「一体、なんだ今……の……」

 

 視界がハッキリし出し、悠と美鶴達の視界にその世界が写る。

 上には天井がなく、違和感のある夜空に君臨する黒の月。

 

 自分達が立っている、円上の広い空間。

 その周りを囲む様に存在する、アルカナの絵柄と数字が刻まれているステンドグラスの様な石碑。

 

 だが、悠達、特に悠とクマの眼が大きく開く。

 場所の作りに驚いた訳ではない、周りに圧された訳ではない。

 ただ、自分達の目の前で起こっている光景が信じられないだけであり、悠は思わず叫んだ。

 

「陽介ッ! 皆ッ!? それにエリザベスさん!?」

 

 うつ伏せに倒れているエリザベス。周りのアルカナの石碑の真上に存在する十字架に張り付けられている陽介達、そして両断されたタナトスが今の悠達の現実であった。

 

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