新訳:ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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第四話:マヨナカテレビ

 

 4月14日(木)雨

 

 現在:堂島宅【洸夜自室】

 

 最初の事件から二日が経っていた。堂島のおかげで洸夜は豆腐屋のバイトも決まり、この町での日常が作られている中、同時に異変の情報が耳に流れても来ていた。

 稲羽市に存在する異変の片鱗、夜中に映るテレビ。通称『マヨナカテレビ』と呼ばれる都市伝説の存在だ。

 マヨナカテレビは雨の日の午前0時に見ると運命の人が映ると言われている。それはガセなのではないかと誰もが思う事だが、バイト中の洸夜の耳にまで届いていた。

 あの怪奇殺人の被害者、山野真由美がマヨナカテレビに映っていたという噂話が幾つもある。偶然なのか、仕組まれた異変なのか。

 ただ言えるのは彼女の死に方は普通ではないという事。メディアもこれ程までに良いネタはないのだろう。どこもかしこも”山野真由美特集”で持ち切りだった。

 そして、この事件で真っ先に疑われたのは当然ながら関係者。不倫相手の『生田目太郎』と、その妻『柊みすず』の二人。

 動機は不倫関係の縺れか、不倫相手への復讐だとメディアは決めつけたが、事件当時にこの二人には完璧なアリバイがあり犯行は不可能となった。故に報道内容は同じ内容ばかりとなる。

 被害者は怪我一つ無く死因は不明。更に死体発見現場が民家のアンテナの上。常識的にあり得ない場所にも関わらず容疑者の目撃者が誰一人いないと言う事態。

 この稲羽に自分と悠が来て一週間足らず。それにも関わらず一つの田舎町が騒がしくなっている事に、洸夜は気付いていた。

 

「……」

 

 今日の天気が雨で時間も丁度午前0時になろうとしていた中、洸夜は自室にいた。

 そう部屋でマヨナカテレビを確認しようとしているのだ。

 

(マヨナカテレビについて俺はあまりにも知らな過ぎる。ただの都市伝説ならば良いが……だが)

 

 洸夜は誰も映らない事を願がったが、その願いは叶わなかった。

 機械音と砂嵐の音と共に何も映っていないテレビに映像が徐々に現れ始め、洸夜は目を見開いた。

 

「これがマヨナカテレビ……!」

 

 テレビは砂嵐等で映像が歪んで見えずらいが、一人の人影が映った。

 長髪にスカート着ている事、そして朝に見かける事の多い制服から察するに、この女性が女子高生だと考えられる。

 だが異変はそれだけではなく、その女子高生はまるで何かに襲われているかの様に苦しむ動きをし、やがて静かに消えて行った。

 

「……なんなんだこれは?」

 

 二年前も出来事で非現実の類には慣れたつもりの洸夜だったが、実際に見て困惑していることで自分も最初はただの人間だった事を思い出した。

 

(……山野 真由美が死体で発見される前もマヨナカテレビに映ったと言われている。ならば、もしかして今回も……)

 

 不意に洸夜がテレビへ手を伸ばした時だ。

 洸夜の左腕は沈むように画面へ呑み込まれ、そのまま吸い込まれ始めた。

 

「なっ!?」

 

 洸夜は咄嗟に踏ん張ったが、テレビはまるでゴムの沼の様に鈍い感覚のままで抜ける気配がなかった。

 咄嗟の踏ん張りのせいで体勢も悪く、洸夜の左腕が肘辺りまで呑まれた時だ。まるで弾き返された様に腕は抜け、その勢いで洸夜は後ろの本棚に激突した。

 

「がぁっ……!?」

 

 洸夜の頭部に痛みが走ったが、幸いにも本が落ちてくることはなかった。

 

「……」

 

 洸夜は呑まれた腕を確認する様に握っては開くの繰り返しを行うと、正常であることが分かって安心した。

 だが同時に脱力感の様な疲労を感じ始めていた。

 その疲労は何故か入れた左腕から強く伝わっているように思え、同時に洸夜は強い眠気も覚える。

 

「……駄目だ……眠気が……」

 

 洸夜は強い眠気に抗えず、布団に倒れ込む。

 しっかりと横になれた訳ではない為、体の半分しか布団の上にない状態で洸夜はそのまま夢の中へと誘われていった。

  

▼▼▼

 

 4月15日(金)雨

 

 現在:堂島宅【居間】

 

 強い眠りからの洸夜の目覚めは快調なものだった。特に眠気のないまま起き、洸夜は今、朝食を食べている菜々子と共にテレビのニュースを見ていた。

 そして洸夜は、そのニュースの内容に我が目を疑う事になる。

 

『今朝、山野真由美さんの第一発見者だった『小西早紀さん』が、電信柱の上で遺体で発見されました』

 

「!?……まさか……」

 

 ニュースで映しだされた小西早紀の写真に洸夜は動けなかった。

 昨日、マヨナカテレビに映ったのは間違いなく彼女だと洸夜は確信してしまったのだ。

 昨日の微かなシルエットと目の前の写真の一部一部が一致する。

 彼女、小西早紀は山野真由美の遺体を最初に発見した事により最近、メディアに良く取り上げられていた人物であった。

 そしてこの事実は洸夜の脳裏にある”仮説”を生んだ。

 

『マヨナカテレビに映った人物が殺害される』

 

 しっかりとした確認は出来ていないが、洸夜の中でそれは否定することが出来なかった。

 

(……イゴール。お前が俺を呼んだ理由、それが分かったよ……)

 

 そう思いながら洸夜がニュースから目を背けるようにその目を閉じたると……。

 

「お兄ちゃん、なんか辛そう……調子悪いの?」

 

 朝食を食べ終えた菜々子が暗い表情をしていた洸夜を心配し声を掛けた。

 その言葉に洸夜は、家族に余計な心配をさせた事に申し訳なく思ったが、逆に心配してくれた菜々子に嬉しく思いその頭を撫でた。

 

「俺は大丈夫だ。心配してくれてありがとう……」

 

「お兄ちゃんの手って温かい……」

 

「……嫌か?」

 

 洸夜の言葉に、頭を撫でられている菜々子は首を横に振った。

 

「ううん。嫌じゃないよ……逆に安心するから菜々子大好きだよ」

 

 そう言って笑う菜々子の表情に洸夜は心が温かくなるのを感じた。まだ一週間も経っていないにも関わらず、自分を心配してくれている菜々子には感謝しかできない。

 

(……俺にもやらなければならない事があるようだ)

 

 洸夜が己の精神を落ち着かせるように心の中で自身を励ましていると、テレビを見ていた菜々子の何処か不安そうな表情に気付く。

 

「犯人、まだ捕まらないの……?」

 

 不安は徐々に大きくなる存在。外に出れば嫌でも他者と出会う。その誰かが悪い人なのかも知れないと奈々子は不安に思っていた。

 誰かを疑う。誰かを信じられなくなることが、菜々子に本当は一番怖い事なのだろう。

 洸夜はそんな菜々子を見て、もう一度撫でた。

 

「……大丈夫だ。叔父さん達も頑張っている。それに、もし菜々子に何かあれば叔父さんも悠も、そして勿論俺も菜々子を守るさ」

 

「本当?」

 

 菜々子が洸夜を見上げ、洸夜もそれに頷いた。

 

「本当だ。……約束しよう」

 

「……うん! 約束だよ!」

 

 そう言って指切りする洸夜と菜々子。

 この約束だけは何があろうと守ってみせる。内心で洸夜はそう誓った。

 

 

▼▼▼

 

 現在:事件現場

 

 菜々子との会話の後、洸夜は商店街の外れにある電信柱に来ていた。その手には花束を持っている。

 

(まだ警官がいるのか……)

 

 少し気になったが堂島の姿が見られないと言う事は、捜査の大半は終わっていると思えた。

 想像よりは周りの警察の姿は少なく、泣いている遺族や近所の住人。そしてそれを映しているメディアしかいない。

 そして洸夜も、雨の中で遺族や近所の人に混ざって花束を置いて合掌した。

 

「……」

 

 洸夜は一言も喋らずにその場を離れると、その瞳をうっすらと開いたがその瞳には二年前の時と同じ覚悟を宿していた。

 あのテレビの世界へと足を踏み入れる決意。覚悟が出来た今、洸夜はその世界へ歩んでゆくのだった。

 

▼▼▼

 

現在:テレビの世界

 

 洸夜は自分の部屋のテレビからこの世界に足を踏み入れた。

 その行動は洸夜にとってほぼ賭けだった。腕が吸い込まれた後、頭の中に生まれた疑問。

 

『テレビの中には何が存在する?』

 

 何もないのかも知れない。入った瞬間に死ぬのかもしれない。嫌な想像だけならばいくらでも出て来るほどに不安な気持ちが生れたほどだ。

 だが、もうこれしか洸夜に残された手掛かりはなかった。既に二人の命が奪われている。不安の可能性を理由に傍観などしたくはない。

 そしてその結果、洸夜は目の前に広がる世界を見て、最初の賭けに勝ったと確信する。そう手掛かりの一つを掴み取ったのだ。

 

「まずは一歩。ようやくスタートラインだ」

 

 洸夜はこの世界を見渡し回す。自分の視界に写る新たな世界。先程までの不安の可能性が馬鹿みたいだと今なら言うことが出来た。

 新しい世界。テレビスタジオと歪んだ光の照明。まさにテレビの中の世界に相応しかった。

 その世界の光景を目にした洸夜は笑みを浮かべた。

 

「戻ってきたぞ……非現実」

 

 洸夜は霧に覆われた世界に己の存在を教えるように堂々とし、何かを思い出した様に小さく笑った。

 

(……そうか、俺はこの世界に一度来ている。あの霧の中の戦った時に……)

 

 洸夜は感じ取った。この世界の空気が???と戦った場所と同じ世界なのだと。

 この世界に来ることは今思えば必然の様に思えて仕方ない。

 この世界に元凶となるものがある。洸夜は確信しながら己の装備を再度確認する。

 右肩にホルスターと召喚器。左腰に刀。腰の後ろにペルソナ全書。全てが揃っていた。

 

(行くか……)

 

 洸夜は探索を始めようと召喚器で己を撃ち抜き、ヘメラを召喚した。

 この霧の中では視界も悪い。故に探知能力が高く、気配も消してくれるペルソナであるヘメラの力が必要だった。

 万が一の事があれば堪ったモノではない。既に帰りの事も考えていないのだ。入って来た場所には出口らしきものはない。

 洸夜が背水の陣で行動を開始しようとすると、その洸夜のいる場所の下のフロアだった。そこから話し声が聞こえてきた。

 

「ちょっ、キ、キミ達! 何でまた来たクマ!?」

 

「……?」

 

 何やら緊張感のない声が聞こえる思いながら洸夜が下のフロアを覗き込むと、そこにはゴルフクラブを持った二人の男子学生とクマ?らしき何かがなにやら揉めていた。

 しかし、洸夜は男子学生の内の一人に見覚えがある事にすぐに気付く事ができた。

 

「あれは……悠か?」

 

 実の弟を見間違える筈もなく、既に悠がこの非現実に足を踏み入れていた事を驚きながらも洸夜は様子を少し観察し始めた矢先、悠とは別のもう一人が何やら怒鳴り始めた。

 

「だから、さっきから言ってんだろ! 俺達は犯人か小西先輩の手掛かりを探しに来たんだよ!」

 

「ウソも大概にするクマ! この間来たのに、また来たのが怪しいクマよ!」

 

「陽介もクマも落ち着け。話が進まない……」

 

 揉めている陽介とクマを仲裁する悠。

 当然とはいえ、やはり悠達にも目的があるようだ。

 

「情報が足りないな……」

 

 洸夜は話の全貌が得られず手掛かりを得るため、再び三人の会話に耳を傾ける。

 

「分かったクマ! やっぱりこの世界に人を入れているのは君達クマね!」

 

「人が入れている……? まさかテレビに?」

 

 クマの言葉に洸夜が連想したのは人がテレビに入れられてる光景。洸夜自身は自分の意志で来たが、万が一この推理が正しければある疑問が思い浮かんだ。

 

『一体”何が”入れられた人間を殺しているのか?』

 

「……まさか」

 

 なんの躊躇いもなくペルソナを召喚した洸夜だったが、同時に気付いた。

 ペルソナが召喚できる世界ならば”奴等”もいるのではないかということに。仮面使いの天敵の”影”達。

 

(だが、そんな……)

 

 影……シャドウと呼ばれていた存在達はもういない。そう思っていたが、洸夜の中で仮面使いとして胸騒ぎが止まらない。

 まさかの存在に洸夜が考えていると、下のフロアでは色々とヒートアップし始めていた。

 

「だ・か・ら!! 違うっつってんだろ!!って待てよ……お前今、誰かがテレビに入れてるって言ったよな? つまり、誰かが此処に人を入れているのかよ!?」

 

「白々しいクマ~分かってるんだクマよ、君達が帰った後に更に誰かが此処に来たクマよ! 君達が入れたんじゃないクマか?」

 

 クマの言葉に悠と陽介は互いに顔を見合わせた。

 

「それってもしかして……」

 

「多分……いや間違いない!」

 

 そう言うと陽介はクマに近付き、クマの頭を掴んだ。

 

「おい、クマ! その二人について詳しく聞かせろ! 恐らく、それが小西先輩だ!」

 

「……小西 早紀。知り合いだったのか」

 

 洸夜は悠達がここに来た理由を理解した。知り合いが変死体で発見されたのだ、黙ってはいられずこの世界に真実を探しに来たのだろうと察することができた。

 そして悠達とクマが移動を始め、少し経ってから洸夜は下に降り始める。

 

「……移動したか」

 

 誰もいない事を確認し、洸夜は下のフロアに飛び降りた。

 伊達に鍛えていた訳ではない為、ちょっとぐらいの高さで彼が怖気づくことはない。

 

「っと!……さて、アイツ等は一体どっちに……」

 

 洸夜はヘメラで探知しようとした時、足元に何かが落ちていることに気が付いた。それは黒い眼鏡だった。

 条件反射で洸夜はそれを拾い、レンズを覗き込むと……。

 

「これは……」

 

 眼鏡のレンズを覗き込んだ洸夜が見たのは、全く霧が写らない世界だった。

 構造は一体どうなっているのか不明だが、洸夜はその眼鏡を付けてみる。

 

「……霧が全く見えなくなった」

 

 先程まで己の視界を支配していた霧。それが眼鏡を掛けた瞬間に消えた。

 テレビの世界というだけでも洗礼だが、どうやら今回も一筋縄ではいかないようだ。

 

「……流石に驚きの連続だ」

 

 洸夜は困った笑みを浮かべながら悠達の後を追って行くのだった。

 

 

▼▼▼

 

 現在:異様な商店街

 

 悠達を追って行く中、洸夜は町の商店街に似た場所に出た。しかし似ていると言っても雰囲気は別物で活気どころか不快感しか無い。

 

「似ている……が、此処は何なんだ」

 

 余りにも異様な商店街に、同じく似たように異質な自分の影。そして自販機すらも異様な感じがしてならない。

 

「……何が起こっても、ここでは買いたくないな」

 

 苦笑しながら自販機を洸夜は見つめながら呟く。

 タルタロスとも違う全てが謎と異質な世界。洸夜が此処の商店街に謎の恐怖を抱いた時だった。

 

『……!』

 

 探知を行っていたヘメラの瞳が大きく開き、己が得た情報を洸夜に知らせた。

 その情報はヘメラ同様に洸夜の目をも見開かせる。

 そのヘメラを通じて飽きるほどに感じたこの気配。洸夜の今までの考えが確信へと変わった。

 

「シャドウ……!」

 

 この独特な気配を間違えることなどない。同時に洸夜の考えを裏付けるかのように叫び声が辺りに木霊する。

 

「待つクマ!? シャドウがそこにいるクマよ! やっぱり襲って来たクマ!?」

 

「うわわッ!」

 

 少し離れた所から、先程のクマと陽介の叫び声が響き渡る。

 洸夜はその声を聞いて走り出した。

 

▼▼▼

 

 現在、悠達の前に丸い身体にシマシマ模様をした巨大な口と巨大な舌を出しているシャドウ『失言のアブルリー』が二体立ち塞がった。

 突然のシャドウの襲来に陽介は座り込んで怯えており、クマは恐怖で動けなくなっている。

 だが、此処で何もしない訳には行かない。悠は一人ゴルフクラブを強く掴み、化け物としか認識できないままシャドウに向かって行った。

 

「うおぉッ!」

 

 悠はゴルフクラブをシャドウに叩きつけると、クラブがめり込んだシャドウはそのまま近くの店に叩きつけられた。

 

「や、やったのか……?」

 

 ゴルフクラブが命中し、シャドウは吹っ飛ばされたのを見て陽介は恐る恐る立ち上がると……。

 

「に、逃げるクマッ! そんなのがシャドウに効く訳ないクマよッ!」

 

「ッ!?」

 

 クマの言葉と共にシャドウが起き上がり、舌を出しながら悠に反撃を行う。

 

『ヒャア~!』

 

 シャドウは口から巨大な舌をだし、その舌を使って悠に体当たり行った。

 

「グッ!」

 

 舌での攻撃だったが、まるで車に撥ねられたかのような重い一撃を悠は受けてしまう。しかもそのまま悠は吹っ飛ばされ尻餅を着く様に着地してしまった。

 それに比べてシャドウに疲労の様子はない。そう先程の攻撃は全く効いてなかった。

 

「どうすれば良いんだ……!」

 

 攻撃が効かないこんな化け物をどう倒せば良いのか分からない。

 悠に焦りが生れようとし、そう思っていた時だ。

 

「鳴上ッ!?」

 

「うわわッ! クマはどうすれば……!」

 

 悠が吹っ飛ばさた事で更に慌てる二人。この二人は既に戦力には数えられない。

 

『『ヒャア~』』

 

 しかしシャドウにそんな事は関係ない。少しずつ悠達に接近し始めていた。

 

(ここまでなのか……!)

 

 悠は自分の運命を諦めた様にした向いた直後……。

 

 チィリーン……!

 

「ッ!」

 

 悠が腰に付けていた洸夜に貰った鈴の音が鳴った。

 そしてその鈴の音を聞いた瞬間、悠は頭が冷静になって行く中である想いを思い出した。

 

「……そうだ。こんな所で簡単に諦めたら、兄さんの背中は越えられない……!」

 

 そう言って悠は再び立ち上がる。こんな所で簡単に人生を諦めたら自分の人生の目標であり、憧れでもある兄を越えられない。

 そして同時に悠の中に、陽介やクマを守りたいと言う気持ちが強くなった。

 今まで、親の言う事に流されて生きて来た悠には初めての感情。

 その感情という名の心の叫びに応え、悠の仮面は目覚める……。

 

「うおッ! 何だ!?」

 

「ク、クマ~~ッ!?」

 

 悠から青い光が溢れ出す。そして同時に悠の手には一枚のカードが現れ、それに触れた瞬間、頭にこの力について流れた。

 不思議な事に、何故かこの力が分かる。

 悠はこの力の名前を口にする。

 

「ペ……ル…ソナ……うおぉぉぉぉッ!!」

 

 悠が手の平のカードを握るとカードは砕け散り、己の後ろに隙間から光る金色の瞳を覗かせる鉄の仮面にハチマキを付け、学ランをイメージさせる黒いコート。

 更に右手には、大の大人よりも巨大な大剣を握っている。コレが悠の仮面であり、剣と盾でもあるペルソナだった。

 日本の創造神の名を持つペルソナ『イザナギ』である。

 

「な、なんだよ……これ……!」

 

「ク、クマにもわからないクマよ……」

 

 陽介とクマは既に考える事を放棄していた。目の前の存在と悠の異変。もはや、見届ける事だけに徹する事をしなければどうにかなりそうだったからだ。

 

「ハアァァッ!」

 

『スラッシュッ!』

 

 悠の声に応え、イザナギがシャドウの懐に飛び込んでそのまま一閃する。

 そしてアブルリーはまるでゆで卵でも斬ったかのように簡単に両断され、そのまま消滅した。

 

「す、すっげぇ……!」

 

 陽介は悠のペルソナ『イザナギ』の力に驚きを隠せずに見惚れたが、その表情がどこか楽しんでいるようだった事に本人は気付いてなかった。

 それは戦いの最中の悠は尚更の事。

 

「続けて行く! イザナギッ!」

 

『ジオッ!』

 

 イザナギから雷が放たれ、そのまま残りのシャドウを飲み込みそのまま消滅させた。

 初戦は覚醒してからは完全勝利。そんな悠の姿をもう一人、影から見ていた者がいた。

 

「初陣の割には言う事なしだ。……良くやったな悠」

  

 駆け付けた時には既に悠は覚醒しており、洸夜はそんな弟とその仮面を見守っていた。

 洸夜からすればアブルリー程度のシャドウは簡単に倒せたが、シャドウが初見の悠達にとってシャドウは化け物以外の何物でもない。

 その恐怖を乗り越えてのペルソナ覚醒と勝利。洸夜はそれを純粋に喜びたかったが……。

 

(これで悠は……完全に非現実の世界に足を踏み入れたのか)

 

 心の中で、悠がこの世界に入った事。コレから先で戦う事になるかもしれない強大なシャドウ達との事。

 新たな危険に晒されるであろう弟の事を考えればまた新たな心配が生れてしまった。故に、この場で洸夜だけは肩の力を抜くことはしなかった。

 

 

END

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