新訳:ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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PS5……まだ買いたくないなぁ(本音)


第四十六話:逆位置の脅威と帰還する者

 

「皆! エリザベスさん!」

 

 黒の駅の終着駅――その広場の中央付近でエリザベスは倒れており、彼女のペルソナであるタナトスも砕ける様に消滅してしまう。

 

 悠は急いで彼女の下に駆け寄ると、エリザベスや陽介達を磔にしたであろう元凶――洸夜の影を睨むように見上げた。

 

「兄さん……のシャドウ!」

 

「悠!」

 

 悠が愚者を彷彿とさせる仮面を付けた大型シャドウ――洸夜の影を見上げていると、後ろから美鶴達とクマも走ってきた。

 そして洸夜の影に対して臨戦態勢を取って武器を構える。

 

「これが……洸夜のシャドウなのか?」

 

「デカイな……!」

 

 美鶴と明彦がやや困惑気味な様子の中、悠はエリザベスを抱えた。

 

「エリザベスさん! 何があったんですか! 陽介達は……一体、何が――」

 

「うぅ……油断したつもりはなかった……ですが……既に、黒き絆を得たワイルドを持つシャドウの力がここまでになっているなんて……!」

 

 エリザベスは苦しそうにそう言葉を続けると、不意に悠の目を見た。

 

「……鳴上 洸夜を信じてはいけません」

 

「えっ……それってどういうですか! 何故、兄さんを……!」

 

 悠は思わず困惑した。何故、兄を信じてはいけないのか。

 しかしエリザベスの真っ直ぐに自分を見る目は真剣そのものであり、悠はエリザベスが冗談を言っている様には見えなかった。

 

 本気で彼女は悠に伝えようとしている様に見え、悠はどういうことかとエリザベスに問いかけた。

 するとエリザベスは言葉を続けた。

 

「抑圧されたシャドウは一つではありません……愚者のもう一つの側面。それを何とかするまで……洸夜様を信じないで……!――あっ!」

 

 エリザベスはそこまで言った時だった。

 不意に彼女は悠の手を離れて空中に浮くと、そのまま周囲に浮かぶ十字架に磔にされてしまった。

 

「エリザベスさん!――くっ!」

 

 エリザベスが陽介達と同じ目にあった事で悠は洸夜の影を睨んだ。

 すると、洸夜の影はゆっくりと顔を動かして顔を悠達へと向けた。

 

『……辿り着いた。これでようやく完成する。黒き絆が……!』

 

 そう言って洸夜の影は悠の後ろにいる美鶴達へと手を伸ばすが、悠はそれを二本の刀で弾いた。

 

「そうはさせない……!」

 

『邪魔をするか……真実を追い求めながら、迷いを歩む愚者よ。――築くのだ……黒き絆を! 完成させるのだ……“死”を持って黒き絆は完成する!!』

 

「死だと?」

 

「どういうことでしょうか……?」

 

 美鶴とアイギスが疑問を抱いている様だったが、洸夜の影は話を続けた。

 

『負の感情によって繋がれし黒き絆……その終着は死によって終わる。他者の死……それこそが最も強い負の感情である。死は始まりであり終わりだ。故に死を以て黒き絆は完成する!』

 

「つまり……俺達の死を望んでいるってことか」

 

「それだけじゃないです! このままだと洸夜さんも死んでしまいます!」

 

 明彦は強気に、乾は心配そうにそう言った。

 明彦達には道中でテレビの世界や稲羽での死の真相を話している。

 

 だから乾達は、このまま洸夜の影を放っておけば洸夜が死ぬことは分かっている。

 無論、それは悠もだ。だから洸夜の影の言葉を受け入れる事はない。

 

「兄さんはどこだ! 兄さんに何をした!!」

 

『洸夜は……俺だ』

 

 洸夜の影がそう言った瞬間、その腹部が禍々しく光り出した。

 そして悠達は、その腹部の中で眠る存在――洸夜に気付いた。

 

「兄さん!」

 

「洸夜!!」

 

「鳴上先輩!」

 

 悠が叫ぶと美鶴達も一緒になって叫んだ。

 しかし洸夜からの反応はなく、ただその声だけ聞こえてきた。

 

『違う……違う……! 俺はこんなことを望んじゃいない! お前は俺じゃない……! 俺は美鶴達の死を望んでいない!!』

 

「兄さん……!」

 

 それは洸夜の否定の言葉だった。

 洸夜が否定する度に洸夜の影の禍々しいオーラは増していき、徐々に威圧感が増していた。

 

「洸夜……!」

 

 美鶴が洸夜の安否の為か、今にも飛び出しそうになるが明彦達がそれを止めた。

 

「落ち着け!――全員で行くぞ! 俺達で終わらせるんだ……洸夜の事も。そして黒き絆も! 誰かの死によって完成される絆なんてあって良い筈がない!」

 

 それは妹と親友を失った明彦だからこその言葉だった。

 悠はそんな彼の過去を知らなかったが、明彦の言葉には重みが確かに感じられた。

 

 そして悠は武器を構えると、美鶴達も武器を構える音が聞こえた。

 既に戦う準備は終えている。悠は覚悟を決め、同時に背後から感じる美鶴達の覚悟も感じていた時だった。

 

 戦いは不意に始まった。

 

『寄越せ……寄越せ……お前達の死を寄越せぇぇぇ!!』

 

「来ます!!」

 

「来るクマ!!」

 

 洸夜の影が手を伸ばしてきた瞬間、風花とクマが同時に叫んだ。

 それと同時だった。悠はペルソナカードを握り砕き、美鶴達も引き金を引いた。

 

――ペルソナ!!

 

 悠達が一斉に叫んだ。

 そして現れるそれぞれの仮面――ペルソナ。

 

「来い! スカアハ!!」

 

 悠も全力だった。

 彼が呼んだのは【女教皇】のアルカナのペルソナ――スカアハだ。

 

 悠の持つペルソナでも、かなり強力な分類のペルソナであり、悠は一気に攻勢をかけた。

 

「マハガルダイン!!」

 

 悠が叫ぶとスカアハは手を翳し、洸夜の影へ巨大な疾風を放った。

 周囲にも影響が出る程の疾風で、周囲の駅や電車を抉りながら洸夜の影へ向かって行く。

 

 だが洸夜の影は手を前に出して疾風を受けた瞬間、マハガルダインは一瞬で消滅してしまう。

 

「なに!?」

 

 悠は思わずそう口に出してしまう程に驚いた。

 疾風属性無効か吸収か。どちらにしろ効いていないのだ。

 

「あの威力の技が効いてない……!」

 

「ワン!!」 

 

 チドリとコロマルからも警戒の声が聞こえてくるが、悠が思わず動きが止まった瞬間、左右から飛び出してくる影があった。

 それは美鶴と明彦であり、二人は自身のペルソナを引き連れて洸夜の影へと向かって行く。

 

「アルテミシア!――マハブフダイン!!」

 

「カエサル!――マハジオダイン!!」

 

 洸夜の影へ向かって放たれる広範囲の氷塊と雷の嵐。

 悠の攻撃を見て、疾風属性が駄目ならばと美鶴達は瞬時に判断した動きであり、歴戦のペルソナ使いの動きで淀みはなかった。

 

 しかし並みのシャドウならば形も残らない攻撃でさえ、洸夜の影は浴びても一切微動だにせず、まるで効いていないかの様に右腕を持ち上げた。

 

 それと同時、周囲のアルカナが描かれたステンドグラスの様な絵が高速で動き始めた。

 そして止まった瞬間、洸夜の影の頭上で止まったアルカナは【太陽】のアルカナだった。

 

『……メギドラオン』

 

 洸夜の影が唱えると同時、頭上に現れたのは太陽のアルカナを持つ【メタトロン】だったが、その姿は影の様に真っ黒に染まっていた。

 

 そして巨大なエネルギーを腕に集め、それを放とうとしていた。

 

「メギドラオン!?――気を付けて! 大きな攻撃が来ます!」

 

 メギドラオンが放たれようとする寸前、【ユノ】で探知していた風花が叫ぶと同時にゆかり達も前に出た。

 

「イシス!――マハガルダイン!!」

 

「トリスメギストス!――アギダイン!!」

 

「カーラ・ネミ!――ジオダイン!!」

 

「アオォーン!!」

 

 ゆかり達はそれぞれのペルソナを前に出し、コロマルも【ケルベロス】を前線に出してマハラギダインを放った。

 

 そして、それぞれの攻撃は洸夜の影が集めたエネルギー――メギドラオンへと向かい、放たれたと同時に技が接触。

 巨大な誘爆を生み、洸夜の影を呑み込んだ。

 

「追撃します!」

 

 更にそこへアイギスが飛行し、一瞬で洸夜の影の間合いへと入ると一気に指先と頭部の銃器が火を噴いて銃弾の嵐を浴びせた。

 

「凄い……!」

 

 美鶴達の実力は黒の駅の道中で分かってたつもりだった悠だが、目の前の光景に驚きの声をあげた。

 力が凄まじい。判断力も自分達以上で実力なら陽介達じゃ敵わないとすら思えた。

 

 経験値。その差が大きいと悠は思っていたが、その考えはすぐに切り替えることになった。

 何故ならば、煙が晴れると洸夜の影は未だに健在だったからだ。

 まるでダメージでも受けていないかの様に。

 

「そんな……!」

 

 アイギスが空中で驚きの声をあげた。

 同時に洸夜の影がアイギスを掴もうと腕を伸ばしたが、それよりも先にアイギスが動いた。

 

「アテナ!!――アカシャアーツ!」

 

 アイギスの声に応えたのは彼女のペルソナ――巨大な槍と盾を持ったペルソナ【アテナ】だ。

 アテナは反撃するかのように槍を洸夜の影の腕へと突き刺したが、その攻撃は槍の矛先で止められてしまう。

 

「物理攻撃も……!」

 

 アイギスは驚きの声をあげながら目で洸夜の影全体を見渡していた。

 まるで隙か弱点を探している様だったが、それを探る前に洸夜の影が腕を振るってアイギスをはたき落とした。

 

「うっ!」

 

「アイギスさん!」

 

 悠は吹き飛んだアイギスの名を呼んだが、アイギスは地面へ落下直前で受け身を取っていた。

 

「大丈夫です! それよりも気を付けて下さい! 攻撃が効いていません!」

 

「そんな……! フウカちゃん! 弱点は分からないクマか!? クマの鼻じゃどうしようも出来ないクマよ!」

 

 アイギスの声にクマが焦った様子で風花の方を見ていたが、風花もユノの能力をフルに使っている様子だった。

 しかし顔色は悪く、風花自身も焦った様子だ。

 

「ダメです……! 弱点がない……全ての攻撃に耐性を持ってる!――でも、どうにかしないと……!」

 

 風花は何とかしようと必死に探知してくれているが、残念ながら弱点がない様子だった。

 そして弱点がない、その言葉に悠と美鶴達の顔にも僅かに焦りの表情が出ていた。

 

 だが、そんなことは洸夜の影には関係ないのだろう。

 再び周囲のアルカナが回転を始め、今度は【魔術師】のアルカナが頭上で止まると【スルト】を模した存在が浮かび上がった。

 

『果てろッ! ラグナロク!!』

 

 洸夜の影は口を開けると巨大な豪炎――最強の炎系技『ラグナロク』が悠達へ放たれた。

 

「マズイ! ホワイトライダー!」

 

「お前もだ! トリスメギストス!」

 

 悠と順平がラグナロクを防ぐ為、自身とメンバー達の前に炎に強いペルソナを出した。

 耐性がある為、予想通りラグナロクは防ぐ事は出来た。

 しかし、ラグナロクはメンバー達に当たる事は無かったが、防がれた事で周囲へラグナロクの残り火が流れ、辺りの地面を溶かして空気を熱した。

 

 それはラグナロクの威力がどれ程のものだったのかを理解させるのには十分であり、あまりの熱気に悠は急激に額に汗が流れた。

 

 けれども洸夜の影の攻撃は続く。

 

『……抉れ』

 

「皆さん避けて! 最大疾風技来ます!」

 

 風花のサポートに悠達は一瞬も休まず、全力行動する。

 威力も強い技が続き、悠と美鶴達は必死に動く中で洸夜の影は技を放ってきた。

 

『――万物流転』

 

 洸夜の影の前に巨大な風の塊が出現した。

 辺りの破片を吸い込んでは削るその疾風の塊、それはまさに攻撃する為だけに生まれた疾風。

 それが悠達に迫る中、今度はゆかりが前に出た。

 

「舐めんじゃないわよ! イシス!」

 

 イシスを前に出し、万物流転を受け止めた。

 だが、それでも万物流転は止まらずに少しずつ悠達へ迫ってきていた。

 

『所詮、『アイツ』がいなければ何も出来ないお前には無理だ……』

 

「くぅ……! まだ……私は……!」

 

 ゆかりは歯を食い縛って耐えていたが、それでも時間の問題なのは目に見えていた。

 見下す様に洸夜の影は首を不気味に動かしており、止めを刺そうと右腕をイシスへ向けたその時だった。

 

「メーディア!」

 

「キントキドウジ!」

 

「アテナ!」

 

 チドリ、クマ、アイギスの三人が油断していた洸夜の影にペルソナを接近させた。

 

『……!』

 

 突然の奇襲に洸夜の影も対処に遅れ、三体のペルソナ達はそれぞれの技を洸夜の影へ放った。

 

「マハラギダイン!」

 

「マハブフーラミサイルクマ!」

 

「ゴッドハンド!」

 

 それぞれの技が洸夜の影の身体にそれぞれぶつかり、その直後に爆発した。

 そのおかげなのか、イシスが押さえていた万物流転も消滅してゆかりも荒い呼吸をしながら肩を落としていた。

 

 耐性持ちとは言え、相手の技を耐える為のペルソナ維持にも力はいる筈だ。

 そして、爆煙で洸夜の影が見えなくなるが悠は警戒は解かない。

 

 あの程度で消滅するとは全く思ってないからであり、同時にその予想が最悪の展開で訪れた。

 

『月影』

 

 チドリとクマ、その二人のペルソナ達の中を一本の光が走った。

 鋭く鋭利な一本の光。その正体は煙の中から伸びる一閃――洸夜の影の攻撃だった。

 

 頭上に再び別のアルカナ【法王】が浮かんでおり、同時に【フラロウス】が頭上に存在していた。

 

 満月時に威力を上げる物理技『月影』。

 この世界に存在する黒の満月が、その技の威力を上げたのだろう。

 

 そして、洸夜の影の一閃はメーディアとキントキドウジを確かに捉えており、それは同時に宿主へのダメージも意味していた。

 

「ッ! カハッ!」

 

「グギャ!」

 

 自分達のペルソナが地面に落ちると同時に、口から痛みによって息を吐くチドリとクマ。

 二人はそのまま膝を付き、洸夜の影がチドリの姿を捉えた。

 

『死の絆を築け……偽りの仮面使い』

 

 チドリへ腕を振り上げる洸夜の影。

 そんな洸夜の影をチドリは睨み付けていたが、痛みが強いのだろう。

 彼女の眼力は弱く、負け犬の遠吠え程度しか威圧できていなかった。

 

「チドリ!」

 

「チドリさん!」

 

 チドリの危機に武器を構えて順平と乾の二人が走りだした。

 彼女を副作用から解放して救ったのは洸夜だった。

 なのに、その洸夜の力によって彼女の命が脅かされる事はあってはならない。

 

 だが、そんな二人に気付かない洸夜の影ではなかった。

 洸夜の影が順平と乾へ視線を向けた瞬間、頭上のアルカナが【死神】になると【モト】が現れ、黒い光が二人に降り注がれた。

 

『デビルスマイル!』

 

「ッ!?」

 

「なっ!?」

 

 突如、順平と乾に悪寒が走った様に固まった。

 それを見た悠は気付いた。全身の震えが止まらず動けない状態『恐怖』状態に陥ってしまったのだと。

 

『……一人目』

 

 邪魔がなくなり、今度こそ洸夜の影の攻撃が振り落とされた。

 

「させるかぁッ! イザナギ!!」

 

 しかし、悠が洸夜の影の攻撃を妨害した。

 イザナギはそのまま自身の大剣で洸夜の影の刀を振り上げて隙を作り、イザナギは再び大剣を振りかぶる。

 

「悠さん!――マハタルカジャ!』

 

 更にそこへアイギスからの追撃もとい、補助が入りイザナギの力が増強され、そのままイザナギは大剣を洸夜の影目掛けて全力で振った。

 

『っ!』

 

 強化されたイザナギの攻撃だったが、洸夜の影はそれを両手で受け止めた。

 しかし、それが僅かな隙となったことで悠達は態勢を整えようとした。

 

 中でも、ゆかりが急いで動いていた。そしてチドリ達四人に近づいて回復を始めていた。

 

「ほら、しっかりしなさいよ!」

 

 順平と乾にはメパトラを、チドリとクマにはメディア系を掛けようとするがチドリはそれを制止させる。

 

「ゆかり、私は大丈夫だから他の皆を……私には『生命の泉』があるから」

 

 生命の泉――それは宿主の体力を回復させる自動効果スキルの類であった。

 それによってチドリの体の傷は確かに消えていくが、ゆかりはチドリの言葉に首を横へ振る。

 

「何言ってんのよ。どんな力だって万能じゃないんだから、特にチドリは無理出来ないでしょ?」

 

 ゆかりはチドリの言葉を一蹴し、彼女にも回復を掛けた。

 ペルソナの回復だって万能ではないのは事実、命を失ってからでは遅い。

 だからゆかりは癒すのだ、誰も死なせない為。そして洸夜に殺させない為に。

 

 しかし洸夜の影が攻撃を止める様子はなく、再びフラロウスが頭上に現れると悠は洸夜の影へとイザナギを召喚しながら走った。

 

『……月影』

 

「ジオンガ!」

 

 両者でぶつかる腕と大剣。

 衝撃波と放電が重なり、周囲のフロアを削っていった。

 しかし、両者はその場から動くことはなく、力がほぼ均等だからか悠もまだ戦えると思った……だが。

 

「カハッ! イザナギ……!」

 

 一本の槍がイザナギを貫いた。

 何が起こったのか分からない悠だったが、原因はすぐに分かった。

 

 洸夜の影の腕。そこから生える様に真っ黒に染まった上半身だけのタムリンがおり、そのタムリンがイザナギを貫いたのだ。

 

「グッ……!?」

 

 貫かれたイザナギと同じ腹部に痛みが悠を襲い、思わず膝を付きそうになったが悠は耐え、前屈みになりながらも目線は洸夜の影から離さなかった。

 

「悠くん……!? この……!」

 

 ゆかりが矢を洸夜の影へ放つ、だが、顔面に矢は当たったが仮面によって弾かれてしまう。

 そして、そんな攻撃に洸夜の影の瞳が輝いた。

 

『……愚者の戯れ』

 

 洸夜の影の瞳が光った瞬間、周囲のアルカナに異変が起こる。

 アルカナの絵柄が逆さま――逆位置になった。

 

 そして一部のアルカナが逆位置になった瞬間、美鶴達に異変が起こった。

 

「身体が……重い……!?」

 

「なんだ、身体に力が入らん……!」

 

 美鶴と明彦は自分の身体に力を入れようとしていたが、上手くそれが出来ない様子だった。

 勿論、アイギスや乾達も同じ現象が起きていた。

 

「これは……! ペルソナの力が……!」

 

「力が抜ける……!」

 

「アウゥ~ン」

 

 皆、ペルソナも弱体した様に存在が消え始めていたり、やはり力が入らない様子だった。

 

「一体、何が……!」

 

 しかし不思議と悠は無事であった。

 何故、自分は無事なのかと不思議に思っていた悠だったが、気になるのは逆位置となったアルカナだった。

 

「女帝や皇帝……魔術師とかも逆位置になっている……!」

 

 悠は思い出す。アルカナの逆位置の意味は悪い意味が多かったことを。

 そして同時に美鶴達のペルソナのアルカナも思いだすと、逆位置となったアルカナと一致していた。

 

「まさか……!」

 

 悠はまさかと思い、逆位置となったアルカナと同じペルソナを召喚しようと試みた。

 すると悠はそのペルソナが召喚しづらいこと、そして自身にも力が入りづらくなった事に気付くと、この異常の正体に気付いた。

 

「そうか……! 逆位置となったから同じアルカナがデバフとなっているんだ!」 

 

「そんな攻撃が……クッ!」

 

 悠の声に美鶴達は必死に耐えていたが、表情は辛そうだった。

 何とかしなければ。そう思った悠が取ったのは、洸夜の影の周辺に浮かぶアルカナへの攻撃だった。

 

「イザナギ!!」

 

 幸運なことに【愚者】のアルカナは逆位置になっていない。

 ならばと悠はアルカナへ攻撃を実行し、イザナギが大剣をアルカナへと振るった時だった。

 

『!』

 

 その攻撃を洸夜の影が腕によって防がれてしまった。

 しかし、それが悠の中で違和感となった。

 

 普通ならば攻撃を防ぐのだから当然の行動に見えたが、悠は別の見方に見えた。

 

「庇った……のか?」

 

 悠から見た今の洸夜の影の動き。

 それは防いだというよりも、アルカナを庇った様に見えたのだ。

 

「もしかして……!」

 

 悠はある予想が脳裏に過り、まさかと思った時だった。

――不意に洸夜の影が姿を消したのだ。

 

「消えた!?」

 

「一体、どこに……!」

 

 順平と乾が辺りを急いで見回していたが、姿は見えなかった。

 悠と美鶴達は息を呑み、警戒に集中しようとした時、コロマルが何かに気付いたのか風花の方へ吠えた。

 

「ワンッ! ワンッ!」

 

「――しまった!? 風花さん、そこから逃げて下さい!!」

 

「――えっ」

 

 アイギスがコロマルの意図に気付いたらしく、風花へ退避を伝えるが風花や悠達が気付いた時には遅かった。

 風花の背後から洸夜の影がその姿を現した。

 

『ギガンフィスト!』

 

 右腕を蒼白い光に包み込み、風花を殺そうする洸夜のシャドウ。

 しかも最悪なのは前線にいた悠と美鶴達が、風花から離れていたことだった。

 

 それでも仲間の危機に全員が駆け出すが、洸夜の影の攻撃準備は既に完了しており、どうあがいても間に合わない。

 

 それを悟ってか風花は身を固め、ユノが洸夜の影へ立ちふさがった。

 少しでも壁になろうとしているのだろうが、戦闘力が比無のユノでは何の壁にもならないのは悠でも分かる事だった。

 

「クソッ!」

 

「間に合ってくれッ!!」

 

 明彦と一緒に悠は走りだした。

 だが間に合わない。距離が離れすぎていた。 

 

「風花さんッ!!」

 

 悠の叫びが虚しく辺りに轟き、クマも叫ぶ。

 

「も、もう駄目クマよぉ~!!?」

 

 悠達の叫び声が虚しく木霊する。

 そして風花へ、その攻撃が迫ったまさにその瞬間だった。

 

「――ゴッドハンド!」

 

 洸夜の影の攻撃がユノへ触れようとされた時、巨大な力の拳が上から降って来て洸夜の影に直撃し、その衝撃で洸夜の影の動きが止まり、攻撃が不発となった。

 

『……何が起きた?』

 

 それは此方が聞きたい、そう思ってしまう悠と美鶴達。

 一体、何が起こっているのか聞きたいのは自分達の方だと言わんばかりに立ち尽くしてしまう。

 

 攻撃したのが悠達ではなかった。それならば誰だと言う事になる。

 そんな悠達の気持ちを知ってか知らずか、洸夜の影は原因があると思われる背後へ振り向こうとしていた。

 

『一体、誰がッ――』

 

 振り返ろうとした洸夜の影だったが、それは遮られてしまう事になる。

 突如、この広場の扉が破裂音の様な音を発す程に強く開かれた瞬間、黒く巨大な何かが凄い勢いでフロアに侵入して来た。

 

 それが何なのか誰も考える暇なく、それは洸夜の影の背後にそのままの勢いで接近すると、そのまま洸夜の影を吹っ飛ばした。

 

『ッ!』

 

 結局、一体何が起こったのか分からぬまま洸夜の影は再び姿を消した。

 そして再び悠達の傍に現れ、そんな洸夜の影を全員が見る中、乾は先程侵入してきたモノの方を見た……そして、言葉を失っていた。

 

「えっ……」

 

 目の前の現実が、乾から言葉を奪った。

 何故ならば乾が見たものは、もうどこにも存在する筈がないものだったからだ。

 

 乾にとってそれは嘗て、母を奪った時に見たモノで復讐の象徴とも言えるモノ。

 そう、それは巨大な黒い馬だった。

 

 黒い馬に跨り、胸に剣を突き刺したモノ。

 それを見た瞬間、言葉を失ったのは乾だけではなく、悠とクマを除く全員が言葉を失っていた。

 だが、美鶴だけが何かを悟った様な表情をしていた事には誰も気づかない。

 

「まさか……! いや、そんな……!?」

 

 明彦も突然の事に、戦いの最中でありながら構えを解いてしまう程、衝撃を受けた顔を浮かべていると、扉の奥から声が聞こえてきた。

 

「ったく……いつまでたっても世話の掛かる奴等だぜ……テメェらはよ!」

 

 気迫が混じった迫力の言葉と共に、一人の青年が黒い馬が侵入した事で半壊した扉からフロアへ足を踏み入れた。

 そして黒い馬も主の下へ向かう様に青年の隣へ戻っていた。

 

「誰だ……?」

 

「な、何者クマか!」

 

 破れたニット帽から飛び出す長髪、傷だらけの季節外れの赤いコートを纏い、そして何より、自分の身長よりもあるハルバートを片手で振り回す青年の存在感に悠とクマは息を呑んだ。

 

 だが、他のメンバーは違った。

 

「は、はは……これは流石のオレッちも予想外過ぎるわ……!」

 

 順平はおかしそうに笑っていた。

 

「……もう、なにが起こっても驚かないわよ?」

 

 ゆかりは呆れた様に言いながらも嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 

「えっ……えぇッ!!?」

 

 風花は思考が追い付かず、驚きの声をあげる。

 

「なによ、生きてたんじゃない」

 

 チドリは呆れた様子で呟いていた。

 

「ワン! ハッハッ!」

 

「コロマルさんも喜んでおります。かくゆう私も同意見であります……が、これはあまりにも予期せぬ事でした」

 

 コロマルとアイギスも楽しそうに笑っていた。

 

「やれやれ、お前もこの世界に来ていたとはな。――だが、遅すぎる。もっと早くこれたんじゃないのか?」

 

 ただ美鶴はあまり驚かずにそう言う中、明彦と乾の二人だけは言葉が見つからなかった。

 勝手に消え、勝手に背負い、勝手に一人で苦しみ続けていた勝手過ぎる男。

 

 少なくと、明彦と乾はそう真っ先に思った。

 

 そして、救いようのない程の大馬鹿野郎とも、明彦と乾はそう思いながらも込み上げる想いは隠す事は叶わなかった。

 

「……いつもそうだ、お前は。生きていたなら……そう言え……馬鹿野郎……!」

 

 明彦は手で目元を隠しながらそう呟くが、手の隙間からは雫が漏れていた。

 そして、乾もその青年を見ながら槍を強く握りしめていた。

 

「あなたは本当に卑怯でずるい……! ずっと守って、勝手に消えて……死んだと思っていたら本当は生きていた? 本当にずるいですよ……」

 

 己の想いを言葉にする二人が想う目の前の青年。

 そんなもう呼ぶ事が叶わないと思っていた青年の名を二人は呼ぶ。

 

「なあ……シンジ!!」

 

「荒垣さん!!」

 

「……フッ」

 

 明彦と乾の言葉に青年『荒垣 真次郎』は小さく笑みを浮かべ、彼の仮面『カストール』と共に仲間達、そして、この世界(非現実)に舞い戻った。

 

 

End

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