新訳:ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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リアルの王様ゲームは言う程、盛り上がらない


幕間:王様ゲームだ! 全員集合!

 

 それは、とある日の出来事であり、修学旅行の中での出来事だ。

 

 現在、クラブ・エスカペイド【二階】

 

 洸夜達と悠達は現在、クラブの二階フロアで腰を掛けながら雑談していた。このクラブは以前、りせが仕事中に停電などがあった等して二階を貸切にして貰ったのも大きい。

 

ドリンクやおつまみはついては美鶴が全て出してくれている。自分達のゴタゴタに招いた事への謝罪を込めての事であり、ドリンクを飲みながら再度自己紹介を行ったりしていた。

 

 美鶴の肩書が凄すぎて今一距離を取りがちの陽介だったが、なんだかんだで一番未だに驚いているのはアイギスの存在であった。テレビの中でも聞いたが、やはり服を着ているとアイギスがロボットとは思えず、言葉も普通に話している為に脳が混乱してしまう。

 

 また、なんだかんだで美鶴達はペルソナ使いの先輩でもあり、陽介達にはそれだけでも新鮮すぎる。

 

 しかし、悠達にも色々とキャラが濃いメンバーが多く存在し、洸夜がどちらも負けてはいないと言った事で全員が納得してしまう。

 また、いつの間にクマも普通にいて皆は驚いたが話を聞く限り、洸夜の左手に巻き込まれて寮にいたらしいが、好奇心に負けて観光していたとの事だ。

 

 また、今回は直斗もいる為、あまりペルソナやシャドウについての言葉は自粛していた。

 ただでさえ美鶴がいる事から直斗も多少ながら彼女へ注意が行っている。

 

 そして、色々と場が和んで来た中、洸夜はと言うと……。

 

「アハハハハハッ! これお前か、ゆかり!」

 

 洸夜はソファの上で携帯に写る一人のコスプレの様な姿をした女性の写真を見て笑っていた。

 その写真には『不死鳥戦隊フェザーマン・フェザーピンク役』と書かれており、その姿はまさにゆかりその人であった。

 

 事の発端は、りせが何処かでゆかりを見た気がすると思ったのが始まりで、前に一度だけゲストとしてフェザーマンに出演していたりせはそれを思い出してしまった。

 

 後はイモずる式であり、洸夜にバレたゆかりは顔を真っ赤にして両手で顔を隠していた。

 

「アァァ……鳴上先輩だけにはバレたくなかったのに!?」

 

「ま、まあ気にするな……ククッ……普通に似合って……ハハッ、アハハハハハッ!」

 

 余程、その格好がおかしいのか洸夜は腹を抱えて笑ってしまう。顔は隠れているが、胸元は大きく空いており明らかに子供達には良いとは言えない。

 

 しかし、そこが逆にツボリ、ゆかりを良く知っている洸夜からすればヒーローの台詞を言っているであろうゆかりを想像すると笑いが堪えられないのだ。

 

「そう言えば、バイト先の子供達がよくフェザーマンごっことかしてるんですけど、何故かいつもピンクが余って最終的にはジャンケンで決め様として、それが男の場合……」

 

『うわぁ! お前、ピンクだ! 胸みせろよ! えっちだ!! 』

 

「って、よくからかわれてますね」

 

「私のイメージどうなってるのよぉぉぉぉッ!!」

 

 悠の経験談を聞いたゆかりは発狂したかの様に頭を抑えながら立ち上がり、天へ叫び散らす。その向かい側では洸夜が可笑しくて仕方なく、腹を抑えながら悶絶していた。

 

「私だってあんな衣装だなんて知らなかったわよ!」

 

「ゆかり、あまり気にするな……」

 

「そ、そうだよゆかりちゃん! ちょ、ちょっと子供達には伝わりずらいだけで……別に悪い事じゃ……」

 

 フォローのつもりなのだろうが、風花の言葉は完全に止めとなり、ゆかりは机に倒れた。

 

「子供向けなのに致命的じゃないそれぇぇぇ!!」

 

 なんだかんだで気にしていたのか、ゆかりは遂に壊れてしまい、ヤケ酒(ノンアルコール)を始めてしまう。

 美鶴達がそれを止めるが、ゆかりのダメージは大きかった様だ。因みに、洸夜はまだ笑っている。

 

「大丈夫であります、ゆかりさん! 薄い本が厚くなるだけですから!」

 

「アイギス……意味知ってて言ってるの……!」

 

 最早、ゆかりのライフは0に近く、メンタルが限界に近くなっており、その眼は血走っていた。

 因みに、アイギスは首を傾げている為に意味は知らない様だ。完全にノリで言った為に達が悪いが、そんな時でも洸夜は笑っている。

 

 そして、そんな中で陽介と完二は美鶴達を見て何やら話していた。

 

「おい、完二……どう思う? 美鶴さんは言うまでもなく完璧。ゆかりさん同じく。アイギスさんもロボットとか関係なく最強……寧ろロボッ娘キタ! 風花さんとチドリさんも控えめながらそこが良い」

 

「レ、レベルが高すぎるぜ花村先輩……天城先輩クラスが……いや、場合によればそれ以上か!?」

 

 美鶴達の容姿を見ながら話しあう陽介と完二。千枝や雪子、りせ、そして洸夜だけが知ってはいるが直斗も中々にレベルが高い。

 彼女達に張り合えるレベルは中々にいない。

 

 しかし、美鶴達は堂々と張り合えるレベルなのだ。陽介と完二が見とれる程に。

 そして、そんな事を二人が話していると、それをさりげなく聞いていた洸夜は笑いから復活し、二人に物申した。

 

「フッ……お前等もまだまだ甘いな。まるで蜂蜜の如く」

 

「ど、どう意味ですか……!」

 

「お、教えてくれよ、洸夜さん!」

 

 自分達の考えが蜂蜜の如くの甘さと言われてしまった二人。

 それがどう言う事か洸夜に問いかけると、洸夜は腕を組んで小さく笑いながらそれに答えた。

 

「全てを外見だけ判断するとは愚の骨頂……良いか、風花は着やせするんだ!!」

 

「!!?」

 

「なん……だと……!」

 

 陽介と完二に電流が走った。そして、すぐに目線は風花へと向けられる。

 一見、控えめな様に見える二つの果実。隠す事も出来ない美鶴の自家製メロンと違い、その姿を隠す禁断の果実。

 完全に把握できない為に想像も膨らむと言う物だ。

 

 そして、それを距離が近い為に聞いていた他のメンバーも思わず風花を見てしまう。

 

(見た感じ控えめだけど……私よりもあるのかな)

 

(あの着こなし……中々ね)

 

(待って、あれで着やせ? じゃあ本当は私よりもあるんじゃ……!)

 

(なにかコツでもあるんでしょうか……)

 

 それぞれの考えの下の中、千枝達も視線は風花の下へと注がれる。しかし、流石にそれだけの人数から見られれば風花とて気付かない訳がなかった。

 

「な、なんか……沢山の視線を感じる……」

 

「風花、君も無視を覚えた方が良い……」

 

 呆れた表情で美鶴はそう風花へアドバイスをし、静かに溜息を吐くのだった。……因みに、洸夜と悠は再び笑っている。

 

▼▼▼

 

「はぁ……!」

 

 風花は疲れていた。化粧直しの名目でトイレの洗面所の鏡の前で溜息を吐く程に。

 その原因は別に悠達のせいではないが、人数的に言えばそうなってしまう。

 

 元々、そんなに大人数で集まるのには慣れてなければ苦手な部類に入る風花。

 美鶴達とは問題ないが、洸夜の知り合いとはいえ流石にまだ慣れていない。

 だからと言って嫌いではない為、主に気疲れとも言える。

 

 だが、それでも嬉しさもある。洸夜がいて、また昔の様に集まれている事は嬉しい。+ この二年、洸夜とは連絡先は分かっていたが基本的には音信不通だったからだ。

 

「……また、皆で会えた」

 

 風花が鏡の中で静かに微笑んだ時だった。

 

「ふ・う・か……さん!」

 

「ッ!? えっ、ええっ!! ええと、あなたは確か……久慈川りせ……ちゃん?」

 

 突如、後ろから声を掛けられて驚いてしまった風花だが、振り向いてそれが先程共にいた、りせである事が分かると安心の様な困惑の様な気になってしまう。

 

「はは! 別にりせで良いですよ!」

 

 しかし、そんな思いを知ってか知らずか、りせはそう言って隣の方に移り髪型などを直し始めた。

 

――殆どお化粧してないのに……やっぱり、アイドルの子って綺麗……。

 

 りせの姿を見て純粋に綺麗と思う風花。顔も小さく肌も綺麗だ。

 髪型を少し直しただけでもかなり変わり、風花はアイドルの凄さを思い知らされた気がした。

 

「り、りせちゃんはお肌とか綺麗だね……」

 

「ありがとうございます! でも。風花さんも綺麗ですよ。だから、お化粧とかも薄い方が良いですよ?」

 

 大人気アイドルであるりせから褒められるの悪くはないが、やはりそれでも風花的にはお世辞とも思えてしまう。

 その為、そんなりせの言葉に嬉しい反面、複雑な感じがして苦笑するしかなかった。

 そんな中、髪型を直し終えたりせは風花の方を向いて言った。

 

「風花さんって、洸夜さんの事が好きですよね?」

 

「えっ? う、うん……って、ええぇぇぇぇぇぇッ!!?」

 

 当然の超ド直球の言葉に反射的に言ってしまうが、風花はすぐに冷静に戻って顔を真っ赤にしながらここが何処か関係なく叫んでしまう。

 そして、照れ隠しの如く慌てて両手を振り回して言い訳を始めた。

 

「違うよ!? 違うからね! あっ違うって言うか、嫌いじゃないって言うか!? そうじゃないよ!? そうじゃないから!? えっと……つまり……!」

 

「お、落ち着いて下さい……流石にその反応はこっちも予想外ですし……」

 

 予想以上の反応にりせも苦笑してしまい、風花を落ち着かせようとする。

 そして、風花は冷静さを取り戻し始めたが顔は未だに赤く、恥ずかしそうだった。

 

「……や、やっぱり分かりやすいかな?」

 

「まあ、私だって洸夜さんと悠先輩の事が好きだから敏感だっただけですよ」

 

 意外にも直球でとんでもない事を口走るりせに、風花は一気に平常心まで落ち着いてしまった。

 

「え、えっと……洸夜さんと、悠くんも?」

 

「はい! 二人共、私に大切な事を教えてくれたり守ってくれたりって……そん風に接してくれた人って今までいなかったから、気付いたら恋してたんです。……女性はもう少し、恋に貪欲になった方が良いと追うんですよね私」

 

 なんという自信と女子力。こんな堂々な事は風花はとても言えず、りせが年下なのは知っているが恋愛に関しては向こうの方が凄かった。

 

 すると、呆気になっている風花をりせは見ていると、何かを思いついた様に風花へと聞きたかった事を聞いてみた。

 

「あの、風花さんが洸夜さんに惚れた理由って聞いても良いですか?」

 

「え、えぇ……」

 

 凄い突っ込んでくるなこの()

 

 そう思ってしまう風花。ゆかりが言っていた自分には足りない積極さとはこういう事を言っているのだろうか。そう思うと、風花は少し考えた。実は不思議と言いたくない気はせず、寧ろ誰かに聞いて貰いたい。

 

 風花は少しだけ悩んだが、微かにある年上としての意地も手伝い、意を決した様に頷くと口を開いた。

 

「あ、あんまり……誰かに言わないでね……」

 

「は、はい! 任せて下さい……! で、ではどんと来てください!」

 

 りせも何故か緊張した感じであり、雰囲気は完全に恋バナを聞きたくて仕方ない年頃の少女であった。そんな姿に風花は急に親近感が沸き、先程よりも肩の力を抜きながら話し始めた。

 

「私ね、高校の時……イジメにあっていたの」

 

「イジメ……」

 

 風花の言葉を聞いた途端、りせの表情から先程の笑顔や軽い感じの雰囲気が消えた。

 そして風花はそれを見た瞬間に察した。りせもまた、自分と同じで何かあったのだと。

 

 しかし、同じ経験をしたものだからこそ分かる。今は聞くべきではないと。風花はそう思い、自分の話を再開させていった。

 

 事の発端は風花が学園に復帰し、イジメをしていた森山 夏紀と和解して親友として生活していた時に起こった。

 イジメの種とはそうそう無くなる事はなく、一部の女子が再び風花に狙いを定めたのだ。

 

 勿論、それに対し夏紀も風花を守ろうとするのだが逆に風花同様に標的にされてしまう。嫌がらせを始める女子生徒達、自分のせいで夏紀まで巻き込んだと思う風花。

 

 事態は、最悪の方向に向かうと思われ掛けていたのだが、何処から聞いたのか風花の教室に殴り込みをした人物がいた。

――そう、それが洸夜だった。

 

 当時の洸夜は今より大人しい性格ではなく、後輩の教室だろうが問答無用で殴り込みをかけた。

 その時は風花も突然の事で何故に洸夜が自分のクラスに来たのかは分からなかったが、洸夜がイジメをした女子生徒に平手打ちをくらわして状況は変わった。

 

 洸夜に対して猛抗議する女子生徒達、そんな女子生徒の抗議を怠そうに一蹴する洸夜。

 教室が騒然とする中、今度はそれを聞きつけた女子生徒の彼氏がクラスに乱入し洸夜に殴り掛かるが、残念ながらシャドウとは違う中途半端な不良に恐怖する洸夜ではなく、それを返り討ち。

 

 結局、それを聞きつけた美鶴達が来るまで洸夜の一方的自称制裁が行われ続けたのだ。

 そして、それを聞いたりせは意外そうな反応をした。

 

「なんか意外、洸夜さんってどちらかと言えば優等生を演じてたんだと思ってたけど、普通にやんちゃしてたんですね」

 

「ま、まあ……少し強引な事も多かったけど、それでも優しい人だから誤解はしないでね」

 

 それはりせも分かっており、別に悪くは思っていない。寧ろ、思わなかったギャップに少しキュンとしてしまっていた。

 洸夜と悠、二人が悪な感じを見せられたらと思うと顔が赤くなる。

 

 まあ、二人が本当に優しいからこそ思う事であり、実際に最低な人間ならばこんなにも人は集まらないだろう。

 

「それで、その後はどうなったんですか?」

 

「うん、その後はね……夏紀ちゃんやクラスの人達が味方になってくれて洸夜さんは停学にはならなかったの。でも、私をイジメていた人達、色々とそれ以外にも万引きとかカツアゲみたいな事もやってるのが分かって、その人達は停学と退学になった……」

 

 風花はそこまで言ったが、更にこの話には続きがある。その後、停学・退学された生徒は完全に標的を洸夜へと定め、駅裏の広場に洸夜を呼びつけた。

 

 駅裏には友達が多いと強調していたが、真次郎の一件で出入りをしていた洸夜にとっては怖がる理由にはならず、言われた通りに駅裏へ行く。

 

 しかし、そこで起こったのは意外な事だった。洸夜を呼び寄せた少年少女たちが、別のグループに殴られていたのだ。そのグループは洸夜もよくみる顔であり、いわゆる駅裏の常連だ。

 

 更に言えば、話を聞きつけた風花と夏紀、そして美鶴達も駆けつけて事情を聞くと、どうやら風花をイジメていたメンバーはそのグループは駅裏で調子に乗っていたらしく、常連に制裁されたとの事。

 

 洸夜は自業自得と見捨てる事を提案したが、風花はそれを拒否。イジメられていたからと言って同じ様な事はしたくない。そう言う風花の意見を聞き、洸夜と明彦、騒ぎを聞きつけた真次郎によって彼等は解放された。

 

 その後、彼等は姿を見せなくなった為、どうなったかは知れないが、風花は自分の知る事を全部話した。

 

「私もね、最初は洸夜さんをただ乱暴な人だと思ってたの。けど、私がその事を言ったら素直に謝ってくれたし、シャドウとの戦いの時も色々と支えてもらう内に目で追ってた……」

 

 手を出すのは認めないが、洸夜に守ってもらう内に芽生えた想い。その始まりはその出来事だった。

 

 思い出す様に様に呟き、どこか幸せな表情の風花にりせは少し羨ましそうな表情をする。自分の知らない想い人の姿を知っているのだ。それはかなり羨ましい。

 

 すると、りせはある事を思い出し、もう一つの気になっていた事を風花へ聞く。

 

「そういえば、美鶴さんって人はどうなんですか? 多分……あの人も洸夜さんに好意を持ってると思ったんですけど?」

 

「……うん、桐条先輩も好意を持ってるよ」

 

 一年も見てはいないが、それでも洸夜を見ていたからこそ美鶴の様子が分かる。

 特に気にはせず、誰にでも平等に話す洸夜に惹かれたのだろう。洸夜と話す時の美鶴は本当に楽しそうだった。

 

 風花はそれを思い出すと、少し複雑な表情を浮かべてしまい、それにりせも気付くと大きく溜息を吐いた。

 

「はあぁ~やっぱり、洸夜さんもライバル多いな……」

 

「ふふ、そうだね。……そういえば、りせちゃんは悠君の事も好きって言ってたけど……」

 

 二人に好意を持っている様な事を言っていたりせの言葉を思い出し、風花はりせへ問いかけた。もし、保険な意味でそう言ったのならば風花とて許せない。

 

 しかし、そんな不安はすぐに消える事となる。りせが風花の言葉を聞いてすぐに返答したからだ。

 

「あっ、言っときますけど、別にどちらかに振られた時の保険みたいには考えてませんよ。……私にとって、あの人達は本当に特別なんです。今まで出会う事がなかった人達……私に大切な事を教えてくれた人達」

 

 そう言うりせの表情は満足そうであり、同時に幸せそうであった。そんな表情を見てしまえば風花も信じざる得ず、どこか似ているりせの言葉を信じた。

 

「ほんと……なんであんなに似てるんだろう。洸夜さんも悠先輩も……」

 

「……ふふ、確かに似てるね」

 

 テレビの中で自分も悠に助けられた事を風花は思い出す。あの行動力も、後姿も昔の洸夜そのものだ。しかも、それは洸夜の弟だからではなく、鳴上悠としての本来の姿。

 

 風花もそう思うとりせの気持ちが良く分かり、悠に助けてもらった事を思い出すと少し表情を赤くしてしまっていると、りせが時計を見た。

 

「そろそろ戻りましょうか。皆、多分待ってますね」

 

「あっ……もう、こんなに時間経っていたんだね」

 

 すっかり話し込んでしまい、それなりに時間が経っていた。風花はそれが分かり、りせにそう言いながらその場を後にしようとした時だった。

 

 りせが形態を取り出しながら風花を呼び止めた。

 

「あっ、風花さんちょっと待って下さい! これ、メルアド交換しましょう!」

 

「メルアド?……エエェッ!?」

 

 りせの言葉に予想以上に驚いた様子の風花。そんな様子を見せられれば、りせだって驚いてしまう。

 

「ア、アドレス!? アイドルのりせちゃんと!? で、でも、私、機械いじりとは好きだけど絵文字とかあまり使わなし、面白い事とか書けないから!!?」

 

「そ、そんなに重く考えなくても……気軽に友達になる感じに……」

 

 まさかそんなに深く考えてしまうとは予想外で、りせは苦笑しながら風花を落ち着かせながら携帯の赤外線部分を風花へ向ける。

 

「それに、風花さんってペルソナが探知タイプですよね? 私も探知タイプなんですけど、それで悩む時もあるから、先輩の風花さんとはもっとお話ししたいんです」

 

「り、りせちゃん……!」

 

 そう思われるのが余程うれしかったらしく、今にも泣きそうな表情の風花にりせは苦笑を止められない。

 そして、少し時間が経った頃には風花も静かに携帯を差し出し、二人は連絡先を交換した。

 

 チリーン……!

 

 二人の関係を現すかのように、洸夜から貰った二人の鈴が静かに鳴り響いて行くのだった。

 

▼▼▼

 

 場所は戻ってメンバー達が集まる二階。風花とりせも戻り、再び雑談を始めて数分後……。

 

 ラウンド1

 

「王様だ~れだ!」

 

 メンバー達は王様ゲームを開始していた。

 

 その事の発端は雪子とりせが酔っぱらった事から始まった。酒は美鶴達が目を光らせていた為、悠達が飲まない様にしていたのだが、何故か酔っぱらってしまう雪子とりせ。

 

 二人が飲んだドリンクもノンアルコールであり、結果から言って“場に酔った”のではないかと思われた。

 そして、あれやこれやと暴走した結果、洸夜達さえも巻き込んだ王様ゲームが開催された。

 

 何故か仲良くなっていた陽介と順平のお気楽タッグも乗り気であり、何か企んでそうにも見える中、割りばしを皆も引いて王様が選ばれようとされている。

 

「自分の数字は言わなくて良いんだな?」

 

「ああ、最初に言うのは王様だけ。指名された時のその数字に該当していたら公表するんだ」

 

 初めての王様ゲームに少し不安そうな美鶴に洸夜は軽く教える中、最初の王様が決まった。

 

「ハイハ~イ! クマが王様!」

 

 先端が赤くなった割りばしを見せながらクマが手を上げたが、その様子に女子メンバー全員(雪子・りせ・直斗を除く)が目を細め、信用なさそうに視線をクマへ向けた。

 

「……お前か」

 

「君か……」

 

「……嫌な予感がするのよね」

 

「さ、流石に変な事はしないよね……」

 

「人生はギャンブルであります!」

 

「……」

 

 クマの信用が良く分かる。アイギスは状況を理解していないが、それ以外のメンバーはクマの命令に警戒しかしていなかった。

 

「で、はやく命令しろよ」

 

「分かってるってヨ~スケ。……では、11番が王様にチィ~ス!!」

 

「なっ!?」

 

 クマの命令に美鶴が怒りと羞恥で顔を赤く染めたのを皮切りに、女子メンバーが批難の言葉をクマへぶつける。

 

「このアホグマ!」

 

「そんなこと出来る訳ないでしょ!!」

 

「ムリムリムリ!! 私は絶対に無理だから!」

 

「……撃つべきなのでしょうか?」

 

「……皮を剥ぎ取れば良い」

 

(僕だって嫌ですよ)

 

 当たり前だが女子にしては嫌なことこの上ない。美鶴からも怒気が生まれ、処刑のカウントダウンも始まったかに見えたのだが。

 

「あっま~い!! もうサイはなげられたのぉ~! こっからは生き残りのたたかいよ~!」

 

「ヒック! もう! いいらら~はらくわりばし……みるろ~!」

 

 女性でありながら何故か雪子とりせは乗り気であるが、女子メンバーそれでも納得できなさそうだ。

 しかし、話が進まないのは流石に洸夜も退屈であり、溜息を吐きながら美鶴達の方を見た。

 

「まあ気持ちが分かるが、まずは割りばしを見てから言えよ。お前等が決まったとも限らないだろ?」

 

 洸夜の言葉に一斉に己の割りばしを見た。そして全員が見終わると、肩の力を抜きながら勝ち誇った笑みを浮かべ全員に差し出した。

 

「セーフだ」

 

 女子メンバーの割りばしには誰一人として11番の数字がなかった。女子的には嬉しい話なのだが、そうと分かると別の問題が生まれた。

 

「……」

 

 今度は男子メンバー全員が顔を下へと向け、まるで葬式の様に黙り込んでしまった。そう、悪魔の標的は男へ向けられたのだ。

 

「下手に時間を掛ければ余計に傷付くだけだ……正直に名乗り出るんだ」

 

 先陣を切ったのは明彦だ。明彦はそう呟き、男子メンバーに割りばしの提示を要求させた。勿論、明彦は既に提示しているが11番ではない。

 

「俺は違う……」

 

「俺も……」

 

 洸夜と悠が提示するが、二人の数字も11番ではなかった。

 

「俺も違うぜ……」

 

「俺もだぜ……」

 

「おれっちも違うっすよ」

 

「僕も……」

 

 全員が割りばしを提示し、それを見る限りでは誰も11番がなかった。

 

「どういう事だ? 11番が誰もいない訳がないだ―――!」

 

 そこまで明彦が言った瞬間、明彦はある事に気付いた。先程から沈黙していた事で気付かなかったが、この中でまだ数字を提示していない者がいる。

 

 そう、それは……。

 

「シンジ……」

 

「……」

 

 先程から一言も発していない人物、そう荒垣真次郎。

 何も言わない為に参加しているのかさえ怪しいが、その手にはしっかりと割りばしが握られていた。勿論、その割りばしに刻まれている数字は11番だ。

 

「チェェェェェェェンジィィィィィィ!!!」

 

 男である事に黙っていたクマだったが、相手が真次郎と判明するや否や全力でそれを拒否するが、今更そんな事が通用する訳もない。

 

「んな事、通用するか!」

 

 流石に無効にされるのだけは阻止するために、ゆかりが全力でクマの言葉を否定した。ゆかりがしなければ他の女子メンバーが口を出しただろう。

 

 どの道、残された男メンバーも自分の所にこなくて良かったと思っていたが、その様子を見ていた真次郎は小さく舌打ちをすると席から立ち上がって背を向けた。

 

「……馬鹿らしい。遊びにそこまでする理由はねえだろ。本人も嫌だって言ってんだ……する必要は―――」

 

 そこまで行って真次郎は後ろを向くと……。

 

「仕方ないクマ、クマの純情……お兄さんにあげちゃう!」

 

「……」

 

 上着を脱ぎ、顔を赤くしながら自分に近付くクマがいた。その目の前の悪夢に神次郎は寒気を覚え、顔を引き攣らせながら眼光をクマへ放つ。

 

「テ、テメェ……こっち来るんじゃねえ……来たら本気で……!!」

 

「食わぬが男のなんてやらクマ……」

 

 そこらの不良も裸足で逃げる程の真次郎の眼光だったが、残念ながらクマには通用せず、徐々にその距離を詰められる。 

 

 そして一定の距離となった瞬間、突如クマは飛びあがり、そのまま真次郎へと飛び掛かる形となった。

 

「ッ!!? バッ! テメェ!!……ガアァァァァァッ!!?」

 

「荒垣さぁぁぁぁぁん!!」

 

「シンジィィィィィィ!!」

 

 クマに飛び掛かられた事でバランスを崩した真次郎は、そのまま真次郎はクマに抱き付かれたまま階段から足を踏み外し、乾と明彦の叫びも虚しくそのまま一階へと落ちて行った。

 

 そして、彼等によって引き起こされた狂気はそのまま一階のお客にも感染する事とになる。

 

「なんだ! 今の衝撃は!?」

 

「ギャアァァァ! 二階から美少年とコワモテがァ!!」

 

「なんだ事件か! 強盗か!!?」

 

「えッ!? 火事!!?」

 

「キャァァァァ! この人、痴漢です!!」

 

「おい待て。お前、男だろ?」

 

 真次郎とクマの衝撃が一階のお客にも飛び火し、最早一階は混沌と化してしまう。

 そして、それを聞いていた洸夜と悠達はその声を黙って聞いていた。

 

「……言葉がでねぇ」

 

「……二人脱落ね。命令を遂行しないと生き残れないわよ!」

 

 目の前で親友が悲惨な目にあった事で肩を落とすが、りせは割りばしを既に回収して次のラウンドへと移ろうとしていた。

 

 そして、初めての王様ゲームを体験した美鶴は息を呑み、目の前で友を失った(死んでない)明彦は膝を着いていた。

 

「これが王様ゲーム……ただの遊びと思っていたが、命令を上手く使っての生き残りを賭けたゲームだったのか……」

 

「……俺は力さえあれば守れると思っていた。だが、実際はどうだ? お前はまた先に逝っちまった!」

 

「そんな血生臭い王様ゲームなんてごめんだ……そしてお前も正気に戻れ明彦」

 

 混乱している二人を洸夜は一人落ち着かせながらも、心の中で静かにこの王様ゲームに恐怖を覚えていたのだった。

 

▼▼▼

 

 ラウンド2

 脱落者:クマ・真次郎。

 

「王様だ~れだ!」

 

 早くも二人が脱落してしまった王様ゲームだったが、メンバー達は全員が息を呑みながら割りばしを引いて行く。

 現状が分かった今、命令によっては自分達が天国と地獄を見ると分かったからだ。

 

 そして全員が引き終わり、次の王様が決められようとしていた。

 

「……俺だ」

 

 挙手をしたのは悠だった。悠は自分の割りばしを皆に見せ、自分が王様である事を確認させると、クマほどではないにしろ美鶴達は若干の警戒を見せる。

 

「今度は君か……」

 

 疲れた様に悠を美鶴は見る。残念ながら悠の事はテレビの中で多少は理解したが、故に何をするかが分からず一番たちが悪いとも言えるのだ。

 

 ゆかり達もそれが分かっているらしく、美鶴の呟きに小さく頷いてしまうが、流石に悠も常識を持っている少年だ。伊達に家庭教師をしている少年から信頼を得ていない訳じゃない。

 

「大丈夫ですよ。流石にクマみたいな命令はしません」

 

「まあ、なんだかんだで相棒が一番の常識人だしな」

 

 陽介が悠のフォローを入れ、それを聞いた美鶴達は多少なり警戒を解く。なんだかんだで洸夜の弟なのだ、仲間の弟を信じずにどうするのだ。

 美鶴達は心の中で自分達を恥じ、洸夜の弟……否、鳴上悠を信じて彼の命令を聞く。

 

「……2番と8番がキス!」

 

「ちょっと待て!!」

 

 悠が命令を発するや否や美鶴が待ったを掛けた。一体、どの面が先程の言葉を言ったのか、悠に女子メンバーが集中する事となった。

 

「ちょちょッ! なんで鳴上君まで!!?」

 

「阿保グマと同じでしょ!?」

 

「クマは王様だけが得する様にしてたけど、これなら皆が楽しめる筈」

 

 そう言ってゆかりに親指を上げてグッとして、素敵な笑顔を悠は向ける。もう、ゆかりは言葉が出ずに諦めを覚えそうになってしまった。

 

「おい、洸夜。お前の弟なんだ、責任もって止めろ……」

 

「いや、責任うんぬんの前に既に巻き込まれたんだが……」

 

 そう言って洸夜は明彦へ割りばしを見せると、その割りばしには2番と書かれていた。最早、巻き込まれていた洸夜にとっては何とも言えず、周りも周りで洸夜が2番と分かると美鶴と風花がピクリと反応する。

 

 そして、さりげなく自分の割りばしを確認した。

 

「……7番」

 

「……9番」

 

 まさかのニアピン賞。しかし、所詮はハズレであるのには変わりなく、美鶴と風花が肩を落とすとそれを見ていた順平が素敵な笑顔を向ける。

 

「残念したね」 

 

「ッ!?……なんの事か分からないが、今はゲームに集中しろ!」

 

「そ、そう言うのじゃないから!!」

 

 言葉ではそう言っているが、美鶴と風花は顔が赤く完全に照れ隠しであった。だが、そんな事を美鶴に堂々と言える猛者は中々おらず、二人は順平の言葉を否定した。

 

 順平の頬をそれぞれが引っ張りながら……。

 

「わはりまひたはら……はなひて……」

 

 美鶴は当然ながら風花も中々に痛く、順平は素直に謝罪している中で当の洸夜は8番が誰か探し始めていた。

 

「……で、結局8番は誰なんだ?」

 

「……ぼ、僕です」

 

 なんという神の悪戯。8番に選ばれたのはまさかの直斗だった。直斗は帽子で上手く隠しているが、顔は赤くなっているのが分かる。

 

 しかし、異性である事は当然ながら洸夜にとっては問題だったが、それは表上の事だ。なぜならば、直斗は男を名乗っている為、見る人が見ればそれは……。

 

「……一番辛いのがまさかの二回連続かよ」

 

「は、はは……」

 

「……あぁ、まあ……うん」

 

 陽介と千枝は男同士のキスに再び陥ってしまった事に何とも言えない表情をするが、完二は相手が直斗だからか少し気まずい表情をした。

 

 そして、美鶴達もなんて言えば言えば良いか表情を曇らせる。

 

「……我々はどうすれば良いんだ?」

 

「流石にそれは私にも……」

 

「シンジの次は洸夜まで……! 俺はまだ弱いのか!」

 

 美鶴の言葉にゆかりは苦笑しかできず、明彦はアルコールを摂取したからか再び後悔の念に囚われていた。各々が苦しむ中、場に酔ってしまっている雪子とりせはと言うと……。

 

「あはははは! やれやれ! 前に出てキスしなさ~い!」

 

「もう、良いな~ズルい~」

 

 好き勝手言って理性がちゃんと働いているかどうかも未だに怪しい状態だった。言葉がしっかりしているが見た目はベロンベロン。これでアルコールは一切摂取していないのだから驚きだ。

 

 そして、なんだかんだで洸夜と直斗は立ち上がって互いの前に立つが、そこからが難関である。

 

「……どうする?」

 

「……」

 

 悩む洸夜、黙り込む直斗。互いに意識しすぎているかも知れないが、そんな洸夜の雰囲気を察したのか直斗は溜息を吐いて小さく笑う。

 

 その姿は余裕に満ち溢れており、洸夜も無意識に落ち着いて行く。そして、洸夜が落ち着きを取り戻すと直斗も洸夜へ話し掛けた。

 

「こ、こここんなの、ただのゲームですから! べ、別に……へ、変な感情は……!」

 

「おい」

 冷静であった思ったが、一番テンパっていたのは直斗であった。目を逸らして冷や汗もかいている。変に意識しなければ良い物を、変に意識した事でおかしな緊張が洸夜にも伝わる。

 

「ちょっ、待て落ち着け直斗!」

 

 直斗を冷静にしようと肩を抑える洸夜。しかし、それは自ら墓穴を掘る行為であった。

 

「ッ!……!!」

 

 しかし、何を思ったのか両肩を掴まれた直斗はビクッと身体を震わせると、顔を赤くして覚悟を決めた様に表情に力を入れて流れに身を任せた。

 

(馬鹿野郎!?……そんないかにもな雰囲気出されて、俺はどうすれば良いんだ!)

 

 何度も言うが、洸夜は直斗の秘密を知っている。だが、他のメンバーはそれを知らない。

 

(あれ、なんで俺ドキドキしてんだ……?)

 

(ど、どういう事だ……やっぱ俺ってホ……いやいや、落ち着け俺!)

 

 陽介と完二は洸夜と直斗のキスするかしないかの光景に反応する自分達に困惑し、元凶である悠は楽しそうに飲み物を飲みながら鑑賞する。

 

(これはこれで面白い)

 

 最早、自分のせいだとも思っていない悠。この中で一番腹黒いのは悠なのかも知れない。そして、そんな事を考えている内に洸夜も覚悟を決めていた。

 

(でこだ、でこにしよう。キスするとは言っても唇だけがキスじゃない。落ち着け俺、下手に意識するな!)

 

 下手に意識しない事で覚悟を決めた洸夜は徐々に直斗に近付いて行く。女子メンバーも息を呑む。しかしこの時、ある疑問が脳裏に過る人物がいた。

 それは美鶴だった。

 

(はて、そう言えば白鐘の家に男児がいたか? 確か、前に資料を読んだ時は確か……) 

 

 『跡取りとして六代目を継いだのは孫“娘”である白鐘直斗と見られる』

 

「ッ!?」

 

 美鶴の中で何かが弾けると、その勢いのまま拳を洸夜へ放った。

 

「へぶぅッ!!?」

 

 美鶴の放った拳は洸夜の頬を捉え、そのまま直斗にキスしようとした洸夜を吹き飛ばした。

 驚く直斗、呆気になるメンバー、気を失う洸夜、そして息を乱しながら我に返る美鶴。

 

「……ハッ! いや、これは……その……違う! 違うんだ!」

 

 自分のした事を弁明する美鶴。自分でも今の行動に驚いているのだが、何故か悠に関しては暖かい目をで見ていた。

 

「義姉さん!」

 

 親指を立てて美鶴へそう言い放つ悠。完全にこの場を楽しんでおり、他のメンバーは男でも駄目なのかと、美鶴は意外と嫉妬深いと見ていた。

 そして、悠の言葉を聞いた美鶴は恥ずかしさも相合わさって顔を真っ赤に染めた。

 

「違うッ!!!」

 

 何が違うのかは分からないが、美鶴の言葉が店内に木霊するのだった。何故か、悠もブッ飛ばして。

 

▼▼▼

 

 ラウンド3

 脱落者:クマ・真次郎・洸夜(戦闘不能)・悠(洸夜と同文)・美鶴(恥ずかしさにより化粧直しと言ってトイレへ逃げ込み中)

 

「次の王様は俺か。なら、5番が俺の背中に乗って、俺が腕立て100回だ!」

 

 次の王様となった明彦の命令に全員が苦笑する。それは王様に得があるのだろうかと思うが、明彦にとっては皆と遊びながら身体を鍛えられるならそれ以上に楽しい事はない。

 

 そして、5番である千枝がそれに答えた。

 

「え~と、私が5番です」

 

「そうか、良し! 来い!」

 

 既に腕立ての態勢をとっている明彦。女遊びなどには微塵も興味もない彼にとっては、相手が千枝でも問題ない。

 

 そして、少し気まずいながらも千枝は明彦の背中へ座る。そこはとても固く、立派な筋肉の床であった。

 

「えっと……わ、わたし、重くないですか?」

 

 千枝とは言え女の子だ。やはりそう言う事は気にしてしまう。だが、明彦にはそんな事を分かる訳もなく、そのままの感想を言ってしまった。

 

「大丈夫だ。寧ろ、良い重さだ! 一般よりも多分少し重いぐらいだな!」

 

「……」

 

 女心を明彦が理解できる日は来るのだろうか。デリカシーのない言葉のまま、明彦は腕立て100回を成し遂げた。

 

▼▼▼

 

 ラウンド4

 脱落者:クマ・真次郎・洸夜・美鶴・千枝(体重がショックで放心中)

 

「彼女はどうしたんだ? 調子でも悪いのか?」

 

「真田先輩って、結構残酷っすよね」

 

 放心状態の千枝を心配する明彦だが、自分が原因とは思っていない事に順平が苦笑しかでなかった。

 そして、次の王様であるチドリが命令を出した。

 

「2番が7番を抱えてスクワット、回数は限界まで……」

 

「2番は私です」

 

「なっ!? マジかよ……」

 

 2番はアイギスだったが、それを知った瞬間7番の完二は納得できない表情をする。

 

「なんだよ完二、嫌なのか?」

 

「花村先輩。いくらロボットでも、見た目は女っスよ? そんな事、真の男がやる事じゃね!!」

 

 ・

 ・

 ・

 

「296……297……298……まだまだいけます!」

 

「……」

 

「止めてくれ! 完二の心を解放してくれ!!」

 

 見た目は綺麗な女性のアイギス。そんな彼女にお姫様だっこされ、しかも300近くもスクワットを余裕でされれば恥ずかしさや男のプライドも合わさり、完二の心は燃え尽きていた。

 

▼▼▼

 

 ラウンド5

 脱落者:クマ・真次郎・洸夜・悠・美鶴・千枝・完二。

 

「よっしゃあ! 次の王様は俺だ! 1番が王様にキスだ!」

 

 遂に陽介の天下が訪れた。長かった、とても長かった。見たくもない男同士のキス(未遂?)を見せられ、他の命令も自分に得がない。

 

 周りに美人な人が沢山いるにも関わらず、これでは修学旅行の意味がない。故に、陽介は高らかに命令を下す。

 

「クゥ~ン」

 

「……チュ」

 

 陽介は自身の言った命令通りキスが出来た。相手は人数の補充で参加していたコロマルだったが。

 

 その行為にコロマルは特に気にはしておらず、陽介は何処か虚しそうな表情を浮かべながら静かにその場から姿を消すのであった。

 

▼▼▼

 

 ラウンド5

 脱落者:クマ・真次郎・洸夜・悠・美鶴・千枝・完二・陽介。

 

「無理です! 無理です! こんなの駄目ですってば!!?」

 

「いいはら~年上の言う事は聞くろ~!」

 

 現在、乾は王様となった雪子の命令により全力で抱きしめられており、顔を真っ赤にしながら暴れていた。しかし、見た目からは想像できない力によって雪子から離れる事が乾は出来ないでいた。

 

 そして、暴れる乾を抑えようと雪子が力を入れた瞬間、乾はバランスを崩してそのまま……。

 

 むにゅん―――!

 

「!!?」

 

 乾は何か二つの柔らかい何かに顔がぶつかった。甘い匂いがするが、それよりもこの柔らかい何かが乾に現実を見せる。

 

「はれぇ~?」

 

 そう、乾は雪子の胸に顔を突っ込んでいた。雪子は酔っぱらって現状が分からないでいたが、乾はそのまま顔を上げる事が叶わずそのまま気を失ってしまった。

 

▼▼▼

 

 ラウンド6

 脱落者:クマ・真次郎・洸夜・悠・美鶴・千枝・完二・陽介・乾(まだ早すぎた)・明彦(ちょっとトイレ)

 

「よっしゃあ! とうとうおれっちの出番が―――ぶへぇッ!!?」

 

 とうとう王様となった順平だったが、その時に悲劇が起こった。

 

 先程まで悠から聞いた話のせいでヤケ酒しながらゲームに参加していたゆかりだったが、遂に感情が一定値を超えた瞬間、順平をブッ飛ばしていた。

 

「分かっていたわよ!! 私だってあれは子供受けしてないって!! 握手会も子供よりも変な男ばっか!! もう、イヤァァァァァァ!!?」 

 

 余程、溜まっていたのかゆかりは泣き叫んでしまった。

 順平は端で倒れているが、残ったメンバーでゆかりを抑えようとする。

 

「ゆかりちゃん、落ち着いて!?」

 

「どうどう……」

 

 風花とチドリがゆかりを抑えるが、ゆかりはグラスを持ちながら叫び続ける中、直斗とアイギスは変わった組み合わせはそれぞれの会話をしていた。

 

「あの……ロボットなんですよね? その、握手してもらっても宜しいですか?」

 

「?……はい、構いません」

 

 直斗の願いに快く応えるアイギスは、直斗と何故か握手をした。その時の直斗は何処か満足そうな表情だったそうだ。

 

「ハハハ~! チョウソカベ~柔らか~い!」

 

「ちょっと~なに、こんな着ぐるみ着てるのよ! 正々堂々脱ぎなさ~い!」

 

「クゥ~ン……」

 

 また雪子とりせの二人はと言うと、コロマル抱き付いたり頬を突っついてたりしていた。酔っぱらって自分が何をしていたかは次の日には忘れているであろうが、コロマルは困った様に鳴くのだった

 

 そんな時、順平が死の淵から復活を果たし、割り箸をかき集めて皆の下へ差し出した。

 

「ま、まだだ……たとえ……こんなアクシデントが起きようとも……レベルの高い女の子がいる中で……男とのロマンが詰まった命令をしないまま脱落なんてするわけがねえ!」

 

 まさに執念。すぐ傍にチドリがいるにも関わらずそう発言するのは男の性であろう。

 他のメンバーも意味は分からず、一旦は引いておくと言った感じで割り箸を引いて行く。

 

「王様……だ~れだ!!?」

 

 王様ゲームに取り付かれた哀れな命、欲望への探求者である伊織順平の叫びが辺りに響いた。その言葉に釣られてメンバー達は己の割りばしを除く。

 

 すると、順平は己の背後から声を掛けられた。

 

「俺だ……!」

 

 聞き覚えのある声。しかし、声にはドスの利いている声圧と怒気の混じった雰囲気が醸し出されていた。

 

 順平は嫌な予感がしながらも、錆びた機械の様にギギィ……と言った風に首を後ろへと回した。

 

 すると、そこにいたのは序盤でクマと共に一階へ消えた真次郎の姿があった。ボロボロの成りながら、ボコボコになったクマを肩に担いで順平達へ怒気の眼光を向けていた。

 

「命令は……お前等全員、腹筋100回だ……!」

 

「……」

 

 こうして、彼等の楽しい王様ゲームは続いて行くのだった。

 

▼▼▼

 

 その頃、混沌としたクラブ・エスカペイドから出て来る二人の男達の姿があった。入口から這って出て来たのは洸夜と悠の二人であり、二人は入口から出て来た瞬間に再びうつ伏せに倒れ込んでしまう。

 

「ぐふっ……こ、こんな王様ゲームに付き合っていられるか……!」

 

「お、俺達は先に抜けさしてもらおう……!」

 

 サスペンスならば高確率で死ぬであろう台詞を放つ二人。もう少し楽しい何かを想像していたが、現実は辛かった。

 

 二人はこのままでは体力がもたないと判断し逃げ出してきたのだ。

 

 店内は混沌に満ちており、誰も二人の存在に気付いていない。洸夜と悠はこのまま最後の力を振り絞って逃げようとした時だった。

 

 二人の目の前にそれぞれ割りばしが降ってくる。

 

「なんで割りばし?」

 

 洸夜はそう言って拾い、悠も割りばしを拾うとそこにはそれぞれ1番・2番と書かれていた。

 

 なんだこれは―――?

 

 二人がそう思った瞬間、人影が倒れている二人に覆いかぶさる。なんだこれはと顔を上に向けると、二人の顔色は徐々に曇り出した。

 

「では御命令をさせて頂きます。……1番と2番が王様に超高級きな粉を奢る……でございます」

 

 王様にしたくない人物の一人であるエリザベスが、とても”優しい笑顔”で二人を見下ろしていたのだから。エリザベスは『王』と書かれた割りばしを二人に見せている。

 洸夜と悠は互いに顔を見合わせ、そのまま完全に倒れてしまった。

 

 王様ゲームは、もうこりごりだ……。

 

 その言葉を最後に、二人はエレベーターガールに連行されたとかされなかったとか。ただ、その日、学園都市で二人の男性を引きずりながら移動するエレベーターガールが目撃されたのだった。

 

 

End

 

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