新訳:ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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久しぶりにP4Gでもやってみるかなぁ。スイッチでダウンロードできるし。


第五十七話:霧への帰還

 同日

 

 現在:稲羽市【堂島宅】

 

 あれから洸夜は電車を二つ乗り換え、稲羽駅に着いた後はバスに乗って今は堂島宅の前に到着していた。

 悠達は洸夜よりも前の駅でバスで乗り換えており、丁度悠も堂島宅に到着して洸夜と合流すると、二人で玄関を開ける。

 

「ただいま!」

 

「ただいま!」

 

 二人がそう言って中に入ると菜々子と堂島の靴が並べられている為、洸夜と悠は二人共家にいるのだと分かった。

 

 今日、帰ってくる事を伝えていたからか堂島も飲みに行かずに早めの帰宅をしている。

 

 そして洸夜と悠が家の中に入ると、菜々子は目を輝かせて嬉しそうに二人に近付き、堂島もソファで新聞を見ながら二人へ帰宅の言葉を掛ける。

 

「お帰りなさい! お兄ちゃん!」

 

「よう! 思ったよりも遅かったな」

 

 二人は洸夜と悠に暖かい笑顔を向けてくれており、テーブルにも四、五人前はある寿司が置いてあった。

 どうやら洸夜と悠の帰宅に合わせて夕飯は寿司にした様だ。

 

「ただいま、菜々子。ただいま、叔父さん」

 

「はい、これお土産」

 

 洸夜と悠はそれぞれがお土産を取り出す。洸夜はフロスト人形(辰巳ポート限定版)を、悠は赤い提灯を菜々子へ渡す。すると、奈々子の目は更に輝いた。

 

「うわぁ~! かっこいい! ありがとう! 洸夜お兄ちゃん! 悠お兄ちゃん!」

 

菜々子(天使)だ……)

 

(明日も頑張ろう……)

 

 最愛の妹の姿に帰宅までの疲れが吹き飛んだ洸夜と悠。彼等にとっては、この笑顔こそが何よりの最高の回復薬だ。

 

 そして、そんな娘の姿に堂島も嬉しそうにしている。

 

「良かったな菜々子」

 

「うん! 菜々子、お土産部屋に置いて来るね!」

 

 そう言って菜々子は走って部屋へと行ってしまうと、洸夜と悠は次に堂島へのお土産を取り出して本人の前へ出した。

 

「そして、これは俺達から叔父さんへのお土産」

 

「結構、良いお酒です」

 

「おお……俺にもあったのか。なんか悪いな」

 

 まさか自分にもお土産あるとは思わず、二人から一升瓶を受け取る堂島は少し困惑気味であった。しかし、その表情は徐々に嬉しそうなものとなる。

 

「……ありがとうな。洸夜、悠」

 

 堂島からのお礼に洸夜と悠は頷いた後、荷物と部屋へ、洗濯物を洗濯機に入れると部屋から菜々子も戻って来ており、四人は夕飯の寿司を土産話をしながら食べ始めるのだった。

 

▼▼▼

 

 夕飯を食べ終わり、菜々子と悠はお風呂に入るとそのまま部屋へ戻って眠ってしまった。それはもう死んだように眠り、完全に爆睡している。

 

 二人がそんな眠る中、洸夜と堂島は庭の縁側で腰掛けながらお土産で買って来た日本酒等を、洸夜が作った軽いおつまみで飲み交わしていた。

 

 しかし、そう言っても洸夜はあまり酒は飲みなれていない為にコーラなどで割っており、それを見た堂島は大人っぽい割に子供の洸夜を笑ってしまう。

 

「はは、なんだ? 酒は飲み慣れないか?」

 

「……と言うより、色々とあって飲む機会が無かったからさ。自分が酒を飲めるって自覚がないんだよ。まあ、心がピュアって事だね」

 

 そう言ってから揚げを食べると、洸夜はグラスの酒を飲み干した。そして次はカル〇スで割って飲み始めると、堂島もお湯やお茶で割って飲んだ。

 

 そして、なにやら思いながら洸夜の顔を眺めていると、洸夜もそれに気付く。

 

「どうしたの?」

 

「いや……お前、なんかあったか?」

 

 堂島の言葉の意味を今一理解できず、洸夜は堂島へ聞き返す。

 

「なんか変だった?」

 

 その言葉に、堂島は首を横へと振る。

 

「いやその逆だ。……見違えた様に目に自信と光が満ちてるいるぞ。最初の頃とは比べられない程にな」

 

 どうやら、堂島がずっと気になっていたのは洸夜の変化に気付いての事の様だ。共に生活しておよそ半年程度だが、堂島はちゃんと洸夜の変化に気付いてくれていた。大切に思い、常に心配してくれていたとも取れる。

 

 洸夜はその信頼に応える様に、静かに語り出した。

 

「……やっと、過去に一区切りつけられた。やっと、『仲間』の想いを知れたんだ」

 

「……桐条達繋がりの事か? お前達が背負わなければならなかった罪と言っていたな」

 

 酒を口にしながら堂島は、お見合いの時の事を呟いた。洸夜が精神的にも疲れていたのは知っており、それもあって心配もしていた中での変化だ。堂島とて気になる。

 

 そんな叔父の言葉に洸夜も頷いて応える。

 

「そんな罪はどこにも無かった。それが分かったんだ……ようやく」

 

 そう言った洸夜の顔はとても満足していたものだった。そんな顔を見てしまえば堂島とてそれ以上は追及しようとは思わなかった。何かしら罪を犯しているのではとも心配していたが、流石にそれは自分の考え過ぎと堂島は小さく笑う。

 

「後悔が乗り越えられたんならそれで良いさ……」

 

 そう言って堂島はグラスを洸夜へ差し出し、洸夜もそれに応える様にグラスを差し出して互いに軽くぶつけ合う。カンッ……と言う音だけが夜風と虫の合唱に混ざり合い、秋の夜で奏でて行く。

 その時だった。ポケットに入れていた洸夜の携帯からメールの受信音が鳴る。洸夜は時間的に何かを察し、携帯を取り出してメールの差出人を確認すると少し目を細めた。

 

「どうした?」

 

 堂島が洸夜の様子に気付いて問いかけるが、洸夜はすぐに携帯をしまった。

 

「いや、大したことじゃなかったよ……」

 

 そう言って、洸夜はグラスの中の酒を飲み干して携帯をしまう。『白鐘 直斗』差出人の名前はそう書かれていたメールを開いたままにして……。

 

▼▼▼

 

 9月11日(日)晴れ

 

 現在、鮫川河川敷

 

 翌日、バイトもなければ何もない洸夜は河原の橋の下へ訪れていた。悠達も今日は普通に休みで旅行の疲れを癒している中、洸夜はこの場所で自分を呼び出した人物を待つ。

 

 そして、待つこと十分弱、待ち人は訪れた。

 

「すいません。疲れている中、来てくれて」

 

 そう言って川を眺めていた洸夜に声を掛けてきたのは昨夜、洸夜にメールを送った直斗だった。直斗は旅行の翌日とはいえ一切の疲れを見せず、いつもの格好をしている。

 

 そして、自分を呼び出した張本人の到着に洸夜も直斗の方を見た。

 

「いや、意外にも時間に余裕はあるんでな。……で、俺を呼び出した理由はなんだ?」

 

 送られてきたメールにはこの場所に来て欲しいとしか書かれておらず、ハッキリとした内容は洸夜も知らない。 

 

 告白か、それとも闇討ちか、どちらにしても上等なのだが直斗に関してそれはない。

「……少し直接聞きたい事があるんです。修学旅行では色々とはぐらかされていましたから」

 

 直斗は帽子を深く被りながら軽く微笑む。冷静だからか、少なくとも余裕があるのは確かだ。

 

 そんな直斗の様子に洸夜もいつも通りの為、同じ様に平常運転を貫く。

 

「回りくどいのは無しだ。まずは本題に入ってくれ」

 

「……前に言いましたよね? 僕は久保が真犯人ではないと。諸岡さんの事件は彼でしょうが、最初の二人の事件は彼じゃない。あなたもそう言いましたね」

 

 確かに言った、洸夜はそう心の中で言った。ずっと事件に意識をしており、テレビやシャドウと言う情報を持っている洸夜からすれば諸岡の事件は違和感が隠せない。

 

 その事は前に直斗にも言っている為、洸夜は余計な事は言わずに頷いた。

 

「言ったが……それがどうした? それだけなら俺を呼ぶ必要はないだろ」

 

「本題はここからです。久保の身柄を確保してから二ヶ月も経ってはいませんが、既に警察の中でも解決ムードが広まっています。もう、殆どの警察が事件は終わったと思っているか、決め込む事にしているんです」

 

 良くも悪くもこの事件の被害者は色々と特殊過ぎた。不倫アナウンサーと、その遺体の第一発見者の女子高生だ。

 

 特に小西早紀の時はメディアが第一発見者を面白おかしく報道したのが原因だと言われ批判も多かったと聞く。

 

 結局、事件の解決は困難を極め、白鐘への協力要請までした。そんな時に起こった久保の事件。元々、人格的にも問題があった久保が犯してしまったのも手伝い、その結果が久保が犯人と言う答えだ。

 

 堂島の様に完全に納得していない刑事がいるのも現状だが、所詮は少数であり組織を動かせるまでではない。

 

「つまり、警察はもうこの事件を終わらせる気なんだな?」

 

「ええ。……まあ、僕は捜査を続けますけどね。今日、あなたに来てもらったのはその覚悟を聞いて貰いたかっただけなんです」

 

 洸夜は直斗のその言葉を聞き、堂島が前に言っていた事を思い出す。久保の事件の時に当初から事件と久保の事件は別物だと周りに言い、個人で直斗が勝手に動いて担当の刑事達とぶつかった事を。

 

 おそらく、もう警察内部で直斗の見方は殆どいないのだろう。堂島も何かしら言っていると思われるが、今の直斗が素直に聞くとは思えない。

 

 その為、こんな事に洸夜を呼んだのだ。誰でも良いから、話を聞いて貰いたかったから。

 

 洸夜は反射的にそう感じ取り、帽子をこれでもかと更に深く被る直斗を見続ける。一見、平常に見えるが気付いてみると辛そうに見えてならない。

 

「……それじゃあ、今日はありがとうございました。また、何かあれば宜しくお願いします」

 

 そう言って直斗は洸夜に背を向けて帰り始めた。しかし、洸夜は不安でならない。普通の事件ならば直斗は解決できると思われるが、これは非現実の世界によって起きている事件。

 

 真実もその非現実の世界にあるのは明白だ。そう、残念ながら直斗にはそれを見つける術はない。寧ろ、これ以上の行動は直斗にマイナスにしかならない。プラスの事でも事件解決をしたい警察上層部は、それを無理にでもマイナスにするだろう。

 

 それ程まで、直斗はまだ幼く見えてしまうからだ。今、目の前で帰ろうとする直斗の姿に、洸夜は遂にある決断をする覚悟を決め、直斗へ言った。

 

「……もう、良いんじゃないのか?」

 

「……えっ?」

 

 その言葉に思わず立ち止まり、直斗は洸夜へ振り向いた。だがその顔は言葉の意味を理解出来ていないのは明白だった。

 

「今まで進展のなかった事件。だが、お前が事件に参加してから状況は変わった。警察もどんな答えが出てもお前を責めないさ。……お前を責める事は今回の事件で警察の無能を示している様なもんだからな」

 

「意味が分かりません……何が言いたいんですか?」

 

 洸夜の言葉の意味がまだ分からない。直斗は声のトーンを低くしながら聞き返す。

 その直斗の言葉に、洸夜も目に力を入れて言い放った。

 

「もう、この事件から手を引くんだ、直斗……!」

 

「っ!?……ふざけないで下さい! そんな事、出来る訳ないでしょ!?」

 

 洸夜の言葉に直斗の表情に怒りが現れ、声も荒々しいものだった。しかし、洸夜はそれは予想の範囲内だったらしく冷静でいられた。

 

 だが、だからと言って直斗がそれで落ち着く訳はなかった。

 

「なんでそんな事を言うんですか! あなたは分かってくれている筈でしょ! 僕がどんな想いでこの事件を追っているのかを!」

 

「……それを踏まえて言っている。別に、これはお前の為に言っているとか綺麗事は言わない。だがな、この事件はお前や警察が解決できない所までに至ってる。もう、お前でも真実には近寄れないんだ」

 

 洸夜の言葉には不思議と重みが乗せられていたが、それで納得しろと言われても直斗が出来る筈もない。

 引けと言われて引くならば警察の意向に逆らってはいない。

 

「なんでそんな事があなたに言えるんですか!? なんだかんだであなたは―――! ……いいえ、もう良いです。あなたは僕の理解者だと思っていましたが、それは僕の勝手な思い込みだった様です」

 

 直斗はこれ以上は話す事はないと言わんばかりに言い捨てると、この場からすぐにでも去ろうとする。もう、この場からすぐにでも離れたいのだと分かる。

 

 そんな様子に洸夜は一息入れながら直斗を見た。

 

「そう思ってくれていたのか、それは嬉しいな。……だが、俺にはそれが言えるんだ、直斗」

 

「だから、なんでそんな事が言えるんで―――!」

 

 直斗の言葉を遮る様に、何かがガラスが割れた様な大きな音に直斗は思わず動きを止めてしまう。

 

 橋の上で誰かが何かを割ったのか、それとも洸夜が何かを割ったのか、どちらにしろ直斗が洸夜の方を向くのに時間は掛からなかった。

 

 そして、洸夜を見た瞬間、再び直斗の動きが止まった。そこに、人よりも巨大な体を持つ黒い何か――【カオス】がいたからだ。

 

「……な、なんですかそれは? 洸夜さん、あなたの横にいるのはなんなんですか……?」

 

 この世の物とは思えない存在。ゲームや漫画の世界、それともオカルトの類ならば納得できるが自分がいるのは現実であり、直斗は目の前の存在の認識と理解に苦しむ。 

 

 勿論、その隣で平然としている洸夜にも言えた事だが、当の洸夜はそれがどうしたと言った様に平常の態度を示している。

 

「これが何か分からないか?」

 

「分かる訳ないでしょ! ……ど、どこかに映写機の類でもあるんですか!?」

 

 あくまで存在を認めたくない直斗は、辺りの草をどけて映写機を探すがそんなものは当然ありはしない。

 

 するとカオスは身体を僅かに動かすと強い衝撃波が周囲に放たれた。

 

「なっ!」

 

 映写機で衝撃まで出せる筈がない。直斗はそれを頭で理解すると、無言でフラフラと近付いてカオスへと触れた。

 

「実態が……ある?」

 

 今まで感じた事も無いような雰囲気と手触りだ。直斗は言葉が出ず、その代わりに洸夜が口を開いた。

 

「……こいつが何か分かったか?」

 

「分かる訳ないでしょ……この様な存在は現実にはありえない。あり得たとしても非現実だ……」

 

 カオスに触れながら力なく首を横へ振る直斗。それが当然の反応だが、洸夜からすればそんな反応はもう、あまりとる事が出来ない。

 

「そうだ、目の前の存在は非現実だ。……けど、俺にとってはもう現実なんだ。この非現実が、俺の現実だ。だが、お前にとってはこいつは只の非現実、それがお前が真実へ近寄れない理由だ」

 

「非現実……それが真実へ近付けない理由?」

 

 直斗は力なく呟いた。目の前の存在が自分へ何を阻むと言うのか、そんなものは分かる訳がない。直斗は再び目の前のカオスを見上げる事しか出来なかった。

 

「……“これ”が、事件に関係していると言う事ですか?」

 

「そうだ。……だが、俺が教えるのはここまでだ。お前は目の前の存在が分からなければ、知る機会もなかった。それだけで、これ以上は真実へ近付けない」

 

 そんな事って……直斗は、理不尽な現実にどうすればよいか分からなかった。

 

 洸夜も一切自分から眼を逸らさず、本来ならば一蹴するこの話も目の前の存在と洸夜の真剣な雰囲気から真実だと分かってしまう。

 

 時間だけが流れる中、やがて洸夜は直斗へ背を向け、それに気付いた直斗は思わず手を洸夜へ伸ばした。

 

「待って下さい! 教えて下さい、これはなんなんですか!? 彼等も同じ事が出来るんですか!?」

 

「……ペルソナ。この力はそう呼ばれている」

 

「……ペルソナ?」

 

 彼等とは悠達の事だろう。しかし、その言葉に洸夜は動く事はしなかったが、直斗に振り向かないままでそれに答えた。

 

「……俺が教えるのここまでだ。これ以上は言うつもりはない。……俺を恨め。恨んで良いんだ直斗」

 

 そう言って洸夜は直斗へ背を向けたまま歩き始める中、その代わりの様にカオスだけが直斗を見下ろす形で見守り続ける。

 しかし、その姿も徐々に消えて行き、完全に消えた時には直斗も既に立ち去った後だった。

 

▼▼▼

 

 同日

 現在:堂島宅

 

 あの後、洸夜は特に寄り道する事もなく帰宅した。途中、直斗から連絡が来るとも覚悟したが特にそう言う事はなかった。

 

 そして、帰宅した洸夜を出迎えたのは悠だ。菜々子は部屋にいるらしく、悠だけが今は洸夜の帰宅に気付く。

 

「あっ、おかえり」

 

「悠。直斗にペルソナを見せた」

 

 突然のカミングアウトに悠は思わず固まった。

 帰宅早々に爆弾発言はハッキリ言って嘘か本当かも迷ってしまってたちが悪い。

 

 しかし、悠は固まったものの、徐々にその雰囲気はいつも通りになり、分かった、とだけ呟いた。

 

「驚かないんだな」

 

「……遅かれ早かれ、直斗にはいつかバレる様な気がしていたから。兄さんは、これ以上、直斗には事件を追えないと思ったから見せたんだろ?」

 

 どうやら悠には全て悟られてしまっている様だ。流石は兄弟か、悠も同じ事を考えていたのかも知れない。どちらにせよ、それを実行したのは洸夜だが。

 

 洸夜は悠の言葉を聞きながら窓に近付き、静かに空を眺めながら呟いた。

 

「ズルいな……俺は」

 

「自分の嫌いな食材は夕飯に殆ど出さないしね」

 

そう言う事を言いたいわけではなのだが、恐らくは悠は兄を気遣ってそう言ったのだと思う。

 

 因みに余談だが、洸夜はキノコと貝が苦手だ。松茸や帆立も例外ではなく、安い高い関係なく嫌いである。

 

 そして話を戻し、そんな弟のリアクションに洸夜は静かに息を吐いた。

 

「……すまないな」

 

「別に気にしていない。……けど、そうなると直斗は俺達もペルソナを持っている事を知ったって捉えて良いの?」

 

 なんだかんだで重要な点はそこである。元々、マークされていたのは悠達である為、そこは悠的にも気になる所だ。

 

 洸夜は悠の問いに頷いた。

 

「直接俺がお前等の事を言った訳じゃないが、少なくとも察してはいるだろう。なんだかんだでお前等は直斗にマークされていたからな」

 

 出る杭は打たれると言うが、直斗の場合はその杭と周りを観察してその原因を探るタイプだ。ただ、今回はその杭が一癖も二癖もあったと言う事だ。

 

 悠も自覚はある為、洸夜のその言葉に否定はせず、洸夜は最後に夕日に染まる空を見上げる。

 

「……このまま、何事も無ければ良いが」

 

 洸夜の言葉は部屋の中で静かに消えて行くだけだった。しかし、洸夜も悠も失念していた。出る杭、その打つ側も今回は一癖も二癖もある事に……。

 

▼▼▼

 

 現在:警察署【稲羽】

 

「堂島さん、今日は飲みに行かないんですか?」

 

 自分の相方である刑事、足立の言葉に既に帰り支度をしていた堂島は静かに首を横へ振った。

 

「いや、今日は早めに帰ると家の連中に伝えてるから止めとこう。約束を破ると菜々子も厳しくなってきたからな……」

 

 そう言って、はは……と参った様に笑う堂島に足立は意外そうな顔を見せる。

 

「へぇ~あの菜々子ちゃんがね……。流石の堂島さんも家族に甘いって事ですかね?」

 

「そう言う訳じゃない。別に家でまで刑事をやる必要はねぇって気付いたんだよ。……さて、そろそろ行くか。洗い物も遅くなると洸夜が大変だからな」

 

 軽く汗をかいたワイシャツと弁当箱。このどちらも準備しているのは洸夜だ。その為、早く帰ると伝えた時には堂島もちゃんと早めに出そうと思っている。

 

「そう言えば堂島さんの弁当もそうですけど、洸夜君ってそんなに主夫力高いんですか?」

 

「ああ、洸夜もそうだが悠も凄いぞ。あいつらは産まれて来る性別を間違えたな……」

 

 堂島の言葉に更に驚いた表情を足立は見せる。一部、身内の欲目もあるだろうが、堂島的にはそう断言できると自信がある程だ。

 

 そんな風に少し話していると、足立は自分の時計を見て一息を着くと帰り支度を始めた。

 

「じゃあ堂島さん。今日は僕も帰りますね。……それでは、お先に失礼します。お疲れ様でした」

 

「おぉ、お疲れ……」

 

 先に部屋を出て行く足立の姿を見送ると、今度は自分の番だと言った様に堂島も荷物を持ち、まだ残っている同僚に一声かけて部屋を出る。

 

 既に外は暗く、廊下も暗くなっている所がある。もう、殆どの者が帰宅しているだろう。

 堂島もその一人だが、最後にトイレによってから帰る事にした。

 

▼▼▼

 

 それは堂島がトイレから出た時の事だった。入口に見覚えのある後姿があり、堂島はトイレの前で足を止める。

 

「足立……? 何やってんだアイツ?」

 

 とっくに帰ったものと思っていた足立が今、署を出たのが気になった。

 

 何処かに寄り道したのかも知れないが、サボリ癖のある足立に関して署内をうろつくのは考え難い。

 

 堂島は何かあったかと思いながらも得には気にせず、自販機のブラックコーヒーを購入して自分も帰ろうとした時だった。廊下の奥から光がある事に気付いた。

 

(……あそこは資料室か? まだ誰か使ってんのか)

 

 この時間に使われるのは珍しい。久保が逮捕されるまではよく使われたが、落ち着き始めたこの時期ではこの時間まで使う者は減っている。

 

 堂島は電気の消し忘れとも思い、何事もなく資料室に近付き扉を開けて中を見た。すると、そこには警察官とは思えない程に小柄な人物が何やら必死に資料をめくって調べものをしている。

 

 一瞬、堂島は警戒してしまうがその後姿には見覚えがあり、呆れた様に溜息を吐くとその人物へ声を掛ける。

 

「こんな時間まで何やってんだ、白鐘?」

 

「……その声、堂島刑事ですか」

 

 余程の調べものなのか、直斗は堂島の方を一切振り向かずに応える。

 

 そんな態度は見慣れているのか堂島は特には言わなかったが、見ている資料は興味があり視線だけでその資料を捉えると、それは怪奇連続殺人の資料であった。

 

 初期の中の物もあり堂島は、またか……と心の中で呟き直斗を見下ろす。

 

「お前、また勝手に調べてんのか? 上から止められてるだろ……」

 

「……僕は間違っている事をしているとは思っていません。上がどうこうと僕には関係ありませんので」

 

 また生意気な事を……。

 

 堂島はやれやれと心の中で呟く。直斗がどれ程貢献してくれたかは知っているし、間違った事も何だかんだで言っていない。しかし、早めに事件を終わらせたい上層部にとっては邪魔なだけだ。

 

 大人ぶっても現実は悠の一個下の年齢であり、堂島的には普通に生きた方が直斗の為だと思っている。勝手な話だが、今の直斗では無駄に敵を作ってしまう。

 

 すると、そんな堂島の様子が気になったのか直斗は堂島の方を見た。

 

「堂島刑事は納得しているんですか、久保の逮捕に? 僕が見る限り、事件解決の事を聞く度に苦い顔してますよ?」

 

「……」

 

 あながち間違ってはいない。諸岡の事件は久保で決まりだが、最初の二人もそうなのかと聞かれれば納得できない自分がいる事に堂島も気付いていた。しかし、それを裏付ける証拠が見つからない。

 

 どんなに確信があろうとも、証拠がなければ上の人間に意見を言う事が出来ない。直斗が上の人間に煙たがられている理由も証拠不足がある。

 

「まあ、良い。お前も早めに帰れよ。ご家族が心配するだろ……」

 

 そう言って堂島は先程購入した缶コーヒーを直斗が使っているデスクに置き、資料室を出て行こうとした時だった。

 

「堂島さん。もし、あなたが担当する事件に非現実……いわゆるオカルトが関係していたらどうしますか?」

 

 堂島は直斗に呼び止められた。呼び止められることも稀だが、その内容も中々に特殊だった為に堂島もすぐには理解できなかった。

 

「オカルト? いきなりなんだ突然……」

 

「そのまんまの意味です。その事件には非現実的な事が関連していて、僕達みたいな常人には決して真実には近づけない……そうなったらどうしますか?」

 

 直斗の話を聞いた堂島は考える。普通の奴、つまりは足立などに言われれば一蹴するだけだが直斗が何も考えずにこんな事を言うとは思えなかった。

 

 オカルト、非現実、そんなモノは堂島は一切信用しない様にしている。そんな事があってはならないと思っているからだ。

 

「どうもしねえな。俺だったら例えそうだとしても、捜査を止める理由にはならんな……事件を解決するのが警察の仕事だ。オカルトだとか、そんな訳の分からねえ存在に止められる程、人間は諦めが良い方じゃないんでな」

 

 堂島はそう言って資料室を後にする。その場に残されたのは直斗だけだったが、直斗は堂島からの貰ったコーヒーを開けて口にすると、何かを考えだした。

 

 そして、胸ポケットから一枚の名刺を取り出すと携帯も取り出し、名刺に書かれた番号に掛け出した。

 

「……もしもし? 今、宜しいですか? はい……ええ、例の件で……はい、インタビューお受けします。分かりました。では、明日でお願いします」

 

 携帯を切ると、直斗はゆっくりと立ち上がると資料を戻し始めた。そして、全てを片すと荷物を持って資料室の電気を切ってその場を後にすると、そのまま警察署を出た直斗を出迎えたのは星空であった。

 

「……あなたは、僕は心配して言ったと思いますが、僕は止まる気はありません。現実側から非現実の中にある真実を引きずり出しますよ、洸夜さん」

 

 直斗の言葉は静かに夜空へと吸い込まれていった。

 

 

End

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