10月8日(土)曇り
現在:堂島家
空が雲で覆われている今日。
堂島家には洸夜と菜々子が。そして悠と陽介達が集まっている。
そして直斗を含めた女性陣がキッチンで料理をしており、何故こうなったのか洸夜は悠へ聞いてみた。
「直斗の歓迎会?」
「そう。直斗が仲間になったから、その集まり。それで歓迎会を兼ねて料理を作ることになったんだ。因みにメニューは菜々子のリクエストで前と同じ“オムライス”になった」
「オムライス……ねぇ?」
洸夜はそう言って懐疑的にキッチンの方を見た。
しかし、そこにはオムライスの筈なのに明らかに通常の食材以外の物が数多くあった。
少なくともハバネロやデスソースはオムライスに使う筈はない。
野菜も多いが明らかにチキンライスに使う野菜以外も転がっており、調味料も複数あるのが既に怪しい。
肝心のケチャップが隅で転がっている姿が哀愁感すら感じさせる。
「……闇鍋でもするのかと思ったぞ」
「あぁ! 洸夜さんひど~い! 私達だってちゃんとしたの作るんですからねぇ!」
洸夜の言葉にりせが調理しながら抗議するが、流れて来る匂いが異臭に近いのは気のせいではないだろう。
「あれ? お肉と野菜って一緒に炒めて良いんだっけ?」
「多分……あれ? 今、私なんの調味料入れたんだっけ?」
洸夜も女性陣には期待したい。
しかし千枝と雪子の言葉も不安しか感じられず、唯一まともに見える直斗の方を見ると、直斗は本を見ながら料理をしていた。
「……えっと大さじだから、このぐらいか。あと卵をフワフワにするには――」
「何とかなる……か?」
直斗は本を見ながら堅実に細かく調理していた。
その姿は安心できるが、やはり千枝達の作る方からは異臭がする。
「オムライス! オムライス!」
「オムライス! オムライス!」
テレビの前のテーブルでは菜々子とクマが笑顔で嬉しそうに待っているが、何故か近くで座っている陽介と完二の様子はおかしかった。
顔色は悪く、明らかに何かに怯えている感じだった。
「……また来てしまったかこの時が。しかも前回と同じオムライス」
「辛いし、不毛だし、不味いしで大変だったスよね? 今回は食えるもん出るっスかね?」
「そこはせめて、直斗の奴に賭けてみるしかねぇな。アイツ、真面目そうだし堅実に作んだろ?」
そう言って不安そうにキッチンの方を見る陽介と完二の姿に、洸夜は「おいおい……」と、少し不安が過った。
確かに直斗には期待している。真面目な直斗のことだ。調味料を間違えることもないだろう。
しかし問題は千枝達だ。
「うぅ……前みたいにマズイなんて言わせないんだから」
何やら悔しそうに調理している千枝だが、残念ながら動きはぎこちなく見える。
雪子は練習しているのか、少しはまともに見えるが、逆にりせは迷いのない動き過ぎて寧ろ不安に見える。
「……菜々子が食べるんだよな?」
「……勿論」
洸夜からの問いに悠は何故か間を空けて頷いた。
その間は何だと言いたくなる洸夜だったが、そこは何とか呑み込んだ。
「前よりは辛さを抑えて……と」
りせはそう言っているが、手に持っているのはデスソースだ。
抑えているのかそれはと、洸夜も嫌な汗が流れてきた。
部屋に漂う不気味な匂い。
オムライスの筈なのに誰一人、食材が統一されていないのも不安要素が大きい。
「……不安だ」
思わず言葉が漏れた洸夜は自分も作った方が良いかと思い、キッチンの方に近付いてみた。
「……あぁ、その……俺も作った方が良いか?」
「大丈夫ですから! 絶対にマズイの作らないですから!!」
「そうですよ~! 洸夜さんはそっちで待っててください! 私の手料理、食べさせてあげますから!」
「私も料理の練習してますし、楽しみにしていてください」
「……まぁ、何とかなるでしょ」
洸夜が近付くと千枝・りせ・雪子がガードする様に立ちふさがり、キッチンに入る隙がなかった。
そんな光景に直斗は少し諦めの表情でそう言っているが、洸夜からの視線は何故か逸らしている。
台所は女性の場所。それは昔の言葉だが、こうなってしまえば洸夜に立ち入る隙は無い。
しかし食べるのには菜々子も含まれている。
せめて彼女には無事に食べれる物を作って欲しい。
そう思う洸夜であったが、相変わらず異臭がしている。
明らかに失敗している匂いであり、時折に聞こえてくる「あっ……!」という失敗したみたいな声もしている以上、洸夜も動くしかなかった。
「……最後の手段だ」
自分が動けないならば、動ける者に頼るしかない。
洸夜はそう判断すると、キッチンから離れて携帯電話を取り出した。
そしてある人物に連絡を入れると、3コールぐらいでその人物は出てくれた。
「あぁ、もしもし? 俺だ、洸夜だ。……すまないが時間あるか?」
▼▼
数十分後、テーブルに置かれたのは四つのオムライスだった。
一見すれば普通のオムライスもあれば、真っ赤なオムライスもある。
同じオムライスなのに色すら統一されていないのは、やはり怖い。
陽介と完二は既に一歩後ろへと離れている。
「こら花村! なんで下がってるのさ!」
「完二も私達に失礼でしょ!」
「前科があるだろ前科が!?」
「前みたいなのはごめんだぜ……」
千枝とりせが二人へ抗議しているが、陽介と完二も負けずに反撃に出ている。
前回――の時には洸夜自身はいなかったが、様子を見る限りではトラウマになる程の何かがあったのだろうと洸夜は察した。
「因みに今回は味見はしたんだろうな?」
「……」
確認する様な陽介の言葉。それを聞いた瞬間、直斗を除いた三人が目を逸らして黙った。
それを見た瞬間、陽介は天を仰いだと思えば声を荒げた。
「おい! そこは頷くところだろ!? お前等、学習能力ゼロか!」
「べ、別に良いでしょ! 今回は大丈夫だって!――たぶん」
「そうよ! 前回よりは辛さを抑えたし、大丈夫よ!――たぶん」
「私も板前の人達に教えてもらってるし、大丈夫だと思う。――たぶん」
「……僕は味見はしましたけど、期待はしないでくださいよ?」
陽介の言葉に直斗を除いたメンバーは、そう言って何故か目を再び逸らした。
それを見て陽介は絶句しており、悠と完二も明らかに表情は真剣過ぎて逆に怖い。
そんな時だ。悪い空気が漂う中、先陣を切った者が現れた。
「ハイハーイ! クマが最初に食べまーす!」
「……相変わらずチャレンジャーだな、お前は」
陽介が呆れた様子でクマを見ているが、クマはスプーンを持って千枝が作ったオムライスを口へと運んだ。
「どう? 今回は前より進歩したと思うんだけど?」
千枝が心配そうにクマの様子を見ていると、クマはニッコリと笑った。
「うん! 相変わらずマズイ!」
「――なっ!」
クマの言葉に千枝は口を開けたまま固まった。
それを見て陽介達も食べ始めたが、やがて静かに頷いた。
「……あぁ、うん。マズイな」
「でも塩気がある分、進歩じゃないスか?」
「……火加減が甘い」
陽介達はそう言うと乾いた笑みを浮かべるだけで、千枝は固まったまま洸夜を見てきた。
その表情は目を見れば、明らかに救いを求めている目であり、洸夜も食べない訳にもいかず、スプーンを取って一口食べてみた。
「これは……!」
一口食べ、洸夜は確信した。
――肉は焦げてる。野菜は半生。卵は何故かしょっぱい。チキンライスもべちゃべちゃしている。
つまりは普通に不味かった。
だがストレートにそんな事を言えば千枝が傷付くのは目に見えている。
だから洸夜は一旦、一呼吸入れてから口を開いた。
「……改善点はあるな」
「つまりはマズイんスよね?」
「――っ!!」
言葉を選んだ洸夜だったが、完二がストレートに言葉をぶつけてしまった。
すると千枝は完全に固まり、ロボットの様に動きながら自身のオムライスを見た時だった。
菜々子がスプーンを取って、千枝のオムライスを一口食べた。
すると菜々子は満面の笑みで千枝の方を見た。
「うん! このオムライス、菜々子好きだよ!」
「な、菜々子ちゃん……!」
菜々子の言葉に千枝は口を押えて感動していた。
その姿を見る限り、菜々子に我慢している様子はなく、本心でそう言っているのが洸夜には分かった。
ただ優しい性格の菜々子は、他者が傷付く言葉が言えないだけも知れないが。
「はいはーい! 次は私のね! さぁ皆! 食べて食べて!」
次に手を上げたのはりせだった。
しかし彼女のオムライスは真っ赤であり、近くにいるだけで湯気を嗅ぐだけで目に染みる。
洸夜自身、彼女がデスソースとか持っているのを目撃している。
だからスプーンを持つ手が重かったが、何とか頑張って一口食べてみた。
――瞬間、洸夜の口の中で鈍痛がした。
「痛い……!」
洸夜は思わず我慢できずにそう言ってしまっていた。
口の中が辛さで激痛が走り、それはやがて鈍痛となる。
塩っ気一つなく、辛さしか味しないオムライスに悠達は口を付けずに手を止めた。
明らかに警戒しており、間合いを取る様に悠達一歩下がった。
その光景にりせは……。
「み、皆酷い! 辛さは前より抑えたのに!」
恐らく嘘泣きだろうが、りせは両手で顔を覆って泣く仕草をしてしまった。
「いや……痛いって感想のオムライスを食う勇気はねぇよ」
「料理の感想に痛いってあるんスね?」
「……ノーコメント」
しかし陽介達も勇者ではなかった。
痛いと言ったのは洸夜自身だったが、その感想を聞いて手を出す者は現れず、悠達は腕を組んで黙ってしまった。
どうやら様子を見る限り、この辛さは前回同様であった様で、悠達は予想していた様に頷いていた。
――これは菜々子に食べさせられない。
洸夜はそう思ったが、それを言う前に菜々子はりせのオムライスを一口食べていた。
「!……か、辛いけど前と同じで美味しいよ!」
「菜々子ちゃん……!!」
汗を流しながら笑顔を浮かべる菜々子の姿に、りせも感動した表情を浮かべていた。
大人の自分が食べても痛いのに、味覚に敏感な子供の菜々子が食べれば痛いの比じゃない筈。
しかし菜々子の笑みは崩れない。彼女の器が大きいと、洸夜は感心していると次は雪子が手を上げた。
「じゃあ次は私ね……大丈夫! 私だって練習してるんだから!」
まるで自分に言い聞かせる様な雪子のオムライス。
外見は普通だが、それを見る悠達の雰囲気は重い。
これにも何かあるのかと、洸夜も警戒した時だった。
完二が手を上げた。
「……あぁ、じゃあ前回と同じでオレが食うっス」
完二はそう言って一口食べてみると、目を大きく開いた。
「嘘だろ……スゲェ、味がある!」
「味があるって何よ!? 美味しいのそうじゃないの!? どっち!!」
「いや……前回の不毛な味に比べたら大きな進歩っスよ。いやぁ驚いた」
食って掛かる様な雪子の様子だが、完二は心底驚いた様子でそう言った。
「不毛な味ってなんだ……?」
完二の言葉が気になった洸夜は完二へ聞いてみた。
料理の感想で“不毛”なんて感想は普通は出ない。
だから洸夜は気になって聞いて見ると、完二は昔を懐かしむ様な表情で言った。
「あぁ、それはっスね……文字通りの――」
「そこ! 余計なこと言わない!――とりあえず、洸夜さんも食べてみてください」
完二へドスの効いた声で止めたと思えば、笑顔になって自分を見てくる雪子に洸夜は息を呑んだが、とりあえずはと雪子のオムライスを口に運んだ。
「……これは」
口に運んだ瞬間、洸夜は感じ取った。
卵はやや焼き過ぎだが、確かに感じるケチャップの味があり、塩気も別に悪くはない。
少々、味に深みは無いが食べられないことはなく、最初の二人に比べたら妥協点だった。
「普通に食べられるぞ? なのに不毛って……なんでそんな感想が?」
「いえ、前回はマジで不毛って言うか……味が――」
「――キッ!」
完二がまた何かを言おうとしたが、それを雪子が黙らせる。
凄い眼光の雪子に流石の完二も何も言えないのか、そのまま黙ってしまう。
結局、不毛の意味は分からないでいると、菜々子が雪子のオムライスを食べていた。
「おいしい!」
「ありがとう! 菜々子ちゃん!」
満面の笑みでそう言った菜々子の姿に、雪子も嬉しそうに笑顔を浮かべていた。
確かに雪子のオムライスは食べられるものであった以上、菜々子の感想も納得できる。
実際、陽介達も頷いていた。
「あぁ、確かにこれは食えるわ。あの臭いカレーに比べたら進歩だな」
「悪くない」
何かを思い出す様な陽介と悠の姿に洸夜は思わず首を傾げた。
「臭いカレーってなんだ?」
「あぁ……それはですね――」
「余計なこと言わない!!」
陽介が何かを言おうとした直後、完二の時の様に雪子が言葉を遮った。
一体、何がなんだか分からない。
洸夜は不思議がっているが雪子はこっちを見て笑っている為、洸夜もそれ以上は何も言えなかった。
「じゃあ次は僕のですね。何度も言いますけど期待はしないでくださいよ?」
そう言って出された直斗のオムライス。
一見すれば普通のオムライスだった。フワフワした様な卵に、綺麗に付けられたケチャップソース。
少なくとも見た目もそんなに悪くない。
「おっ! 真打登場だな!」
「……白鐘の料理。――ゴクッ」
「気になってはいた」
皆、初めてなのだろう。直斗のオムライスに新鮮な反応をする陽介達。
完二だけはやけに緊張した様子だったが、とりあえずは洸夜は一口食べてみた。
「これは……! 普通に美味しいな!」
直斗のオムライス。それはお手本の様なオムライスだった。
卵はそれなりにフワフワで、味も濃すぎず薄すぎず。
バランスの取れたオムライスだった。
「直斗……料理上手なんだな?」
「べ、別に……普通ですよ。本で見た通りにしただけですから」
洸夜の言葉に直斗は照れた様に防止で顔を隠したが、直斗らしい反応だと洸夜は少し笑った。
そして皆が食べた後、菜々子も食べてみると――
「これも美味しい!」
菜々子は満面の笑顔でそう言った。
先程よりも声が大きいのは気のせいではないだろう。
嬉しそうな菜々子の声に直斗はやはり恥ずかしいのか、帽子を触り続けていた。
「あ、ありがとうございます……」
そう言って顔を下へ向ける直斗。
そんな様子に皆が笑みを浮かべていた時だった。
――ピンポーン。
――突然、家のチャイムが鳴った。
「あれ? 誰だろう……?」
「宅配かな?」
菜々子と悠が不思議そうにしているが、洸夜は待ち人来たり。そんな確信があった。
「いや、俺が呼んだ。ちょっと待ってろ」
洸夜には確信があった。さっき電話して呼んだ人物が来たのだと。
だから洸夜は立ち上がると、陽介達の不思議そうな視線を受けながら玄関へと向かった。
「今、開ける」
そして玄関の扉を開けると、そこに立っていたのはカバンを持った一人の青年――荒垣 真次郎だった。
「待ってたぞ真次郎!」
「……何の用だ、洸夜?」
洸夜の言葉に真次郎は、やれやれと言った様子でそう言うのだった。
▼▼
「……成程な」
「――まっ、そういうことだ」
真次郎を家に招くと、菜々子や悠達は不思議そうに彼を見ていた。
真次郎自身も最初は分からない様子だったが、複数あるオムライスを見て何か察した様子だった。
「荒垣さん……?」
「えっと、何かあったんすか?」
真次郎の来訪に悠と陽介達が不思議そうにしており、菜々子も初めて会う真次郎に少し人見知りしていると、真次郎は呆れた様に洸夜の方を見た。
「洸夜に呼ばれてな……まっ、その理由も今、分かった」
「そういうことだ。――まずは目の前のオムライスを食べてくれ」
「……ったく」
洸夜の言葉に真次郎は面倒そうにそう言うが、素直に洸夜からスプーンを受け取ると、まずは千枝のオムライスを口に入れた。
「……」
「えっと、何か感想は……?」
千枝のオムライスを食べた真次郎は黙ってしまった。
無表情のまま、まるで何かを考えている様に黙り続けた。
その沈黙が逆に千枝にプレッシャーをかけた。
純粋にマズイと言われるより、沈黙の方が辛い。
そして黙ったまま真次郎は次に、りせのオムライスを食べた。
すると、真次郎の顔が僅かに険しくなった。
「……」
「あ、あの……」
これまた沈黙の様子の真次郎に、りせも気まずくなって感想を聞いて見るが真次郎は何も言わない。
千枝の時の様に何かを考えている様子であり、その様子に悠達も何が何だか分からず、黙って見守っていると、今度は雪子のオムライスを真次郎は食べた。
「……」
「あっ、その……どうですか?」
雪子の問いに真次郎は静かに頷いた。
相変わらず沈黙のままだったが、頷いただけでも反応はあった。
それだけでも少し安心でき、雪子が一息入れていると、最後に真次郎は直斗のオムライスを食べてみた。
「……成程な」
「えっ……その、なんですか?」
何か納得した様子の真次郎の姿に直斗は、どういう意味なのか問いかけるが、真次郎は立ち上がって洸夜の方を見た。
「まっ、そう言う事だ。――頼む」
そんな真次郎からの視線に洸夜はそう言って頷くと、真次郎は溜息を吐きながらもカバンを持つと、キッチンの方へ向かった。
「……ちょっと待ってろ」
そう言って真次郎がカバンを空けると、中から取り出したのは何やら包まれた物だった。
そして今度は、それを開くと中から出て来たのは包丁だった。
それを見て悠達は察して、驚いた声をあげた。
「まさか……!」
「マイ包丁……!」
悠と陽介がそう言うと同時に皆がざわつき始めた。
菜々子も意味を分かっていない様子だったが、マイ包丁という言葉の響きにカッコ良さを感じたのか、少し目を輝かせていた。
そして、そんな視線を受けながらも真次郎は使われていない材料を見渡し、テキパキと材料を選ぶと手慣れた様子で調理器具を持って料理を始めた。
「……待ってろ」
そう言って料理を始める真次郎の動きに淀みは無く、流れる様な動きだった。
卵を片手で割り、綺麗にかき混ぜてフライパンの熱をチェックする。
そしてマイ包丁で材料を斬り終えると、やがて材料の焼く音が聞こえてきた。
同時に段々と感じるチキンライスとデミグラスソースの良い匂いがしてきて、菜々子や陽介達のお腹が思わず鳴った。
「うぅ……!」
「すげぇ……良い匂いする」
菜々子は恥ずかしそうに、陽介は感動した様子で。
千枝達は自分達の時とは違う漂う匂いに唖然としていると、やがて真次郎は盛り付けを始めた。
そして盛り付けしたオムライスを菜々子達のテーブルに持ってくると、そこにはチキンライスの上に乗っているオムレツがあった。
「……ちょっと待て」
真次郎はそう言うと菜々子の目の前でオムレツに切れ目を入れた。
するとオムレツは綺麗に割れ、中から金色に輝く卵がチキンライスを包み込んだ。
「うわぁ~!」
その光景に菜々子は目を輝かせた。
始めて見る光景、技術に感動した様子であり、千枝達もこんな風に料理って出来るのかと絶句していた。
そして、これで完成かと思えば、真次郎は鍋を持ってデミグラスソースをかけた。
「……出来たぞ」
そう言って真次郎が菜々子の目の前に出したのは、食欲を刺激するデミグラスソースの匂い漂う美味しそうなオムライスだった。
「うわぁ~!」
「……熱いぞ?」
感動した様子の菜々子は、真次郎の言葉に頷きながらスプーンを持って彼の作ったオムライスを一口食べた。
――その瞬間、菜々子は大きく目を見開いた。
「!……おいしい!! このオムライス! 今まで食べた中で一番おいしい!!」
「……そうか」
今日、見た中で一番の笑顔を浮かべる菜々子の姿に洸夜は笑みを浮かべ、真次郎は反応に困った様子だった。
そして菜々子の言葉や姿を見て、千枝達もスプーンを持ち、真次郎のオムライスを食べてみた。
「ちょっと頂戴!――うわっ! なにこれ! めっちゃウマ!」
「凄い……美味しい!」
「卵がトロトロしてる!」
「……美味しい」
千枝達は目を大きく開いて味に感動していると、今度は陽介達もスプーンを持って食べてみた。
すると、陽介達も目を大きく開いた。
「うわっ! なにこれヤバッ! 味に深みっつうか、すげぇ味!!」
「これは旨いっスね!」
「ブリリアント!」
「うわぁ~千枝ちゃん達のより美味しいクマね」
陽介達も真次郎のオムライスに感動していると、洸夜は自身が作ったオムライスを食べている菜々子達を見守る真次郎の方を見た。
「相変わらずの腕前だな、真次郎?」
「……こんなの一人暮らししてりゃ勝手に作れる様になる」
まるで大したことのない様に言う真次郎だが、マイ包丁を数種類も持っている奴が何を言っているのだと洸夜は思わず笑った。
そんな洸夜を真次郎は軽く睨むが、洸夜は笑みを崩さない。
それを真次郎も諦めた様に溜息を吐いていると、菜々子が真次郎を見た。
「真次郎お兄ちゃん……料理上手なんだね!」
「!……あぁ、まぁな」
菜々子からの純粋な感情に真次郎は、どう反応したら良いのか困惑した様に顔を逸らした。
その様子に菜々子は不思議そうに見ているが、真次郎の性格を知っている洸夜は笑みを堪えるのに必死だった。
あの真次郎が菜々子からの純粋な感情に困惑する、これは明彦達への良い土産話になると洸夜は思っていると真次郎からの鋭い視線が向けられた。
「笑ってんじゃねぇ……片付け、手伝え」
「はいよ」
照れくさそうにする真次郎はそう言ってキッチンへ片付けへ向かい、洸夜もそれに続いた。
そして残されたメンバー達――特に千枝達は肩を落としていた。
――ま、負けた……!
少なくとも直斗を除いた女子三人はそう言って肩を落としてショックを受けた。
明らかに料理のスキルの差が違う。自分達のは料理だったのかと恥ずかしく思えた程に。
「まるでオカン級の料理だった……」
悠も思わずそう呟くと、キッチンから真次郎の声が届く。
「聞こえてんぞ……誰がオカンだ。良いから洗い物、持ってこい。片付ける」
「あっ! わ、私も手伝います!」
「わ、私も!」
真次郎の声に千枝とりせは慌てた様子で食器を下げて、手伝いに入った。
せめてこれくらいしないと罰が当たる。そんな想いからの行動であり、それを見て悠達も洗い物をする真次郎と洸夜を見て、片づけを手伝うのだった。
こうして、洸夜達の日常は過ぎて行くのだった。
END
ゲームだったら、この場面で悠が真次郎とコミュを築ける。
――だったら良いな(;´・ω・)