新訳:ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

71 / 73
ダンジョンの話よりも日常の話を書く方が難しい私です


第六十六話:文化祭二日目

 

 10月30日(日)晴れ

 

 昨日の合コン喫茶大繁盛事件から一日経ち、洸夜達は二日目の文化祭にも参加していた。

 そして現在は体育館。一般人、多くの学生達が見守る中、薄暗い館内の中でスポットライトが舞台の方を照らしている。

 

 そこではアフロのカツラを付けた学生がマイクを持って司会をしており、洸夜と美鶴達はそれをジッと見ていた。

 

「レディースエーンジェントルメーン! これよりミス?八高コンテストの始まりでーす!!」

 

「なんでミス? なんだ?」

 

「どうやら女装コンテストらしいな。悠達が出ると聞いている」

 

 明彦が司会の言葉に疑問を持つと、パンフレットを持った洸夜が説明した。

 二日目の目玉イベントらしく、学生達のテンションは高い。

 

 しかし女装コンテストの時点で見世物感も強く、ハッキリ言って公開処刑感が凄まじい。

 洸夜も内心でそう思っており、明彦達もどこか呆れた表情をしている事から同じことを思っている様に見える。

 

「……まぁこの後にミスコンがあるらしいし、本当のメインはそっちだろうな」

 

「俺っちはそっちの方が早く見たいっす……」

 

 順平のテンションは低く、肩を落としている。

 見るだけでも辛い。そんな感情が見るだけでも分かり、真次郎は興味がないのかずっと顔を逸らしている。

 

「アハハ……でも悠くん達もきっと頑張ってると思いますし、見守りましょう?」

 

「因みにだが、このミス? とミスコンは飛び入り参加可能らしい。――風花……行ってみるか!」

 

「えぇ!!? 無理ですよ!! 無理です!! あ、あぅ……!」

 

 笑顔で見守る風花に洸夜が真剣な表情でそう言うと、風花は顔を真っ赤にして両手を前に出して否定する。

 

「やっぱり駄目か……風花なら優勝の可能性はあったんだが」

 

 洸夜は素直に今回は退いた。まぁ、今のは半分冗談、半分本気程度だったので仕方ない。

 しかし見たかったのも事実であり、少し残念だった。

 

「あ~あ、風花の晴れ姿見たかったなぁ」 

 

「う、うぅ……その……洸夜先輩がそこまで言うなら――」

 

「いやいや……風花も乗せられないの! 鳴上先輩のいつもの悪ふざけでしょこれは!?」

 

 迷う風花に、ゆかりが止めに入った事で彼女の勇気は阻止された。

 洸夜が風花にするこの行動は、学生時代からのいつものことであった。

 

 美鶴やゆかり、たまにアイギスにも仕掛ける洸夜の悪ふざけ。

 

「……全く、君達はなにをしているんだ?」

 

 それを見て美鶴も懐かしくも呆れた様子で見ていると、再びスポットライトが舞台を大きく照す。

 

「それでは早速、参加者の紹介だ!!――破壊力は無限大 一年三組・巽 完二ちゃんの登場だ!!」

 

「――うっす!!」

 

「ブハッ!!!」

 

 完二の登場と共に会場中が一斉に吹いた。

 マリリン・モンローを彷彿とさせる姿で現れた感じだが、残念ながら酷い。

 

 何がとは言えないが反射的に酷いとしか言えなかった。

 女装なのにゴリラ。完全なオスでしかない完二には女装はやはり無理があった。

 

「アハハハハ!!」

 

 そんな中で洸夜は腹を抱えて笑っていた。

 堂々とし過ぎて逆にツボってしまったのだ。

 

 阿鼻叫喚なこの状況だが、そんな中でもコンテストは続いていく。

 

「次は口を開けばガッカリ王子! 花村 陽介ちゃんの登場だ!!」

 

「……あぁ~ども」

 

「うわぁ……! 花村先輩、いい線いくと思ったのに」

 

「期待外れだな」

 

「えっ? 普通に居そうじゃない?」

 

 今度は陽介の登場だったが会場の反応は微妙だった。

 まぁまぁ見た目が良い陽介故のハードルの高さがあったのだろう。

 

 羞恥心からか化粧も見た目も半端な陽介に周囲は落胆な声を出し、完二よりはマシ程度で場が収まって行く。

 

「花村の奴、良い線いくと思ったんだがなぁ……最後にヘタれたな」

 

「あぁ~化粧とか半端。あれじゃ駄目ね」

 

「……まぁ、頑張った方だろ」

 

 ニヤニヤしながら見ている洸夜に、ゆかりと真次郎は適当な返事で返す。

 欠伸もしていて退屈そうな真次郎だが、次の登場するのは恐らく悠だ。

 

 せめてもの興味なのだろう。視線を舞台に移すと司会が進行を続けた。 

 

「さぁ! 次に行きましょう! 泣かした女は星の数! 田舎町に舞い降りた転校生!――鳴上 悠ちゃん!!」

 

「どうも」

 

「キャー!! なんで先輩こんなのに出ちゃうの!!」

 

「もっとクールだと思ってたのに……」

 

 会場からは女子生徒の叫びが主に聞こえてきた。

 何気にモテる弟の姿に洸夜はニヤニヤしながら見ていると、司会が悠へと質問を投げた。

 

「えっと……今回の参加は自らですか?」

 

「当然です!」

 

「やけに自信満々だなアイツ……」

 

「楽しんでいるなら良いだろ……」

 

 順平と明彦はどこか虚無感ある目で悠を見てそう言った。

 無駄に自信があるのは洸夜のダンジョンでも分かっていた。

 

 しかし見た目は昔のスケバンみたいだし、微妙に古い。

 美鶴達は何故そのチョイスをと思って見ていた時だった。

 

 不意にスポットライトが舞台の一つを大きく照らした。

 

「さて最後の参加者の登場です! 飛び入り参加の天使――その名は熊田ちゃんだ!!」

 

「イエェーイ! 君のハートを撃ち抜くぞ?」

 

「すげぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

「あれ男の子!? 普通に可愛いじゃん!!」

 

「あれなら俺いける!」

 

「それは駄目だろ!?」

 

 まるで不思議の国のアリスの様な姿をした熊田――クマの登場に会場から喝采が巻き起こった。

 明らかに最初の三人よりも完成度が高いクマの女装。

 

 それは清楚感もあり普通に可愛くて、流石の洸夜も文句を言うことはできなかった。

 

「いやこりゃ……可愛いわ。クマの奴、やるな」

 

「嘘……あれがあのクマ!? なんか普通に悔しい!」

 

「格好だけなら普段の皆さんの方が上です」

 

「それ褒めてねぇぞ?」

 

 ゆかりがクマの姿に悔しさを抱く中、アイギスは普段の美鶴達の格好を指摘するが、そこを真次郎が褒めてないと呆れた様に言った。

 

「しかしねぇ……」

 

――クマがシャドウとはな。

 

 舞台の上ではっちゃけるクマを見て洸夜は見守る様にそう内心で呟いた。

 桐条のシャドウのセンサーは完璧だ。だから間違いである筈がない。

 

 クマの正体はシャドウ。これは間違いではないが、じゃあ目の前にいる存在は何なのだろう。

 本能で動く存在シャドウではなく、まるで人間の様に感情豊かに動くクマは本当にシャドウなのだろうか。

 

「……もしもの時は俺が動くか」

 

 万が一の場合――最悪の場合は自身が手を汚すことを洸夜は考えた。

 悠達ならば万が一の時でも動く事はできないだろう。そう思って。

 

「さぁ投票の結果は――優勝は飛び入り参加の熊田さん!! 優勝賞品としてミス八高コンテストの審査員をしていただきます!」

 

「やっほー!!」

 

 そんな事を洸夜が思っている内に集計は終わり、見事にクマが優勝を果たしていた。

 そして嬉しそうに周囲に手を振るクマと、やがて洸夜は目が合った。

 

「あっ! 大センセーイ!」

 

 そう言って嬉しそうに自分に手を振って来るクマに、洸夜も微笑みながら手を振り返した。

 今はこれで良い。少なくとも、その万が一が起こる時までは。

 

 こうしてミス?八高コンテストは終わりを告げ、次に開かれたのはミス八高コンテストだった。

 

 

▼▼

 

「え~急遽、水着審査になりましたミス八高コンテストですが、はい! 早速行ってみましょう!――二年二組担任! セクシー教師! 柏木 典子先生!!」

 

「フフフ……! 大人の魅力を教えてあげるわ!!」

 

「……」

 

 柏木の登場に会場中が絶句していた。

 恐らく自前の中々に攻めた水着を着て、ここぞとばかしにセクシーポーズを決める柏木の姿に誰もが何も言えなかった。

 

「フフフ……美しすぎる私が怖いわ。――あら?」

 

「――!?」

 

 そして、その標的は洸夜達にも及んだ。

 柏木は洸夜と明彦を見つけると、ウィンクをしながら更に攻めたポーズを披露する。

 まるで誘惑するかの様な姿に洸夜と明彦は悪寒を覚え、思わず震え上がった。

 

「……お、おい明彦。見られてるぞ? こ、応えてやれよ?」

 

「ハ、ハハハ……冗談言うな。見られてるのはお前だろ洸夜? お前こそ応えてやれ」

 

 互いに苦笑しながら柏木の視線を押し付け合う洸夜と明彦。

 しかし寒気は収まらず、やがて柏木は唇を舐めると確実に二人と目が合った。

 

「あぁ~ん!!」

 

「――ガハッ!!」

 

「――ガハッ!!」

 

 柏木の艶美な声と共に洸夜と明彦はショックで膝を付いてしまった。

 なんて恐ろしいものを。凄いものを見せられてしまった。勿論、悪い意味でだ。

 

「ふ、震えが止まらねぇ……!」

 

「俺もだ……こんなの山の中でも経験した事はないぞ……!」

 

「いや二人共! 傷は浅いっすよ!!」

 

「いえ順平さん。今のは致命傷の様です」

 

 二人の肩を掴み、何とかフォローする順平だがアイギスは手遅れだと首を横へと振った。

 因みにだが真次郎は柏木の視線が合いそうになった瞬間に顔を逸らしており、難を逃れている。

 ただ、柏木からは照れ屋さんと思われてしまったが。

 

 そして静まり返った会場の中、司会は何とか先に進めようとしていた。

 

「……え、えっと……さぁ! 次はこの方! 大谷 花子!!」

 

「うふふ! 優勝は硬いわね」

 

「――!!!!」

 

 それは肉――質量の暴力だった。

 まるでボンレスハムの如く、その姿に会場は更に静まり返った。

 空気が死んだ。それはまさにこんな状況なのだろう。

 

 静か過ぎて耳鳴りがしてくる様だ。

 彼女のあまりの体形に同じ女子である美鶴達ですら絶句しており、洸夜達も何も言える事はなかった。

 

「……食い過ぎだ。栄養管理がなってねぇ」

  

 そんな中で真次郎だけが大谷に対して小さく呟いたのは、せめてもの慈悲だろう。

 しかし空気が蘇ることはなく、静寂の中で進行は続く。

 

「さ、さぁ! 次は――隠れファン多し! 里中 千枝!!」

 

「ど、どうも……!」

 

「うおぉぉぉぉぉ!!!」

 

「これだよこれ!!」

 

「頑張れ里中ぁぁぁぁ!!」

 

 水着姿で現れた千枝の姿。恥ずかしそうに、けれど笑顔を絶やさずにいる彼女の登場に会場が一気に沸いた。

 先程までの静寂は消えて、皆は一斉に歓喜の声をあげた。

 

「うおぉぉぉぉぉ!! これっすよこれ! まさにミスコンって感じっすよ!!」

 

「順平、うるさい」

 

 千枝の登場に順平も嬉しそうに叫ぶが、そこをチドリが一蹴する。

 確かに騒がしく、近くにいる洸夜達も少し恥ずかしく感じる程だった。

 

 しかし会場中が騒がしくなっている中では順平の様子も些細な事のようで、誰も自分達を見ている者もいない事に洸夜は少し安心した時だ。

 

 次に現れたのは雪子だった。

 

「その壁の高さは天城越え!! 皆さんご存知若女将!! 天城 雪子!!」

 

「え、えっと……どうぞよろしくお願い致します。実家が温泉宿で、日帰り温泉もしておりますのでお近くにお越しの際はどうぞよろしくお願い致します」

 

 白い水着を纏い、黒い長髪が彼女の良さを醸し出す中、雪子は緊張した様子でお辞儀する。

 そんな彼女が水着で出ているのだ。普段の雪子を知っている者程、そのギャップにやられ、嬉しさのあまりに声をあげた。

 

「こんな綺麗な子に接客されるなら喜んで行くぜ!!」

 

「おう!! 天城最高!!」

 

「目指せ天城越え!!」

 

「天城! 天城! 天城!」

 

 会場中が天城コールで埋め尽くされる中、雪子は恥ずかしそうにしていると不意に洸夜と目が合った。

 それに洸夜も気付くと、洸夜は笑顔で手を振った。

 

「……あっ」

 

 すると雪子もそれに気付くと、落ち着いた笑顔で手を振り返してくれた。

 どこか嬉しそうな雪子の姿に、洸夜も嬉しく感じていると次の参加者へ進行した。

 

「次の参加者は彼女!! りせちーこと久慈川 りせ!!」

 

「やっほー!! りせちーだよ! アイドルは休業中だけどごめんね!」

 

「うおぉぉ!! 生りせちー!!」

 

「りせちー!!」

 

 ビキニを着たりせの姿に会場のボルテージは更に上がり、皆がりせへと手を振る。

 りせもそんな声援に応えて手を振り返していると、雪子と同じ様に洸夜と目が合った。

 

「楽しんでるな……りせ」

 

 普段から豆腐屋で彼女を見守っている洸夜にとって、今のりせは輝いて見えていた。

 一時は前のマネージャーさんとひと悶着あり、色々と揉めていた様だがそれも今は落ち着いて、彼女は楽しそうに“りせちー”を名乗っている。

 

『りせちーも、私にとって本当の私なんだもんね……』

 

 以前、そう言っていたのを洸夜は覚えている。

 憑き物が落ちた様に、そう言う彼女はどこかスッキリとしていた。

 

 以前の彼女ならば“りせちー”を名乗ることを嫌に思っていたり、暗い顔をしていたりしていたが、今は心の底からの笑顔でいる。

 

 だから洸夜も、そんな彼女の姿を見て嬉しく思えていた。

 

「頑張れよ……」

 

 そう言って洸夜は、りせにも手を振ってあげると、りせもそれに気付いて嬉しそうに目を輝かせた。

 そして目一杯、腕を振りながら洸夜へ笑顔を見せた。

 

「宜しくねー!!」

 

 そう言って叫ぶ彼女に洸夜も嬉しく、笑顔で見間もっていると最後の参加者――直斗の出番が来た。

 

「そして、とうとう最後の参加者!! 白鐘 直斗さん!!――ってあれ? 白鐘さん! 白鐘 直斗さ~ん!?」

 

 司会が直斗のことを呼ぶが、数秒待っても直斗は出てこない。

 会場もざわつく中、洸夜も首を傾げた。

 

「なんだ……? 直斗の奴、どうしたんだ?」

 

「ハプニングでもあったんすかね?」

 

 洸夜の言葉に順平も不思議そうにしていると、やがて会場に小さな声で直斗の声が聞こえてきた。

 

「あ、あの……白鐘です。こんなコンテスト……出るつもりもなかったし、その困ったな……」

 

「あぁ……成程な。恥ずかしくて出れないんだな、直斗の奴」

 

 洸夜はそれを聞いて、すぐに直斗の今の状況を理解した。

 ただでさえ最近まで周囲には男――通していた直斗だ。

 

 マヨナカテレビの件で女だという事がバレた今でも、やはり水着は恥ずかしいのだろう。

 洸夜には舞台袖で、もじもじしているであろう直斗が目に浮かぶ。

 

「ちょっと直斗! 出てきなさいよ~! 良いスタイルしてるんだから勿体ないでしょ?」

 

――なんだと……!

 

 りせの言葉に周囲の者達は思わず息を呑んだ。

 普段はスタイルを隠している直斗だが、実際はスタイルが良いと聞けば妄想も膨らむというものだ。

 

 ざわつく会場。誰もが直斗の登場を待つが、当の直斗も断固拒否の構えを見せる。

 

「嫌です! 絶対に嫌ですからね!! もう棄権します!」

 

「却下クマ!」

 

 直斗は必死にそう言うが審査員のクマはそれを即却下。

 しかし直斗は本当に嫌なのだろう。断固として出てこようとしない。

 

「全く、しょうがない……!」

 

 そして、ここで洸夜が動いた。

 一人舞台へと歩いていき、堂々とした姿で舞台の上に上がったのだ。

 

「俺に任せろ!」

 

「あ、あなたは……! 豆腐屋の名物お兄さん!!」

 

 洸夜の登場に司会の学生は驚いた様子でそう言った。

 豆腐屋の名物お兄さん――それが洸夜の通り名であった。

 

 毎回、愛想もよく、おばさん方に人気のある商店街の名物お兄さんとなった洸夜の登場に周囲がザワつく中、洸夜は堂々と宣言する。

 

「俺が直斗を説得しよう!――皆!! 直斗の水着が見たいか!!!」

 

「お、おぉ……! おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 洸夜の宣言に会場中が沸いた。

 

「直斗! 直斗! 直斗!」

 

「えぇ……どうしてこんなことに……!」

 

 まさかの直斗コールに直斗自身の声は更に小さくなるが、洸夜はそんな彼女を逃さない。

 

「後は俺に任せろ!――さぁ直斗! 覚悟を決めて出てこい!!」

 

 洸夜はそう言いながら舞台袖への中へと入って行くと、その中では水着姿の直斗が身体をカーテンで隠しながら涙目で自分を見ていた。

 

「こ、洸夜さん! 変な事は止めて下さい! 本当に叫びますよ!?」

 

「ここまで来たんだ! 男らしく覚悟を決めろ!!」

 

「都合いい時だけ男扱いして! 絶対に嫌ですからね!!」

 

 洸夜の説得に対し、直斗は相変わらず態度を崩さない。

 最早、警戒心MAXの猫の様に威嚇しているが、洸夜もそれぐらいで退くつもりはなかった。

 

「こうなったら担いででも――って、直斗お前!! なんだそのスタイル……! めちゃくちゃ凄いな!?」

 

――な、なんだと……!

 

 舞台袖からの洸夜の言葉に会場中が息を呑んだ。

 妄想は新たな妄想を生み、誰もが緊張からドキドキしている様子だ。

 

 しかし洸夜の目の前にいる直斗の姿。

 それはまさにボン・キュ・ボンなスタイルであり、年齢に比べて発育が良すぎていた。

 それを見て、洸夜の覚悟は決まった。

 

「良し! 来い直斗! その姿を見せない方が恥だ!!」

 

「えぇ!? 嫌です! 嫌です! 絶対に出ませんよ!! もう! 洸夜さんの変態!!」

 

「失礼だな……純粋な感情だこれは!」

 

 洸夜はそう言って一歩もう一歩と歩いていくと、直斗は身体を震わせる。

 まさに怯えた小動物だが、既に洸夜の魔の手は迫っていた。

 

「さぁ! 覚悟を決め――」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

――パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!

 

 瞬間、何やら乾いた音が会場中に響いた。

 そして少しの静寂の中、洸夜が舞台袖から出てくると、そこには両頬に平手打ちの跡が刻まれた洸夜がいた。

 

「……えぇ~直斗は席を外すことになりました。全く無念です」

 

 そう言って洸夜は倒れた。

 

――結果。

 

「はい! 集計の結果――男女ともに票を獲得した白鐘 直斗さんの優勝となります!!」

 

「出てないのに優勝とはねぇ……」

 

 直斗のまさかの優勝に千枝達は苦笑するが、当の直斗は席を外していて舞台上にはいない。

 結局、最後の最後まで出ないで直斗は優勝し、その結果に柏木と大谷は号泣していた。

 

「そんな! 私の美しさが負けるなんて……!!」

 

「柏木先生! 私、悔しい!!」

 

 二人はそう言って抱きしめ合うが、りせ達はどこか誇らしげだった。

 きっと裏で女の戦いがあったのだろう。

 

 こうしてミス八高コンテストは幕を閉じるのだった。

 

▼▼

 

「あっ! お兄ちゃん達いた!!」

 

「おっ! 無事に会えたな」

 

 その後、悠達と合流した洸夜達は皆で文化祭を見て回っていると、菜々子と堂島と合流した。

 洸夜達と悠達の姿を見た菜々子は嬉しそうに駆け寄って来ると、堂島も安心した表情を浮かべていた。

 

「菜々子! 叔父さん!」

 

 悠が二人に気付いて嬉しそうな顔をすると、堂島は少しバツが悪そうな表情をしていた。

 

「……二人共、すまんが菜々子のことを頼めるか?」

 

「何かあったの?」

 

 洸夜の問いに堂島は溜息を吐きながら静かに頷いた。

 

「あぁ、折角の文化祭だから菜々子も俺も楽しみにしていたんだが、実は県庁に出張になってな……帰りが明日になりそうなんだ。――だから菜々子を頼めるか?」

 

「分かりました」

 

「はいよ」

 

 悠と洸夜はそう言うと、他のメンバー達も一緒に頷いてくれた。

 それを見て堂島も安心したのか、少し表情が柔らかくなると頷いた。

 

「そうか……すまんな。それじゃ後は頼む。――菜々子、楽しめよ」

 

「うん! いってらっしゃい!」

 

 菜々子がそう言うと堂島は学校を後にした。

 それを見送った菜々子と洸夜達だが、菜々子が寂しそうな表情を浮かべているのを洸夜達と悠達は見逃さなかった。

 

 すると、雪子が何かを思いついた様に手を叩いた。

 

「そうだ! 菜々子ちゃん! 今日、うちに泊まりに来ない?」

 

「えっ! 旅館で打ち上げっすか!」

 

「私達も良いの!?」

 

 完二とりせの言葉に雪子は頷いた。

 

「うん、前に約束してたから。――洸夜さんも是非」

 

「えっ? 俺も良いの?」

 

 まさか誘われるとは思っていなかった洸夜は少し驚くと、雪子はまた頷いた。

 

「洸夜さんにも色々とお世話になってますし、どうぞ菜々子ちゃんと来てください」

 

「私達も同じ旅館に泊まってるし、鳴上先輩も来てくださいよ」

 

 雪子とゆかりの言葉に洸夜も納得すると、最後には頷いた。

 

「よし……じゃあお言葉に甘えるか菜々子?」

 

「!……うん! お泊りする!!」

 

 洸夜の言葉に菜々子も嬉しそうに笑うと、これで今日の予定が決まった。

 そうと決まれば洸夜もどう動くか決めるのだった。

 

「じゃあ……まずは家に帰って着替えと、あと金を下ろして来ないとな」

 

 流石に宿泊する分の金を洸夜は持って来ていない。

 だからお金を下ろそうと考えていると、今度は美鶴が前に出た。

 

「安心しろ。洸夜と君達の分は私が出そう。普段、シャドウと戦っている君達への労いだと思ってくれ」

 

「おいおい、流石に悪いって……!」

 

 洸夜がそう言うと悠達も頷くが、美鶴は小さく笑った。

 

「気にするな。今言った様に労いだと思って良い。それに私も皆と色々と騒ぎたい気分だからな」

 

 美鶴のその言葉に洸夜はアイギス達の方を見ると、彼女達も頷いていた。

 こうなれば美鶴も自らの言葉を引っ込めないだろう。そう思った洸夜は諦めた様に両手をあげた。

 

「分かったよ……今回は美鶴に甘えさせてもらう」

 

「ありがとう美鶴お姉ちゃん!」

 

「フッ、気にしなくて良い」

 

 洸夜と菜々子からの言葉に美鶴は微笑むと、天城旅館への宿泊が確定した。

 そして暫く文化祭を見終えると、洸夜達と悠達――そして菜々子は天城旅館へと向かうのだった。

 

 しかし、この時は洸夜達は知る由もなかった。

 嘗て温泉で味わった処刑事件――それが再び繰り返すことになるとは。

 

 

END

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。