「ご来場ありがとうございます。チケットのお買い求めですか?はい、こちら2枚で300Gでございます。ありがとうございました。E席へはそちらからお入りください」
金色のボタンが4つついた白と黒の制服、襟には競技場スタッフの証であるスマッシュボールをかたどったバッチ。通信機、ディスプレイを搭載したヘッドフォン。
スタジアムの受付で数人が忙しく働いていた。
その中に、死んだ目をしたやる気のなさそうな態度の少女がいた。
4つあるはずのボタンが上から2番目の物以外全て外れており、白いシャツが見えている。
首からかけたネームプレートが、彼女がバイトである事を物語っている。
彼女の名前は加藤真咲。
彼女は普段、こことは全く別の次元にある世界にいたが、とある事情からここ空中スタジアムでバイトをしている。
いつもなら掃除と競技場のメンテナンスばっかりしており客などこないのだが、今日は違う。
大乱闘。
各地に設置されたステージで最大4人が自らの力と技を競い合う試合である。
乱闘には各国、各世界の有名人が集い、熱いバトルを繰り広げる。
宿敵もライバルも皆関係なく1番を競い、相手を場外へ吹っ飛ばす。
権や拳を交えるはずのない各地の英雄たちの姿が見られる事などから大乱闘はどこの国でもメジャーな観戦スポーツだった。
そしてその大乱闘を開催する地がここ、『
今日はあのマリオとカービィの対戦があり、しかも来賓席にはキノコ王国からピーチ姫が、ハイラル王国からゼルダ姫という二国の国の王女が来るのだ。
最近はあまり試合が開催されなかった事、そして有名人が4人、見目麗しい姫君が集まる事もあり、スタジアムは人で埋まっていた。
あと10分で乱闘が始まる事もあって、受付は先ほどの客以来めっきり減った。
暇になった真咲は、受付の他のスタッフをちらっと見る。
彼等は既に受付事務所の清掃に取り掛かり、早いものはもう制服を脱ぎ体をガシャガシャと変形させ部屋を出て行った。
機械なのだ。彼等は。
昨晩雷雨だったせいか、スタジアムを囲む透明なシールドの装置の一部に不具合が発生したらしく、人員不足らしい。
バイトの真咲が受付になったのもその影響があるとかないとか。
しかしバイトではやはり信頼感に欠けるためか、そんな大切な仕事は任されていない。
そもそも受付には必ず誰か1人居なければならないのだ。
もうやることも無くすっかり暇になった真咲は事務椅子の上で胡座をかき「暇だぁぁ」と気の抜けきった声を出しながらぐるぐる回ったり、窓の外を眺め、「あの雲う○こみてえ」と低学年の男子が言いそうな事を言ったりして時間をつぶし、1人ため息をついた。
どうでもいいが全て監視カメラに映っている。
音もバッチリ録音されている。
そんな事など頭にない真咲はとうとう部屋にあるものを勝手にいじり始めた。
机の上のフィギュアを眺めたり、今までここを訪れた有名人のサインを見て「こいつ字きったねえ」と呟いたりして、次は通信機に目を向けた。
頭の上にあった、モニターを目の高さに下げてヘッドフォンの右耳にあたる部分を軽く押して起動した。
「このディスプレイ、乱闘映るのかな…?げ、映らねえ。何でどこもかしこもオバハンが見そうな通販番組なんだよ。ん?ああ、スマブラって専用のテレビ局あるのか」
番組を探し出すともう既に乱闘は始まっていた。
ステージをせわしなく動き回るマリオとカービィを見ながら、事務所の片付けに入る真咲。
そんなに散らかっていなかったため、適当に終わらせ席に着いた。
カービィがマリオに吹っ飛ばされ、乱闘は幕を閉じた。決め手はバンパーだった。
時計を確認すると、吹っ飛ばされた瞬間にテレビの電源を切り、立ち上がる真咲。
ネームプレートの隅のIDを機械で読み込み、それがすむとロッカーから自分の荷物を全て取って、そのまま部屋を出た。
事務室から足早に出た真咲の顔には、幾分か真剣味が増していた。
西の空から不気味な赤い雲が、ゆっくりと近づきつつあった。
その頃、マリオは、フィギュアとなったカービィの、フィギュアの土台部分に触れて彼を起動する。
起き上がったカービィは少し頭を振ると、マリオと握手をして観客に手を振った。
その時だった。
消すかもしれない