今回出てくるオリキャラですが、かなり非現実的な人物になっています。しかし、100%有り得ないという設定ではないので、寛大な心で見て頂けると嬉しいです
毎日が同じ日だと感じる
こんなつまらないことを思い始めたのは何時頃だったか
「あなたのことが好きです、僕と付き合ってください。」
平日の昼時に響く男子の声。
体育館裏に手紙で呼び出して告白するというテンプレ要素しかないこの状況。
もう慣れた。
初めは嬉しいという気持ちもあった。
今では迷惑でしかない。
呼び出されるのも面倒になり、教室でさっさとしてくれと思うほどになった。
「ごめんなさい。」
そう言って去ろうとした。去りたかった。
早く教室に戻ってやることがあるから。
「まっ、待ってくれ!理由だけ聞きたい!なんでダメなんだ?それを聞かないと諦めようにも諦められない!」
またこのセリフ、
断れば決まって皆理由を聞きたがる。
放っておいてほしいのに
「……今は誰とも付き合う気がないから。」
考え抜いた上で出たのがこれ。
この前は正直に言ったら酷いことになったからなぁ…
頼むからもうこれで納得して───
「だったら、君が僕を好きになってくれるように頑張るから!だから付き合ってくれないか?」
……………
「そういうのいいから。」
私は思わず少しだけ本心を出してしまった
ああ、またやってしまった。
何度も気をつけているのに。
もうどうでも良くなってきた。
何故こんなことになってしまったんだ
私は悪くない。
あの男子が告白したのは“彼女”であって私ではない。
女子たちが嫉妬してるのは“彼女”であって私ではない。
そうだ、
私は悪くない。
全て“彼女”が悪いんだ
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「もう少し、詳しくお願いしてもいいかしら?」
一色さんからの発言に対して、雪ノ下さんが、恐らくこの場にいる人たち全員の要望を代弁してくれた。
「はっ、はい。えっとぉ…気になることを質問してもらってもいいですかね?ちょっと上手くまとめられないっていうか、、」
「あっ!ちょっと待ってね~…はい!いいよ。」
どうやら由比ヶ浜さんはメモを取る準備をしたようだ。やはりこういう機転はきくらしい。
「では初めに私からいくつか質問するわね。ではまず────
《 ☆今回の依頼のメモ(o^-^)φ☆
・ラブレター♡はいろはちゃんが代わりに渡したっ!
・相手は隼人くんっ!
・ラブレターを入れた場所は、まなみんと話しあってクラブバックにしたらしいフム(( ˘ω ˘ *))フム
・次の日に確認したらもう無くなっていた!?》
顔文字やらなんやらで読みにくいが、ちゃんと由比ヶ浜さんは要点をメモできているようだった。
私としては、渡した相手を確認するのは難関だと思っていたのだが、隼人くんという人物であることはすぐに判明した。というのも……
『ちなみに相手は誰なのかしら?』
『えっと、サッカー部の────
『もういいわ、ありがとう。』
『はやっ!?』
余程の人気者なのだろうか。
余談だが、試しに私が雪ノ下さんに「雪ノ下さんは隼人くんって人が好きなの?」と聞いたら必中の絶対零度をくらいました まる
ところでメモ中にあった、まなみんという人物、この子が今回のラブレターを書いた人だ。
フルネームは七宮 麻奈美《ななみや まなみ 》
一色さんとクラスは違うが同じ中学校出身でこの場にいる女子たちに並ぶほどの美少女らしい。
しかし、一色さん曰く、少し変わっているところがあるとのこと。ここにいないことを考慮すると、極度に内気な女の子なのだろうか…。そんな予想を立てていると一色さんが七宮さんについて詳しく説明した。
「私と初めて話す時に、『あなたは赤なんだね』って言ってきたんですよ。」
「え?赤って……色がってこと?でもなんで?」
「私もそのとき全然分からなかったんですけど、なんか色が見えるらしいんですよ。」
「えー!なんかオーラ的なやつが見えるの?!すごいねその子!でもそんなことってホントにあるんだね。」
確かに、一見マンガやアニメで無いかぎり有り得えない話だが、今回に限ってはありえることである。
ごく稀な例だが、本当に見えているとしたら……
「共感覚、シナスタジアの持ち主なのかもしれないわ。」
雪ノ下さんも知っていたんだ。さすが首席ですね。
「絶対音感の人のほとんどが“色聴”と言われる共感覚を持っていると言われているわ。幼い頃、ある音楽家のパーティーに参加したとき、音を聞くと色を感じるという話を聞いたことがあるけど、色が“見える”なんてホントに珍しいわね。」
共感覚で最も多いのが“色聴”と言われる、雪ノ下さんが言ったものである。過去の共感覚を持っていた人物として有名なのは、画家のダヴィンチ、ムンク、指揮者のフランツ・リスト、特にこの人は、演奏中に「ここは紫で」と演奏者に指示し困惑させた話は有名だ。
しかし、どの偉人たちにも、人を見ると色が見えるなんて人の例はないと言っていいだろう。
「まあ、普通に良い子なんで、そのへんはあんまり気にしてないんですけどね。」
「………そう、それは良かったわ…本当に。」
「「………?」」
一色さんと由比ヶ浜さんは、雪ノ下さんの反応に対して不思議な表情を浮かべているが、雪ノ下さんが安心した理由はよくわかる。
共感覚は確かに未知の能力であり、常人よりもspecialな力ではあるが、特別(special)と異常(special)は紙一重という事だ。
特別なら確実に名前が刻まれるような偉人になることだろう。
しかし、異常なら話は別だ。一般人が統べるこの世界で、かけ離れた能力を持った人間がこの世間に適応するのはとても難しい。残念なことに、適応できずに自ら命を落とす例も少なくない。
何故ならば、共感覚は無意識に起こる。
それがどれだけ辛いことか、常人には到底想像もつかない。
ましてや七宮さんの場合、見ると色が見える共感覚。色、とはその人の本質のことだろう。欺瞞に満ちた世界で全ての本質を見抜いてしまうのだから、精神の負荷は相当なものだ。
それでも、一色さんのような友人がいる。
その事実は、少なからず七宮さんの心の支えになっていることに違いない。
「やはり、一度本人と話がしたいわ。一色さん、今日七宮さんは来ているのかしら?」
「はい、いつも休日は学校で勉強してるみたいですから、恐らく教室か図書室に。」
「では二手に別れましょう。橙山さんは転校してきたばかりだから、校舎に慣れるために一色さんと同行してもらうわね。」
「それはいいんですけど……え、二手?」
まだ何かやることがあったのだろうか……
「はぁ……私と由比ヶ浜さんは、いつの間にか消えたステルス谷君を探してくるわ。」
…………
「「「いつの間に?!」」」
* * * * * * *
雪ノ下さんに言われた通り、二手に分かれたあと、今度は一色さんの案で私が図書室へ、一色さんが1年生の教室へと、再び二手に分かれることになった。その際連絡ができるようにと連絡先を交換した。
ピロン、と携帯がなったので見てみると早速一色さんからのメールが来た。
『初メールでーす!あ、麻奈美の写真まだ見せてませんでしたね。貼付しておくので、確認よろしくですっ♪』
にしても、一色さんも珍しい携帯だったなぁ…
そんなどうでもいいことを思いながら写真を確認した。なんというか、類は友を呼ぶ、とはよく言ったものだ。一色さんの友人というだけあってとても可愛らしい女の子だった。
そしてどうやら、私の方が当たったようだ。
写真に写っている可愛い少女を、図書室で発見した。
…………あんまり初対面の人に話しかけるの嫌なんだよなぁ。
変な声とか出たらどうしよ…
「……えっと、ちょっといいかな?七宮麻奈美さん、だよね?」
よし!ちゃんと言えたZE!…なんだこのテンション
「!?………………?」
七宮さんは一瞬驚いて、私のことを凝視していた。
あれ、惚れた?私の美しさに惚れちゃった?ヤダ私ったら罪な女…何でもないですなんか色々すいません
しかし、見つめたまま返事が来ない……
……今まさに私の“色”を見ているのか?
「……あの~」
「…!あっ、ごめんなさい!私に何の御用でしょうか?」
静けさに我慢出来なくなった私は再度声をかけ、七宮さんは慌てて返事をした。
「私、奉仕部員の橙山冬華?という者です。その、ラブレターの件について部長さんが直接お話がしたいって言うんだけど、今時間大丈夫?」
「……あっ、奉仕部の方でしたか。はい、大丈夫ですよ。私こそ直接お伺いせずにすいませんでした。」
「いや、全然大丈夫だよ。こういう話は直接言い難いもんね。じゃあ、ついてきてもらえる?」
「はい、宜しくお願いします…!」
ふっ、我ながら神対応ですわ。
何このコミュ力の高さ、全国のボッチさんに謝らないといけないねこれは。
しかし、七宮さんも礼儀正しい人だなぁ。一色さんが良い人って言うのも頷ける。
一緒に歩き始めてから少しして、七宮さんが私に話しかけてきた。
「あの、いろはから私のこと、どのくらい聞いてますか?」
「え?あー…その、色が見えるって話は聞いちゃった。…ごめん、あんまり知られたくなかったよね…」
「いっいえ!それは全然いいんですよ。むしろ、知った上でご親身に接してくれることに嬉しく思っています。」
なんだこの天使は。
さっき私に惚れた?とか思ってた自分を殴りたい…
「…ちょっと疑うようで悪いんだけど、その話ってホントなの?」
うぅ……あんまり聞きたくないんだけどなぁ、やはり本人から言ってもらった方が信ぴょう性あるしなぁ…
「疑うのも無理はありません。こんな話、大概の人は鼻で笑って流しますから。けど、そうですね、それでも私は本当に見える、と言うしかありません。」
彼女は苦笑いしながらそう語った。
今言ったことが、どれだけの体験をした上で言ったのか、想像するだけで涙が出そうだった。
「あ、でもあの話には少し補足しないといけない部分があるんですよ。」
「え?そうなの?……それは、聞いてもいいのかな?」
「はい、相談をさせてもらってるのは私の方ですし、何も問題ありませんよ?」
彼女は優しげな笑顔でそう言う。
「実は、色が見えるのは初対面の人限定なんですよ。なので、話したことのある人からはもう何も見えないんですよね。」
「へぇ、じゃあ一色さんのも見えないんだね。」
「はい、そうなりますね。」
恐らく、彼女の共感覚は一種の防衛反応なのだろう。
見知らぬ人が自分にとって脅威になるかどうかを視覚化されたのが色、という事か。
「そういえば、一色さんは赤色だって聞いたんだけど。」
「はい、あの時のことはよく覚えています。私が初めて心を許した相手なので。」
嬉しそうに微笑んだ。
ちょっと…この子と話すと涙腺が崩壊しそうなんですけど…。ホントにいい子だなぁ…お持ち帰りしたいよぉ…あ、家がねぇわ。
「けどまあ……」
「?」
初めて七宮さんは私に暗い表情を見せた。
「今のいろはは、赤じゃない赤、ですね。」
どういう事だ……?
視覚化されず、イメージで赤を感じるということだろうか…
「そっ、そういえば、私の色は見えたの?!図書室で初めて会ったとき凝視してたけど、何色だった?」
彼女の暗い表情をあまり見たくなかったので、慌てて私は話題を変えた。
「えっと、橙山先輩は……………その、」
珍しくも答えを鈍らせる七宮さん。
やっとの事で返ってきたその答えは私の予想していなかった答えだった。
そして、この答えから、私はまた自分についての疑問が増えたのだった。
「………何も見えなかったんですよ。」
7話目くらいから閲覧者数がぐんと下がってしまいましたが、無駄な話は一つもありませんので、結末までお付き合い下さいm(_ _)m
念のため言っておきますが、共感覚は本当にあるものです