ボッチな美少女は孤高のボッチを見て育つ   作:Iタク

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あけおめことよろ。
とりあえず、この話は今回で終わります。というか終わらせます←
そしてあと数話で第二章が始まります。


とある友人の恋文(ラブレター)⑤

 

「急に変なこと頼んでごめんね?あなたの協力が必要でさ。あっ、念のためカバンも持ってきてもらってもいいかな?」

 

 若干無理やりで気が引けたが、何とかこの人に協力してもらうことができた。

 告白のサポートなどまっぴらごめんだが、ラブレターは形に残ってしまうものを無くすのはとても不安なことだろう。早々に見つけてあげないと。

 

 告白をするという行動に出たことは良いことだが、この件について麻奈美が反省すべきことが一つある。

 それは、肝心の思いを伝える役を他人に任せた、いや押し付けたことだ。

 行動とは、ある目的が定まっており、かつ失敗するリスクがあって初めて意味を成す。

 失敗するかもしれないという可能性があるからこそ人は必死になれるし、仮に失敗しても、失敗した結果から経験を得られる。

 

 だが、肝心の実行することを他人にやらせては、行動する経験も失敗から得られる経験もなくなる。そんなものにハッキリ言って意味はないのだ。

 

 

 まあ、そんなことを考えていると目的の場所についた。

 

 

「さっ、ここだよ。早速探そうか。」

 

 

 麻奈美の、想い人の教室、

 

 

「ねっ、一色さん(・・・・)?」

 

 

 二年F組の教室に────

 

 

 

 

 

 

 

 * * * * * * 

 

 

 

 

「へぇ、やっぱりJ組よりは席がたくさんあるんだね~」

 

 そういいながら、自然と一つの机の上に座った。

 

「えっと……それで、私はどうすればいいんですかね…?」

 

 戸惑いながら、一色さんは訪ねてきた。

 みんなの中から一色さんだけ呼び出したのだ、気になるのも無理はない。

 

「ん?ああ、その前に話したいことがあって。」

「話したいこと……ですか?」

 

 相変わらず戸惑いの表情のままの一色さん。そろそろ話を進めることにしよう。

 

「ふふっ、そんなにかしこまらないで?麻奈美のことだよ。」

 

 安心させるように、私は微笑みながらそう言った。

 

「あー、麻奈美のことですか。……え、麻奈美って、橙山先輩知り合いだったんですか?」

「さっき屋上でね、お互い名前で呼ぼうって言ってたの。」

「へぇ、あの子がそんなことを……。」

 

 一色さんは意外そうな顔をして、半信半疑の様子だった。まあ、とりあえず本題に入るとしよう。

 

「一色さんの友達なだけあって、面白い子だねっ。思わず話し込んじゃった。」

 

 話の切り口としてはこんな感じでいいだろう。さて、ここから───

 

 

「そーなんですよっ!!!面白いですよね麻奈美って!!」

 

 

 !?!?

 

「一見無口そうな感じするんですけど、話してみると楽しくて!話し込んじゃって気づいたら下校時間すぎてたってこともあったりしたんですよ!あっ、私のことなんか言ってませんでしたか?ちょっとオーバーにとらえちゃうところあるからその辺が心配なんですよねー。でも、プラスのこと言ってたならそれはホントのことなのでそのまま解釈しちゃって大丈夫ですよ。それから──

「ちょ、ちょっと待って!わかった、わかったから!一旦落ち着いて?」

「はっ…!すっすいません…つい……」

 

 びっびっくりした………。さっきの表情から予想だにしない反応だったよ…。予想してなかった反応だったが、

 しかし、これで確信した。

 

「ホントに仲いいんだね、二人は。」

「まっまあ、そうですね……」

 

 照れているのを隠すように、一色さんはサラッと返事をした。

 

「でも不思議だよね。一色さんと麻奈美ってパッと見タイプが違うから接点なさそうなんだけど。」

「まあ、ちょっとしたことがありまして……。」

 

 ファーストコンタクトの話は気になるが、今は置いておこう。

 

「一色さんはともかく、麻奈美って友達あんまりいなさそうじゃない?なんでなんだと思う?」

 

 はい、盛大なブーメラン。友達どころか現在家族もいません。

 

「あー………。何といいますか、さっき話した麻奈美が視えるってやつが、その、変な方向に改ざんされて周りに広まりまして………そのせいだと思います…。」

 

 先ほどの興奮していたのが一変して、暗い、悲しい表情になった。

 申し訳ないことを聞いたとは思うが、これについての謝罪はすることはないだろう。

 

「そっかぁ、でもさ、」

 

 まあ、悪いとは思ってるけど、私のことは許さなくていいよ。

 

 

「実際、気持ち悪いよね、麻奈美って。」

 

 

「………え?」

 

 

 少し間が空いてから、呆けた返事が来た。

 

 

「だからさ、なんか気持ち悪くない?色が見えるとか何言ってんのって思わない?」

 

 嘲笑しながら、私は話し続ける。

 

「……急になんでそんなこと………」

「いや、ずっと言いたかったんだけど一色さんが妙に麻奈美に好意的だったからさ。あ、もしかして私が麻奈美のこと悪く言ったって言いふらすかもしれないって思ってる?大丈夫、言わないって約束するから。だから、一色さんも我慢しないで言っていいんだよ。」

 

 私は机から離れ、一色さんに近寄っていった。

 

「一色さんも大変だよね。周りにいい人アピールするためにあんな子と話さないといけないなんて。」

「…わ、私は……!「あ、もしかして!」

 

 わざと大きめの声で被さるように話し続けた。反論する隙を与えない。

 

「教師から頼まれてるの?あの変人の面倒を見るようにって。だとしたら、その役私がやってあげようか?生徒会長が変人と絡んでるなんて広まったら大変だもんね~。」

 

 さっきは反論しようとしていた一色さんが、下を見たまま少し震わせて黙っていた。

 だが、それでは困る。

 

「それとも、」

 

 

 早く、早く私を、

 

 

「私から麻奈美に言ってあげようか。」

 

 

 無理やりにでも黙らせろ…!

 

「いい加減気持ち悪いから関わるなって───

 

 ──パンッ!!

 

 

 決して大きい音とは言えなかったが、私が受けたビンタの音は教室中に響き渡った。ていうかめちゃくちゃ痛い…。まあ自業自得なんだけど。

 ビンタをした一色さんを見ると、涙を浮かべながら私をにらみつけていた。

 

「…初めは、先輩方(・・・)と同じで優しい方だと思ってましたが、やっぱりそう何人もいませんよね…そんな人は。」

 

 少し諦めたような表情をし、一色さんは話を続ける。

 

「ちょっと他の人には見えないものが見えるってだけなんですよ。それだけで、あとは普通に可愛い子なんですよ。」

 

 類は違うが、やはり同じ顔だ。

 

「話しかけるだけで嬉しそうな顔する、ちょっとのズルもしない真面目な子なんです。」

 

 これは、屋上で麻奈美が見せた、“好きな人”の話をするときの顔だ。

 

「多分、多くの人が先輩と同じことを思ってるんでしょうね。…一歩間違えれば、私も同じ考えになっていたと思うと、少しゾッとします…。」

 

 そういうと、一色さんは私の目をジッと見ながら近づき、

 

「………今日、ちょっと知り合った程度の人が、私の……」

 

 私の胸ぐらをつかみ、

 

 

「私の“親友”のことを、悪く言わないでくださいっ!!!」

 

 

 そう言った。

 

 言い切った。

 一切言葉を濁さず、

 遠回しな言い方をせず、

 ただただ真っ直ぐに、

 私の親友、と。

 

 

「………そっか。それは…」

 

 思わず口からでてしまった私のこれは、納得ではなく

 

「それは…ホントに良かった……。」

 

 純粋な安堵だった。

 

「良かったって……、何がですか……!?」

 

「いやぁ、ここで私に同調なんてされたらどうしようと思ってたから。」

「そんなことするわけないじゃないですか!!一体何言ってるんですか!」

 

 どんどんヒートアップしていく一色さん。そろそろ呼んだほうがいいかな…。

 

 

「さて………ちゃんと聞いてた?麻奈美。」

 

「…え?」

 

 

 私がそう問いかけると、教室の扉が開き、麻奈美が入ってきた。

 

「…麻奈美?」

「…い、いろは……わっわたし…ごめんなさい……ホントにごめんなさい…」

 

 入ってきたと同時に、麻奈美は泣き崩れ、一色さんはすぐさま麻奈美に駆け寄った。

 

「なっなんで?なんで麻奈美が謝るの?!麻奈美は何も悪くないよ?」

「違うの……!…ホントは知ってたの……知ってたのに私…」

 

 何を言っているのか、どういうことかわからず、一色さんは困惑していた。

 

 

「失いたくなかったんだよね、一色さんを。」

 

 

「私を……?どういうことですか…?」

 

 さっきまで目の敵のように見ていた私のことを、今では救いを求めるような目で見ていた。

 

「私さ、麻奈美からラブレターを一色さんが預かるまでの経緯を詳しく聞いたんだけど、」

 

 

 

 

『あ、あのいろはっ!…昨日言ってた手紙、書いてきたんだけど……』

『おー、麻奈美にしては積極的じゃん!ホントに好きなんだね、その人のこと。』

『でもどうしよう……、緊張して渡せる気がしないよ…やっぱりやめようかな…』

『待って待って!せっかく書いたんだから、渡さないともったいないよ。あっ、なんなら、私が代わりに渡してこようか?』

『え!?でっでも、それはいろはに悪いし……』

『大丈夫大丈夫、その人の靴箱に入れるだけだし。……それで、そろそろ相手が誰なのか知りたいなー。』

『………やっぱりやめるよ。』

『えーなんで!そんなに知られたくないの?』

『だって………』

『だって?』

 

『……相手は、いろはの“好きな人”だから……』

 

『……えっ…?それって…』

 

 

 

 

「そのあと私はちゃんと!───

「ちゃんと、葉山って人だと答えた。麻奈美にはずっとその人が好きだと言ってたから、麻奈美が言ってる人は葉山くんだと思ったんでしょ?」

「………どういうことですか…」

 

「だから麻奈美は謝ってるんだよ。ホントは“知ってた”って。」

 

「……………え?」

 

 

 

 ──屋上にて

 

『わかってたんですよ。いろはが今はもう違う人が好きだってことは。そして、今の恋が今まで以上に本気の恋だってことも。』

『……じゃあ、なんで知ってることを言わなかったの?』

『あの時、多分私には葉山先輩が好きってことしか言ってないからそう思ったんだと思います。だけど、もし仮に、私に今の“好きな人”と関わらせたくないんだとしたら、だから嘘をついたんだとしたらって思うと……言えなくて……。』

『………』

『もし図々しく会わせて、なんて言って、いろはに嫌われたら……私はまた独りになる…。…いや、独りになるのはいい、だけどいろはに嫌われるのだけは嫌だ…!それならいっそ、私の恋なんてなかったことにすればいい。』

『…麻奈美。』

『でも、やっぱり好きなんです……手紙を書いてるときはホントに楽しかった。実際に語り掛けてるみたいでドキドキもした。初めて男の人を好きになったのに……なんでこんな…』

『………』

『ねぇ冬華先輩……、やっぱり普通じゃない私は、普通の恋をしたらダメなんですか…?普通に、友達と恋の話をするのもダメなんですか…?……ふつうに…好きな人に好きっていうのも…ダメなんですか…?』

 

 

 

 初めての感情、初めての不安、今までは周りと合わせることに気を配っていた彼女が、初めて心から安心できる場所を得られたことによってできた、初めての悩み。

 それも、一歩間違えればその場所さえなくなるかもしれないというリスク。

 どんなに我慢強い人でも、一度幸福を感じればそう簡単にそれを手放せない。

 十数年生きてきて初めてできた信頼できる友達、そして初めてできた好きな人。その二つを天秤にかけたとき、両方が大切だったため、彼女の中の天秤は壊れた。

 

 そして麻奈美は、唯一の友達に、初めて“嘘”をついた。自分が好きなのは、葉山先輩である、と。

 それに気づかず一色さんは、葉山くんの靴箱に麻奈美の手紙を入れた。しかし、そのあと麻奈美自身がその手紙を回収した。

 そう、初めから盗難事件など起きていなかったのだ。

 手紙だって、葉山君自身が告発しない限り受け取ったかどうかなどわからない。幸いなことに、葉山くんという人物は普段からモテるらしいので、その心配はなかったのだろう。

 

 しかし一つ誤算があった。一色さんはサッカー部のマネージャーということだ。

 一色さんは、親友が初めてラブレターを書いたものだから、思わず葉山くんに確認したのだろう。だがもちもん、手紙は麻奈美が回収したため葉山くんにはラブレターのことなど身に覚えがない。

 ここで一色さんは焦る。自分が出した友達のラブレターがなくなった、しかも代役を勧めたのは一色さん自身だ。責任を感じられずにはいられない。

 しかも、ラブレターの差出人は麻奈美だ。一色さんと仲良くなってからも、まだいやがらせなどはあるらしい。もし麻奈美をよく思っていない人たちの手に渡れば盛大なネタにされるだろう。

 もちろん麻奈美自身にはこんなこと言えるはずもない。誰かに相談しようとしただろう。

 だが、奉仕部の人たちから聞いた話では、一色さんが生徒会長選挙に立候補したのは女性陣からのいやがらせだったそうだ。比企谷くんの言葉を借りるなら、友達(笑)は沢山いるが、信頼できる友達はいなかった、いや、いるが情報が漏れる可能性があったのだろう。

 

 だとすれば、頼れるのは、以前自分がお世話になった先輩たち、奉仕部だ。

 切羽詰まった一色さんは、怒られるのを覚悟で麻奈美に手紙がなくなり、そのことを頼れる先輩たちに相談することを話した。

 今度焦ったのは麻奈美のほうだ。自分がついたたった一つの嘘が、ことをどんどん大きくしていたのだ。そして麻奈美はまた、手紙消失というありもしない嘘の依頼を、一色さんに任せた。

 

 友達に嘘をつき続ける麻奈美、初めて自分自身の行いに恥を感じ、またそのことに巻き込んでしまった奉仕部に合わせる顔などなく、初め奉仕部に来ることを躊躇した。

 

 もし自分が普通の子だったのなら、別の人を好きになってたら、こんなことにはならなかったのに。麻奈美はそう考えていた。

 

 

 

 ───屋上にて

 

『そんなわけないでしょ…!』

『あいてっ!……でっでも…』

『じゃあ聞くけど、普通の恋愛ってなに?麻奈美は自分のことを異常と思いすぎ。だから自分に起こることが全部変だって思ってるだけだよ?』

『…じゃあ、これが普通、なんですか?』

『これが、とかじゃなくて、人それぞれってこと。考えてみてよ、10歳以上離れた夫婦だっているんだよ?それに比べたら学校の先輩を好きになるとか全然普通じゃない?友達と同じ人を好きになったのだって、確率的に言えば普通にあり得ると思うけどなぁ。』

『でも………どうすれば……』

『はぁ…、今回の件で言えば、解決するのは別に難しいことでもないんだよ。』

 

 

 そう、何も難しくはない。麻奈美は自分の口からこの問題の核心を言っていた。

『私には葉山先輩が好きってことしか言ってないからそう思った。だけど、もし仮に、私に今の“好きな人”と関わらせたくないんだとしたら。』

 つまり、そのもし仮に、がなくなればいい。一色さんがそんなことをする人ではないということを麻奈美に見せつけてやればいい。

 まあ、その方法はあまり褒められたものでもなかったが……

 

「でっでも、ホントに麻奈美が葉山先輩を好きだとは思わなかったんですか……?」」

「え?ああ、それは思わなかったよ。麻奈美が、一色さんは自分に好きな人を偽っているって知ってたから。」

 

 初め聞いたときは意味が分からなかったが、麻奈美と話をしているうちにようやくわかった。

『今のいろはは、赤じゃない赤』

 これは共感覚で視たものではなく、一色さんから嘘をつかれているという意味だった。露骨に嘘を言われたのが相当ショックだったのだろう。

 葉山先輩が好きだなんて“真っ赤な嘘”だ、と。

 

「そう……だったんですか…」

「ごめんなさい…ごめんなさいいろは…!ホントにごめんなさい…」

「いや、謝るのは私のほうだよ…麻奈美。」

「えっ…、いろは…?」

 

 キョトンとした麻奈美に対し、一色さんは涙を流し、麻奈美を見つめていた。

 

 

「麻奈美が考えてた通り、あれは“もし仮に”のほうだったの。」

 

「………え?」

「えっ!?」

 

 おっと、思わず声が出てしまった。

 でも、え?ホントにそうだったの?

 

「麻奈美はホントにいい子だし、私の親友だよ?それは嘘じゃない。でも、だからこそ会わせたくなかった……」

「……いろは…」

「あの人……先輩はね?噂とか、他人の偏見とかで人を見ないの。人の本質を見てるっていうか、だから麻奈美が変なものが見えるとか全然気にしないと思うんだぁ。ていうか、そんなの気にしてたら私がぶん殴ってやる!」

「…ふふっ、なにそれっ」

「先輩の周りには、魅力的な女子が結構いて、私も関わってみてホントに良い人だなぁって思えるくらい良い人たちなの。でも、それ以上に麻奈美が凄い良い人だってことを、他の誰よりも知ってる!先輩だってそのことに絶対気づく。そしたら先輩は…私なんかより麻奈美を選ぶに決まってる…」

「そんなこと──

「あるよっ!!私は、私自身の本質が醜いことを自覚してる……。でも麻奈美は本質から優しいじゃん!!…そんな人に勝てる自信ないよ…」

「醜くなんてないよ!!いろはのほうが魅力的に決まってんじゃん!私を助けてくれたし、いろんな人から認められてる…。私なんて…」

 

 ………んん?

 

「なんでいつも自分に自信ないの!?麻奈美は自分がどれだけ凄い人か理解すべきだよ!」

「いろはだって!自分のこと過小評価しすぎだよ!!」

 

 ………これはもしや…

 

「麻奈美のほうが!!」

「いろはのほうが!!」

 

 ただ単に互いが互いのことを好きなだけなんじゃ…

 

「「可愛いに決まってる!!!」」

 

 

 

 

 

 

 * * * * * * *

 

 

 

「はぁ……はぁ…」

「はぁ……はぁ…」

 

 かれこれ一時間言い合っていた二人は息を切らし、その場で座り込んでいた。

 

「…あれ…私たち、なんで言い合ってるんだろう…」

 

 ホントそれな。

 

「わかんないけど……なんかスッキリしたよ、私。」

 

 さっきまでの泣き顔が嘘のように、麻奈美は笑顔になっていた。

 

「でも凄いなぁ麻奈美の目は。私が嘘ついたこともわかっちゃうんだから。」

「えっ?」

「あれ?私が嘘ついてたのが視えたんじゃないの?」

 

 自身の中で納得していた一色さんの考えは、どうやら少し間違いがあったみたいだ。

 麻奈美の共感覚は初対面の人限定。つまりあの時の一色さんの嘘は共感覚で分かったものではない。

 

「いろはにはまだ言ってなかったね。私が視えるのは、初対面の人だけなの。」

「え、なにそれ初耳!!じゃあなんでわかったの?!」

「うーん…、うまく言えないけどなんかわかったの!」

 

 どうやら麻奈美自身わかってないらしい。ていうかあれだけ褒め合ってんならわかりなさいよ。

 仕方ない、完全に空気になってる先輩が教えてあげよう。

 

 

「そんなの、一色さんが思ってるように、麻奈美も一色さんのことを親友と思ってるからでしょ。」

 

 

 そう、親友だから。

 ホントに理解している人だから。

 理屈なんて関係ない。その人のことをちゃんと見てるからわかった、ただそれだけだ。

 

「……………………」

「……………………」

 

 二人は何故かキョトンとし、私のほうをじっと見ていた。

 え?なに?どうしたの??

 

「……ぷっ、ふふふ……。せっ先輩…意外と臭いセリフ言うんですね…ふふっ。」

 

 と、思ったらクスクスと笑い始めた。どうやら、私の言ったことがツボに入ったらしい。麻奈美も一生懸命笑いをこらえている。そして私はこの瞬間黒歴史を作ってしまったことに気づいた。控えめに言って穴に埋まりたい…

 

「いやその、なんかわかってないみたいだったから優しい優しい先輩からのアド───

 

 ここまで言うと、私のセリフは二人が抱き着いてきたことにより止まってしまった。

 

「橙山先輩、ホントにありがとうございました!…あと殴ってごめんなさい…!」

「冬華先輩を信じてよかったです…!私だけじゃなくていろはのことまで、ありがとうございました…!」

 

 せっかく泣き止んだ可愛い後輩たちが、私に抱き着きながらまた泣き出した。…全く、勘弁してほしい。

 

「もう、可愛い顔が台無しだよ二人とも。それに、これは部活動の一環だしね。私より、迷惑かけた人は他にいるでしょ?とりあえず、涙ふいたらその人たちにまず謝りに行きなさい。」

「「はいっ!」」

 

 とりあえずメイク直さないと!と言って一色さんは教室を出ていき、麻奈美もそれに続いて出ていこうとしたが、教室を出る直前で足を止めた。

 

「どうしたの、麻奈美?」

「手紙ですけど、自分でちゃんと渡してみようと思います。今度は、必ず。」

「そっか。うん、それがいいと思うよ。」

「それからあの……、今日だけじゃなくて…これからも私は冬華先輩の後輩でいたいというか……その、私また先輩と…!」

 

 …ホントに参った。

 私がこの子たちに接するのはこの件の間だけと考えていたことも見抜かれていたようだ。

 

「…うん、わかったよ。ちゃんとわかったから安心して?また何かあったら、いや何もなくても、またくればいいから。」

「…っ!はいっ、ありがとうございます!!」

 

「麻奈美ー!あんたも顔酷いことなってるんだから早く来てー!」

 

「ほら、一色さん呼んでるよ?行ってあげて。」

「はい。それじゃあまた、冬華先輩!」

「あ、待って!」

「はっはい?」

「麻奈美の好きな先輩の名前、ちゃんと教えてくれない?」

「え!?……今、ですか?」

「うん、お願い。」

 

「えっと……、“比企谷八幡先輩”…です…!」

 

「…やっぱね!ありがとう、もう行ってあげて。」

 

 私がそう言うと麻奈美は頭を下げ、教室をでていった。

 これで、ちゃんと依頼は完遂できたのだろうか。

 まあ、あの二人が笑いあっていたのだ。少なくとも失敗ではないだろう。

 

 

「とっても魅力的な後輩に好かれたね、“先輩”。」

 

「……お前…」

 

 教室の後ろ、丁度麻奈美や一色さんがいたところから死角になっている場所に、私が呼んだ協力者に隠れてもらっていた。

 そう、麻奈美と屋上で話した後、私が協力を頼んだのは一色さんではなく比企谷くんのほうだ。

 比企谷君に無理を言って教室に待機してもらった後に、一色さんを呼び出したのだ。

 

「まさかとは思うけど、聞えなかったとか言わないよね?」

「いや流石に聞こえてたけど…、俺聞いててよかったのか?」

「本人の口から聞いてもらわないと、ラブレターもらってもイタズラと勘違いしそうだったから。」

「何この居候さん、俺のこと理解しすぎてて怖いわ…。」

 

 しかし、なんで私はこんなことをしたのだろうか。後輩たちのことはともかく比企谷君のことについては完全に蛇足だ。

 なんとなくそうすべきだと思った……?

 

『親友と思ってるからでしょ?』

 

 自分の言葉が脳裏に再生される。

 私と彼は親友?いや、どうにも腑に落ちない。一体どういうことだ……

 

 

『早くしろ冬華!」

 

 

 !?

 なんだ今のは。

 今の比企谷君のセリフが、頭の中でも響いた。

 やはり彼は何か知っているのか?私のことを……

 君は誰なの?私のなに?私は一体────

 

「雪ノ下が俺たちの帰りが遅いって怒ってるらしいぞ。由比ヶ浜から連絡があった。冬華も早く戻るぞ。」

「えっ?ああ、うん。」

 

 この時、私は考えすぎているあまり気づいていなかった。

 

 彼が、今日私のことを名前で呼んでいたことに。

 

 

 

 




めっちゃ長くなった…

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