女「そこまでです、タイムトラベラー!」男「またかよォッ?!」 作:下品な牛乳◆N1RGqRourg
~そして少女のプロローグ~
「―――ッ!!―――ッ!!」
少女は走っていた。
芳しくない獣の血の臭いが纏いつく革を身にまとい、なりふり構わず汗水をちらし、家族の血に染まった真っ赤な脚を駆り続けている。
―ガサッ……タタッ………タタタタッ―
その匂いに誘われて、ケダモノの足音が追ってくる。
「―――ッ!!」
背中越しにその足音を確かに聞き取った少女は、 瞼をぐっと閉じ、身体を前に倒しながら、家族の血を滴らせ、それに混じって少しの己の血を滲ませる両足に更なる鞭を打った。
少女を追うケダモノ。
それは、少女を家族の返り血に塗れさせた存在そのものであった。
「―――ッ!」
ギリッ
と奥歯を嚙合わせる少女の思考の端に、数瞬前の惨状がちらつく。
いつもより日が暮れた時間に、家族の待つ穴倉へと戻った少女は、そこでケダモノに食い散らかされた親兄弟を見た。
煌々と揺らぐ焚き火に照らされ、ゆらゆらと何かを貪っている影を見つめ、暗く粘つく血溜りの上で目を剥いて立ち尽くす。
ハッと気付いた時には、餌場となっていた穴倉から既に脚を巡らせ逃げ出していた。
眼前の景色から意識を完全に飛ばしていた為か、少女は少し出張った石を見落として、躓きよろめいてしまうが、前へと倒れるその勢いを利用し、眼前に聳える岩肌を登っていく。
「ハァッ!…ハァッ!」
――少女はまともに言語を有していない。
それは、少女の家族も同じであり、同じであった。
穴倉に住まい、昼は動物を狩り出て、夜は焚き火に照らされながら倉に篭る。
野生動物的自然の生活を送る少女らを襲ったのもまた、野生動物さながらである脅威。
少女の家族は、弱肉強食の理に則る最期を迎えたのだ。
高度な知能を未だ形成していない少女には、死という概念はわからない。
しかし、あのケダモノに捕まることだけはならないと本能的に察していた。
ただただ逃げる為に岩肌をふらふらと登りきった少女は、一寸先の崖に気が回らなかった。
「―――ッッッ!!」
言葉ではない叫びを腹からもらし、縁が隆起した長大なクレーターの内へと転がり落ちる少女。
ドーム状に抉れた地形の中央で、酷使した身体は限界に達し、うずくまったまま起き上がる事もままならなかった。
「ッッ―――ッ―!」
全身の軋みに音を上げながらも、辛うじてうつ伏せから仰向けへと寝返りを打ったが・・・
「―――!!」
クレーターの淵、ちょうど少女が落ちた場所。
あのケダモノが穴の内側を見下ろしていた。
無理が祟って胃液を反芻するも、少女はそれすら飲み下して更なる無茶を身体にさせる。
後ろに手を突きながら上の半身だけ起こして、ケダモノと睨み合いながらも穴から這い出でんとし、ジリジリと後ろに体重をかけていく。
しかし、身体を引こうとしても腰から下だけは限界であった為にぴくりとも動かない。
顔を強張らせ、少し少女が焦りを見せた―― その瞬間
バッ!!
と足元の小石を蹴り上げながら、ケダモノが少女に飛び掛った。
もう駄目だ。と少女の眼から光が失われた――
―ギュオゥッ!!―
――その瞬間、深い藍色の帳を中天から下ろしていた星空から、突如人影が降り落ち、少女とケダモノの間に立ちはだかり、轟音と共に蒼く輝くその拳を、空中で無防備なケダモノの横っ腹へと叩き込んだ。
堪らず血反吐を撒き散らしながら吹き飛ぶケダモノを見据え、その人影は”喋った”。
「小さい女の子を泣かせる奴は…っ」
「過去に飛ばされて死んでしまえっ!!」
先ほど繰り出した殴打とは逆の拳を振りかぶる。
その拳は、またも轟音と共に蒼い光をまとっていた。
「狩り」
は三冬の暦に行われる狩猟を指す冬の季語です、
「では三春・三夏・三秋において行われる”かり”はどんな字やったかな」
と、朧げな記憶にてさらりと軽く調べてみたのですが、
さながら「妖怪リモコン隠し」の如く、欲しい時程欲しい情報の見つかり難し事。
「へぇ~!こない書くんやなぁ~…常用や無いし滅多に書かんやろけど」
と、それを見つけてからは書ける時を今か今かと待ちわびていたというのに、この体たらく。
本文においては季節は冬であるため、「狩り出で」と記すも語弊はないのだけれども、
なんだかなぁ。
※改稿情報
10/23/2016:改行と文頭の空白を削減。