女「そこまでです、タイムトラベラー!」男「またかよォッ?!」 作:下品な牛乳◆N1RGqRourg
男「………ん…?」
朝、だろうか?
開け放たれたカーテンから、眩しく真っ白い光が俺の顔に射し込んできている。
男「カーテン開けっ放しだったか……?」
ソレを閉じる為にもぞもぞと布団から出ようとする際、己が両手で何かを包んでいるのを感じた。
視線を頭上のベランダから、肩まで被った布団に下ろす。
俺一人分だけでなく、もう一人分程膨らんでいた。
布団の中に隠れた己の手が何を掴んでいるのかを調べる為、きゅっと握って形を確かめる。
手に伝わる感触はふにふにと柔らかく、そして吸い付くようなあたたかさと共にすべすべとしている。
手の中に収まる大きさで、一部が出っ張っている。
男「……ふむ」
出っ張った部分を指で挟み、くにくにと弄ぶ。
友「あっ…ちょっと…」
なだらかな部分を指先でなぞる。
友「たはっ、くすぐったいよ」
手元に視線を集中させていたので、布団の中から声がして驚いた。
今のは友の声だ。聞き間違う筈がない。
しかし手元のこれはなんだ?
寝ぼけた頭で疑問に眉をしかめながらも、触り心地の良い手中の何かを、指先でなぞって確かめる。
友「たはっ、たはははっ!くすぐったいってば」
ぎゅっと、俺の両手を捕まえる様に締め付けるやさしい感覚。
あぁ、コレは手か。友の手だ。
俺と壁との間、丁度日陰の部分からもぞもぞと布団から顔を出し、視線を合わせてぱちぱちと瞼をしぱたたいて見せる友。
男「おはよう」
友「おはよ」
日光のせいで表情はよく窺えないが、弾むようなその声からして多分笑っているのだろう。
朝の挨拶を交わしてから一人、「何故、友が俺と一緒のベッドに居るんだ…?」と現状を分析する。
しかしその疑問も、昨日そのまま疲れて寝てしまった事を思い出して解決する。
あの後、友の手を握ったまま、暫く明日の…いや、もう今日か。そのデートでどこを回るのかという話をした。
最初は俺が提案した――らしい、化石展を一通り眺めてから、その後は飯店街で食べ歩きがしたいとかなんとか。
「頭を使うとお腹が減るから」とは友の言葉だが、やはり食い意地の張った奴だと思う。
友「今日はどうしよっか?」
昨日の事を思い出していると、そんなように友が訪ねてきた。
意地の悪い笑みを浮かべて、「俺はこのまんま寝ていても構わない。」なんて返す。
友「ばっかやろ」
言いながらそっと手を乗せるように、頬を叩かれた。
確かにこう触れられるとくすぐったい。
友「チケット無駄になっちゃうだろ~」
男「あいあい、わかったわかった。」
のそのそと半身を起こしながら、「食い意地の張った誰かさんにも、とっととエサをやらにゃならんしな」とからかえば、五月蠅いと言わんばかりにペシペシと何度も頬を叩かれた。
そんな風にふざけていれば、俺が一人起き上がったのもあり、布団がはだけて友の姿も外に晒される。
友「うぅっ眩しい…寒い…やっぱりお前さんそこで一緒に寝ていておくれ…」
そんな情けない事を言う友は、昨日の姿のままである。
俺が勝手に眠っただけとは言え、友に心配をかけて断りなく宿泊させてしまった事を申し訳なく思いながらも、ソレを態々言葉にするのもなんだか憚られて、「はぁ」とひとつため息を吐く。
男「ばっきゃろー」
なんて誤魔化しながら、今度は俺が友の頬を優しくつねる。
友「あにふんだ~」
男「とっとと起きろー」
ヘタレな筈の俺の中に居る野生が目覚める前にとっとと起きて下さい。
スパッツとアンダーシャツだけって結構…その…アレなんです…。
友「わぁかったよ~うぃ」
布団を掴もうとしたようだが、誤って布団の上に乗せていた毛布を手繰り寄せ、それに包まりながら友が嫌そうに体を起こす。
毛布は暖かくはあるが布団より生地が薄く、ソレに包まった友は当然、身体の輪郭をそのまま毛布に浮かべていた。
友「………」
男「………」
俺の視線に気付いたらしき友は嫌がる様に更に強く毛布に包まるが、そうして引き寄せられた結果毛布の端が浮いてしまい、そこから生脚が覗けていた。
友「……見んな」
男「昨日、頑張った友自身に言いなさい。」
言いながらベッドから降りて立ち上がる。
天井のタイルを剥がさんとする勢いで伸びをし、煩悩を散らすつもりでぐっぐっと背中を反らす。
去れ!脳内に焼き付いた”生脚を覗かせながら毛布に包まって一見すると裸の様に見えた友”よ!!
去れ!脳内に焼き付いた”毛布の隙間から入った風にピクピクと震えながらも顔を赤くして此方を睨む友”よ!!
あぁダメだコレ、むしろ脳により一層深く刻み込まれるわ…
無駄を察した俺は、胸から空気と共に声を出して姿勢を戻す。
男「俺はチケット探しとくから、その間に顔洗ったり髪セットしたりしてきなさいな。」
深く考えては余計にドツボにはまると経験から察した俺は、そう言って意識を切り替える。
どこに化石展の入場チケットがあるのか知らないので、多分あちこちひっくり返す事になるだろう。
その様は出来れば見せないでいたいので、友には部屋を離れて貰おう。
友「あう…髪、そんなにボサボサ?」
包まった毛布から手を出して、己の髪型を気にする友。
実際の所、友は普段からボサボサだかボブボブだか判別のつかない程度のくしゅくしゅボブカットなので、些細な乱れ程度なら気にならないのだが、余程髪の手入れはしっかりしているのか、今の寝起きの友は癖が薄れてむしろややストレート目のセミロングになっていた。
しかし俺は「かなり」と嘘を吐いて友を急かす。
友「あうあうあ~」
なんとも情けない声で答えながら、もぞもぞと毛布の中でいまだごねる友。
友「さぁ~むいよぉ~…」
男「そんなに寒いか?」
俺だけ日光を浴びていたせいか、そんなことはないのだが、よくよく耳をすませば友の歯がカチカチと鳴る音が聞こえた。
仕方ないと、サイズが合いそうなセーターや上着などを適当に見繕って友へと投げ渡す。
男「デカいけど、少しはマシだと思うぞ。」
「それ着てとっとと顔洗え」と言いながら、適当に上着を引っ張った際にハンガーから落ちた服を拾ってかけ直す。
友「うぅ、わかったよぅ」
器用に、毛布の中でもぞもぞと着替えて、ずるずると這う様にして外へと出てくる友。
その様をじっと眺める俺。
男「……」
いやいや、この格好はいかんでしょ…
友「どしたー?」
男「…さっきまでの薄着より刺激が強いわ」
スパッツに大きめのセーター、その肩口からアンダーシャツの肩紐が見えているのが今の友だ。
スパッツだから問題は無いはずなのだが、セーターが大きすぎてまるでそのセーターの裾の下には何も着けていない様に見えてしまうのだ。
友「ん~?…そっかなぁ」
男「い、いいから早く行け!非健全だ!」
またも目を見開いてその像を脳内に刻み込みそうになったが、首を動かして視線を逸らしてさっさと顔を洗って来いと怒鳴る。
そんな俺に友は「お~お~はいは~い」と気のない返事をしながら、ガチャリとドアを開けて廊下へと出る。
とっとことっとこ開け放したドアの先、階下に降りていく友に「タオルは好きに使っていいから!」と声を飛ばす。
脚寒くねぇのかな、色々投げた筈なのになんでセーター一枚だけなんだろう。
ってか、ドア開けっ放しにして行きやがった…
そのままにしておくか迷ったが、念の為にドアを閉めてからチケットを探す。
不確かな記憶を手繰るもそれらしい記憶は無く、デザインすらわからない中で仕方なく手当たり次第に探す方法をとるも、チケットはすぐに見つかった。
机の鍵付き引き出しの中に大事にしまってあったのだ。
男「素直な…」
学校の机に青年誌を山ほど詰め込む癖に、自室にある机の鍵付き引き出しには朧気に見覚えのある小物が幾つかしか入っていない。
俺お前コレ、絶対思い出の品とかだろ…。
その中にひっそり置いてあった、今日の日付がでかでかと書かれた封の中に、「化石展」と書かれたチケットが2枚入っていた。
期限を確認すると、当日のみではなく期間中に一度だけ入れる券のようであったようで、2週間程先まで有効であった。
これでチケットの心配はなくなったので、俺も顔を洗おうと思い、昨日着替えたっきりの部屋着のままで部屋を出ようとする。
「なんだよ誰だよドア閉めたの、こんなにすぐ見つかるんなら態々閉める必要なかったじゃねぇか」と心の中で愚痴りながらドアを開けると、丁度階段を上り切ったのであろう友が居た。
友「おっ、出迎えゴクロ~!」
と、首にかけたタオルの両端を左右それぞれに握りながら片手を上げる友に、「はいはい」と生返事をしてドアマンに徹する。
友「おけ~ぃじゃあ早速行きますかぁ?」
と、部屋に入った途端言うが、いやいや、俺まだ顔洗ってないし。
友は俺のセーターが気に入ってしまったのか、ボーダー柄の白黒セーターに、態々ハンガーにかけ直した筈のぶかぶかの黒いジーンズを穿き込んでいる。
その際、通そうと上げた脚が…その…なんというか、ベランダから差す朝日の光線と相まって…なんとも…ほぉ…
友「うぉい、どこ見とるか。」
げふんげふん。
穿く為に、ジーンズを持ち片足立ちの姿勢になって腰をかがめていた友が、首だけで此方を見る。
「まったくもう」とわざとらしく声を上げながら上げた脚を下ろし、ベッドの縁に腰かけてからジーンズに両脚を通す。
友よ、それはそれでアレだぞ。特に、ぶかぶかの筈なのに臀部を通す為に一度ベッドに倒れた辺りが凄くアレだ。うん。
何度目かの煩悩払いも兼ねて、友に話を振る。
男「やっぱり脚寒かった?」
友「…うむ。」
ずずっと鼻を鳴らしながら、「スカートで晒しなれてると思ったんだけどねぇ」なんて言う。
男「というか、その格好で出るのか」
友「ん?まずかった?」
いやはや、てっきり一度帰って着替えて来られるものかと思っていたのですが…
男「友がそれでいいならいいんだけども、同性の友達って訳でなしに、貸された服着て外出んのかなーって」
友「……あ、そっか」
男「おい現役女子高生」
その辺りを全く考えてなかったなコイツ、俺だって一応男なんですよ。
女子って、いつもそういう話で盛り上がってるからその辺気を遣うのが当たり前だって思ってたんだが…そう思うのは俺だけなのかねぇ。
友「たはは…いや、なんかね、コイバナとかする度に皆生暖かい目でボクを見てくるから、あんまり踏み込んだ話も躊躇うっていうかなんていうか…」
コイバナ?コイバナねぇ…友のコイバナ、興味があります。
いやしかし、コイバナを振る度に生暖かい目で見られるとは…―
男「―なに、みんなのマスコットなの?」
友「そんな事ないよ…!―うな気もしないでもないような…あぁでも確かに、ケージの中の動物を見るような慈しみ溢れる目で見守られる事もたまに…」
マジもんのマスコットの様である。
皆に愛されてるんじゃないか、よかったよかった。
友「なんか、やっぱ僕の青春は間違ってる気がする。せめて人間扱いして欲しいかも…」
こいつもこいつで下らねー事で悩んでんなぁ。
男「友は人間だよ人間。んじゃ、俺も顔洗ってくる。」
言いながらチケットを両方友に渡す―が、友は受け取らない。
友「……」
男「あんだよ」
中々受け取らず、じっと俺の目を見つめる友に、気恥ずかしくなって視線を逸らす。
友「また、昨日みたいなことしない?…よね?」
どうやら、友にはいらぬ心配をかけた様だった。
男「………」
確証はないけど、多分―
男「―…だいじょぶ」
友「貴様!いまの間はなんだ!」
ベッドから立ち上がって、俺を指差し詰め寄ってくる。
人を指差すのは止めなさい、失礼だから。
男「さぁ?なんでしょう?」
友「ぐぐぐっ…絶対に預からんぞ!」
そうは言っても、両手でしっかりとチケットを持っていてくれる友は、口の端で笑っていた。
昨日は余程ふざけていなかったのかな、俺。
――――――――――――――――――――――――
一階の洗面所で顔を洗いながら、洗面台の縁に両手をつく。
ポタポタと、髪から鼻の頭から顎から頬から滴る水滴を眼で追いかける。
少し顔を上げて、鏡に映った自分の顔を見る。
濡らした髪は、ふやけた乾燥ワカメを頭の上に乗せているみたいだった。
頬を引っ張る。
でこのニキビを押してみる。
どっちも痛い。
男「…よくできてるよなぁ」
友「ん?なにが?」
突然声をかけられ慌てて横を見ると、フェイスタオルを抱えてチケットを手に持った友が、チケットをゆらゆらと振りながら不思議そうな顔していつの間にかそこに居た。
男「いんや、なんでもない。」
友「そう?」
「じゃあ、はい。」とタオルを手渡され、受け取って顔と頭を拭う。
男「いつからそこに居たんすか」
友「洗面器に溜まった水をニヒルに眺めていた辺りからかな?」
ニヒルにってそんな、は、傍から見たらそうだったの?!、嫌だ恥ずかしい…
友「おんやぁ~?顔が真っ赤ですぞぉ?」
ニヤニヤと笑いながら、「風邪でも引きましたかなぁ?」と己の額を晒してペチペチ叩きながら俺を煽る友。
そんな友の顔を見て、ふと気付いた。
友と一緒に居ると、独りで居る時よりも遥かにあーだこーだと悩まなくなれる自分が居る事に。
男「ぷっはは…」
随分と今更な事に気付いた自分に自嘲してしまい、つい声が出た。
その声に、自分のネタが受けたのかと勘違いしたような満足顔を晒す友。
男「うっせ、ばっきゃろー」
友「ボクは野郎じゃねぇし」
俺の言葉で、途端に怒ったような顔を見せる。
男「お前も結構細かいよな。」
友「うっせ!」
自室に戻り、友の横に居て恥ずかしくない程度で適当に見繕った外着に着替える。
その際、ちょいちょいわき腹をなぞられるが、そんなものは無視だ。
だから「へー」「ほー」「ふむふむ」なんて感嘆としてんじゃねぇ、あちこち触んじゃねぇ、鼻息荒くすんじゃねぇ、変態か。
男「おっし、行きますか!」
友「おぉー!」
触診攻撃を、時間を犠牲にして身体をくねらせる事によって耐え切った俺は、友にそう声をかけ、連れ立って部屋を出る。
一階へ降りて、玄関ホールで二人並んで上がり框に腰かけ、靴に手足を伸ばす。
友「あ、ねぇ」
お互いに学校指定の靴に足を通していると、不意に友が声をかけてきた。
男「んー?あ、靴ベラ使う?」
友「んーん、だいじょぶ。ボクの髪、ヘンじゃない?」
俺が使った後で申し訳ないと思いながら靴ベラを渡そうとするが、使わずとも友はスポっとローファーを履いた。
それを見た後、友が言う様に髪型へと視線を移すが、そこにはいつも通りのくしゅくしゅボブカットがふわりと揺れていた。
男「いや、変じゃねぇよ。むしろ似合ってる。というかどうやってセットしたんだよ。」
友「んへへ、水で濡らしてクシャってしただけだからすぐに崩れるよ。」
恥ずかしそうにはにかみながら、襟足の毛先でくりくりと渦を巻くような手癖を魅せる。
男「んじゃあ、一旦家まで送ろうか?」
友「いやいや、ソレは恥ずかしいっていうか…あ!じゃあお昼ウチで食べてかない?午前中は多分このまま持つだろうからさ!」
送られるのは恥ずかしいのに、昼に誘うのは良いのか…
やはり食い意地が張っているなと思いながら、化石展もそれ程大きくはない様なので午前中で回れるだろうと踏み、友の提案に乗る事にする。
二人して立って、俺がドアマンとして玄関の戸を開く。
友「よし!じゃあお養母さんにお昼の事伝えとくね!」
そう言って外へ出る友を見て、俺も後を追ってから鍵をかける。
男「じゃあ、開場までどっかで朝飯食うか。」
友「あ!賛成賛成!それ賛成!」
友と二人、ならんで家を出る。
二人で居るこの記憶だけは、作り物ではないと感じた。
リア充爆発しろ。