女「そこまでです、タイムトラベラー!」男「またかよォッ?!」 作:下品な牛乳◆N1RGqRourg
その後しばらく歩いてから日陰が続いた時、「セーターとアンダーシャツだけでは首元が冷える」と友は男物セーターの首元に余った生地をかき集めて丸くなったので、結局友の家まで送って防寒を徹底させた。
その際俺は家の中へと連れ込まれて、友が自分の部屋にて防寒着を見繕っている間にご両親と対面させられた。
いや、なんで…?
「ゆっくりしててね」と奥さんに微笑まれ、「ゆっくりしていくと良い」と旦那さんにも微笑まれ、俺は「ありがとうございます」と苦笑い、リビングにて友を待つ。
幸い、友はすぐに準備を終えてリビングへと訪れた。以前のマフラーを首に巻き、ダッフルコートとショルダーバッグをその手に抱えて居る。
友「よっし、行こっか」
セーターとジーンズはそのまんまッスか、いや、友がいいならいいんですけど…
「それじゃあ…」と断って椅子から腰を浮かせると、「もう行くのかい?もう少しゆっくりして行っても良いじゃあないか」と旦那さんに引き留められる。
いえ、あの、アレがアレでアレなんで、すんません…と断りたかったが、友を見るとそっちはそっちでキッチンから出てきた奥さんに止められていた。
友「え、でも朝も食べてないし、そろそろどっかで何か入れないとつらい…」
そう、そうだ友、その通りだ。
男「えっと、まだ朝摂ってないので、友にも何か食べさせてやらないとなのでもう行きますね。」
よっし!これで完璧だろう!「お邪魔しました」と言おうとすれば、その前に「ならウチで食べて行きなさい」と返される。
救いを求めて友を見れば、友も奥さんの方から同様の誘いを受けたようで、此方に救いを求めるような視線を飛ばしていた。
友「で、でも、私達が居たら、その、お邪魔…じゃない?」
チラリと、わかるように両親を見ての友からの問いかけに、奥さんと旦那さんはお互いを見合って、「なんだそんな事」と快活に笑む。
いや、結構大切な事だと思いますよ…ですから、あの、旦那さん。俺の肩に置いた手をですね。
そんな俺を見る友は、視線で「諦めろ」と語って、自身も曖昧に笑っていた。
奥さんに振舞われた料理は大変美味しかったです。
友が食い意地張り気味になるのもちょっと理解できる程の味と量だった。
――――――――――――――――――――――――
「その子の手料理ではなくなるが、お昼は用意しておこう。また来ると良い」と旦那さんに背中を叩かれながら、見送られて友と二人で家を出、既に開場済みの化石展へと訪れた。
男「俺、なんであんなに気に入られてたんだ?あ、すいませんコレで」
入り口で二人分のチケットをスタッフに渡しながら友に話しかける。
一部をむしって回収したスタッフから、流れるような再入場の注意点の説明と共に半券を返してもらう。
一枚を友に渡し、もう一枚は胸ポケットに仕舞った。
友「ありがと。ん~なんだろう…雰囲気とか?」
男「それであんな風に家に迎え入れられるもんなの?俺、他の家とか知らないんだけど」
床に敷かれた矢印に倣って、順路通りに土産屋を横手にそのまま進む。
男「…土産屋って、帰りによるもんだよな」
友「んん?そうかなぁ」
会場の暖房に慣れてきた様子の友は、マフラーを解いても尚暑そうにしていたので、ショルダーバッグを預かってコートを脱がせる。
男「友は展示物見る前に真っ直ぐ寄って、饅頭とか買いそうだな。」
友「………」
図星を突かれたらしく、頬を赤く染めながらも脱いだコートでバシバシと叩かれた。
そのコートを受け取ってショルダーバッグを返しながら「おまえさん…」と白い目を向ける。
友「なっ、なんだ!きょ、今日は行かんぞ!!」
男「いやいや、帰りに寄るから。」
「御両親にお土産も欲しいから」と続ければ、「うぐっ…」と言葉に詰まり、更に赤くなる友。
男「あ、ほらほら、アンモナイト。」
誤魔化さんと、近くの小化石ブースを指差し、二人でそちらへ歩み寄る。
ガラスケースの中、いくつも並べられた小さな石のなかに、葉っぱやアンモナイトの化石を見受ける。
男「古代生物の糞とか、絶対コレ持って時間飛びたくないな。」
友を宥める意味を込めてそのブースに引っ張った筈なのだが、気付けば俺自身が熱中していた。
友「うえぇ…そういうこと言うなよぉ…」
男「あぁ、ごめんごめん」
こういうものを見ると、何故だか気持ちが昂る。
もしかしたら、俺を作った奴は考古学なりに興味があるよう作りたかったのかもしれない。
男「なんでだろうなぁ…」
友「最近そればっかだね」
またも無意識で呟いていた言葉に、くりんと首を捻って片眉をしかめた友が言葉をかけてくる。
いかんいかんと思考を払い、今隣には友が居るという事を強く意識する。
男「うむ、悩む事は良い事だ。」
友「そうかなぁ」
えっ、いや、多分良い事…だよ?
たまに賢いこいつに言われると、なんだか不安になるのでやめていただきたい。
うーん、しかし確かに悩み過ぎってのもいただけんかも知れんが…いやいやしかし考えなしと比べれば遥かにだな…
友「ここで何分粘るつもりだーい?」
男「あ、あぁ悪い。次行こうか。」
自然と、急かす友から手を繋がれた。
男として情け無いなんて思うが、考え過ぎか。
きっとそうなんだろう、俺は考えが過ぎるんだ。
手を引かれながら向かった隣のブースには、巨大なパネルが設置されていた。
そこには俺たちが回り込んで来た左手から右手へ向かって、地球の年表が簡素に描かれている。
男「紀元前46億年…から結構な密度で描いてますな。」
左の端から順に一つ一つ眺めてそう呟く俺に、友は「そだね」と言って流し見しながら、とっとことっとこパネルの右側へと行ってしまう。
離れた手を少し寂しく思いながら、俺は気持ちペースを上げながらも、じっくりとパネルを見つつ友を追いかけた。
暫くして追いついた友は、地球年表のごく最近の部分、紀元前十数万年程度の辺りをじぃっと見ていた。
男「どした?親でも見つけたか?」
友「ちょっとぉ~」
頬を膨らませながらも、年表から眼を離さないまま俺の手を取る友。
仕方なく、その横に並んで同じ部分を見てみる。
男「ホモ・ネアンデルターレンシス、ホモ・サピエンス、ホモ・エレクトゥス…」
あぁ、人属の研究か。分布図や絶滅理由の追及が今も活発だって知識はある。
いやぁ、しかしこの種は未来では――
友「ねぇ、知ってる?」
男「ん?あぁ…何?」
思考を続けながらも、これからそのコラムを読みふけようと思った所で友から声がかかった。
友「古い地層から出土した化石の多くはね、大地の圧力によって急激に縮小された物だって話。」
男「あんまり聞いた事無いな、専門家かなんかのあれ?」
どこかで聞きそうな話だが、知識として覚えてる物はないなと記憶を漁る俺に、「ううん、今考えた。」と友はパネルから視線を離さず言う。
即興かよ…
男「…意外と、ありえる話かもな。」
友「ん…ほんと?」
少なくとも三千年以上前の動物が化石と呼ばれるのだから、その間も大地は大きく動いているだろうと考え、「あぁ…」と肯定する。
男「ただ、そういう事はとっくに専門家が考慮してんじゃないかな。」
友「…そだよね」
何を気にしてか、沈むような声でそう呟く友を見ていられなくて、言葉を弄する。
男「ふん…だとしたらウルトラサウルスとか、実物はすげぇ事になるかもな!」
友「たはは、人なんか勝てっこないねぇ~」
話している間も、友はパネルから眼を離さなかった。
男「……お嬢さん、そちらのブースは当コースの終盤にございますよ。」
友「ん…あごめん、夢中になっちゃってた。たははっ」
申し訳無さそうに頭をかく。
本当にただ夢中になっていただけなら、ここに誘った甲斐があるってもんだが…
友「んじゃあ、先、行こっか?」
尚も申し訳無さそうに笑う友を見て、無意識にその頭を撫でていた。
「えう?」なんて不思議そうな顔で俺を見られても困る。俺だって何故友の頭を撫でているのかわからんのだから。
まぁ、暗い顔見せられたらなんというか、なんだ。
男「おう」
おうってなんだ俺。
友「…おう」
おうってなんだ友。
「たはっ」じゃない。いや、笑ってくれんならいいんだけども。
そのまま撫でていた頭を掴んで、進行方向へとゆっくり進み紀元前数十億年のブースへと進入する。
頭上のアーチには、「ようこそ紀元前46億年へ!」とあしらわれていた。
――――――――――――――――――――――――
男「当時の恐竜が、今の地球上に居たらどうなるんだろうなぁ。」
先カンブリア時代の冥王代・始生代・原生代エリアを超え、類生代エリアに入って少しした所から始まったジュラ紀ブースを見ながら、なんとなく思った事を口にする。
友「街が大混乱になるんじゃない?」
男「はは、どうだろうな。」
言葉の解釈の仕方に依ってはそうなるのだと思う。
男「隕石の衝突による気象環境の崩壊を生き延びたとして、今もまだ原始の時代が続いていたか、恐竜がスーツを着て人間に首輪を着けているか。」
推論をただただ口にしても締まりが悪いので、「もしくはその逆か。」 と残して思考の垂れ流しを止める。
ソレを聞いた友は、ミニチュアの置かれたケースから俺へと視線を移し、「うぅむ」と唸りその顔を顰める。
友「おっそろしいなぁ。」
男「まぁ、恐竜が絶滅した事といい、俺たちがここに居るのは物凄い偶然なんだと思うぞ。」
ほんとうにそうか?
男「………っ」
友「…?どしたぁ~?」
緩くあった歩みを止めた俺に、友から心配する声が届く。
それに「いや。なんでもない。」と返すも――
――一瞬、今ここにたっていることが酷く滑稽に思えた、その事実は消えなくて…
――――――――――――――――――――――――
粛々と、二人で地球の誕生からを文字や文献で追いかけて、そろそろ出口に差し掛かるかという所。
友があの地球年表で食い入るように見つめていたブースへと進もうとすると――
友「……。」
―友が寂しそうな表情で立ち止まった。
繋いだ手が歩に釣り合わず、転びそうになるもなんとか堪える。
明らかに様子がおかしく、手をつないだまま友の顔を覗き込む。
男「どした?」
友「い、いやぁ…やっちゃったなぁ…たははっ」
何かをごまかすように、友は笑いながら焦っていた。
友「ちょ、ちょっとさっきの思い出があれ過ぎたかな」
男「うん?お~い、行くぞ。」
体の中で誰かが、友の挙動を執拗に気にかけている気がしたが、早いところ売店で友とお土産を見繕ってから、友の家にお邪魔してまた軽食を嗜みたかった俺は、段々強く握られる手を握り返して強く引いた。
友「お、おう……ぉぅ…」
確認の応答だろう返事をした友だったが、その声は震えていて、単音が繰り返して聞こえる程だった。
ごくりと喉を鳴らしてから、逆に俺の手を引いて突然歩き出し先へ先へと進んで行く友。
男「ぉ、おうぉい!」
驚きに思わず声を漏らした俺に、周りの人たちは何事かと振り返っている。
そんな様子も気に留めず、ついに一見もしないままに友は自身がパネルで気にしていたヒト属ブースを抜けて、「特設!」と書かれた隕石ブースへと進んでしまった。
友「……ッ………ぃ…っ!!…ぃ…でっ……!!」
何事かをぼそぼそと繰り返し呟きながら、そのブースすらも通り抜けてしまおうという勢いで進み続ける友。
も、もしかして……催しちまったとかか…?
「それは大変だ」と一人で勝手に失礼な早合点をして、友の手をしっかりと握り、そのペースに合わせて一緒に進もうとし――
男「…あ……れ…?」
――視界の端に、それを見た。
思わず、体が固まる。
思考がぐるぐると静止できずに回り続ける。
一つ一つ、何らかの推論が形成されてゆく意識の中――
友「…ぃ…でっ…みないでっみないでみないでっみないでみないでみないでみないでっ…」
――友の囁きの断片を、理解した。
男「…こ、こって…動物のブース…だっけ、か?」
「恐竜を絶滅させた隕石のかけら?!」そうでかでかと掲げられた小石が収められたケースの横――
――夢の中で見た、
男「あ…れ……?…い、いやいやいや、あれは夢だったし……」
言葉と裏腹に、冷めた思考で紹介文を読み解く。
男「いやいや……《閻魔帳》の俺なんて知らないし……」
―隕石の欠片として回収されたが遺伝子構造を有する事が判明した。―
―DNA解析の後、その構造から生物としての実体の形状を予想造形―
―作成された当時のヒトらしき二足歩行生物のモデリングフィギュア―
男「いや、っ。だって、俺、こいつ殴り飛ばして、か…過去に……」
友「みないでみないでみないでみないでっみないでみないでみないでみないで…」
男「過去に……」
冷静な判断など、出来なかった。
白亜紀最後の生物大絶滅には、隕石説。大噴火説・ウィルス説がそれぞれ有力でありますが、拙作では隕石説と大噴火説を踏襲し、「隕石が二個だか三個だか、或いはもっと沢山降って来た衝撃で、地球がその中身である溶岩やらマントルやら派手に吐き散らかして、地表も空も周辺宙域も暫く地獄絵図になった」説を用いています。
コンビニの暖房ですらたまに息苦しいレベルで暑いのに、溶岩があちこちから空に噴き上がったらまず間違いなく僕は熱で死にます。
生野菜とかも死にます。魚はギリギリ死にます。クマムシは多分大丈夫です。