女「そこまでです、タイムトラベラー!」男「またかよォッ?!」 作:下品な牛乳◆N1RGqRourg
~そして二人の物語~
ある男は、遠い未来から捨てられた。
人類に望まれて、身体を形作る粒一つ一つから造られた男が「歴史を守る」と教えられて席を置いた組織は、人類の成長を見限る事で未来を捨て、現在までに続いた歴史という安定のみに縋る弱き者らの集いであった。
男は仲間達に「過去を守るのは最もだ」と言う。
同時に「今から未来を進むのも大切な事だ」とも。
男と同じく、時を跳ぶ力を持った組織の仲間達は此れに不安を覚え、歴史の調停と称した新たな指令を男に与えた。
「超古代の生物の終末、白亜紀に起こる大絶滅の到来を視認せよ」との指令に、男は静かな憤りを感じた。
組織は、その指令によって向かうであろう遠い時間の中、大絶滅の炎の中に男を葬り去ろうとしたのである。
命令違反とは知りつつも細やかな抵抗として、直接目的の時間へと跳ばずに、飛び越える期間を刻みながら時を遡って往く男。
幾多の跳躍の中で男が眼にしたのは、人々の魅せる喪失を憂う表情だった。
男は大層驚いた。
未来では、誰もあんなに豊かな感情を魅せはしない。
人はあそこまで楽しく笑い、あそこまで悲しく涙するのかと心振るわせた。
やがて男は、時を自在に操る自らの力に恐怖する。
心豊かな彼らの存在そのものを、根源から簡単に消してしまえる己の力を。
「道理で、仲間達は未来を切り開いてゆく事を恐れたのだ。」
「この力が、人々から未来を渇望する心を奪ったのではないか。」
人類に臨まれて生まれた男の中で、大きく大きく自己嫌悪が膨れ上がる。
形の無い筈の其れで胸が詰まり、実体の無い筈の其れで頭が重く感じる。
遠くに、夜明けと見紛うばかりの破滅の光を見受け、自身が生まれながらにして背負う人類の業を背後に感じた。
しかし、いやいやとその考えを振り払う。
「これまで見てきた人々は、皆過去を変えたがっていた。その人々の望みの結晶が自分なのだ。」
ならば、その業こそが己で在ると、男は悟りを開く。
ならば、人々が望むように、けれどたった一人だけ過去を変えて救って見せようと強く願い――
――人類の始まりを一人、救って見せたのだ。
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ある少女は、原始の時代から救い出された。
遠い始まりの時代、弱肉強食の食物連鎖へ飲み込まれんとする寸での処で、空から降り積った青く儚い光に救い出された。
家族を喰われ、帰る場所も頼る宛も無くなってしまった少女の腰に、蒼い光は優しく腕をまわす。
光に抱かれた女はひんやりとした感触の中に、言葉は無くとも感じる暖かな人の鼓動を聞いた。
瞬く間に空へと連れ攫われる少女。
放射状に拡大される星空の中、虹色の光の向こうの暗闇に、蒼い銀河をみる。
こんなに美しい景色を見た事があっただろうか。
その日もいつもと変わらず、見た事も無い景色を求めて荒野を彷徨った少女は、それ故にケダモノから逃げ果せ、それ故に今この景色を目に出来た。
淡く蒼い光の腕の中、瞳の奥から心の光を発し、その水晶体に周囲の虹色の光と淡い蒼を照り返す少女の眼も見ずに、「振り返ってはいけない」と言うその淡く蒼い光。
彼の言葉もわからずに振り返ってしまう少女、そうして自らの過去と未来の姿を背後に見た。
その景色が、後の後まで少女を大層狂わせてしまう程の、能力を開花させる切欠となってしまった。
人類全ての業と願いを背負い生まれ、そこに在るだけで世界を歪めてしまえる彼の傍らで見た景色だからこそ、少女はその業深き能力の片鱗を受け継いでしまった。
青い銀河を抜けた先、麗しい青い星へ淡く蒼い光と共に降り積った少女は、彼との切れない絆を得た。
やがて少女は、彼と共に幾ばくかの時を過ごした。
そして、その先で共に居た彼がどのような試練を迎えるかも知ってしまった。
彼はやがて、永遠の時の流れに取り込まれ、孰れ絶滅の炎の中へと落ちていってしまう事を――
――彼の一番傍らであり続けた少女は、時を操る力の片鱗を己の中に確りと感じた。
――そして少女は、遠い未来から一人の男を救おうと決めた。
――――――――――――――――――――――――
始祖を救いて自らを殺そうとした男と――
未来を憂いて友を失くさんとした少女が――
――遠い未来から始まりの時へ
――全ての発端から悠久の時へ
互いに互いを救い合おうと心に決めた一組の番の思いは、やがて一つの時代で混ざり合う。
一つの新たな世界を築き上げた。
―パラドックスへようこそ。―
申し遅れましたが、拙作はタイムパラドックスを許容したタイムトラベル物となっております。
次回より、謎解き篇とも言うべき第参章の開始です。
よろしくおねがいします。
メモ。
※改稿情報
11/07/2016:衍字の修正。