女「そこまでです、タイムトラベラー!」男「またかよォッ?!」 作:下品な牛乳◆N1RGqRourg
女ちゃんからの問いかけに対する、お義父さんの返答はシンプルだった。
「昔、人から貰った」と、ただそれだけ。
その人とはどんな人で、一体いつ貰ったのかを訊かれても、「そう言われてもな」と困り顔を見せる。
女「なんでも良いんです!どんな事でも!」
尚も食い付く女ちゃんに、お義父さんはただ「…ごめん」と頭を掻くばかり。
女「そう、ですか…」
そう言った切り、女ちゃんはまた顔を俯かせてしまう。
見兼ねたのか、手の中にある《
女「…いいんですか?」
受け取りながらも驚いたようにお義父さんを見つめる。
「キミが必要そうにしてるからな」なんて格好つけて、女ちゃんの頭をクシャっと撫でる。
いつもならその光景に「お義父さんキザだなぁ~」なんて茶々を挟むど、今の私にそんな余裕はない。
視線が、女ちゃんの腕の中にある《蝶の標本》から離れない。
なぜ、あんな物の事を忘れていたのか。
そもそもなぜこの家にあの本があるのか。
この家はなんなのか…
ここは…ここはどこ…?
私は、私は消えたはず…ど、どうして生きてるの?!
男は…?男はどうなったの…?
私は結局失敗したの…?
私は、男を守る為に世界を分岐させて男以外のタイムトラベラーが入って来れないようにした筈だ。
でも、それだけじゃあ男を守れないから、男を追い詰める因縁も取り除いた筈だ。
でも、それをすると男の存在そのものがあやふやになっちゃったから、私の思い出で男の存在を補強して…
でも、その思い出がそもそも男以外のタイムトラベラーを呼び込んじゃって…
だから、私は私自身を…
友「はぁ…」
冷静になった今だからわかる。
私はなんてバカな事をしていたんだろう。
結局、全部私の身勝手で、焦って碌に考えもしないで男を囲い込んで…
そうして男を――私の大切な思い出で出来た男を苦しめて…
最後には一人ぼっちにして…
私、何バカな事やってんだろう…
女「どうかしましたか?」
友「えっ!?あ、いやいや!なんでもないよ!」
気付けば、いつの間にかダイニングテーブルに突っ伏して頭を抱えていた。
そりゃ話してる横でそんな事されたら気になるよね!ごめんね女ちゃん!
慌てて立ち上がて、なんでもないって事を示そうと思ったのに――
友「――あだっ?!」
さっき落としたままだった飴を勢いよく踏んづけてしまう。
ここに飴を置いたのは誰?!私だ!!
あまりの痛さにもう一度椅子に腰を下ろして、飴を踏んづけた脚を抱えて悶える。
友「っつぅ…あ、ダイジョブダイジョブ…」
女「……」
なんとか手を振って、大したことないと誤魔化してみるけど、なぜか女ちゃんからは冷たい視線が刺さってくる。
友「え、えぇと…大丈夫…だヨ?」
ホントダヨ?
足の裏を片手で撫で続けてはいるけれど、ホントにもう大丈夫だヨ?
女「…後で、お話しがあります。」
友「へっ?あ、うん」
私の返事を聞いて、そのままリビングを出て行ってしまう女ちゃん。キシキシと階段を上ってゆく音が聞こえる。
上には私と女ちゃんのそれぞれの部屋しか無いので女ちゃんの部屋か私の部屋で話をするんだろう。
…私と…女ちゃんの…それぞれ…
あれ?
お義姉ちゃんの部屋がない…?
友「…この世界にも矛盾がある」
そうだ、私が分岐させた世界の事を――男の事を思い出したのに、まだ何か、何かが足りないんだ…
痛みが少しだけ引いた脚を下ろして立ち上がり、女ちゃんを追うようにして私もリビングを出る。
後ろ手にリビングのドアを閉めようとすると、「お風呂の掃除終わったわよ」とお義母さんが廊下の先の水場から顔を出しながら伝えてきた。
ドアを閉め切る前に、お義父さんにそれを伝えると「おう、じゃあ皿洗うわ」とソファから腰を上げた。
友「お皿洗うってさ。じゃあ私、部屋戻るね。」
今度はお義父さんの言葉をお義母さんに伝えて、私はさっさと階段を上る。
「ありがとね」なんて言葉を背に受けて、二人は変わってないと察する。
じゃあ一体何が前と違うんだろ…。
考えながら階段を上り切り、一番近いドアをコンコンとノックする。
するとドア越しに「どうぞ」という声が返って来たので、遠慮なくドアのノブを捻る。
友「来たよ」
女「はい」
部屋の中、女ちゃんは机に向かって座り、天板に置いて開いた《蝶の標本》をパラパラと読んでいた。
ドアを閉じて断ってからクッションを借り、ベッドを背もたれにしてカーペットに座り込む。
女「早速なのですが」
友「待った」
パタンと音を立てて《蝶の標本》を閉じ、椅子をまわしてこちらに向き直る女ちゃんを手で制して、私から話を振る。
友「1つ訊きたいんだけどさ、私のお義姉ちゃんの事って話したっけ?」
女「…いえ、初耳ですね。ここには私たち以外にも孤児の方が居られるのですか?」
ふぅん、そっか。
つまり、お義姉ちゃんの存在そのものが、この世界では矛盾してる可能性があるって事か。
友「いや、多分居ないかな…」
女「多分…?」
けど、目の前のこの子も十中八九で時間渡航者だろうに、そんな経験があまりないのか、私の言葉に首を捻った。
友「私にはお義姉ちゃんが居た記憶がある。けどこの家にはお義姉ちゃんの部屋が無い。」
女「―…成程」
私の言葉に思う所があるのか、またも苦しそうな顔をして俯き、膝の上に置いた閉じた《蝶の標本》の装丁を確かめるように撫でる女ちゃん。
私としては確かめようとした事の確認は終わったので、女ちゃんが本題を話し始めるのを待つ事にする。
少しして、ふうと聞こえるか聞こえないかという程の小さな吐息を挟んでから、女ちゃんが話し始める。
女「幾つかお伺いしますが、この世界を作られたのは貴女ですか?」
やはり来た、予想通りの質問だ。
しかし私はこれに対する明確な答えが手元にない。
友「前なら認めただろうけど、今はわかんない。」
女「わかんない…とは?」
本人としては確認のつもりで訊いたのに、こんな曖昧な返答が返ってきたらそりゃ首もかしげたくなるよね…
いや、世界は分岐させただけで、別に作ったわけではないんだけども。
女ちゃんの疑問に対して、予定調和のように現状を説明する。
友「女ちゃんは、この世界の前の世界の記憶はある?」
女「…どの程度前の世界の話かにも依りますが、直近で該当しそうなものとしては、化石展で彼を取り押さえながら貴女の話を伺っていましたね。」
うん、私がさっき思い出したのと同じ世界だ。
なら目の前の彼女は、私の全く知らない時間や世界から来たってわけでは無さそう…かな?
友「その世界なら、私が分岐させたのは間違いない…けど、今私達が居るこの世界はわからない。もしかしたら私かも知れないし、また別の誰かかも知れない。」
女「…何か心当たりはありますか?」
そう訊かれるのはわかっていたけど…心当たり、ねぇ…。
正直、男と一緒に居たら悪意を持った時間渡航者に山ほど因縁吹っかけられるから、あり過ぎるくらいなんだけど…
でも、私が分岐させた”男とついでに私以外の時間渡航者が居ない”って世界にまで追っかけて来れるような奴は知らないかなぁ…
友「んー…誰かの思惑ってのは考え辛いかな、あの世界は他人がそう簡単に弄れないようにしてたつもりし。あるとしたら、私のミスかなぁ…」
女「貴女のミスと言うと、世界が他者に介入された事ですか?」
そう言って自分自身を指差す女ちゃんだけれど、それも予想できていたので「ないない」と手を振って答える。
そもそも女ちゃんの介入は仕方ない事だったし。
友「そうじゃなくって、私があの世界で最後に時間を跳んだのは覚えてる?」
女「ええ、それを切欠としてこちらの世界に飛ばされたものと推測しております。」
うんうん、そう思ってると思った。
でも私はそんなつもりは無かったんだよ。だって――
友「――私はあの時、過去の私自身を消したんだよ。」
女「…は?」
理解が出来ないのか、見慣れない呆けた顔を晒す女ちゃん。
そりゃそんな顔するよね、自殺未遂を明かされたらさ。
友「私はね、昔、男に命を助けられた事があるの。――」
――家族も居なくなって、更に殺されかけたあの日、男に助けられた。
命だけは助かったけど、家族以外に寄る辺もなくて、今思えばあのまま野垂れ死にしてもおかしくなかった。
けど、男がそこから救い出してくれて、一人じゃ何も出来なかった私を孤児院に入れる手続きまでしてくれて、色んな本を読み聞かせてくれたりした。
更にはどういう伝手なんだか育ててくれるっていう夫婦まで見つけてきてくれて、それが今のこの家。
友「最初は、なんでここまでしてくれるんだろう?って思ったけど、でもやっぱり嬉しかった。」
なんでか訊いたら、「現代人なら文化的な生活を保障されるもんだ。」なんて難しい言葉で煙に巻くもんだから、頭にキテ必死になって言葉を勉強したっけ。
友「優しい人だなって思ったから、私は男とずっと一緒に居てさ。そんな中で男が時間渡航者だって知って――」
――そして、悪意ある時間渡航者らの手で離れ離れにされた。
友「そりゃあ最初は、どれだけ離されようとこの力で何度も対処してきたよ。でも、向こうも時間を飛び越えてくるから、だんだん抗い様がなくなって…」
女「…だから、貴方達二人だけの世界を作った…と?」
友「出来なかったけどね…」
いやはやまさか、あの
思い出で作ったチグハグな世界ってのも厄介なもんだよね。
友「だから私は、男だけでも助けたくって、男の
結局は、それも場当たり的な自己満足でしかなかったけれど。
友「とまあそんなわけなんで、私は私自身を消して、男をあの世界に安置する以上の目算は無かったんだよ。」
女「…ですが、この世界に彼は居ないようですよ。」
友「…え」
女「どれだけ《蝶の標本》を捲っても、貴女の彼の事に関しては記されませんでした。」
う、嘘だ!
見せるように《蝶の標本》を構える女ちゃんは、「嘘ではありません。」と言ってその項目を開いて見せた。
見たくないと騒がしい脳に、けれど見なければいけないと強く命じてその中身を見る。
しかし、そこにはちゃんと男の思考が記されていた。
友「な、なんだ…ちゃんとこの世界にも居るんじゃん…びっくりさせないでよ…」
それを目にしても尚、未だにガンガンと早鐘を撃つように警鐘を鳴らす頭は、「見るな」と直感的に告げてくる。
いやいや、男の事が記されてるなら、見るなも何もないでしょうに。
ボク以外の彼女でも出来たのかな?だったら悔しいけども、まぁ幸せに生きてくれてるならそれでいいじゃん。
女「どれだけ待っても、彼の記述が増えません。」
女「彼は既に何らかの理由に因って亡くなられたかと思われます。」
友「あ…」
―…ごめんな、友。―
《蝶の標本》を見れば、記述はそこで途切れていた。
さぁ、ややこしくなってまいりました!
通知が遅れましたが、見直しに割ける時間の都合で、今回より更新時間を0時から1時に遅らせる運びとなります。
申し訳ありません。
でも、僕かて他人様の作品読みたいんや…
※改稿情報
11/13/2016:サブタイトル一部変更。