女「そこまでです、タイムトラベラー!」男「またかよォッ?!」   作:下品な牛乳◆N1RGqRourg

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停止した彼らの世界で。~放たれた彼と彼女と時守の気取り手~

 

 

◇◆◇

 

 

男「―――って!!」

 ドスンっ!と、大きな音をたて、コンクリートの床に顔からダイブした。

状況を把握する為に周囲に首を巡らせようと、砂がチラつく床から顔を上げると――

男「―うぐっ?!」

 ――ぎゅむっ!と頭上から不意に重さがかかり、「あたっ!」という友の小さな悲鳴が聞こえた。

今一度、コンクリートと熱いベーゼを交わし、顔全体がじんじんと滲むような痛さに覆われる。

友「あっご、ごめん!すぐ退くから!」

 そんな焦った様子の謝罪の後、俺の頭からうなじにかけて圧し掛かっていた重さと柔らかさが徐々に浮いていくが、「きゃっ?!」という小さな悲鳴の後、またその重さが戻って来た。

いい加減顔が痛いので、それの抗議も含めて、友を見る為に首を上げようと――

 

女「―ふんっ!!」

 ギリィっ!!

――何かが俺の腰にめり込んだ。

今の声は…女か?!やっぱり友も女も生きて…痛でででででっ!!!

ギリギリと、そのままねじ込まれる様に俺の腰へと沈み込んで行くが、痛みを表そうとも、頭の上にも何か柔らかい物が圧し掛かっていて、起き上がれずに身悶える。

男「―――ッ!!―――ッ!!」

 声にならない叫びをあげて、コンクリートに張り付いた己の顔を、転がす様にして首を動かしSOSを発信する。

友「ちょっ!!動かっ、ないでっ、ひゃっ!!」

女「こォんの変態……いい加減にしなさい!」

 しかし俺の救難信号は、上に乗っているらしき彼女らにとっては挑発行為だったらしく、首の上の柔らかく暖かい、絞殺しに来ているような重さと、俺の腰にめり込んでいる何か…多分誰かの脚が、更に沈んで来るばかり。

くっ!降参だっ!やめてくれ!

白旗でも振ればいいのだろうか?しかし彼女ら相手では、徹底抗戦の意味になってしまいそうだ。そもそも俺は衣類やら何やらはあの嵐の中に吞み込まれてしまったせいか、白旗に出来そうな物は残っていない。ここはやはり首を動かして、頭を振るしかない。

そう考えて、コンクリートの床めがけて、フゴフゴとくぐもった叫びを上げながら、二人とも退いてくれないだろうかと身体を揺する。

友「あっ!いやっ、ちょっ、ほんっ、とにィっ!!」

女「――!!」

 主に腰の痛みが増すだけだった。

首を動かすと一層、腰にめり込んでいる脚か何かが深く沈んで来るので、首から下だけで悶える。

首押さえられると顎が大変疲れるので、友…だよな?多分、首の上の重みは友だと思うのだが、さっさと退いてほしい。

女「…身悶えていないで、さっさと布なり毛布なり用意してきなさい……貴方もこの方も裸同然ではないですか。」

 そう仰るのなら、まず俺の腰にめり込んでいる誰かさんの足をどうにかしてください。

例え「貴方もこの方も裸同然。」だとしても、それならせめて口頭でやり取り出来る様には…―ん?

「貴方もこの方も裸同然ではないですか。」

「この方も裸同然ではないですか。」

「この方も裸同然」

「この方も裸」

 

 裸って俺の頭の上のこの友ですかァッ?!

 

…も、もしかして、俺の衣服みたいに、あの嵐に巻き込まれたから―

男「―ぎゅむっ!?」

 うなじに圧し掛かっていた重さが、頭にも分散した。

友「ぜ、絶対起き上がるな…っ」

 どうやら、友が頭を手で押さえているみたいだ。

でもね、友さん?私も()()()()()より刺激の強い姿等、まだ見れる根性はありませんよ…。

体感時間で、昨日の自室で見た、友のアンダーウェア姿を思い出す。

露出は少ないのに、ボディラインがくっきり浮かび上がっていたせいで…いや、やはりアレも俺には刺激が強い。

友「…って、え?」

 一人、静かに悶々としていると、頭上で友の不思議そうな声が聞こえた。

そうして、うなじと頭の上にあった重さは、ふわりと浮かぶ。

重さが失せても、大事をとって少しじっとしていたが、離れた所から聞こえた友の「おぉー!」という声に、首を上げる。

「ぷへっ…?」なんて、だらしなく息を漏らしながら見上げた先では――

男「――ぶっ!!」

 

――友が、昨日の薄着姿でそこに立ち、自分の体を不思議そうに見回していた。

 

女「……貴方は、こんな時でもその様な想像を致しますか…」

男「えぇっ?!いや!いやいやっしてない!してないからねぇっ?!」

 そこでなんで俺に振られるの?!

女に突然難癖を吹っかけられるが、友のボディラインがくっきり浮いた格好に視線が釘づけられていたせいで、落ち着いて反応が出来ないでいる。

女「ですが実際に、こちらの友さんはこのような格好になっているじゃあないですか!」

男「これ俺のせいなの?!?!」

 確かにさっきチラッと昨日の友のこんな格好を想像したけど!!

 

女「ここは貴方の拓いたパラドックスなのでしょう?!」

男「…あ、」

 

 あぁ、そうか。オリジナルがそんな事を言っていた気がする。

「ここは貴方だけの世界の始まりです。」とか、「その世界で矛盾しない限りの望む物に、時間の流れを与えてゆける」とか。

正直何を言っているのかよくわからなかったのだが、成程、そういう事なのか。

俺が、昨日の友の恰好を思い出したから、友は今こうして薄着をしているのか。

って、いやいや、だったらあの恰好のまま放置するのってダメじゃん!

男「わ、!悪いっ!友っ、すぐに別の格好に!!」

 友自身は、既に見せた俺や、同性の女相手に見られた所で気にはしていない風であったが、俺が気にするので頼むからそんな「なんで?」と言いたげな表情をするんじゃない。

急いで、友のいつも着ていた服を思い出す。とはいっても、制服だが。

友は「親に買って貰ったとしても、時間を跳んじゃえばそれがまるまる無くなっちゃうし…」と、()()()()()()()()()()()

それもあって、俺は自身の能力をあまり使いたくなかったわけだが。

友「お、おぉっ?!―」

 友の身体を、淡く蒼い光が密着するように包む。

それはまるで、幼児をターゲットにした日曜朝のアニメのようで…

友「―ぷ、プリキュ…!」

男「おい」

 戸惑いながら、目の前の不思議現象にぴったりなセリフを即席で放とうとした友を、寸での所で止める。

危ない危ない、いや、違うからね?ただの早着替えだから。うん。

友「でもでも、かなりこれアレじゃない?プリキュ―」

女「―ンッンンッ!」

 たまたま挟まった女の咳払いに、仕方なく言葉を飲み込む友。

うむ、危ない危ない。

唇を尖らせてぶー垂れる友は、己の恰好を今一度見直して、ふわりとスカートを翻しながら、その場で一回転する友。

友「おぉ…そっか、ここは男が辿り着いたパラドックスだから、男がこの世界を変えられるんだ。」

男「さ、流石に俺より詳しいッすね友さん…」

 この道の先達だけはあるが、時々大ポカやらかす友にはあまり頼りたくないな、そばには居て欲しいが。

なんて事を考えていたが、俺も早く服を着ねばと気付く。

友にはまともな格好をさせたとはいえ、俺はまだ全身でコンクリートの感触をダイレクトに受けていた。

男「…おや?」

 これはもしや…好きな格好になれるのでは…

そう考え、いつもの冷たい蒼い光を全身に纏いながら立ち上がり、俺がそれを着ているイメージを強く持つ。

俺はつい先日生まれたばかり…これはもう改造人間とかそんなものに類するのでは…?

…クックック…男の子のロマンを叶えて見せようじゃないか…

身にまとった光が四方に散る間を狙って…――

 

男「――ライダー…変・し」

 

女「ンンッ!」

 あっ。

ノリノリのタイミングで咳ばらいを挟まれ、せっかくイメージしていた渋い色合いのバッタ怪人が霧散し、瘦せこけた営業マンが人知れず咳をする様を連想してしまう。

そして、そんな俺の纏っていた恰好は…

友「スーツ?」

女「…くたびれてますね」

 誰のせいだ、誰の。

はぁとため息を吐き、前の開いたジャケットをボタンで閉める。

己の手を見て、腰を見て、足を見るが、全体的によれよれであり、仕事疲れのサラリーマンと言った感じだ。

友「…なんか、似合ってるね」

男「うぉい」

 嫌だよこんな薄幸そうな格好が似合うなんて。

女「色んな人に振り回される中間管理職の空気が自然と漂ってきますね。」

男「うぉ~い」

 服装を認められれば認められる程居心地が悪くなるという、おかしな状況に苛まれ、慌てて俺も学校の制服に姿を変える。

友と違って、()()()()()()()()()()()()()()、友の姿に合わせて俺も制服を着る事にした。

友「で、さ。」

 俺が着替え終えたタイミングで、友が此方を窺って来る。

「うん?」と声を掛け、言葉を待つ。

友「さっきのって、何?」

 そう言って、今しがた俺がしていたバッタ怪人2号の構えを見よう見まねで真似する友だが、何故かその構えは黒い太陽の子の物だった。

いや、伝説の戦士を知っていて、何故同じ会社の実写作品の方を知らないんだよ…。

男「特撮だよ、日曜の朝に一緒にやってるやつ。」

友「あ、そうなんだ。最近のしか知らないからわかんなかったや。」

 たははと笑い、「で、どういう玩具使うの?」と、見様見真似の構えのどこにどんな玩具が必要なのか訊いてくる友。

今訊く事か?と思いつつも、昔のそれらはベルトがあればそれだけでよかった事を、身振りも交えて教えておく。

友「ほぁぇ~」

 なんて、気の無い相槌を呆けた顔で打つ友は、しばらくしてから「う~ん」と唸り出した。

男「…どうした?」

 動いたせいで少しずれた制服を正しながら、友へと訊ねつつ寄って行く。

どこか調子でも悪いのだろうか?

男「さっきの嵐に巻き込まれて怪我でもしたか?」

友「うん?いや、そうじゃないんだけどさ…」

 答えはするけれど、相も変わらずうんうん唸り続け、少ししてからポツリと疑問を零した。

友「なんで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。って…ね?」

 

男「あ、ホントだ。」

 

 言われてみれば、俺は3日前に友によって作られた存在で、知識は外見相応でも3日前以前の記憶は無く、あったとしてもソレは膿が患部から垂れるように、後から後からうじゃうじゃと湧き出した偽物の記憶だった筈で、その記憶も殆どが友だって知っていそうな事ばかりで、知らないであろう事と言えば、友が消えてから世界が希釈し矯正してきた記憶くらいなものだ。

今覚えている記憶はそれらのどれでもなく、強いて言うなら友との記憶にやや近いが、植え付けられたモノとは違って拒否感や嫌悪感がわかない記憶ばかりなのだ。

3日前以前から友と関わっていた記憶が確りとある。

友「それに、ボクも記憶が希釈される所か、男が居なくなった世界で過ごした分増えてるんだよね…」

 「ボクって考えるのは苦手なんだけど…」と友は女に視線を向けるが、女はそれに静かに首を振るだけだ。

それを見た友は「だよね」と苦笑し、たははと頭を掻きながら考え込んでしまう。

いつの間にか、友の一人称が普段の「僕」に戻っていた事に気付き、落ち着いた様子の為少し安堵する。

友「……あ、そうだぁ~」

 にやりと厭らしい笑みを浮かべ、両手をまごつかせながら俺に近寄ってくる友。

男「な、なんだよ…」

 この友の笑顔には、あまり良い思い出がないので、手身近に済ませるか遠慮するかしていただきたい。

出来れば後者。

友「ボクがどうして自分のことを”ボク”って言うか…覚えてるぅ~?」

男「なっ!お、おまえっ!忘れろって言ったろ!!」

 しばらく前、友が読み物に感情移入し過ぎて自身の事を、その作品に出てくるキャラクターの一人称である「僕」で呼び、慌てて口を閉じて必死に訂正する友につい「その言い方かわいい」なんて口をついて出てしまった事を、友はこうして今でもたまに弄って来るのだ。

 

友「ほぉ~!!覚えてるんだ!」

男「た、たまたまだ…たまたま――」

 ――あれ?…

…確か、昨日一昨日辺りに似たような事訊かれた時は、全然思い当たる事が無かった…のに。

 

友「…実はね、ボクはあんまり覚えてないんだ……」

男「えっ」

 じ、じゃあ恥ずかしがり損じゃねぇか!

友め…成績良いだけの馬鹿かと思いきや、鎌掛けなんて覚えやがって…!

友「ただ、男の為ってのは覚えてたんだけどさ…」

男「……」

 「おっかしぃ~なぁ」と嬉しそうに呟く友に、「コイツは将来ナチュラルな悪女になりそうだ」と人知れず不安を覚えたが、そもそも考えなしに動いて世界を分岐させる時点で、極悪である事に思い至った。

 

俺は《閻魔帳》越しのオリジナルとの話を思い出していた。

 

―彼女はどうやら、貴方を助けたかったのでしょう。―

―箱庭の様な永遠の時間に閉じ込めてでも…ね。―

 

男「……」

 己惚れても、良いのだろうか。

俺では友の求める男にはなれないと、勝手に諦めていたけれど…

 

―今の貴方は確かに全ての”男”と深いところで繋がっています―

 

男「あぁ、そうなのかな……」

 

友「あ、ひどい。今馬鹿にした?」

男「えっ?あ、いやいやそういう意味で言ったんじゃないぞ!」

 友の言った「おっかしぃ~なぁ」に対する「あぁ、そうなのかな」ではないから!決して!

 

女「…私だけ場違いな気がするのですが。」

 女は、《閻魔帳》に話しかけていた。

 

◇◆◇

 

 パンッと手が打ち合わさり、場の空気が引き締まる。

 

男「さて…それじゃあ、俺の知らない話をしてもらおうか。」

 そう言って、私と女ちゃんを逃がすまいという目で見る男。

あぁ、やっぱりそっちの話になっちゃうよね…

男「和気藹々とした雰囲気でも誤魔化し切れないからな?」

友「うぐっ」

 やっぱ逃げ腰なのバレますか…

女「それは私も気になりますね。貴女は何者ですか?」

 女ちゃんも、いつもの眠たそうな瞳をまん丸にして私に食いついてくる。

勢い余ってか、手を取って嬉しそうに握り締められているのだけど、「はっ!?」その手に自分で気付いた後に、女ちゃんは世界の終わりみたいな顔をした。

男「?なんか察しがついたのか?」

女「いえ、貴方とはじめてあった時の事を思い出しまして…。」

 そう言いながら、女ちゃんは名残惜しそうに私の手を放した。

えっと、何の話だったんだろう。もう話した方がいいのかな?

 

友「た、たははっ…えと、じゃあ話すね…」

男「あぁ、頼む。」

 そう言った男の真剣な眼を見て、逃げる事は諦めた。

両手を後ろ手に組み、どこから話そうか悩む。

友「まず、私の正体はね、男と同じ時間渡航者(タイムトラベラー)なんだ。」

 女ちゃんはモチロン、男も察しがついていたようで、ただ一つ頷いた。

そして、私にとっての、全ての始まりを話す。

友「それでね…さっき、男が助けてくれた女の子は、私」

男「………」

女「っ!!」

 男はまた一つ頷いてみせたけど、その横に立っていた女ちゃんが大きく身を揺らして驚き、男もそれに視線が釣られる。

女「そんな……そんな筈は…」

 狼狽する女ちゃんに、男は訝し気だ。

女「そんな筈はありません!だってあれは――」

 《蝶の標本(バタフライ・サンプル)》を強く抱き込んで、振るえる喉から声を振り絞る。

女「――あれは私なんですからっ!!」

男「えっ」

友「………」

 

 こうなる事がわかっていたから、私はあまり話したくなかったのだけど――

 

友「うん、そうだよ。……アレは貴女であり、私でもある。」

 

 ――でも、ここまできて何も知らされないっていうのも、私だったら耐えられないだろうから、私は伝えなければいけない。

薄く笑んでみせて、言葉を続ける。

 

友「出来るだけ、話すよ。」

 

 

 





 次回、謎解き編。
最早今更ですが、最初のINTERLUDEの意味が明かされます。
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