女「そこまでです、タイムトラベラー!」男「またかよォッ?!」 作:下品な牛乳◆N1RGqRourg
友「うん、そうだよ。……アレは貴女であり、私でもある。」
薄く笑んでみせて、言葉を続ける。
友「出来るだけ、話すよ。」
男「まっ、待った待った!!それじゃあ何か?!お前とコイツは、同じだって言いたいのか?!」
慌てて、私に言葉の真意を訊ねる男。
そして、私と同じであるという、自覚も記憶も無いらしい女ちゃんは「そんな馬鹿な話が…」と否定しようとするけど――
友「うん、そうだよ。」
女「っ…!」
――こうして肯定すれば、言葉を飲んで話を聞くしかなくなる。
友「言ったでしょう?私は
だからこそ、容易に世界に矛盾を与えられるし、世界を分岐させてしまう事だって出来る。
友「私が分岐させた世界には、私と男以外の時間渡航者は要らなかったんだ…。」
女「…どういう、ことですか…。」
怯えてしまった様子で、絞り出すように訊ねる女ちゃんに、申し訳なく感じながらも話を続ける。
友「…未来ではね、私と男は、どうしてもずっと一緒には居られなかったの。」
未来と言っても、この時代から見た話であり、私からすれば過去なのだけど。
友「他の時間渡航者に離れ離れにさせられちゃったから…」
どうにも、他の人達にとって男の
私が人質にされた時は、男がその組織を結成出来なかった世界に塗り替えたり、時には傷つきながら助け出してくれたりもした。
でも切りがなかった。
友「…だから私は、誰にも邪魔されない世界を作ったの。タイムパラドックスを起こして。」
本当は、この時代に高校生の私なんて居なかった。
だって私はただ、あの時代から私を助け出してくれた男と一緒に居たかっただけだし、一緒に居なければいけなかったから。
男に助け出されて、少しの間男の目の届かない所で、孤児として過ごして居た時に出来た友人達は、
あの当時、私は男の能力を受け継いでいた事を知らなくて、自覚も出来ていなかったから、何も知らない間にその友人達と交友を結ぶ前の時間に跳んでしまっていたらしい。
そんな、突然全員に忘れられて誰も私を知らない世界で一人、他人を求めて昔の友達を尋ねて彷徨っていた私を見つけてくれたのも、やっぱり男だった。
《
「本当は、もっと早くに気付いてこうしてやるべきだった」と、私を抱きしめて、うわ言のように「ごめん、ごめんな」と繰り返した当時の男が、どうして泣いていたのかはわからない。
けど、それでも私の為に私を見つけてくれた事だけは確かだったから、感謝を込めて、その彼の涙を貰ったハンカチで拭った。
そして男は、男と同じく特殊な能力を持った私を、悪意ある連中から守る為に色々と生活の伝手を用意してくれた。
義理の親として老夫婦に迎え入れられた事も、学校まで男に送迎された事も、たまに博物館や遊園地等に遊びに行った事も、よく男と一緒にした食事も、私にとっては特別な思い出だったけど、結局それも長続きしなくて、今度は他者の手でその日々を壊された。
男を奪われるという形で。
私はその時も、男に助けられるばかりだった。
友「…何度も男に助けられた時、その思い出を守りたくて、その時代に戻って男を捜した、――」
今度は私が男を助けようと、色んな本を読んで言葉や戦い方を勉強した。
そして男が私に託した《蝶の標本》を使って、まだ他の時間渡航者からの襲撃が本格化する前の時間に戻って、男と私を守る為に暗躍した。
それが、
友「――その思い出が、私の思い出で作った世界を壊す切欠になるなんてね……たははっ…」
結局、多少力をつけただけの私では、男も私も守るなんて芸当はついに叶わなかった。
だからこそ、私は世界を分岐させた。
男と私しか居ない、自分を慰める為だけの世界に。
そんな世界も、私自身の思い出で破綻した。
あの
以前の、男を矛盾の中から決して救い出せなかった世界とは違って、私が一番最初に女ちゃんだった時は、何を守ろうとしていたのかはハッキリしていたのに、今私の目の前に居る女ちゃんは、男の事をよく知らないように見える。
女「わ、…私は…悪者ですか…?」
私に「私と男以外要らない」と言われて怯えてしまっていた女ちゃんは、今度は悲しそうに視線を落としてそう言った。
あぁ、違うの、違うんだよ女ちゃん。
友「違うよ、悪者なんかじゃない。」
貴女は悪者でも、不要な存在でもない。
女「そう、なのですか…?」
友「貴女はあの世界に絶対必要だった。でなきゃ、私も存在できなかったかも知れないし。」
心が折れてしまって、過去の思い出に縋りつくしかなかった、そんな私の始めた世界だ。
いつかは必ず女ちゃんも、もっと昔の私も紛れ込んでいただろう。
友「それに、貴女は悪い事なんか何もしてないし、人に怒られるような事も、自分に怒られるような事もしてないよ。」
寧ろ、あの蒼い嵐の中へ入る手助けをしてくれた事に、感謝してもし足りないくらい。
友「…ただ、自分を助けてくれた人を、思い出を守りたくって、一生懸命だっただけだもん。」
女「っ…!!」
やや俯いていた女ちゃんは、思う所があったのか顔を上げて私と視線を合わせる。
そして、その顔を見て気付く。あぁ、そうか、そうだよね。
友「貴女が今泣きたいのもわかる。ずっと捜していた人が見つかったんだもんね。」
女ちゃんは、私の男を守りたいという気持ちと思い出で、あの3日だけの箱庭の世界に現れた子だ。
けど、あの世界にはそれより前の、少女としての私は居なかった。
だから、女ちゃんは誰かを何かを守りたいと思っていたのに、それが誰で何なのかはわからなかったのだろう。
けど、今、ようやくそれを見つけたんだ。
そんな折に、世界を作った存在に「私と男以外要らない」なんて言われたら、そりゃあ怖いよね、怯えちゃうよね。
でも、そうじゃないんだよ、私は、貴女を認めたいの。
「よく頑張ったね」って、「寂しかったよね」って。
だから私は、目の前に居る女ちゃんを迎え入れたくて、腕を広げる。
それを見た女ちゃんは、そろそろと確かめるような足取りで近付いてきて、顔を伏せて腕の中に飛び込んだ。
ふわりと風に躍ったその真っ直ぐな長髪は、前の世界の私とは違ってよく手入れされていた。
女「…っ、舐めないでください…あんな変態にっ、かんしゃなんてっ、…」
助けてくれた事にお礼を言いたいんだよね、わかるよ。
女ちゃんの背中に腕をまわして、大事そうに抱えられた《蝶の標本》ごと抱きしめる。
女「…貴女の考えている通りだなんて…いくわけっ、ないじゃないですかっ……」
そうだよね、私、ホント馬鹿な事してたよね。
でも、お陰で今こうやって貴女を認める事が出来るの。だから許して。
女「…貴女の、辛さも、少しだけ…わかります…」
腕の中で、震えて声を出していた女ちゃんが、不意に静かに語りかけてくる。
その雰囲気の変化に、少し思考が固まってしまい、言葉の意味を一瞬捉えかねた。
女「私よりもずっとっ、もっとずっと、数え切れないぐらい……いろんな時っ、間を…彷徨ったんですよね…?」
友「なん…で」
なんで、そんな事がわかっちゃう、かなぁ。
私は確かに、数え切れないくらい、あの男のいない時間をやり直したし、男が居るのに守り切れない時間も何度もやりなおしたけど、私のそれは褒められた事じゃないから、出来るなら隠しておきたかったのに…
女「あの、愚鈍の代わりに…私っ、が、褒めて…差し上げますっ。」
私の背中に女ちゃんの腕がまわり、女ちゃんの部屋でのようにポンポンと叩いてから、ギュッと強く抱きしめて撫でてくれる。
友「っ…!」
駄目だよ、こんな、こんな風に認められる事、私はしてないのに。
視界が滲むので、景色を見ないよう女ちゃんの肩に顔をうずめて、その体を強く抱き返す。
私があの箱庭の世界に求めたものが、その世界の外でこうして得られるなんて、なんて皮肉なんだろう。
女「…きっと、この言葉と、この行動は…貴女の為に、私の為にっ、あるんです…」
視界を覆う暗闇の中、その言葉と、頬をつたう滴と、腕の中に確かにある体温を感じる。
女「…貴女は、頑張りました。……よく、頑張りました…」
まだ、何も解決なんてしていないのかも知れない。
けれど、あの時間軸矛盾の嵐の中に囚われた男をこうして助け出せた事は、私が十数年かけてやっと到達できた一つの結果で、それを、その半生を、認めて貰えたみたいで…――
友「――ありがどうっ!!気付いでぐれでっ!!!!」
私が、心の奥でずっと求めていたのは、男の存在だけじゃない。
私がしている事を、疑うだけでなく認めてくれる私自身の存在なんだ。
女「…あだりま゛えでずっ!!」
私は、男を失った世界を、男を失ってゆく世界を、何度も何度も経験した。
諦めがいつも心の中にあった。
けど、こうして――
女「あ゛なだはぁっ、わだじなんでずがらぁっ!!!」
――私を認めてくれる私自身を、やっと見つける事が出来た。
学校のピロティに立ち、友と女の二人が落ち着くのを待ちながら、少しでも今の情報が欲しくて、環境音が聞こえないか耳を澄ましていた。
まだ訊いていない事について考えても、妄想が膨らむだけで得にはならなそうだったからだ。
やがて、先に落ち着いた女の方が口を開いた。
女「……ふぅ…申し訳ありません、貴女が独りで泣いているイメージが突然浮かびまして、つい、悔しく…」
俺と友に頭を下げて、《閻魔帳》を抱え直す女は、顔を上げてその赤らんだ表情を見せる。
女「それに、とても久しく、家族の温かみに包まれたような気がして。」
女も、あの女の子だったとしたなら、俺の見た夢の通りなら、他の家族はもう…
男「ん?そういえば、女はあの世界でどうやって生活してたんだ?」
友と同じ家に住んでいたと言っていたので、あの両親の下で暮らしていたのだろうが、学校はどうしていたのだろう?
そう疑問に思って訊ねると、「そうですね…」と前置いて答えた。
女「小学校に通いながら、休み時間の合間に貴方にコンタクトを謀っていました。」
男「?!」
しょ…小学校……?
答えながら、友の横に並ぶ女だが、その身長差は友とあまり変わらないので、小学校に通っていたと聞かされても、信用できない。
友「たははっ、ボクって高学年くらいからあんまり身長変わってないんだ…」
小さい事を気にしていない風だった友が、珍しくピシッと姿勢良く立つ。
そうすると確かに身長差はあれど、やはり女が小学生などとは思えない程度の差だった。
女「シークレットブーツも履いていますからね…。」
そう言って、ブーツのファスナーを下ろして、片足ずつ脱いでゆく女。
その際、友がさりげなく手を貸して倒れないようにしている。
ブーツを脱いで、コンクリートの床に靴下だけで立った女は、確かに発育の良い小学校高学年の女児と言われれば納得する程の身長だったが…そうすると今度は友の身長の低さが目についた。
友よ、本当に高校生か…?
友「なーんか、ボクって1次成長期以降の発育がよろしくないんだよねぇ…」
男「…こうして見ると、双子って言われても納得できそうだ。」
多少の身長差はあれど、よくよく見ると目つきと髪型が違うだけで顔の作りは同じだった。
女「お姉ちゃん、とお呼びすべきでしょうか?」
俺の言葉に、ふざけてかそんな風に乗っかる女。
それを聴いた友が二人して向かい合い、はにかむ。
友「是非。」
女「お断りします。」
期待し過ぎな友をきっぱり、バッサリ切り捨てた。
友「なんでぇ!?」
女「貴女を未来の私だと認めるには抵抗があります。姉と慕うにも同様です。」
友「ボクの時は「お義姉ちゃ~ん!」って擦り寄ったのにぃ……」
女「―呼びません。」
ほくそえみながら、慌てふためく友をあしらう女を見ているが…
男「…どっちが姉なんだか…」
友「そゆこと言うなよなぁ~義妹からの株が下がるだろぉ~」
女「たまに会うホームメイト程度にしか面識も無いので、元々そんなにありませんが…」
何がどうなって女からこうなったんだか…
男「さてっ!友!」
友「あいっ?」
女の腰に縋りついて、「ブーツが履けないから」と引き剥がされている友だったが、俺の言葉に動きを止めて此方を見る。
その間に女は黙々とブーツに足を通している。
男「次の質問だ。」
一番気になっていた事を訊ねよう。
多分、これが俺の生まれた理由にも繋がる気がする。
友「あぁ……うん…。」
友は、観念したように女から俺に向き直り、両手を身体の前で合わせる。
ごまかしきれ無かった事が不満なのか、苦い表情をしていた。
男「あの
次回は、2つ目のINTERLUDEの意味を紐解いていきます。