女「そこまでです、タイムトラベラー!」男「またかよォッ?!」   作:下品な牛乳◆N1RGqRourg

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時間軸矛盾の嵐の外へ。

 

 

◇◆◇

 

 

 華奢な拳を正面からまともにくらい、暫く瞳の中で星が瞬いた後、化石展の会場に幾つか設けられた長椅子に腰かけ、壁へとその背中を預けて唸る。

隣に座って腰に抱き着いてくる友は、心配してか見上げる様にして、俺の顔を覗き込んできた。

明滅していた視界から来る嘔吐感や、痛みに唸っているのではなく、今後の事について思い悩んで唸っているのであり、そんな友の心配は無用なので、口端でニヤリと笑んでみせる。

ソレを見て何か納得したのか「なるほど」と微笑みを返して、再度俺の腰、脇腹辺りに顔をうずめてグリグリと頭を押し付けてくる。

痛いから、友。考え事に集中出来ないから…。

地味な痛みにも併せて唸りつつ、はぁと溜め息を吐くが、その声が別の方向からの声と重なる。

其方に顔を向けると、《閻魔帳》を横手に携えもう一方の手で額を抑えながら「やれやれ…」と首を振る女が正面から歩いてきた。

 

女「男さん…気持ちはわかりますが、いい加減世界を動かさないと……」

 女の至極最もな意見を聞き流し、俺はただ唸り続ける。

確かにその通りなんだが、しかしなぁ…

悩む俺の脇腹から、地味に痛かった友の頭が離れて行き、女と向き合う。

友「ん~…私はこのまんまでもいいかな…やっと男とずっと一緒に居れそうだし。」

 友のとても魅力的な提案も聞き流し、尚も俺はうなり続ける。

ソイツは確かに素敵なアイディアだが、しかし今目の前で苦い表情を見せている女を、そんな退廃的な俺達に付き合わせるのもなぁ…

泣き乱していた女を宥めた時の文言もあるし、コイツを此処に留めるのは酷な事だろう。

なんとか向こうの俺と会わせてやりたいが、果たして女はこの調子で大丈夫なのだろうか?

 

当人は動かない世界に対する焦りもあるのか、将又(はたまた)さっきまでの気持ちの乱れを引きずっているのか、声を荒げて友へと噛み付く。

女「それでは未来を見れないではないですか!」

友「いいよ、未来なんて。行き着く先はどうせ死んだ目の人ばっかなんだから…」

 対する友は、余程未来に希望が持てないのか、この止まった世界で微睡む事に拘っていた。

世界を動かすにしても、今の友のままでは俺に何かあった時にまた挫けてしまい兼ねない。

せめて未来に繋がる希望を持って貰って、更にはもっと身近な人間に頼るという事を覚えて貰わないと。

男「う~ん…」

 難しいよなぁ。

女「貴方がわざとらしく悩んでいるから急かしているのに!」

友「このままでも良いけどさぁ…そこまで大仰に悩まれるとやっぱり焦っちゃうよぉ…」

 二人の事で悩んでいたのだが、当の二人によって怒られてしまう。

男「いや、そうなんだけどさ。」

 正直どちらの意見も取りたいから、頭を悩ませているのだが――

 

――いや、俺が勝手に二人の気持ちを代弁するつもりになってどうする。

俺はそんなに立派な奴じゃないし、何より例え立派な奴であっても二人の人生をコントロールする権利なんか二人自身にしかないんだ。

他人の人生の何かの切欠になるならまだしも、それを超えて他人に影響しようとしてどうするんだ。

俺が背負えるのは、まだ俺自身だけくらいなもんだ。

選ぶにしても、動くにしても、俺自身の理由で動くべきだ。

例え失敗したって、二人に頭を下げて己の責任すら連帯させる様じゃあ駄目なんだ。

俺は今、俺の理由から逃げたくて二人を理由にしようとしていた。

俺自身が目を背けたがっている理由と言ったら、アレしかない。

男「…過去がこのままじゃあ、納得いかないんだ…」

 まだ確証は無いが、俺がいつかあの(ケダモノ)みたいに成ってしまうのは、時が来るなら仕方ないのかもしれない。

けれど、だからって友や女の家族を――

 

――それだけで済むのか?――

 

男「――…っ」

 

 それだけじゃあないかも知れない。友や女の家族だけでは済まないかも知れない。

あの時代に野放しになっていたって事は、他にも色んな人を…

女「もうっ!お二人は勝手にしていて下さい!!私一人でも世界を動かしてみせますからね!!」

 考え込んでいると、しびれを切らした女がそう言って《閻魔帳》を開き、しばらくページを捲ってから俺に吼えた。

女「《蝶の標本(バタフライ・サンプル)》ですっ!!」

 やっぱりお見通しなんですね…。

俺が《閻魔帳》と認識しているのがどうも気にくわないらしい。

何?その本、完全に私物化するの?

女「当たり前です。これを手放すつもりなどまったくありませんから…ね……?」

 得意げに言う女の言葉は、やがて小さく萎んでいった。

その言葉のトーンに合わせて、本に落としていた視線がゆっくりと下がって行く。

女「え~と…すみません、お二人とも。少し集まって下さい。」

 何が記されていたのか、控えめに俺達を呼び寄せる女に、友と見合ってお互いの頭に「?」を浮かべる。

二人で素直に立ち上がり、言われるままに俺は女の所へ寄って行く。

しかし友は俺の腰にしがみ付いたままなので、背中に引き摺っている。

「何かあったのか?」と訊ねながら、女が持っている本を後ろに回って覗き込む。

女「いえ…あちらの世界の男さんが皆さんを集めるようにと…」

男「?!ま、まだ何かあるのか?!」

 女の言葉に、慌てて覗き込んだページの記述を視線で追う。

今正に、新たな記述が浮かび上がるところであった為、その点に注目していると――

 

―やぁ!―

 

 ――ずいぶんと軽快な挨拶をされた。

ついつい「えっ…誰…?」と言葉が洩れる。

えっと、向こうの俺に呼ばれた…ん、だよな?

 

―失敬な。驕りでなけりゃ、お前にパラドックスの中で指針を与えたと自負しているんだが?―

 

男「いや……ほんと誰だよ…」

 以前とキャラが違いすぎる…。

 

―まぁ、こないだのアレはね。初めて接する相手にはあぁいうペルソナを使う訳よ。―

―敬語って便利だろう?―

 

 …確かに、凄まじい二面性を感じるから、使い道はあるんだろうけれども――

男「――あれは敬語…だったのか?」

 

―お前さんは細かいな。生まれてすぐ思春期かい?―

 

男「ウッセー!!」

 俺の素朴な疑問に対して、袈裟斬りによる致命的な切り返しが為された。

前も思ったけど、ズバズバ物を言うよなっ!

女「あぁもう…落ち着いてくださいよ…。」

 いつの間にか俺一人で握り締めていた《閻魔帳》を、女が引っ手繰る。

自覚無くそうしていた様で、女に取り上げられた際に「あっ」と声が洩れた。

さっきまで憤慨していた女に宥められるなんて…

女「似た者同士で何を言い合っているのやら…」

 ソレを言わんでくれよ。

友「ここに居る人みんな似たり寄ったりだけどね」

 お前はいい加減、俺の背中から離れて《閻魔帳》を読め。

 

―さて!皆集まってくれたみたいだし本題言うかね―

 

 友に首を向けていると、女にトントンと《閻魔帳》を指で叩かれて其方に視線を戻す。

そのページの中で、向こうの俺と思しき男が言葉を並べ始めた。

 

―そろそろ、そっちの俺に答えを出して貰いたいんだがな。―

―俺にも無関係な話じゃないし、悩んじまうのは(わか)っけどさ?時間が止まってるのはそっちだけなんでよ。―

―早くしてくんないと、こっちから過去に干渉していくぞ。―

 

女「………」

 其処まで読んでか、女は俺に振り返る。

恐らく、判断を訊かれているのだろう。

しかし俺はその視線には応えず、「えっとさ」と前置いてから、感じた疑問を口にする。

男「そっちから干渉して、こっちに影響はあるのか?」

 

―あるよ―

 

男「えっ」

 向こうの俺からの返答は即座なもので、そして俺としては意外なものだった。

呆けてしまったが、《閻魔帳》には「必ず、とは言い切れないがな。」という捕捉が続いた。

女「…それは、どういった理屈で仰っていますか?」

―まず最初に女ちゃん、ごめん。勝手にキミの昔の事読ませて貰った。―

 

女「…それは構いませんが、…彼の(ついで)に生まれた様な私に、有用な過去があるのでしょうか?」

男「……」

 切ない言葉に反応しそうになったが、本人が気にした素振りを見せない為、俺も何も反応は示さない。

そうして注視したページには、予想外の事柄が記された。

 

()()()()()()()()()()()()()。―

 

女「?!」

男「?!」

 女と二人、少し強張る。

それを感じ取った友が、腰にしがみ付いたまま不思議そうに俺の顔を見上げてくる。

女は、異世界の俺に接触した事があるのか?!

いや、友の思い出で作られたって話だから、ありえなくも無いのか…

女の過去なんて、未来の俺らしきものに喰われかけたって事しか知らないし…

女「…私が…貴方と…?」

 しかし、当の女には心当たりが無いようだ。

これはどういうことだ…?

 

―…正確には、俺に会った事があるっていう記憶が混ざってる筈なんだ。―

―…君は昔、友達に自分のことを忘れられていて泣いた事は無いかい?―

 

女「!!」

男「……!!な、なぁ!それって、俺が夢で見た記憶じゃあ…」

 その話には覚えがあった。

なんせ、俺がパラドックスに突入する2日前に見た夢で、似たような景色を見たからだ。

…い、いや、でもアレはブーツを脱いだコイツよりもっと小さい女の子だったし…

 

―言ったろ?今のお前は、全世界の男と深いところで繋がってるんだよ…―

―今、お前さん単体で『閻魔帳』に情報を並べても、以前と比べてかなりの量になるんだ。―

 

 そ、そうか…俺が夢で見た景色は、全部オリジナルの記憶なんだ…。

 

―それはともかくとして、…女ちゃん、どう?―

 

女「あ、はっはい。昔、この時代…この世界ではないと思いますが…――」

女「――この時代で暮らしていた時、何度か友達に私の存在を忘れられていた事が、確かにあります…。」

女「…そうして泣いている時に、見覚えのある人に慰められた記憶もあります…」

 そう言って女は、スカートのポケットから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

―うん、その時声をかけたのは俺だよ。―

―こっちの世界で、俺がこの時代に連れてきちまった女の子でね…―

―傍に居ただけで時間跳躍の能力を身につけたってそちらの彼女さんの話を聞いて、もしやってね…。―

 

 そうして名指しされている友は、女の取り出したハンカチを見ていた。

友「借りたり返したりを何度か繰り返してた奴だよそれ」

 

―と、いうことは、だ。―

 

 もったい振る様に、そう前置きをされる。

この後、俺に話を振られるのは察している。

 

―そっちの世界のことは存外俺に無関係じゃない。―

―お前が動く気が無いっていうなら、俺だけでも過去を変えさせてもらうぞ。―

 

男「ま、待てよっ!なにもそこまで焦って過去を変えることは―」

 

―まだそんな腑抜けた事言ってんのか?―

 

 突然、向こうの俺の口調が、激情を抑え込んだような口調に変わる。

 

―お前はいつの日か、遠い過去でその友さんとやらの家族を食い殺したいのか?―

 

男「っ」

 

―そうして最後には、過去の自分に因って更なる過去へと飛ばされて。隕石衝突っていう想像も出来ない様な苦痛を味わうんだぞ?―

 

 想像も出来ない様な苦痛…

生物大絶滅の始まりである地獄の事だろう。

 

―下手してみろ。もしかしたら遺伝子の記憶とやらにもその地獄が刻み込まれていて、火の海の中死ぬ事も出来ずに彷徨うかも知れないんだぞ。―

―そうしてからがら生き抜いた先で、また別の人の先祖を喰らうんだ。―

―そんな化け物を、今この時も過去に放ったままでいいのか!―

 

男「それは…嫌だ…」

 正直、隕石の直撃を受けて生きているっていう想像はしなかった。

でも、ありえるんだ。

自分の中の、迷い決めかねていた問題を、解決へと踏み込む決心がついた。

男「…新しい世界を始めて、出来るだけ自然な世界を作ろうかと思った…」

 女を見る。

《閻魔帳》を持っていない方の手で、ハンカチを握りしめて俺を見ていた。

男「…もしくは、自分だけが幸せな、楽園みたいな世界を始めようかとも思った…」

 腰にしがみ付いたままの友を見る。

俺と目が合うと、薄く微笑んだ。

 

男「そのどちらも、…始めるにはまず過去の俺をどうにかしないといけないんだっ!!」

 

―ようし!よく言った!!―

 

―そこで俺に考えがある。―

 

 こうして、俺達二人の「打倒!未来の俺作戦」が始まった。




 

 添削中に寝落ちしたので遅れました。
ごめんなさい。

次回はオリジナルを挟むか否か検討中です。
挟まなければ参章は今回の噺でお終いとなり、次回の更新は最後のINTERLUDEとなります。
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