女「そこまでです、タイムトラベラー!」男「またかよォッ?!」   作:下品な牛乳◆N1RGqRourg

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INTERLUDE
~そして始まりは終わる~


「困ったな……」

 

 一国の主が突然、そう漏らした。

口の堅い彼にしては珍しい事である。

そんな彼が人前で弱音を吐く事態が特に、誰にとっても予想できない事だった。

横に居た俺は、彼の言葉に唯有体に返す。

「左様で御座いますね。」

 その言葉を聞いているのか否か、反応を示す事なく、机の上に広げた書類を見てから頭を抱える。

彼が頭を抱えたという事は、いよいよこの国は終わりなのだろう。

史実通りに事が進んでいる証拠であった。

「君の意見を聞かせてもらえないかね…」

 此方を見る事無く彼は俺に訊ねた。

「議会を開くべきでは?」

 其れに因って、数年後に此の国は終る。

そうして、境無き自由な世界が始まるのだ。

 

遠い昔、ある組織が決起して、世界中に「自由」という言葉を訴えた。

遠い昔、ある組織が決起して、世界中にプロパガンダを訴えた。

数千年にも及ぶその組織の尽力と「自由」という御旗の元、悪法は破壊された。

数千年にも及ぶその組織の暗躍と「自由」という御旗の元、世界は破壊された。

言語統一、思想統一、収支統一を布いた事に起因し、

言論規制、思想弾圧、差別撤廃を布いた事に起因し、

各地の特色に合わせて迎合し踏み躙られていた民族は惜しくも死に絶えてしまい、

各地の特色に合わせて進歩し強く生きていた民族は目論み通り死に絶えてしまい、

現存していた人間は皆、数千年前に決起した組織の御旗を心から迎え入れた。

現存していた人間は皆、数千年前に決起した組織の御旗を心無く迎え入れた。

虐げられた者達の開放を掲げ、世界中に拡がった彼らはやがて、

能ある者の粛清を掲げ、世界中に拡がった彼らはやがて、

世界を動かす要人にまで上り詰める。

その内数人の賢人に依って、1つの画期的な教育が始まった。

その内数人の俗物に因って、1つの脅威的な洗脳が始まった。

一部地域で始まったその教育制度は、やがて世界中で採用され、

優秀な人材を際限なく世に送り出した。

優秀な機械を際限なく世に送り出した。

そうした世界に最後まで抗った戦争主義者達の頭として、一人の愚か者が戦争を煽った。

そうした世界に最後まで残った国の頭として、一人の闘う者が立ち上がった。

 

その愚か者は禁忌を犯し、戦争主義者らと共に滅するという…

その愚か者は世界を憂い、一部の者に煽られ共に滅するという…

 

そう、こうしてこの国は終わるのだ。

自身が教わった歴史を頭の内で反芻していると、頭を抱えたままの彼が少しだけ顔を此方に向けて語り始めた。

「…本音を言えば、私は自分の欲の為にここまできた。」

 眉間の皺はより一層深く、しかしそれでも喜怒哀楽の伺えない表情で俺を見る。

「だがな…私には、妻にはこれから子供が産まれるんだ…」

 その視線は俺を試している様だった。

無難にこの国の風習に合わせて「おめでとうございます」と返しておくが、俺としては何がおめでたいのかはわからない。

何を期待していたのか、彼は鼻で笑って俺から視線を外す。

「心にも無いことを…その子供だがな、流石に自分の子とあっては可愛いものさ。甘やかしてやりたくなる。」

 何故そう思えるのだろう。

一人を甘やかすなど、差別を生むというのに。

「…けれどな、その子の瞳に光は宿るのかと心配なんだ。」

 心配性な男だ。

事故にでもあって両目を失わない限り、瞳は光を返すものであり、更に言うならこんな国を出てしまえば世界中の人間からの寄付(搾取)に依って、そんな損失はすぐに治療出来るというのに。

「私が片棒を担いだとはいえ、政治家も国民も、ほぼ全てが無個性になってしまったこの世界で、――」

 個性なぞ、どれだけ排そうとも湧き出てくる危険なバグだ。

無個性こそが正常なのに。

「――私の子は、”生まれる時代を間違えた”と、必ず考えてしまうのではないだろうか…」

 当たり前だ、こんな野蛮な国に生まれた事を後悔してしまうだろうし、この後に起こる凄惨たる(予定調和な)戦争を間違いと捉えない人間など居る訳が無いのに。

当然な事を口にする彼に「左様でございますね。」とだけ返す。

「………」

 彼はまたも俺の目を見ていた。

そこには景色が反射して映るだけで、その奥には何もないのに、一体何が見えているのやら。

「…頼む、君に時間渡航者(タイムトラベラー)としてお願いがあるんだ。」

 一瞬、思考が固まる。

何故それを知っているのだ。

俺はこの野蛮な戦争主義者共に、自分が未来から来た歴史の調停員である事など明かしていないのに。

コイツ等がどういった経緯で俺の正体にまで至ったのか把握しておかねばならない為、素直に話を聞く姿勢を取る。

「お聞き致します。」

 椅子から立ち上がり真っ直ぐに俺を見る彼は、暫く重い口を閉ざしたままであった。

「…世界を」

 やっと口を開いたかと思えば、それだけ言った切りで口を開いた(まま)、暫くの静寂が挟まる。

顔を少し俯かせて顔をクシャリと顰めた彼は、ゆっくりと前を向いて俺と視線を合わせた。

その瞳は不思議と、()()()()()()()()()()()()()()

「…世界を、救ってくれ。」

 その言葉に俺は気付くものがあった。

なんだ、彼も戦争なんぞしたくないのではないか。

自身の子供を特別扱いするのは頂けないが、その将来を心配する様といい、今こうして俺に歴史の調停(生殺与奪)を任せる事といい、彼も俺と同じ人間ではないか。

そうと知れば何を恐れるか。

「承知致しました。」

 

 俺は世界中に破滅の光を降らせてから、次の仕事(過去)へ飛んだ。

 

 

―――――――

 

 

 俺の所属していた組織は、「人類を守る為」という名目で「歴史を規制する為」に作られた組織だ。

組織の活動内容は、「歴史が必ず現在へと通ずる様に、未来から過去をサポートする」というもの。

だが実態は、「”現在”以外の時間へ至る可能性の存在を排する様に、重要な歴史の転換期を監視する事」であった。

時間を越えて過去を導く際にも幾つかの規定が存在するが、意思無き時間渡航者達にはその規定をひとつとして破る勇気は無かった。

 

俺自身も、規定違反は実質の処刑宣告が届いてから初めて犯した。

目的外の時間と場所への跳躍だ。

 

時間渡航理論の確立と跳躍装置(タイムマシン)の最縮小化を目的に、全ての意思無き人々と少数の欲深き者に望まれて生まれた俺の中には、いつしか過去に見た世界への憧れが芽生えていた。

 

「我々が任務の合間に垣間見た光り輝く過去の世界の姿を、もう一度作り出そう!」

 

 闘う者の瞳が力強い事、人々の心はもっと振れ幅がある事、個性の在り方の事、文化の根源がエロスと通ずる事、睡眠の重要性の事、食という娯楽に更なる深みがある事、等々を同僚達に語ってみせた。

そう喧伝した事が、人々には大層恐ろしい事だったらしく――

「未来の変革の材料として、旧世代の生命の大絶滅をその目で確認してくる事。」

という、実質的な死刑宣告を指令として下された。

組織と人々に失望し、生きるも死ぬもそう変わらないと感じた俺は、その指令を甘んじて受けた。

だが、どうせ死ぬなら少しぐらい生きた心地を味わいたいと、指定された時間に直接跳ばずに少しずつ間隔を刻んで時を越えていった。

今でも、それが正しかったのか間違っていたのかはわからない。

 

時を越える毎に、人々の顔には様々な情景が見て取れた。

 

遠い未来で寸分違わず守られてきた歴史的遺産も、過去では眩しいくらいに輝いて見えた。

 

芽生える筈の無かった、人々に対する「憧れ」という感情が花咲く。

 

未来では何も感じ得なかった人々の涙に心打たれ、悲しみの台詞に思考は何度も阻まれた。

 

身体中が、喜怒哀楽を求めていた。

 

未来では忘れ去られた生物としての本能が、遺伝子の記憶の中から呼び起こされた。

 

やがて、死刑執行の時期へと後少しというところまで来たとき、俺の理性には限界が近いと察知した。

 

俺の開発者達が算出した耐用時間数より、数千年は短い欠陥であった。

 

憂う為に立ち止まった時代の中で、俺の未来の姿を眼にした。

 

来る未来の俺は、野生へと還り、弱肉強食の理の中で駆け回っていた。

 

そんな奴が付け狙うは、人類の祖先種である一人の少女。

 

今更になってタイムパラドックスを恐れた俺は、紙一重で少女を助ける。

 

「小さい女の子を泣かせる奴は・・・っ」

 

「過去に飛ばされて死んでしまえっ!!」

 

 今の俺は、人の涙は見たくないんだっ!

 

……だから、俺の未来で――

 

――待っていてくれ。

 

 

―――――――

 

 

 永い永い旅をした。

 

その旅も、ようやく一段落かもしれない。

 

星空から降り注いだ、()()()()()()姿()()()に打ちのめされて、やっと休めるんだと安堵した。

 

落ちてくる空を見つめる。

 

まるで世界が俺の為に喜んでくれている様な、そんな錯覚までしてしまう程に狂おしく幻想染みた景色だった。

 

例え世界に感情があったとしても、俺自身の演算能力で数え切れる程度とは言え、何度も人々の命と尊厳を踏み躙って来た俺なんかの為に、誰が喜ぶものか。

 

しかし、俺にとってこの空前の景色は、苦痛の裁きを後に控えた祝福に思えた。

 

この先、生命大絶滅の火の海を、遺伝子のリカバリーで生き抜いてしまうかも知れない。

 

その後、先ほどの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の様に、また誰かを喰らってしまうかも知れない。

 

空から落ちる紅蓮、轟音と炎を発する大気を見つめて、先程の女性を身勝手に偲ぶ。

 

禍々しくうねる指と爪を、隕石のフレアに透かす。

 

「手が届きそうだ…」

 

 皮肉なものだ。

 

最期の瞬間に、理性がハッキリとしてくるだなんて…。

 

ゆっくりと瞳を閉じ征く、

 

その最中――

 

――空から、淡く蒼い光が降り注いだ。

 

 




 

 少し執筆に割ける時間が無くなりそうな為、完結を急ぐ事にしました。
次回から終章の始まりです。
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