女「そこまでです、タイムトラベラー!」男「またかよォッ?!」 作:下品な牛乳◆N1RGqRourg
箱庭から放たれた彼と彼女と、旅往く彼女。
幾らか人が歩く化石展の中を、友と二人で並んで歩く。
土産屋で【餡も無いとっ!饅頭】なる下らない名前ながらも、確かな味を魅せつけてくるお土産をレジに持って行くと、「おぅっ!あんちゃん!」と、例の店員がレジの奥からひょっこりと現れる。
男「やぁ、お兄さん。来ましたよ。」
一度しか話した事の無い土産屋の店員に、会釈交じりに握手する。
店員は離した手をレジの上に移して、「今週来るってぇのは、あんちゃんトコの学校だったか」と、制服姿の俺を上へ下へと眺めながら確認する。
男「はい、これからグルっと見て回るみたいです。」
そう答えて、後ろでうずうずしている友から饅頭の箱を受け取り、レジに通して貰う。
男「あの時はどうも」
料金を支払いながら、俺の指針を示す切欠となってくれた事に礼を言うと、「いやぁ良いって事よぉ!」と恥ずかしそうに視線をレジの画面へと俯かせた。
レシート
男「お陰様ですよ。」
此方も照れくさくなってしまい、レシートを受け取りながら視線を隣の友へと逸らしてしまう。
友はと言えば、いつの間にか箱の包装を解いて、中から個別に包装にされた饅頭を一つ取って、その包装も解こうとしていた。
俺の視線に気付いた友は、手を止める事なく俺と店員を見比べる。
友「知り合い?」
おい、食いながら喋るな。
露わになった饅頭にかぶりつき、俺に釣られる様に店員に会釈する友。
そんな友を見てると、女子らが友を小動物扱いしたがるのも理解できる。
つい店員とへらへら笑いあう。
男「このお兄さんが居なかったら、俺と友は今頃ここに居なかったかもしれないぞ…?」
友「っ!!ほうなのっ?!んく…そ、それはどうもありがとうです…」
慌てて饅頭を嚥下し、口を手で隠して気の張ったお辞儀するけど…そこを気にすんなら最初から食いながら喋るんじゃないよ。
それを受けた店員は快活かつ豪快に笑った後、「よせやぃ!俺ぁなんにもしてねぇや!!」と己の腹を叩いた。
学生以下の年齢層を狙った筈のこの展覧会に張り詰めてる、何処か厳かな雰囲気を和らげているのはこの店員なんだろう。
外見年齢と口調が釣り合っていないのがとても不思議…。
そんな事を気にしている俺に、「今度はいい思い出になるといいねぃ!」と、腰に手を突き歯を覗かせて笑う店員。
男「はいっ」
俺の返答に満足した様一つ頷き、「はっはっは!そいじゃあまた帰りに寄っといで!」と残して店員はカウンターの奥へと戻っていく。
どうやら、奥で倉庫整理の最中だったようだ。
その背中を見送り、友に「戻るか」と声をかける。
大事そうに抱えられた饅頭の箱と、幾つかの紙ゴミを友から奪い、空いた手同士を繋ぎ土産屋から出て集合場所に戻る。
目的の場所に辿り着くまでには、すでに友は饅頭を食べ切っていた。
集合場所には、既に殆どの生徒が戻って来ていた。
連れだって戻って来た俺達を見たセンセーは、小さくため息を吐いて俺達へ身体ごと向き直った。
教師「おいお前ら、トイレ休憩中に土産屋に寄るとは何事だ。」
そんな言葉を聴きながら、横にあったゴミ箱に饅頭の空き箱と包装紙を放る。
男「下見です。」
友「えふっ。」
友は俺の言葉尻をとって真似するが、まだ口の中に饅頭が残っている為、気の抜ける音を漏らすに留まった。
教師「ガッツリなんか食ってんじゃねぇ!!」
クラスを引率するいつものセンセーは、俺達二人の早速のペースにやたらくたびれた顔をしている。
そんなんでこれから化石展一周持つのだろうか…?あ、見て回るときは自由だからいいのか。
声を張り上げて注意したセンセーは、はぁはぁと息を整えつつ、後ろで待機している生徒達へと振り返る。
教師「ハァ…じゃあ、これから2時間半、中の展示物を見て回ってもらうぞー。」
センセーの指示を聞き、「はーい」と声を揃えるクラス一同。
若干申し訳なく思い、俺もその一部となる。
俺は友に依って生み出されてから1年と経っていないので、未だに常識等が覚束ないのである。
いまや記憶としての過去はしっかりと保持しているのだが、やはりまだまだ経験が足りない。
今受けた注意だって、言われてから初めて「そりゃそうか」と気付いた程だ。
友さん、もっと俺の手綱をしっかり握ってくれませんかね。
いや、友が俺の手綱をしっかり握ったら今度は俺が振り回されるのか。それはそれで楽しそうだけどダメだな。
楽しさを最優先にしがちな友に付き合いっきりであれば、今の様に周囲に迷惑をかけ続け兼ねない。
やはり俺が一刻も早く常識を経験として身に着けて、友を確り抑えておかねば。
教師「うむ、今の私みたく、場内では大声で騒ぐことのないように!」
生徒達はバラバラに「は、はい…」と応じた。
センセー、自覚あったのか…
思い上がって義憤を燃やしかけていた俺にとって、センセーの自虐は冷や水となった。
なんというか、焦って常識を身に着けようとするよりも、友に付き合って色々怒られた方が、寧ろスムーズに常識は身に着きそうだ。
1つ開き直りながら、座席順に隊列を組んだクラスの列に友と加わる。
教師「集合時間まではかなりあるが、じっくり見て回るには意外とキツイぞ!」
確かに、以前友とのデートで此処へ来た時は、最後のヒト属ブースへ辿り着くのに二時間程かかった事を覚えている。
教師「だから、没頭したい奴はまたプライベートで来い!うちの学生だと特別安くしてくれるぞ!」
センセーのその言葉を受けて、隣に腰を下ろしている友が此方を見る。
友「前のデートはそういうこと?」
男「おう」
何を隠そう、その特典を利用してこの間のチケットを手に入れた口だ。
友は知らない事であった為、以前の世界の俺にチケットの入手経路はわからなかったが、この世界となってからはその記憶まで確りと保持している。
お陰で「学年通信やらは読んでおいて損は無い」という事を学べた。
教師「さてっ!んじゃあ自由に見て回れ!集合までに遅れんなよ~…」
パンっと手を叩き、遅れない様にと注意を促していたセンセーが、ビシっと俺達二人を指差す。
教師「―どっかのバカップルみたくな…」
男「喧しゅう御座います」
いや、ホント申し訳ない。
教師の令に、生徒達は其々グループに分かれたり散り散りになったりし、入場ゲートをくぐって往く。
何人かの友人と「またあとで」と言葉を交わしながら、俺は友と会場に入った。
偶に「あ、お二人の邪魔になるんで」等とわざとらしく宣いながら離れてゆく連中も居たが、まぁ良いだろう。
友と二人、殆どのブースを流し見して往く。
俺たちの怒涛のハイペースに、驚いた様子で先頭の男子生徒がそそくさと先の角へと消えていったが…それは違うだろうに。
競技のつもりなのか知らないが、友の視線に止まらなかったのは僥倖だ。
友なら追い抜く事に注力し兼ねない。
友「あんな風に急ぐもんじゃないと思うんだけどなぁ」
確りと見つかっていた。
友「…不思議だねぇ」
てくてくと、出し物を見てゆくには速いペースで連れ立っていると、不意に友が呟いた。
友はぐるりと辺りを見回し、壁にて配布されている据え置きのチラシ等を手に取り、立ち止まってからさらりと文字を流し見る。
「おぉ、知らないなぁ」と嬉しそうに、しかし不思議そうに小さく呟いて、そのチラシを持ったまままた歩き出す。
男「…そうだなぁ。」
友が不思議と言うのは多分、今俺達が居る此の世界の事。
あの後、パラドックスから跳び発ち、
そんな事が出来る物なのか疑問に思ったが、向こうの俺曰く、「どれだけ世界が何処かで分岐していようと、必ず過去ではその何処かに繋がる」のだそうだ。
つまり、示し合わす事さえ出来るなら、共通する時間に於いて平行世界の人間と巡り合う事も出来るのだとか。
そうして、過去にて合流した俺二人、その時代に同時に存在しているだけでとてつもないパラドックスを引き起こしている筈の俺たちは、獣に少女の家族だけは喰わせてはやらんと手を組み、様々なあれやこれやと策を巡らせた。
が、結果的に人喰いになってしまったのは変わらなかった。
絶望に暮れんと膝を折った所で、異世界の俺に肩を掴まれて、「一度で諦めるな。少しずつ変えていこう、それならいつかきっと出来る。」と励まされた。
向こうの俺はソレを言い残して、蒼い光に身を
「少しずつだが未来と過去を変えられる」と信じた俺も、友や女を置いて止まったままのパラドックスに戻ろうと、同じく蒼い光を纏った――
――しかし、その先にあったのはパラドックスではなく、動き始めた新しい世界であった。
友「…私たちの記憶はしっかり残ってて、希釈されるでもなく世界は前の形に近いけど全く別の形になるなんて…どうしてだろ?」
次々とパンフレットやチラシを手に取って「おぉ、知らない」「知ってるヤツ~」と吟味する友。
恐らく、自身の思い出で分岐させた世界との差異を楽しんでいるのだろう。
男「ふむ…それなんだけどな、実は答えを向こうの俺から聞いてるんだよ。」
友「へっ?!ホントにっ!?」
目を輝かせて「教えて教えて!」と体を揺する友に、教えられた話を少しずつだが話していった。
あのパラドックスは、実は俺だけが望んだものでは無かったという事。
俺が辿り着いたパラドックスは、俺が過去にて少女を―友を救った時点で動き出していたという。
そうして、俺達が最後に居たパラドックスは、俺達―俺と、異世界の俺と、友と、女の4人が望んで辿り着いた世界だったそうだ。
男「だから、誰か一人だけじゃなくて、全員が望まないと、世界は動き出さなかった。」
向こうの俺は、自身の未来と少女の家族の行く末を変えたくて、此方の世界が動き出す事を望んでいた。
女は、そんな向こうの俺との約束を果たすという、当面の目標を目途として、世界が動き出す事を望んでいた。
男「…でも…俺だけが、過去に跳んで俺の未来に干渉するまでは、世界の進展を望んでなかったらしくてな。」
なんと友ですら、世界を動かす事自体には肯定的だったらしい。
その理由に関して向こうの俺に訊ねても、「手前で考えろ愚鈍」と一蹴されるばかりだった。
…やはり俺は友相手にはもう少し己惚れてもいいのだろうか。
いや、己惚れて逆上せ上ってしまえばお終いだ。
男「俺に
友「ん~~…と?」
友が、わからないと言った風に首をかしげる。
男「……まぁ、要するに――」
かなり癪ではあるが
男「――また向こうの俺に助けられたって事。」
なんだか気に入らないなぁ。
友「ふぅ~んそっか……そいでそいでっ?」
鼻息荒く、興味津々の友が俺の顔を見上げる。
友「お前さんは今度は何すんだいっ?」
友の質問の意図を掴めず、「何って何を…」とオウム返しをしてしまう。
俺の反応に友は口端を吊り上げて、訝し気に首を傾げた。
友「まだ過去が気に入ってないんだろう?」
男「……ん、まぁそうだな。」
結局、思う様に過去を変えられていないのだ、当然である。
だから、そうだな――
男「――少しずつ変えてくさ。俺たちにはそれが出来る。」
友「…そっか。」
そう言って瞼を閉じ、うんうんと納得する様に頷いてからもう一度俺を見る友。
友「おっけ!ボクも手伝う!」
ニッと頼もしい笑みを覗かせる。
男「おいおい…良いのかぁ?俺と違って友のルーツは過去にあるんだぞ?」
友「僕の過去を勝手に変えようとした癖によく言うよね~?」
ぐっ…確かに、未来の俺が過去において友の、少女の家族を襲わないという事は、少なくとも保護の名目で少女を現代へと攫う理由は無くなるのだ。
行動に移していた時の俺は余程余裕が無かったのか、そんな事にすら気付いていなかった。
つまり、あの時は失敗していて結果的に良かったという事になる。
しかし、結果論ではあれど本当に失敗して良かった。
友「ボクだって、君がいつ理性を失うか心配でたまらないんよ!動かないと落ち着かんっしょ!」
その場で、小さくシャドーボクシングをかます友。
そのなんとも健気な宣言に、自然と、頭に手を乗せてしまう。
友「ひょっ…?なっ、なんだぁい…?」
男「…いんや、ありがとよ。」
可愛らしく縮こまり、「うぅ」と唸りながらも、ポスポスと俺の腹にかわいらしいジャブを入れてくる友を撫で続ける。
こういう事を恥ずかし気も無く行動に移せるのも、常識という経験が薄いお陰だよなぁ。なんて無体な事を考えていると、丁度背後でコツコツとヒールの足音が鳴り止んだ。
?「そうね、…貴方がいつ理性を失うかと、私も気が気でないわ。」
男「うぇっ?!」
友「ひょっ!!」
背後から突然声をかけられ、思わず友と二人手を取り合いながら跳ねる。
振り返り、背後から声を掛けて来たその人物を見る。
男「あ、貴女は…」
友「お姉ちゃんっ?!」
姉「はろ~」
この人は友の義姉。つまり友のいつかの未来の姿………かも知れない人だ。
何故か、この動き出した世界に到達してから、この人とも関わった記憶が頭の中に生まれた。
以前居た友の世界の時のような造られた記憶とは違い、その存在は違和感を伴わない。
…これからのタイムトラベルには、記憶の混線に注意しなければならないかも知れない。
姉「にしても、そんなに驚くことも無いじゃない?」
肩から提げた大きなショルダーバッグに片肘を掛けて腕を組み、不服と言わんばかりに片眉を吊り上げる。
友「だ、だって…お姉ちゃん気配が…」
姉「ハァ…それは言わないで欲しいわ…」
確かに、歴史的文献の多い此の化石展では、一般人も
しかし、友は時を経る毎にキャラが変わるものだなぁ…
姉「…男クンは今、なんとも失礼な思考をしているわね?」
俺の思考を完全に見透かした義姉が詰め寄ってくる。
姉「イイ?――」
俺と同じ程の身長にヒールの高さが重なっている為、見下ろされる形となり気圧される。
姉「――貴方たちと他2人が
威圧感は凄まじいというに、言葉の意味は寂しがりである。
この人はなんだってここまで危うさを孕んだ性格なのだろうか…
姉「だって、私にはこの子みたくイイ仲が居ないもの…」
そう言って、俺の横に立つ友の頭をよしよしと撫でる。
そ、それを言われましても…
この人が俺の思考を完全に読み切っているのは、今はこの人の手元に《閻魔帳》があるからだ。
姉「違うわよ?…」
友の頭を撫でながら、再び俺を見下ろして
姉「《
男「お、おーけーおーけー…」
登場から既に本を開いていて、この方はなんとも腫れ物の様に扱ってしまいがちだ。
こんな態度だからこうまでグイグイと来るのだろうか。
女といい、この人といい、近頃では向こうの男までもが「本だとすぐ連想される認識は改めた方が良い」と念を押してくるので、俺も其方に迎合した方が良いのかも知れない。
友「…お姉ちゃん…その常に脅すような姿勢が男君に敬遠されてるんじゃないかな…」
姉「……そう…警戒し過ぎなのかしらね…」
友が義姉さんの横に並び慰める。
聞き慣れない友からの「男君」呼びに少し背筋にゾクゾクとした何かが走ったか、目の前に本を持った人が居るので、気を確かに持って佇まいを直す。
並んでいる二人を見ると、確かに顔の作りや身の振り方は似ているのだが、身長が高いだけでここまで外見としての雰囲気に差が出る物なのかと、益体もない事を考えて思考を誤魔化す。
しかし、何故この人はこうも俺を気にするのだろうか。
姉「未来で、貴方を助けられなかったのよ…」
なんとなく思考に過った事柄が、この人の弱い所を突いてしまった様で、《
暫く沈黙が下りるが、義姉さんが「フッ」と小さく笑み、誤魔化す様に言葉を続けた。
姉「まぁ、過去へ跳んだ結果、こんな見た事も無い世界へ辿り着けたから、僥倖よね。」
それは誤魔化しの言葉でしかないのかも知れない。
もしかしたら、本音だったのかも知れないけれど…
姉「そういう意味では、貴方たちに感謝しているわ。」
友「………」
男「………」
友と見合い、少し微笑む。
男「もっといい世界にしてみせますよ!」
参章の終わりに、過去においての男の挫折や失敗を描こうかと思ったけど、時間が無いので諦めました。
終章が終わったら、姉と救えなかった男の噺を書こうかと思っていましたが、時間が無いので危ういです。
※改稿情報
11/23/2016:誤字衍字の修正。