女「そこまでです、タイムトラベラー!」男「またかよォッ?!」 作:下品な牛乳◆N1RGqRourg
昼下がり、閑静な住宅街をただ歩く。
片手に携えた『閻魔帳』を、何とはなしにもう一方の手で撫でながら、乗用車と数台の自転車が並んでギリギリといった幅の道路を進み、立ち並ぶ一軒家の門扉やアパートのエントランスを視界の端に流して行く。
十字路に差し掛かった辺りで、誰かのすすり泣く声が聞こえて立ち止まる。
それを追って曲がり角の先に目をやると、小さな女の子が泣いていた。
男「どうしたの?」
小さく足音を立てながら近付き、屈んで目線の高さを合わせて話しかける。
少女「友達がね…?忘れてたの……アタシのこと…」
グズグズと鼻をすすり、嗚咽をこらえて少女はそう言う。
服の裾をぎゅっと固く握りしめていた両手から、片手が離れて一つの家を指し示す。
つられてそちらを見る。きっとその家が、友達の住んでいる家なのだろう。
いや…”友達であった”と言うべきか―
男「そっかぁ、ひどい友達だなぁ…」
その家に視線を合わせたまま、少女を見る事も出来ず、『閻魔帳』を持っていない手でその頭を撫でる。
視界の端でこちらの服の袖を引かれて、視線を少女に戻す。
少女「悪く、言わないで…?」
腫れて真っ赤になった眼で見上げられて、ドキリとする。
忘れられてしまったとは言え、彼女にとってその友達は今でも友達なのだろう。
そんな相手に、素性の知れない人間が心無い言葉をかけるなんて、見過ごせることではないのだろう。
男「あ、あぁ、ごめんな。」
己も友人を悪く言われる事は望ましくない為、少女に向き合って頭を下げる。
僅かに顔を上げる事を逡巡したが、1つ思い出して「…とりあえず、はいコレ。」と顔を合わせてハンカチを手渡す。
牛乳やら俺の鼻水やらが染み込んだアレではない。同じ柄の新品だ。
少女「グスッ……ありがど…、ございます…(スンスン」
そういって受け取るも、それで涙を拭おうともせず、ただ強く握りしめて顔を俯かせる事しかしなかった。
「まぁ知らない人に渡されたらそうだよな。」と、少女の頭を撫でながら考える。
無理に涙を拭う必要もないが、かといって何もできないというのは、自身の心が耐えられそうにない。
首だけ上げて空を仰ぎ、果たしてどうするかと悩みだした折、「ね、ねぇ…おじさん……?」と下から声をかけられる。
男「ん?」
視線を落とすと、小さな女の子はその両手で自身の涙をグシグシと拭った後、俺のハンカチで軽く手を拭ってから俺の袖を申し訳程度にひっぱった。
此方に視線を合わせたり、外したりと瞳を彷徨わせながらパクパクと何かを言いたげにした後、少女はぎゅっと口を閉じてまたも俯きかけた為、「どうしたの。」と言葉を待つ。
言われた少女は、両手でそれぞれ掴んでいる俺の袖口を、もう一つギュッと握ってから顔を上げて視線を合わせる。
少女「あのね…」
涙も嗚咽も飲み込んで、震える声でその子は言った。
少女「私と……友達に、なってくれませんか…?」
捨てられた動物のように、それまでの日々が終わった事を悟った愛玩動物のように、少女は救いを懇願した。
俺のした事を知らないからこそ、この子はそんな事が言えてしまうのだろう。
それを言う事でしか、自身を確立出来なかったのだろう。
だからこそ少女を両手で抱き寄せ、ワシャッと頭をなでまわす。
少女「わっ!わわっ?!おわわわっ!!」
なぜ、この子がこんな目に遭わねばいけないのだろう。
どうして世界はこんなにも生き辛いのだろう。
ならばせめて、俺が――
男「友達くらい、なってあげるよ!」
――俺がこの子の……
―おかしい。
―いつもの俺ならそんなことは言わない。
―ならこれはなんなのか、
―それはうっすらとわかっている。
―これは夢だ。
―そもそも、俺に友達なんて
女「何をしているのですか、ロリコン。」
子供用のリードというものについて、「ペットのようだ」として否定的な人が多くいる事実に、僕は一言申したい。
数年前の事。
学生時分にスーパーにて陳列等のアルバイトをしていた際、齢5つにも満たない子供にスラックスの裾を掴まれ、何事かと商品を陳列運搬用のカートに置いてから膝を曲げて、その子供と視線の高さが合うようにしてから「どうしたん?」と訊ねた。
スラックスの裾から制服の袖口に掴む位置を変えた子供は、空いた手の指を咥えて囁くように「マーマ」と言った。
その言葉を皮切りに、子供の瞳の輝きが増して今にも泣きだしそうであったため、慌てて両手を広げて「大丈夫大丈夫」と大げさに言って笑ってやると、とことこと近付いて来て、無防備にもひっしと首に抱き着いてくる。
体重をかけてきたので此方も両腕をまわして抱き留めて、「ほんならママさん探そうか!行くで!」と告げて抱え上げた。
僕はこの瞬間、酷く恐ろしかった。
手を繋いでいるだけでは、好奇心の強い子供は簡単に手を放してどこかへと行ってしまう。
その行ってしまったどこかで、同じように親切な顔して子供を抱き上げ、親の居ない所へと連れ去ってしまう人が現れたらどうなっていただろうか。
幸いにも、抱え上げてすぐに親は見つかった。
「ママさん見える?」と声をかければ、高い所からくるくると周囲を見回してすぐに「ん!」と人混みを指さし、その方向から慌てた様子の女性が駆け寄ってきて、子供の名前を酷く安心した様子で叫んでおられる。
フロアにゆっくりと子供を下ろして放してやると、抱き上げられてからずっと平気な顔をしていたその子は、未だ駆け寄ってくる最中の親を見てからポロポロと泣き始めて、僕に背中を向けて駆けだした。
駆けた先で、同じように抱き留められ抱え上げられた子供は、ひっしと女性の首に腕をまわして耳の裏まで真っ赤にしていたが、親であろう女性は此方に歩み寄ってきて、「ありがとうございます!」と頭を下げられた。
果たして、コレがただの店員たる僕ではなく、悪意を持った人間であったなら、あの子はあのように親の腕の中で泣き喚く事が叶わなかったのではないかと、ろくでもない心配をしながらも「見つかってよかったです」とだけ言ってその親子と別れ、僕は業務に戻った。
他人様のペットですら盗む人らが世の中には幾らか居るというのに、「ペットみたいで可哀想」という感情だけで、ペットにも劣る管理を子供に行うつもりなのでしょうか。
とっくの昔に過ぎ去った話題ではあれど、今も親の手を離れて好き勝手駆けて行ってしまう子供は沢山おります故、何卒、子供用リードへの御理解が広まりますよう切に願っております。