幻想悪魔伝~Nameless Little Devil~ 作:超淑女
Mission01 ~名の無い悪魔~
10年。あれだけ平和だった幻想郷がボロボロになるまでたったの10年だった。
いや、厳密に言えば一年足らずで人間も妖怪も悪魔たちにあらゆる尊厳を奪われたのだ。
幻想郷は、なんでも受け入れる。
それがいかに残酷なことか理解できる。
悪魔を受け入れた結果、人間の里に砦が作られ妖怪たちは地下へと篭った。
人間たちは妖怪を毛嫌いした。妖怪も人間を毛嫌いした。
なぜそうなったかは、悪魔のせいだろう。
人を殺したのも、妖怪を殺したのも、悪魔を殺したのも誰かわからない。
そんな疑心暗鬼の中、多種族との共存など無理だった。
過去の暖かさが全て消え、冷たい現実だけがそこにある。
そんな中、一人。
人間と妖怪と関係を持っている者がいた。
名前は無い。ただ彼女はこう呼ばれている『小悪魔』と———
人里から少し離れた場所。
そこには一件の家があったのだが、そこをただ単純に家と言うには言葉が足りない。
二階建ての家は一階が店になっているようだった。
―――突如、その店の扉が開いて一つの影が飛び出す。
それは人ではない。
羊の頭、大男の体、悪魔のような翼を持った生き物。
文字通り悪魔だ。
生まれたての小鹿のように立ち上がって、扉に向かって走り出す。
だが、扉から再び羊頭の悪魔が飛び出してきた。
その悪魔の角が、走っていた悪魔の胸に突き刺さる。
人ではない異形の声が其の場に響き、店から出てくる影が一つ。
その影は少女。紅い髪を振り乱しながら、片手に拳銃を持って現れた。
「Too noisy!(うるさい!)」
拳銃のトリガーが一秒単位で何度も引かれる。
弾丸が悪魔を撃ち貫いた。
羊頭の悪魔二匹は、灰へとなって消える。
少女は溜息を吐くと同時に、店へと戻っていく。
店の扉が閉まると扉に付いたベルが鳴る。
少女は拳銃を投げて、机の上に乗せた。
「まったく」
呆れたように言って、大きな机の横を通って椅子へ座ろうとする。
だが残念なことながら、椅子は倒れていた。
少女は面倒そうな顔一つせず、その椅子を蹴る。空中で回転しだす椅子。
回転しながら落ちる椅子に腰掛けるのと同時に、机に足を乗せた。
彼女の短いスカートの中身が見えそうだが、見えない。
「あ~……spare(暇ですねぇ)」
呟いた瞬間―――扉が開く。
見覚えの無い女が走って入って来た。
焦ったような表情と、必死な目で少女の机に手をつける。
「こ、小悪魔さんですよね!
その言葉に、ここの店の店主である少女『小悪魔』は頷いた。
不敵な笑みを浮かべながら机から足を机から降ろすと、テーブルの上にある二挺の拳銃を手に持った。
「確かにそうですが、お仕事の依頼ですか?」
女性は何度も、首を縦に振った。
その必死さに頷いて拳銃を女性に向ける。
「丸まっていてください、OK?」
そう言うと、トリガーを引いた。
女性は小さく悲鳴を上げて頭を下げる。
頭を下げた女性の頭上を通った弾丸の先には、羊頭の悪魔が居た。
「またラムですか」
羊の悪魔。『ゴート』は羊の鳴き声を上げて、走る。
その巨腕は人を潰し、爪は肉を抉る。
だが、小悪魔には無意味だ。
腕を振り上げた時点で頭を撃ちぬかれて倒れ、灰に還る。
「Com'n winp!(かかってきな、ノロマ!)」
机を飛び越えて部屋の中央に立つ小悪魔、そして女性はそんな小悪魔の背中を見る。
部屋の中に、次元を割いて現れるゴートたち。
だが、そんな圧倒的な数が相手でも小悪魔の表情に恐れは無かった。
それは、彼女も悪魔だからだろうか?
いや違う―――きっと、強いからだ。
双銃が彼女の手の中で踊る。
腕をクロスさせて左右のゴートを撃つ。
紅い魔力を纏った弾丸が悪魔の頭を貫いた。
正面から迫るゴートを蹴って、地面に叩きつけるとゴートの頭を踏んだまま、机の上に立つゴートを撃った。
そのゴートが倒れると、女性の壁になる。
驚きと恐れで叫び声をあげる女性。
だが、それすらもBGMにするように笑って、リズミカルに銃を撃つ。
足で踏みつけているゴートが動き出すので、蹴り上げて起き上がらせる。
ゴートの足を蹴り体勢を崩すと、丁度走って来たゴートの腹にゴートの角が刺さった。
「Have a good nightmare!!(いい悪夢を!!)」
二挺の拳銃が、同時に魔力を纏った弾丸、魔弾を吐き出す。
その二つは同時に、二匹のゴート、その額を貫いた……。
動かなくなり、倒れて灰に還る。
それを確認して口笛を吹く小悪魔。
「さて、次はどなたです?」
笑いながら、拳銃を腰後ろのホルダーにしまった。
女性の壁になっているゴートが、突如起き上がり、叫び声を上げる。
だが、叫び終える前に、小悪魔が額を撃ちぬいた。
今度こそ完全に倒れ、灰へと還るゴート。
女性へと手を伸ばす小悪魔。
「とりあえず、依頼をきかせてもらいましょうか?」
呆れたように言う小悪魔。
「は、はいっ」
小悪魔の手を取る女性。
力いっぱい引いて、女性を立ち上がらせるとお互いに手を離す。
だが、その瞬間女性の表情が変わった。
しかし、女性が言葉を発する前に、小悪魔が銃を抜いて振り向く。
背後に立っている。そのゴートの額に銃口を押し当てた。
小悪魔の唇が片方つりあがる。
その笑みは、不敵で大胆。
「Jack pot!!」
彼女の『決め台詞』と共に、引かれるトリガー。吐き出される魔弾。
一度だけ、ゴートがビクンと跳ねて倒れる。
小悪魔が手の内にある拳銃を回転させてから、腰後ろのホルダーに差し込む。
それと同時に、女性へと不敵な笑顔を見せた。
「さて、今度こそ依頼をきかせてくださいな?」
その笑みに、女性は魅入ってしまっていた。
ハッと、我を取り戻して頷く。
「わ、わかりました!」
ここから始まる。再び始まる。
赤と青の邂逅。
全ての終わりで、ハジマリ。
これは優しい悪魔のお話。
あとがき
プロローグでしたが、まだまだこうなった幻想郷は謎だらけですね。
では、次回で!