幻想悪魔伝~Nameless Little Devil~ 作:超淑女
小悪魔はけーねハウスを出るが、その後ろには慧音がついていた。
踵を返して慧音と向き合う小悪魔。
いつも通りの笑顔で一礼。
すると慧音も笑みを浮かべる。
「気を付けて」
「はい、そちらも」
そう言い合って、小悪魔は慧音に背中を向け、歩いて行った。
太陽の畑を抜けると、走りだす。
その表情は怒りとも悲しみとも取れる、やるせない表情だった。
~~~~~
慧音は幽香の家で、食事をすまして、挙句にシャワーまで使わせてもらった。
悪魔だらけの幻想郷でなぜシャワーは使えるのだろうか?
わからないが出るらしい。便利だからなんでも良いだろう。
とりあえず用意してもらったシャツとチェックのスカートをはいてバスルームを出る。
幽香はベッドに座って待っていた。
後ずさる慧音に、幽香が笑う。
「大丈夫よ、とって食ったりしないわ」
正直食われると思った慧音だが、椅子に座る。
幽香も慧音の正面に座る。
机を挟んでの二人。
幽香が笑うが慧音は『何?』という顔をしていた。
「人里に砦ができたのに、なんであなたはここにいるのかしら?」
その言葉に、慧音が苦虫を噛んだような表情を見せる。
たったそれだけの行為で理解したのだろう。
幽香は楽しそうに笑った。
「あなた、家に居て良いわよ」
その言葉に、驚く慧音。
目の前には変わらず笑っている幽香。
何を考えているのか、まったく理解できない。
「私の花畑、見ての通り悪魔祓いの結界が張ってあるでしょ? あれ意外と疲れるし、たまに休みたいから代わりに張ってほしいの」
その言葉に、少しだけ慧音がひるむ。
「私は結界を張るような技術は」
「私が教えるわ。あいにく食事なども地下に何十年分もあってね……どう?」
その魅力的な言葉に、慧音は頷いた。
それから数日間、幽香に結界の張り方だけは教えてもらった。
悪魔祓いの結界。
あまり安定したものとは言えないが、張れないことは無い程度の大きさまでなった。
幽香はいつも通りの笑顔で褒めてくれたが、なにか違う。
ある夜の日。
慧音は今日も一つしかないベッドに幽香と共に寝ようと横になったが、幽香がベッドに座って以降動かなくなったことに気づく。
そんなことここ数日間なかったから、驚いて起き上がる。
「もしも私に限界がきたら、あなたがひまわりを守りなさい」
「それは、いったいどういうこと———」
「なんでもないわ、おやすみ」
幽香は横になる。
なんだか、慧音は起こす気にはなれなかった。
その翌日に昨晩の話を聞こうとしたが———。
「あら慧音、おはよう」
笑顔で言われたその言葉に、慧音は聞くことをやめた。
それが間違いだったのだろう。
無理矢理にでも聞いて、自分が力になってやれば良かったのだ。
2か月後。
夜のことだった。
慧音が物足りなさに目を覚ます。
それもそのはずだった。
「幽香?」
隣にいつも寝ている幽香がいない。
いつもの私服に着替えて、外に出る。
もう夜なのになぜか、光が見えた。
「あれはっ……」
慧音は走る。何度も走る光は、遠くから血の匂いがただよう。
そして、到着した場所にはむせ返るほどの血臭が漂っていた。
あたりには血が飛び散っている。
そこに立つ一人の女性。
風見幽香は足を大きく開き、両手を一杯に広げていた。
慧音には彼女の背中だけが見えている。
「あら、来たのね……慧音……」
背中を向けたまま言う幽香。
あたりには悪魔の死体。
「慧音、結界を張りなさい」
その言葉に、慧音はなんとか結界を張ってみる。
背中を向けている幽香が笑った。ような気がした。
「貴女は強く生きていかなくてもいい。私のように何も寄せ付けない孤独な太陽じゃない……あなたは、夜の闇を照らす満月、弱いのよ……だから……」
そのまま、幽香の体は少しづつ消えていく。
否、還っていくのだ。
体は色とりどりの花びらとなって散ってゆく。
四季のフラワーマスターは、四季の花へと還って散る。
風に乗って、どこかへと飛んでいく。
慧音は追いかけることもできなかった。
茫然とそこに立っていたのだ。
強い者は死んだら復活する不死の存在ではないのか? 否。
幽香も炎と共に帰ってくるのではないのか? 否。
彼女がいた場所には、いつも幽香が使っていた日傘が刺さっていた。
「幽香……ここは、私がっ……」
そうして『太陽の畑』は『月の畑』へと姿を変える。
〜〜〜〜〜
先ほどの話を思い出しながら、小悪魔はそこへとやってきた。
大きな砦が目の前にある。
その砦の前で、どう入ろうと試行錯誤しているうちに———。
「あれ、小悪魔さん?」
背後から声がかけられた。
振り返ると、そこには椎名。
椎名が上に手を振ると、砦の扉が開いた。
「入りますか?」
「オーライ、是非もありません」
椎名と共に人里に入ると、前より活気があふれていることに気づく。
だが、今そんなことを気にしている場合では無い。即座に小悪魔は走る。
紅いコートをひるがえして、彼女がいるであろう場所に行く。
そして、ついたのは神社。
鳥居をくぐると、そばには紅白カラーの巫女がいた。
「あら小悪魔、久しぶりね! 積もる話もあるでしょうから中に入ってていいわよ」
その言葉に、後押しされて礼を言うとすぐさま入る。
廊下を力強く歩いて、彼女は居間の襖を開く。
そこにいたのは———。
「妹紅さんっ……ッ」
藤原妹紅。
彼女は立ち上がって小悪魔に苦笑いを見せる。
それで自分の思っていることに目の前の女が関わっていることに確信を持つ。
「依頼主は……あなたですね?」
その言葉に、頷く妹紅。
小悪魔は力いっぱいに右拳を握りしめて、振りかぶる。
「son of a bitch!!(××××××××!!)」
妹紅の左頬に、小悪魔の右拳が直撃した。
勢いよく倒れこむ妹紅が、ちゃぶ台をひっくり返す。
その音に驚いてか、かけてくる音が聞こえる。
「なにごとだっ!?」
なつかしい声に振り向くことなく、小悪魔は妹紅をにらんでいる。
「お久しぶりです……今、取り込んでるんです」
それだけ言って、小悪魔は妹紅の胸倉をつかんで起き上がらせた。
妹紅はこれといって表情を変えない、顔で変わっている場所は左頬が赤くなっているということぐらいだろう。
「なんだよ」
「なんだよ、じゃありませんよね?」
二人の視線が交差する。
廊下を歩いてくる音が聞こえた。
「二人とも離れなさい!」
その言葉に、小悪魔は妹紅を離して下がる。
その声の主霊夢は、怒った表情で小悪魔を見ていた。
状況から見て、先に手を出したのは確実に小悪魔の方だ。
その後、霊夢と小悪魔、机を間に妹紅と金髪の美女が座っている。
ちなみに先ほど声をかけたのも彼女で、10年ですっかり大人になった霧雨魔理沙。
向かい同士の妹紅と小悪魔。
妹紅を睨む小悪魔に、霊夢がまず口を開く。
「で、なんで小悪魔は妹紅を殴ったのかしら」
「少々下品な言葉を使わせてもらうと、この女が臆病で小心で器が小さくてどうしようもねぇ……からですかね」
そんな言葉づかいをする小悪魔を見るのが初めてで、霊夢は驚いている。
もちろん魔理沙もだ。
それといって驚いていない妹紅は、付き合いが長い証だろう。
「で、何が言いたいかわかっていないわけじゃねぇですよね? fuck you asshole!!(××××××××!!)」
妹紅は苦虫を口内ですりつぶしてたっぷり味わったような顔をする。
小悪魔は立ち上がると机を踏んで、妹紅の額に拳銃を突きつけた。
それほど怒っているのだろう。
「霊夢さ~ん、小悪魔さんが来てるからみんながお礼の品を持って来って———」
やってきた椎名が固まってしまった。
椎名だけではない。
やってきた人里の人間たちが固まった。
人里を守ったデビルハンターが人間に銃を突き付けているのだ。
「こ、小悪魔落ち着きなさい!」
霊夢の言葉に、小悪魔は少しうつむく。
目は真紅の前髪で隠れて見えない。
だが、怒りはわかった。
「上白沢慧音に会ってきましたよ……」
その一言に、凍りつくその場の空気。
全員が悟ったのだろう。
「そもそも、貴方たちが追い出さなければあんなことにはならなかった……」
「あ、あんなことって?」
魔理沙が聞く。
視線を決して合わせることのない小悪魔がつぶやくように言う。
「あの人は今一人で花畑を守ってるんです。あの人は自分で自分の居場所をひたすらに守ってるんです。その身を削ってまで結界を張り続けて、もう誰かに捨てられたくないと必死に……記憶の中のヒト(妖怪)にすら捨てられたくないと必死にだっ!」
乱暴な言葉づかいだが、今の小悪魔はそんなことに気を使っていられるほど冷静ではなかった。
ようやく小悪魔の瞳が現れる。
別段彼女がどうゆう立場というわけでもないのに、苦しそうに、目を細めていた。
「いつから、あそこに慧音さんがいると気づいていたんですか?」
「……3年前だ」
さらに力強く押し当てられる銃口。
妹紅は立ち上がる。
銃口を向けたまま、小悪魔は机から脚をどかして立つ。
「なぜその時、行ってあげなかったんですか?」
「私は、慧音が辛い時に、一緒に居てやれなかったんだ……そんなあたしが、今さら慧音の前に顔を出せるかよ」
「そんなことはどうでも良い……貴女が行ってあげれば、せめて、それさえしてあげれば彼女はあんな場所に依存する必要はなかったかもしれません」
あんな場所とは『月の畑』のことだろう。
妹紅は、黙ってしまった。
小悪魔は、ため息をついて銃を回転させると、ホルダーに入れる。
「sorry……お騒がせしました」
その言葉と同時に座る小悪魔。
人里の人間たちは縁側に物を置いて去っていく。
妹紅もそれと同時に立ち上がり部屋を出て行った。
「すみません二人とも、特に魔理沙さんは、お久しぶりだというのにこのような」
「気にすんな……」
慧音を追い出した時、その時は彼女も人里にいたのだろうか?
「改めまして、お久しぶりです……小悪魔です」
「霧雨魔理沙だ、紅魔館のことは聞いた」
魔理沙は帽子を外して胸元に当て目を閉じる。
彼女も大人になったと実感した瞬間だった。
「ありがとうございます」
小悪魔が彼女の黙祷に礼を言うと、魔理沙は帽子を頭にかぶって笑う。
あのころと変わらぬ笑顔だった。
ふと思い出した。
吹き飛ばされる美鈴。
本を盗ませぬようにと戦うパチュリー。
そして、魔理沙に遊んでもらうべく楽しそうに笑うフランドール。
「すみません……少し頭を冷やすのでシャワー、いえお風呂を借りてよろしいですか?」
背中を向けたまま聞く小悪魔に、霊夢は良いわ、とだけ答えた。
前に来たときに借りたので場所を覚えている。
小悪魔は二人に目を合わせずに居間を出ていく。
博麗神社の風呂。
湯船に浸かっている小悪魔。
長い髪をアップにしている。
「はぁ~」
両手を淵にかけて、体を伸ばす。
憂鬱そうな表情で天井を見つめる。
水滴が落ちて、湯船をゆらす。
「shit……」
溜息をつくようにつぶやいて、彼女は湯船の中で三角座りになる。
彼女にも、思うことがあるのだろう。
神社へと向かう階段。
そこに座り込んでいる女が一人。
タバコをくわえてすっかり暗くなってきた空を見ている。
「……痛ぃな」
腫れた頬を撫でて、少女は立ち上がる。
タバコを地面に捨ててそれを踏みつけると、階段を下り始めた。
体には炎をバチバチとまといながらも、彼女はその場より消える。
霊夢と魔理沙が机を挟んでお茶を飲んでいた。
襖が開くと、二人の視線はそちらにそそがれる。
「お風呂、ありがとうございました」
小悪魔だった。
いつもの紅いコートを手に持っている。
昔の姿で魔理沙はおぉ、とおもわず感嘆の声を上げてしまった。
気にすることなく小悪魔は座る。
「突然ですが、お二人って一緒に住んでるんですか?」
「えぇ、その通り」
その言葉に、何度か頷く。
「お二人は、付き合っているわけでは———」
「ないわよっ」
霊夢が即座に答えた。
クスクスと笑って、小悪魔はちらっと魔理沙を見た。
少ししょぼくれている。
「霊夢さんも罪な女ですねぇ」
「あんたほどじゃないわよ」
「え?」
なんでもない、と霊夢は立ち上がり出て行った。
残される魔理沙と小悪魔。
すべてわかっているという表情を見せる彼女。
「頑張ってくださいねっ♪」
「お前が言うかっ」
小声でそういうと、魔理沙は帽子を脱いで、小悪魔を見る。
少し鋭い、何かを見極める目だった。
「お前は、どうしたいんだ?」
魔理沙の質問に、不敵に笑う小悪魔。
「霊夢さんに聞いていませんか?」
「大方はな……だけどお前の真意がそこにあるとは思えない」
「私の目的は復讐ですよ」
「それは違う、お前の望んでいることは復讐じゃなくて———」
襖が開いて、霊夢が入ってきた。
持っているお盆には酒が乗っている。
「今日は酒盛りですか?」
「えぇ、当然でしょ」
ウインクする霊夢に、小悪魔が笑う。
一瞬で変わる小悪魔に戸惑う魔理沙だが、霊夢はそんな魔理沙を見て怪訝な顔をする。
―――何があったの? と言いたげな顔であった。
「どうしたの?」
「い、いや……なんでもないぜ」
落ち着きを取り戻す。
霊夢が座って机の上に酒が置かれた。
三人が杯を持って上にあげる。
「乾杯」
とりあえずは忘れよう、と魔理沙は心に決め込む。
一斉に杯の中の酒を一気飲みした。
聞きたいことは明日聞けばいいと、魔理沙は次の酒を注ぐ。
次回予告
魔が来る夜。
歴史は静止してそれらを撃つ。
彼の獣は歴史を食らう。
永遠を生きる不死鳥は夜を舞う。
すべてを燃やす紅蓮の炎。
歴史をも燃やす炎は歴史を包み込む。
そして、悪魔は一人。
誰にも包み込まれずそこに立つ。
次回『不死鳥舞う』
悪魔は不死者と踊るのか?
あとがき
ゆうかりん、ご愁傷様ということでファンのみなさま申し訳ありませんでしたぁっ!!
そして小悪魔ご乱心&その他もろもろ、みなさま次回は熱い展開が待っていますよ!
次回をお楽しみに♪
感想お待ちしています♪