幻想悪魔伝~Nameless Little Devil~ 作:超淑女
Mission01~刻む時~
小悪魔の店。
店の前で、いつものように戦いが起きていた。
羊と人間男性の融合したような悪魔、ゴートを撃ちぬいていく小悪魔。
紅いコートを着た紅い悪魔は、その手の双銃で悪魔を灰へと還す。
数体の悪魔が、固まって小悪魔へと走る。
「Not so bad?(イカしてるでしょう?)」
小悪魔が片方の拳銃をホルダーにいれて、コートの中に手を入れた。
そして取り出した。
その手に握られていたのは———。
「Crazy? Huh!(イカれてる? ハッ!)」
慧音から預かったショットガンだった。
トリガーが引かれると共にその瞬間、撃ちだされた無数の弾丸が敵を貫いていく。
拡散した弾丸は固まった敵を一瞬で倒していった。
「それにしても店の名前も決めないとですねぇ」
数年『小悪魔の店』だったその店を軽く見てつぶやく。
ショットガンをコートの中に入れると、小悪魔はあたりを見まわす。
次々とあふれ出てくる悪魔たち。なにかおかしなぐらいの量だ。
この店の位置的にはそこそこ出てくるが大物の悪魔が統治しているわけでもないので数も限られているのだが……。
「しつこいですね」
そんな時、あたりに地響きが響く。
地面が揺れる、大きな地震。
そう感じたが、違った。
「なっ!?」
遠くに、なにかが伸びた。
それがどんどんと伸びて行くことで気づき、目を離せなくなる。
それは黒い塔、ただ天を突くように伸びるそれを、笑う。
「あれは、奥様もうっとりのドス黒い塔ですね……」
それにしても困った。
あちらの方向、というよりあそこの位置は間違いなく———。
「まいった……」
紅魔館。
その場所にそびえているそこを見ていると、上空から一枚の紙が落ちてきた。
ソレを取ると、口元に笑みを浮かべる。
小悪魔の足がいつの間にか動いていた。
群がる悪魔どもを蹴散らしながら、小悪魔が塔の方へと走る。
「邪魔です!邪魔ですよ!」
二挺の拳銃で敵を蹴散らし、湖を通り過ぎて、さらにさらに奥へと進んでいった。
紅魔館の方へと走っていると、自然と塔の方へと進む。
動揺していても戦闘スタイルが崩れることもなく、ただいつものように悪魔を消滅させる。
塔の真下に来てようやく理解できたのだが、紅魔館を中心にその塔は建っていたのだ。
かの館はすでに影も形も破片すらも残っていない。
まったく酷いことをすると、彼女は深い深いためいきをつく。
「くそっ!!」
ようやく来れたそこは、今までずっと来れなかった場所だ。
こんなことがきっかけでこれてしまった。
言葉にするならばまさしく―――最悪だ。
「Fuck……」
悪態をついて、小悪魔は塔を見上げた。
ボロボロの塔で、ところどころ外壁が壊れている。
遥か上空までそびえる塔は、見上げるだけで首が痛くなってきた。
小悪魔は正面に視線を戻す。
塔の周りは少し急な坂になっていて、その上に小悪魔が三人ほど並んだほどの高さがある扉。
その扉が、わずかに開いていた。
わずかにといっても、小悪魔一人は余裕で通れる程の横幅だ。
「まったく、招待されてますねぇ」
入ると、そこは広間になっていた。
大きな広間に小悪魔は立っている。
広間の壁と天井につけられたシャンデリアには、びっしりと蝋燭がつけられていた。
真っ暗な中、扉からもれる月光だけが部屋に明かりを灯す。
「ん?」
扉が突如しまり、広間は真っ暗になった。
だが、すべての蝋燭に火が灯されて、部屋が明るくなった。
「HEY!」
笑う小悪魔、入ってきた扉とはまったくの反対方向。
そこには、ゴートがいた。
ただし、いつもと違う。
雰囲気だ。わずかに大物である雰囲気がある。
「さっそくですか……まぁ良いでしょう。Come on?」
手をひょいひょいと動かして挑発してみせると、ゴートもどきはそれを理解してか小悪魔に走った。
小悪魔が剣を抜き、剣を持った右手を後ろに下げる。もちろん切っ先は敵に向けたまま———。
左手を剣の前に持ってくると、地を蹴った。
「Break Down!!」
まるで地面を滑るかのようにして、ゴートもどきの目の前で剣を突き出した。
剣はゴートもどきの胸を突き刺している。
その衝撃からか刺さった後に吹き飛ぶゴートもどき、転がり灰となって消えた。
「ヒュ~♪」
口笛を吹いてから、剣を回転させて背中に背負った。
あたりの蝋燭はいまだに燃え盛っていて、小悪魔は背の双銃を抜く。
いつも通りの不敵な笑みを浮かべる彼女。
「まだまだ続きますか、しつこいですね」
背後に、片方の拳銃を向けてトリガーを引いた。
何かが倒れる音。
小悪魔の背後には先ほどのゴートもどきがいた。
まわりからわさわさと湧いて出るゴートもどき。
「Shall we dance?(一曲踊りませんか?)」
そんな言葉と共に、二つの拳銃が火を噴いた。
倒されていくゴートもどき。
倒していくと一つ疑問を浮かべる。
「なんか、歯ごたえがありません———なんかビッグイベントがあるもんです……が!」
片方の拳銃を片方ホルダーにしまうと、背中の剣を抜いて一周する。
周りのゴートもどきの上半身と下半身が泣き別れしていく。
敵をバラすと、小悪魔は右手に剣、左手に銃を持つ。
「Hurry up baby!(早くきなさい、ザコのみなさん!)」
その言葉と同時に、ゴートがさらに増える。
12ほどのゴートが、集まった。
一か所に集まったそれらが、ざわざわと一つになる。
「Show down!(決着といきましょう!)」
手にある拳銃を回転させる小悪魔。
前方にあったはずのゴートもどきの塊は、別のものになっていた。
それは牛の頭をした二足歩行の生き物。
天井が全長より低いせいで、体を折っている。
全長は五メートルはあるだろう。
太い腕に太い足。
「ミノタウロスですか……楽しそうで———なによりです」
大きなアックスをもったそれが吠える。
ミノタウロスと呼ばれた悪魔。
アックスを、横なぎに振った。
小悪魔に当たらない距離だが、そのアックスの斬撃後から炎が巻き上がり、炎の刃が小悪魔へと奔る。
跳んで避けた小悪魔が、ミノタウロスに拳銃を連射した。
ミノタウロスはアックスの持っていない方の腕に炎をまとうと、銃弾をその炎で相殺させる。
小悪魔の下を炎の刃が通り過ぎる頃に、地上に着地。
「Sweet!(最高ですね!)」
小悪魔が走り出す。
ミノタウロスの腕の炎が消えて、アックスの方に炎が噴き出る。
そして、再び横なぎに振った。
迫る炎に向かって走る小悪魔。目の前にまで迫った炎の刃。
小悪魔は両膝を曲げて、両膝を地面につける。
表面に紅い魔力があるのは、足を守るためだろう。
そのまま勢いでゴールパフォーマンスしかり、滑る。
炎の刃を、小悪魔は体を下げて避けた。
まるでリンボーダンスをするが如く背を伸ばして、そのまま滑る。
滑りながら、小悪魔は双銃を撃つ。
ミノタウロスもその発想は無かったのか、体に銃弾を受ける。
だが、大したダメージではないのだろう。
拳を地面に打ち付けた。その場所から炎の壁が小悪魔に迫る。
一メートルほどのソレを、小悪魔は跳ねて避け———。
「Game———」
ミノタウロスの頭の上に跳んだ。
ショットガンを取り出すとミノタウロスの頭に着地する。
銃口を頭頂部に押し付け、笑みを浮かべた。
「———set!」
トリガーが引かれる。
幾千もの細かい弾丸が、ミノタウロスの頭を貫いた。
小悪魔が再び跳び、ミノタウロスと何メートルか距離をとる。
ミノタウロスが倒れたのを確認。
踵を返すして扉を見てみたが、一向に開かない扉。
「まったく」
背後のミノタウロスが起き上がる。
頭から血を噴出させながら、アックスを投げた。
縦回転して飛んでいくアックス。
小悪魔が、スッと横に避ければ、そのままの勢いでアックスは扉にぶつかった。
勢いよく扉が開くと、アックスは外にそのまま転がっていく。
そしてアックスと入れ替わるように入ってくる———それ。
「ん?」
それは、一台のバイク。
真っ白なバイクが、坂を上って、小悪魔の前に横向きで止まった。
バイクに乗っているのはどこか見覚えの無いことはない女性。
長い金髪をポニーテールにしている。
白いシャツに白い短パン。上のシャツは胸の下で裾を結んでいるので綺麗な腹部が見えた。
拳銃をいれたホルダーがむっちりした太腿に食い込んでいる。
胸の上下を通したベルトの両脇に、サブマシンガンが二挺。
そして背中には、大きなロケットランチャーを背負っていた。
そのロケットランチャーの銃口の下には、刃がついている。
そして、それは小悪魔に向けられた。
「これは刺激的な御嬢さんですことで」
トリガーが引かれた。
銃口から勢い良く飛び出す銀色に輝くランチャーの弾。
少し体をずらして避ける小悪魔。
小悪魔を通り過ぎて行った弾は、立ち上がっていたミノタウロスの顔面に直撃し———。
爆発した。
飛び散るミノタウロスの破片。
それを見て小悪魔が楽しそうに笑った。
「魔力を込めない純粋な弾ですか、なんだか新鮮ですねぇ」
おちゃらけたようにそう言う。
小悪魔の口調からして、相手とは知り合いのようだ。
頭の良い彼女のことだ自分のことを覚えてはいるだろうと、小悪魔は話かける。
「招待状はお持ちですか、ミス・バイオレット?」
ミス・バイオレット———。
そう呼ばれた女性は次に、小悪魔に向かってロケットランチャーの銃口を向けた。
「悪魔は殺すわ」
それだけ言うともう一度トリガーを引く。
銀色の弾を、小悪魔はつま先で軽く蹴り上げる。
それは小悪魔の遥か後ろの天井を破壊した。
その上の階の外壁は壊れていて、月明かりが差す。
蝋燭がすべて消えた。
女性は構えをやめ、バイクで一度外に走り、しばらく離れた場所でUターンをした。
小悪魔は扉の前から横にずれる。
女性がバイクのアクセルを全開にし、普通のバイクではありえないスピードで扉の前の坂を上るとその勢いのまま跳んで、上の階の穴へと入る。
小悪魔はそれを見ると、笑う。
「まったく、冷たいですね~」
そう言って、外へとつながる扉から正反対の扉へと向かう。
小悪魔が近づくと開く扉。
歩きながら、苛立っているような様子で笑う小悪魔。
「最高のパーティーになりそうです! ねぇ、チルノさん!!」
小悪魔が扉をくぐると、扉が閉まった。
月光だけがその部屋に残る。
〜〜〜〜〜
塔の頂上に立っている一人の少女。
外見から見て17、8の少女だろう。
前に慧音を見ていた少女だ。
少女は蒼い鞘に納められた刀を左手に持って、ただ立っている。
蒼く長い髪。黒いインナーに、黒いズボン。そして、小悪魔と対を成すような蒼いコート。
目を閉じて、眠るように静かに立っている少女の背後に、静かにミノタウロスが現れた。
それは大きくアックスを振りかぶる。
だが―――瞬間、音が聞こえた。
何かが空を切るような音だ。
いつの間にか少女の体勢は変わっていて、少女の手には刀。だが、右手が柄に添えられていた。
少女が右手を柄から離す。
静かに目を瞑ったままの少女の立っている位置は変わりない。
ミノタウロスが動き出した―――その瞬間崩れ落ちる。
上半身と下半身、そして頭がバラバラになったミノタウロス。
決して動揺もしない少女。
「他愛ない……早く来い小悪魔」
蒼い髪の少女は紅い瞳を開いた。
「招待していないネズミが一匹まぎれこんだらしい」
つぶやく少女。
そんな少女の横に歩いて現れた金髪の女性。
短い金髪と、尻あたりにある九つの尻尾が揺れた。
「ああ、私が行こう」
答えた金髪の女性に、少女は目を細める。
視線だけを動かして横の女性を見ると、目をもう一度閉じた。
「……私は誰か判別がつかないが、知り合いか?」
入りこんだネズミが何かはわからない少女に、わかる女性がうなずく。
「あぁ、少し厄介でな」
「……ならば任せた、藍」
女性。藍は頷くとその場から下がった。
その場に立っているのは再び少女一人になる。
物静かな少女は、表情をまったく変えない。
「さぁ来い……たまには私の遊びにつきあってもらおう」
かつてと同じではなく少女は自分を『私』と呼ぶ。
蒼い少女『チルノ』は、紅い瞳で空に浮かぶ満月を見た。
次回予告。
一人の主と一人の従者だった。
一人の妖と一人の妖になった。
二人の距離はそれ以上でも以下でもない。
悪魔はヒトから憎まれる。
それは自分も例外ではない。
悪魔は悪。正義など一切なく。
決してヒトではない。
悪魔の親友の従者。
自分の立場はそれだったが、家族だ。
その家族への冒涜、誰が許せる?
次回『悪魔の椅子』
悪魔は主の前で踊る。
あとがき
さて、新章の一話です。
テメングニル的な何かが……まぁまったく関係ないですよ、うん。
次回はまたなにかしら伏線がばらまかれます。
第一章では今の幻想郷を改変しようとする小悪魔の姿が描かれたわけですが、第二章からは小悪魔個人の話になります。もちろん他人に影響を与えたりもしますがメインは小悪魔の話となります。
まぁこれ以上はネタバレになるので……。
次回をお楽しみに♪