幻想悪魔伝~Nameless Little Devil~ 作:超淑女
例の部屋から出て結構な時間が経った。
小悪魔は塔の中の通路を歩く。
階段を何度か上がったが、進んでいるのかどうなのかわからない。
「外が見えれば」
ぼやいてみるが外が見えることはなかった。
肩を上げてまいった、とつぶやくとまた歩き出す。
一本道の細い通路。
目の前と背後から突っ込んでくるゴートを見て溜息をはくと、走りだした。
引き返しても突っ込んでもゴートだ。小悪魔はそのまま前方に走り、は跳んだ。
跳んだ小悪魔はゴートの肩に足をついてさらに跳ぶ。
着地した小悪魔の背後で、ぶつかった二体のゴート、同時に立ち上がると、一発の銃弾が二体のゴートを貫いた。
「~♪」
口笛を吹いて、銃口を拭く。
拳銃を手の中で回転させると、ホルダーに入れて目の前を見る。
普通の扉。
その扉を蹴破ると、そこに広がっていたのは大きな広間。
立っているのは一人の女性。
八雲紫と同じ金髪をなびかせ、立っている。
「八雲、藍さんでしたか」
「お前は小悪魔だな」
「ご察しの通り名も無い小悪魔です」
「そうではないだろうに……」
つぶやいて、藍は拳を開いたり閉じたりを繰り返す。
八雲藍の表情は変わらない。
冷たい二人の視線が交差する。
「あなたに聞くことは何もありません」
「私も同じだ」
ならば考えは同じで、話すことがないとすればやることは一つ。
瞬間、飛び出す二人。走って同時に足を振り上げる。
ぶつかる足と足。
藍は手を小悪魔の顔に向けた。
その手から放たれる黒い魔弾。
足を下げて体を逸らし、その魔弾を避けると、藍はすでに離れていた。
「Not so fast(あせらないでくださいよ)」
余裕そうに笑う小悪魔。
藍はじりっと、地面に脚をつける。
再び走り出したのは藍。
立ち止まったままの小悪魔は剣を背中から抜く。
「武器はこちらにもある」
そう言うと、藍の手に黒い炎と共に剣が現れた。
ぶつかる二つの剣。火花を散らし、ぶつかり弾かれる、
それを何度か繰り返し、藍がもう一本の腕にも剣を持つ。
「死ね小悪魔」
小悪魔の
彼女の手に武器は無い。
だが、笑っている小悪魔。
「Shall we dance?(踊りますか?)」
その言葉と同時に、藍が跳んだ。
後退した藍は小悪魔を見る。
小悪魔の背中に現れる翼。
紅の魔力と共に、小悪魔の指に挟まれている八本四対の剣。
「なんだ?」
「無尽剣」
その言葉と同時に、小悪魔の両手が振られた。
紅の魔力の塊。そう言っても過言ではない剣が放たれる。
片手四本。両手で八本のその剣を剣で弾く。
「くっ!」
小悪魔が視界から消えていた。
不審に思う藍が、警戒するが、すでに遅い。
藍の周りには無尽剣が浮いている。
自分の上左右を囲む無尽剣。
かつての十六夜咲夜を思い出させるこの剣の配置。
「先ほどの発言を取り消します……一つ、あなたは八雲紫を落としましたね?」
藍の背後に立つ小悪魔が、聞く。
「あぁ」
無愛想な返事に、小悪魔が笑う。
特に気にはしていないようだ。
「なぜ主を?」
「それを問うか小悪魔、従者にだって主を選ぶ権利はるだろう」
「あんなに慕っていた主を?」
「……」
黙っている藍。
それを見て、小悪魔は歩き出した。
剣に囲まれた藍を背に、小悪魔は指を鳴らした。
―——メイド秘技「殺人ドール」
動き出した剣。
それらすべてが藍を串刺しにした。
立ったままいくつもの剣に串刺しにされた藍の脇を通って、小悪魔は部屋を出る。
ガラス細工のように砕け散る無尽剣と共に、藍は倒れた。
小悪魔が部屋を出るとそこは塔の外に出ている階段で、塔の周りを囲むように上っている。
ゆっくり歩いて登る小悪魔、足を踏み出し、一段。また一段。
いずれ、上り終えて塔の最上階に足を踏み入れた。
塔の最上階に立つ一人の蒼。満月を見つめたたずんでいる彼女。
「来たか……久しいね小悪魔」
振り返る彼女―――チルノは笑みも無く小悪魔を見る。
かつての面影を残さないチルノとかつての面影を残しながらもかつてとは違う小悪魔。
二人の視線が交差した。
数歩、歩み寄る彼女。
「まったく大したパーティーですよ。お酒も食べ物もない」
両手を広げてオーバーリアクションをしていう。
小悪魔の翼も広げられて、尻尾もふわふわと揺れる。
「おまけに女にも出て行かれる……」
その言葉に、ぴくっと動く眉。
「それはすまない、気が急いで準備もままならなかった」
そう言うと、チルノの瞳が細くなる。
それは明らかな殺気を含んだ眼。
「まぁいいです、ざっと三年振りの再開……キスの一つでもしてあげましょうか?」
小悪魔が拳銃を取り出してチルノに向けた。
「それともこっちのキスの方がいいですか?」
陰る満月。
雷鳴が轟く。
「感動の再開っていうらしいですよ、こういうの」
「らしいな」
チルノが刀の柄に手を添え、握る。
それを見て、小悪魔はトリガーを引いた。吐き出される銃弾。
連射、5発の弾丸が放たれてチルノへと奔る。
チルノが目を閉じ―――瞬間、刀が引き抜かれた。
抜かれた刃が、一度振られて3発の弾丸が真っ二つになる。
残り二発の弾丸をチルノは首を横に傾けることで回避すると、チルノは刀をもう一度鞘に納めた。
小悪魔が銃をしまうと、背中の剣を抜く。
刀の鞘を左手で持ち、右手で刀の柄を握りしめて、チルノは鋭い視線で小悪魔を射抜き―——。
「Die」
―——走った。
横に転がる小悪魔。
振り返ると、先ほど小悪魔が居た場所にチルノが立っていた。
チルノが鞘に刀を収めると同時に、チルノの背後に斬撃が走る。
「時間差での斬撃……できるようになったんですね」
立ち上がる小悪魔が剣を持ってチルノへと走った。
剣を振る小悪魔。チルノが刀を抜いて相対した。
振られる剣を、刀で受け流すチルノ。
「上級悪魔を殺したはずよね、何体?」
その言葉に、小悪魔は剣を振るいながら笑う。
「さて最近だとっ! ベルゼブブ、メフィストフィレス、レヴィアタン…ですっ!!」
受け流され続ける剣。
小悪魔は笑っていない。
いつものような余裕がない表情。
「あとアスモデウスとマンモンも!」
小悪魔が足を上げて、チルノの腹を蹴ろうとする。
だがチルノはその足が腹に届く前に、鞘で小悪魔の腹部を突く。
打撲音がして、小悪魔が数歩下がる。
チルノは動かずそこに立っていた。
「私はベルフェゴールとルシファーの二体だ」
刀を鞘に納めるチルノ。
小悪魔が剣から片手を離して、空いた片手で銃を抜いてチルノに向ける。
「残りは一体、人里から少しばかり離れた洋館にいるわ」
「なにを!」
「七つの悪魔。傲慢のルシファー、嫉妬のレヴィアタン、怠惰のベルフェゴール、強欲のマンモン、暴食のベルゼブブ、色欲のアスモデウス」
メフィストフィレスを除く6体の上級悪魔。
自分とチルノが倒した数々の悪魔。
「なんですか、その6体は……」
「幻想郷を元に戻すに必要な生贄だ」
その言葉に、ピクッと動く小悪魔。
「この塔も必要なんですか?」
「そうだ、悪魔の巣窟である塔の封印を解除することによって、そこへの道が開く」
小悪魔が拳銃を撃つ。
チルノは体をそらして銃弾をよけた。
「こんな塔の封印を解除? 悪魔はどうなるんですかっ」
「もちろん死ぬ者も多い。だが必要な犠牲なのよ」
その言葉に、小悪魔が5度トリガーを引く。
放たれる弾丸。
チルノは刀の柄に手を添えた。
「Too easy(イマイチね)」
刹那、弾丸は真っ二つに斬られチルノの左右へと散った。
チルノは刀の柄を持ったまま立っている。
たった一瞬で迫る縦断を切り裂くほどの実力。
「犠牲無く、元に戻す方法は無いんですか?」
「無い」
「だったら協力できません……先生のためにも」
その言葉に、チルノの瞳が細くなった。
小悪魔をみつめる瞳は冷たく鋭い。
「愚かね小悪魔」
「なにが?」
「物事は大局的に見ろ」
チルノが走り出す。
小悪魔がトリガーを連続で引いた。吐き出される十数発の弾丸。
チルノが刀を抜き放ち振りながら走る。
小悪魔が銃を持ったまま、剣で刀を受け止める。
鍔競り合いになる二人。
お互いをにらむ。
「藍はどうした?」
「殺した。と言いたいところですが生きてますよ……悪魔でしょうからね」
小悪魔は額に汗を浮かべている。
余裕が無いのだろう。
実力は拮抗しているように見える。
「そうか……気づいていないのか?」
その言葉に、小悪魔は反応を見せない。
チルノが噛み殺したような笑みを見せる。
「私も———」
小悪魔の背中に寒気が奔った。
「―——悪魔だ」
チルノの体からあふれる蒼い魔力。
それと同時にチルノの力も上がり、小悪魔の
小悪魔の背後に突き刺さる剣。
「ど、ゆうことで……」
チルノの背中に現れたのは巨大な翼。
小悪魔のものと同じ悪魔の翼。
だが、
「This is the end(これで終わりだ)」
その手で刀を一度ひるがえして、突き出す。
小悪魔の背中から飛び出す刃。
二人の顔が至近距離まで近づく。
「……見ての通り、悪魔の力を欲したのよ」
つぶやいた彼女。
その手に握った刀をグッと押し込む。
「ぐっ!?」
小悪魔がうめくがチルノは冷たいまなざしで小悪魔をにらんだ。
八雲紫が塔の中を歩いていた。
サブマシンガンを構えて歩く彼女が、一つの扉を開く。
そこからは外で、階段。
「っ!?」
その階段部分に、彼女はいた。
かけよる紫。
階段を這うように上ろうとしている彼女の腹部には赤い傷。
「藍っ!」
階段を這っているのは、かつての従者藍。
紫は近寄って藍の上体を抱き起す。
胸の中で弱々しく呼吸しているかつての従者。
「紫さまっ……」
「藍! どうしてっ、こんな!」
血まみれの手で、藍は紫の服をつかむ。
紫もギュッと藍の手をつかむ。
「私、あいつに、操られててっ……」
「あいつ、あいつって誰よ!」
「悪魔……ち、る……の」
そうつぶやくと、藍の体から力が抜けた。
それを感じる紫は藍をそっと下ろす。
藍の両手を胸の上で組ますと、走り出した。
この上に、やつがいる。
次回予告
二人の悪魔。
一人が倒れ一人が立っている。
一人が消え一人が立ち一人が倒れている。
悪魔たち。
悪魔の塔。
数々の罪を重ねた彼女は今再び———。
生き恥をさらし生き続ける。
それでも、彼女は目的のために生きるのだ。
次回『紅魔』
悪魔は踊る。
あとがき
お待たせしました更新です!
らんしゃまの戦いは非常に短いものとなりましたが……仕様です!
とりあえず次回予告の話の前にちょっとした閑話を入れることとなりますが、気にせずにどうぞ!
次回もお楽しみに♪