幻想悪魔伝~Nameless Little Devil~ 作:超淑女
小悪魔が人里へと10年振りにやってくる……その十日ほど前の話だ。
人里近くの道にて……彼女、博麗霊夢はデザートイーグル片手に悪魔を駆逐する。
すでに巫女の力がかつての半分もなく能力も無い彼女は今や一般人とほとんど変わりない。
ただ少し違うのがくぐった修羅場の数という経験と鍛えられた体。
「くっ!」
蟲型悪魔であるインセクが、その鋭い爪と牙で霊夢の周囲にいた仲間をも殺していく。
悪魔の圧倒的な物量に押され始める。
だが霊夢とて伊達にここにいるわけではない。
片手で50口径のマグナムを撃ちながら走った。そのまま走り、木に足をつくとそのまま蹴り、上空へと身を翻す。
言葉一つ話す余裕も無いが、それでも悪魔たちを倒す。
上空にて霊夢は両手でデザートイーグルを持ち、撃つ。
真上からの銃撃に悪魔たちが死んでいくが、霊夢が着地した時にはすでにインセクは下の数に戻っている。
「数が多いっ……」
悪態をつく霊夢だが、すでに仲間は一人も残っていない。
最悪の展開であり、ここで自らが命を落とすのかと同時に覚悟を決めた。
インセクが一斉に飛び上がろうと羽を広げた瞬間―――音が聞こえる
「Scum……!」
そんな言葉と共に、風を切るような音と共に、霊夢の目の前に現れたのは蒼い髪の少女。
霊夢は彼女を知っていた。彼女を彼女と確信したのだが、自分がわからなかった。彼女は本当に彼女なのか?
明らかに成長している彼女を見て、明らかに雰囲気の違う彼女を見て、霊夢が自分の思考が会っているわけがないと思う。
しかし彼女は間違いなく彼女―――氷の妖精チルノだ。
見かけは17、18の少女。
蒼い髪は長く、瞳は昔のようにキラキラと輝いていない。
黒いインナーに、黒いズボン。
そして、蒼いコート。
右手に刀、左手に鞘を持った彼女は刀を手首で軽く回してから、鞘に収める。
同時に彼女の背後にいたインセクたちが一斉にバラバラにされ灰へと還った。
彼女、チルノを目にしながらも、霊夢は言葉が出ない。
ただ『久しぶり』の一言も出ないのだ。
数匹のインセクがチルノへと襲いかかるが、彼女はそれをものともせず表情一つ変えずに刀を抜き放ち抜刀にて上から襲いかかる悪魔を斬る。
後ろから襲いかかってくるインセクを最初から見えているかのように振り向きざまに着ると、跳び上がり上空にて数度刀を振り何体かを切り裂く。
着地すると同時に走り出した。
「Die!」
止まるチルノが刀を手首で軽く振ると、背中に手を回して―――収める。
同時に悪魔たちは灰へと還った。
そしてその場より悪魔は消え去り、残るのはチルノと霊夢の二人。
「ち、チルノ……なの?」
「……そうだ」
氷のように冷たいその言葉に、少しばかりというか明らかな動揺を見せる霊夢。
「変わったわね」
「……」
「霊夢さん!」
そんな声と共に現れた人間たち十数人。
彼らは霊夢へと駆け寄ろうとしたが、それはならなかった。
チルノが振り返り彼らへと目を向けると、間髪いれずに刀を抜き放ちその両腕を落とし、首をも落とした。
残り十人ほどになった彼らは驚愕の声を上げることもできない。
「チルノあんた!」
「気づかないか、愚かだな」
そんな言葉に、少し驚き人間たちの顔を見るが、誰もが知らない顔だった。
よく考えればわかることであり、チルノは気配でわかったのだろう。
それに今の自分とチルノとの差を思い知らされる。
「You shall die ……」
静かに、そう宣言されると同時に人間の振りをしていた悪魔たちが本性を現す。
その姿は先ほどのインセクなどとは違い人型に近い。
液体のようにその肌が模様を変えていく―――大きな鎌を持つその悪魔の名はアビス。
「……Come on!(来い!)」
一斉にチルノへと襲いかかるアビスたちに、チルノは眉一つ動かすことがない。
霊夢には素早く見える動きは、チルノにとってはどうということはないものだ。
左手の鞘に刀を収めたまま、飛びかかってくる二体のアビスを視界に入れて鞘にてアビスの足を叩く。体勢を崩したアビスとその隣りのアビスが重なると刀を抜き放ち右手にて切り裂いた。
さらに背後から襲いかかるアビスをその両手に持った鎌ごと切り裂く。
「……フン」
冷たい眼をした彼女はもう一度刀を鞘に収めて鞘にて横から迫るアビスを殴り遠くへ吹き飛ばす。
上空、横から同時に襲いかかるアビスを目にしながらも、彼女は再び刀を抜き放とうとするが、その刀に映るのは背後に新たに現れたアビス。
だがまずは上空のアビスを縦一閃。そしてその流れのまま真横のアビスの上半身と下半身を泣き別れさせる。
血を吹き出しながら地へと倒れるアビスの下半身。
背後へと振り向くと同時に、先ほど現れたアビスの足を蹴りそのまま回転して空中に浮いている状態のアビスの首を切り裂いた。
まだいるアビスに向かってその手の刀を軽く手首で下から上へと振る。
真っ二つになったアビスの体は灰ではなく地に還った。
軽く刀を振ると今度こそ終わりだというように鞘に刀を収め、霊夢に見向きもせず去ろうとする。
「待ちなさいよ」
霊夢からの言葉に、軽く背後を向くチルノ。
「あんた、どうしたの? そんなんじゃなかったじゃない」
そんな言葉に、意味を理解しているチルノがフン、と鼻で笑う。
不思議なことにまったく苛立たない霊夢がそのままチルノの言葉を待つ。
「昔のように“私”に馬鹿をやれって言うの、霊夢は?」
言い返せない霊夢。
その言葉が的を得ているからだとかそういう問題ではない。
彼女が変わってしまったと理解できてしまったのだ。彼女が自らを『私』と呼んだことにより……。
そのショックは隠せず、わずかに後ずさる。
チルノは何も言わずに彼女に背を向けたまま歩いて行った。
それから一日もせず、人里付近にアビスは現れなくなる。
霊夢と別れた後、チルノは自らの足で歩いてある洋館へと足を進めた。
幻想郷にあったあの洋館―――紅魔館とはまったく違った外装だが、悪くはないと思いながらチルノはまず門を開いて中に入る。
門をくぐった敷地内には、枯れた花が植えてある花壇。
彼女はそれらに軽く目をやるもすぐに歩いて本館の扉を開いて中に入る。
「……ふん」
洋館のメインホールには、大きな階段。
ただ先に自らを誘うようなその階段に足をかけた瞬間―――飛び跳ねるチルノ。
チルノが居た場所に、なにかが突き刺さった。
まるでその“悪魔”の正体を知っているかのようなその目は少し細くなる。
空中にて頭を下にしたチルノは、刀を一度だけ振るうと見事にホールの真ん中に着地して、刀を鞘に収めた。
醜い叫び声と共に、階段に血が飛び散る。
階段の上でなにかが蠢き、それと共にその姿を現す。
考えるまでもない―――悪魔だ。
その巨大な腕には爪があり、その口には鋭い牙がついている。
チルノは立ち上がると共にその悪魔に走り出す。
「Be gone!(失せろ!)」
そんな言葉と共に、チルノが刀を抜き放ち―――跳んだ。
悪魔の真上にて腰に鞘をつけると、両手で刀の柄を持ちそのまま体重をかけて振り下ろす。
階段に着地したチルノが軽く刀を鞘に収めた。
真っ二つになる悪魔が地へと吸い込まれるのを確認して、階段を登ると扉を開こうとする。
「……開かないか」
彼女は軽く頭を押さえてため息をつく。
刀を収めた鞘を持つ左手ではなく、何も持たぬ右手に力を込めた。
青白い光がその右腕に集まると、チルノはその拳にて扉を殴る。
激しい音と共に、扉が粉砕された。
「Too easy(たあいもない)」
チルノは扉の残骸を踏み潰しながら、その先の通路を歩いていく。
通路に現れる悪魔を軽く刀で切り裂きながら歩いていくチルノ。
その姿は『小悪魔』と比べてもかなりスマートであり無駄がない。
ただ歩きながら、周囲から迫る悪魔を殺していく。
先ほどの悪魔とは違い全てアビス。
「この程度……」
チルノが軽く跳ねると先ほどまで居た地面に水のような波紋が現れ、そこからアビスが現れる。
「Cut off!(斬る!)」
飛び出したアビスが大鎌を手にチルノに襲いかかろうとするがそれより天井に足をつけて軽く身を翻し、同時にアビスに刀を這わせ、地に降り立つ。
チルノの動きはそのコートもあってか蒼い流線形を描く。
彼女は背後で斬り裂かれたアビスなどに目もくれず先に進み、すぐそばにある扉を蹴破った。
「見つけたぞ、七体の中の一体」
大きな広間。チルノの入ってきた扉から見て正面の壁には黒い十字架が掛けられており、その十字架には一人の人型が貼り付けられていた。
その黒い肌と黒い髪を見ても一瞬でわかる……それは悪魔だと―――。
だが動けないのならば恐る必要はないと、チルノは―――その一歩を踏み出した。
あとがき
とりあえずといった感じで、チルノ編が少し!
まぁこうでもしないといろいろと(ゴッ
とりあえず次回は本編に入ります。
お楽しみに♪