幻想悪魔伝~Nameless Little Devil~ 作:超淑女
悪魔を全滅させてから数分。
小悪魔が、先ほどと同じように机に足を置いている。
先ほどやってきた女性は『近衛 椎名(このえ しいな)』と名乗った。
「小悪魔さんは、悪魔なのに羽や尻尾が無いんですね」
「まぁそうですね……出せないわけでもないんですが」
背中と頭にあるはずの羽や、尻尾は無くなっている。
それも全部服を着るときに邪魔だからだ。
「そういえば、依頼の件ですよね」
人里で薬草をとるために外に出たは良いが悪魔に狙われたらしい。
小悪魔は内心この女性が馬鹿にしか思えなかった。
こんな荒れた世界で、そんなことをするなんて———。
「そう、馬鹿でも考えない」
———ふと、青い彼女を思い出した。
頭を振ってその思考を払う。
女性を見て、溜息を吐いた。
「オーライ、とりあえずは依頼内容をお聞きしましょうか?」
その言葉に頷くと、椎名が口を開き言葉をつむぎ出す。
「私、ある人のために薬草をとってきたんです。その病気に良く効くという薬草……私がとってきて、その人を喜ばせたくて」
その一言と眼を見て理解した。
まぁ、そういう気持ちがわからないわけではない。
誰かの役に立ちたくて危険な橋を渡る。
そういうことをしたことがないわけじゃない。
自分だって昔は誰かの従者だったわけだから、当然だ。
「良いでしょう……そこまで送って里まで?」
「いいえ! とっては来たんです、一応は」
取り出されたのは、薬草。
楽な仕事で良かったと思いながら、二階の自室への扉を開いた。
階段があって、少し止まって背後を見る。
「上にいきます?」
「いえ、大丈夫です!」
そう言って首と手を振る椎名にクスッと笑い、二階へと行った。
階段を昇ると、二階の廊下にいくつか部屋がある。
その内のもっとも手前にある部屋に入ると、そこは綺麗に整理されていた。
「さて」
小悪魔が、銃とホルダーを外して、服を脱ぎ始める。
外での戦闘。護衛。
依頼を納得してしまったのを後悔しはじめた。
人里まで行く……正直面倒だが、一度引き受けた依頼を断るようなことはしたくない。
下着姿になって、まず黒いパンストを穿く。
白いワイシャツに腕を通して、ボタンは上二つ以外をつける。
黒いタイトスカートを穿く。横にスリットが入っているので、艶かしい足がチラチラと見え隠れする。
昔の仕事着だった黒いベストを装備すると、立ち上がって黒いオープンフィンガーの手袋を装着。
膝下ほどの高さまであるブーツを穿く。
そして、立ち上がると最期の仕上げだ。
壁にかかっている紅いロングコートを取り出し、両腕を通す。
そしてコートの背中部分には拳銃二挺分のホルダー。
コート胸部分のベルトをしめる。胸の上下に一本づつのベルト。それが胸を強調していた。
「さて、お仕事のハジマリですね♪」
ロングコートを翻しながら、拳銃を持ち手の内で回転させる。
小悪魔の手の中で踊る二挺の拳銃。
それを腰後のホルダーにいれると、部屋を出た。
一階に降りると、机に腰をかけて椎名が待っていた。
ドアを開くと驚いたように小悪魔を見る。
それに、笑みがこぼれながらも歩く。
「What? どうしました?」
そう言う小悪魔に、椎名が少し戸惑う。
両手を振りながら、おもしろいくらいしどろもどろしている。
その光景に笑みがこぼれるも、言葉を聞く。
「い、いえっ! さ、先ほどとはぜぜぜ、全然違ったのでっ!!」
そういうと、恥ずかしかったのか顔を真っ赤にした。
その姿に笑いをこぼしながらも頷く。
「オーライ、ギャップに驚くことは良くありますから、では仕事といきましょう」
小悪魔が歩きだした。もちろん扉に向かってだ。
その後ろを椎名がゆっくりと歩く。
扉を目の前にした小悪魔は両手が開いているにも関わらず、蹴りあけた。
驚きで、口が閉じない椎名。
外には、数十対の悪魔たちがいた。
椎名が小さな悲鳴を上げ、それを機に4対のゴートが小悪魔に飛びかかる。
「ヒュゥ~♪」
口笛を吹いて、跳躍した。
ゴートと同じ高さまで飛ぶと、二体を蹴る。
吹き飛んで地面に落下したゴート。
残り二体が着地し、小悪魔に襲い掛かろうとするが―――遅い。
「Be gone!(失せろ!)」
腕をクロスして、二体を撃った。
紅い血を噴出しながら、地面に落ちていく二体。
そして、小悪魔は地面に倒れている先ほど蹴った一体を、踏み潰す。
なにかが潰れたような声が響く。
「Dust to dust……てねっ?」
ゴートの顔面に数十発もの弾丸が撃ち込まれた。
弾丸の排出がおさまって、小悪魔は手の中の銃を回転させて、銃口を吹く。
ホルダーにしまうと、あたりの悪魔を見渡す。
全てゴートのようだ。
「あらあら、初めから飛ばしてますねぇ」
小悪魔が拳を構える。
その手に紅い輝きが宿った。
彼女の近接戦闘での真価。
「美鈴さん…借りますよ」
体に『紅い気』をまわして、足で地面を蹴った。
気によって生まれた爆発的な力が蹴った地面を歪ませる。弾丸のような速さでゴートに接近すると、右拳をゴートの腹部に打ち込む。
その瞬間、ゴートの遠い後ろにある木が揺れた。
それは衝撃的な力で殴られたかのような揺れで、木の葉が落ちる。
「味はどうですか?」
ゴートの腹が、吹き飛んだ。
腹に風穴を開けて、苦しそうにうめき声を上げながら倒れると、灰へと還る。
小悪魔の背後からゴートが襲いかかるも―――小悪魔は全て把握していた。
右手で拳銃を引き抜くと、振り返ることもなく左の腋から背後に向けて撃つ。
「Too easy」
ゴートが倒れる。
そして、その光景を見ていた何体ものゴートが逃げようとするが、小悪魔はそれをさせない。
なぜなら憎悪があるから、悪魔への憎悪。
「逃がしませんとも!」
逃げるゴートの背中を撃つ。
一体につき数十発もの弾丸を直撃させる。
倒れていくゴート。小悪魔の方を向いているゴートだけが生き残っていた。
「クスッ……Come on!」
その挑発がわかったのか、いきなり走り出す悪魔たち。
だが、小悪魔はその不敵な笑みを決して崩すことは無い。
彼女は両手に拳銃を持つ。
「Shall we dance?(踊りませんか?)」
その瞬間、弾丸がはじき出される音が響く。
腕をクロスさせて銃弾を放つ。
一体が近づいてきて、小悪魔の横から斜め向きに腕を振り下ろす。
スッと、斜めに体をそらして避けられると同時に、その顔面、鼻先に銃口を押し付けられ―――音と共に、薬莢が吐き出された。
次々と倒れていくゴートたちの中、一体が腕を突き出した。
その瞬間、小悪魔が跳びあがる。
突き出された腕の前に居たゴートの顔面に、拳が直撃した。
その拳の上に着地して、小悪魔が笑う。
「Is that all you've got?(それで本気ですか?)」
弾丸を吐き出さずに、飛んでその悪魔の後頭部を蹴る。
悪魔達の円の中、倒れる一体。
その中心、ゴートの真上に落ちた小悪魔がまわりのゴートたちを見る。
足元のゴートも今に動き出しかねない。
だが、それより早く小悪魔が片足を地面につけ———。
「Let's rock!」
其の場で、回転する。
もちろん地面に落ちた悪魔がだ。
クルクルと回転するゴートの上にいる小悪魔もまた、同じように回転する。
そして回転したまま、銃のトリガーを引いた。
高速回転したまま、華麗に周りの悪魔達に弾丸の雨を浴びせていく。
それらは的確に悪魔達に直撃していく。
倒れるゴート。
しばらくして回転が止まった。
その時には辺りに残っている悪魔はおらず、小悪魔は摩擦で体中が大変なことになっているであろう足元の悪魔を撃つ。
銃を回転させながらホルダーにしまう。
疲れたように溜息を吐いてゴートから降りると、店の前で腰を抜かしている椎名の隣りに座った。
呆れたような顔で椎名を見る。
「す、すみません……」
「いえいえ、腰が治ったらすぐ行きますよ」
「は、はい……」
情けなさに顔を真っ赤にして、椎名が頷く。
最初の休憩は店の前。
小悪魔は呆れてものも言えないのだった。
あれから数十分。
時間帯は昼過ぎと言った所だろう。
ゆっくり歩いていても日が暮れる前には里にたどり着ける。
「と言っても、私は往復するので早く行きますよ」
「そ、そんなぁ~待ってくださいよ小悪魔さ~ん!」
後ろで情けない声を上げながら、のろのろと小悪魔の後ろをついていく椎名。
だが、溜息を吐いた小悪魔が試しに言ってみる。
「とりあえず日が暮れてからは悪魔が増えます」
「早く行きましょう!」
さっきとは別人のようなスピードで歩いていく。
その姿に苦笑して、小悪魔が後を着いていった。
まだ人里までは随分と歩くようだ。
あとがき
二話ですが、お楽しみいただけたでしょうか?
まだまだプロローグで、本格的に話が進むのはようやく次回と言ったところですね。
楽しみにしていただければまさに嬉しく思います!
では、また次回!