幻想悪魔伝~Nameless Little Devil~ 作:超淑女
最初に感じたのは温かさと明るさ。
射命丸文の意識は温かくて明るい光の中にあった。
暗かった。ずっとずっと深くてくらい闇の中にあった意識が、光へと誘われる。
何度も見る悪夢、あの日の出来事、光と空を奪われた―――あのできごとだ。
ふと、目が覚めた。
「……」
相変らず闇の中だが、暖かい。
感覚を研ぎ澄ます。
「こっ、小悪魔さん!?」
背後から小悪魔に抱きしめられている文。
驚きながら少し騒いでしまう。
数十秒慌てていたが、すぐ落ちついて深呼吸。
背後からまわされた腕に触れてみる。
その手は暖かかった。
「こあ、くま…さん……」
呟いて、恥ずかしさゆえほんのりと頬を染めた。
久しぶりの人の温かさ。
「ん、起きましたか?」
小悪魔が起きて、眠気眼のまま文に話しかける。
ゆっくりと、小さく頷く文に微笑む小悪魔。
少しの沈黙の後、小悪魔がさらにギュっと文を抱きしめた。
「えっ?」
もちろん恥ずかしさから頬を染める文。
「あなたがそうなった日……なにがあったか教えてくれませんか?」
その言葉に、文の体がこわばる。
そして小悪魔の腕を強く掴んで話しを始める。
「あれは、10年前……悪魔が現れる少し前からお話しましょうか」
文の話しが始まると、小悪魔は少し強めに彼女を抱いた。
〜〜〜〜〜〜10年前〜〜〜〜〜〜
暦は冬、一月。
射命丸文が“いつも通り”空を飛んでいた。
その目は普通で、髪も短く、そしてなによりも両翼があった。
文はいつも通り取材を終えるとここ数ヶ月ほど行っている日課をする。
それは、飛んでいる彼女を追っていけばわかることだ。
彼女は人里から離れた湖のそばに降り立つ。
そわそわと落ち着かない様子で、気に背を預けている。
「あや~!」
その声が聞こえた途端、文の表情がパァッと晴れた。
文が向いた方向には、彼女がいる。
太陽のように明るい笑顔を浮かべて、文へと飛び込んでくる少女。
「チルノさん!」
その少女の名は、チルノ。
氷の妖精らしい。
文も詳しい事は知らないが……ただ、その少女に魅入られていた。
太陽のように暖かい笑顔を浮かべるチルノを抱きしめる。
月夜のように肌には冷たい。
「あっ、あや……大丈夫!?」
その言葉に、文は笑顔で頷く。
確かに常人なら凍傷になるくらいの冷たさだろう。
だが、文とて上位の妖怪だ。
この程度はどうということはない。寒いけど。
「文、寒くない?」
「大丈夫ですよ♪」
チルノを抱きしめる。
さすがに寒いが、やせ我慢をする。かみ合わなくなりそうな歯を無理矢理堪えた。
おぉ、寒い寒い。
そんなことを考えながらも、チルノを抱く。
「そぉいえば最近、妖精の行方不明が多いだとか聞きましたけど」
少し不安になったことをい聞いてみる。
妖怪に聞いた。
チルノが少し暗い表情で頷く。
「うん、あたいの友達まで……いなくなっちゃった」
その言葉と同時に、泣きそうな表情をする。
そんなチルノを抱きしめて撫でてあげると、ぎゅっと服を掴む。
数年前ならいざ知らず、今のチルノがそこらへんの妖怪に負けるわけもない。
そんな甘い考えのまま、自分はその日別れてしまった。
その次の日から、そんなことはなくなっていた。
だからこそ、チルノと共に毎日を楽しく過ごす。
ある日は椛から逃げ、霊夢から逃げ、咲夜から逃げ、なんてことをして遊び過ごしていた。
そんな日が繰り返されて、3月になった。
最近妖怪たちが飛べないという事件が多発している。
異変だと、霊夢が動こうとしたがとき既に遅し、霊夢は飛べなくなっていた。
それと同時に皆、能力までなくなってしまっている。
この前代未聞の事態に、大騒ぎだった。
そんな中、文は今だにチルノの元へと通う。
いつまでたっても、変わらないと思っていた日々が一転した。
ある日の朝、とうとう飛べなくなっていた。
能力もなくなっていた。
焦りに焦った。自分もとうとう。そう焦っていると、自宅の扉をノックする音が聞こえる。
足をもつらせながら玄関に行き扉を開いた。
そこには信じられないような人物がいた。
「も……もみじ?」
そこには、犬猿の仲とも言える相手、犬走椛。
なぜ? とは聞かなかった、理由はわかる。
「貴方も、使えなくなりましたかっ」
その一言、そして焦った様子の椛。
なぜだか冷や汗が溢れ出る、それは飛べないからでも能力が使えないからでもない、もっと恐ろしい何かを自分の第六感が感じ取っているのだ。
その正体は、忌々しい目の前の女の口から聞くことになる。
「よ、妖怪……いや、悪魔が大量発生した……いたるところで同時にだ! そして、妖精の行方不明事件……!」
その一言で、自分のいやな予感に裏づけが取れた。
最悪の考えが頭をよぎって、足が動かない。
「あの氷精、あなたにとって大事なのでしょう! ならば行け! おそらく弾幕もだせないが、救うことぐらいならできるはずだ! 道は作る!!」
椛が協力する? 自分に?
だが心強い、幾度も戦い続けた相手が自分を守ってくれる。
弾幕が無い状況下での彼女はかなり強い。それは自分が知っている、ならば彼女を、チルノを助けに行かなくてはならない。
椛と共に、湖へと向かうことにした。
途中、幾度も悪魔と出くわした。
そのたび椛が一刀両断、そして文が力がほとんど失われようと体術で応戦。
二人のコンビネーションは思いのほか意気もあい。特に怪我なく湖の近くまでやってきた。
全速力で走るが、疲れた様子が無い二人。
「さすがしぶといですね!」
「ハッ、貴方こそ落ちないでくださいよ、あの世で一生来ない愛しい人を待っていることになりますよ?」
皮肉に皮肉で返すが、二人とも笑い会っているが、それもここまでだった。
横から飛び出してくる陰、それは椛を押す。
立ち止まって振り返る文だったが、そこには3メートルはあろうかという巨体をもった大きな狼がいた。
椛を下に押し倒して、その爪で襲い掛かろうとするが、椛が下でそれを受け止めている。
必死の形相で文を見ると、叫んだ。
「行け!」
なにを! と言い放つ前に椛が文を睨む。
今までに見た事のないその迫力に、怯んだ。
「守りたいのでしょう! 氷精を……私の命と彼女の命を天秤にかけてみますか!?」
その言葉に文が止まる。
顔を俯かせて踵を返す。
「ありがとうっ」
それだけいって走った。
椛は目の前の狼を睨んで笑う。
「狼のくせに、誇りを持たないとは嘆かわしい……ハァッ!!」
力を込めると、狼の爪ごと首を切り裂く。
すぐさまそこから引いて文を追おうとしたが、あたりを見回した。
先の狼が大量にいた、それを一瞥して笑うと、剣を振る。
「きなさい……!」
狼と狼の戦いが始まった。
あたりの狼が一斉に椛に飛びかかる。
文が走っていると、湖が見えた。
もう少しだ―――彼女の笑顔を思い浮かべながら走り、たどり着いた湖。
だがそこに、彼女の姿が見えない。
「チルノさぁぁぁん!!」
力いっぱいに叫ぶ、叫びながら力なく走る。
だが、見当たらない彼女。
もしもの、最悪のことを想像して、文の瞳に涙が溜りだす。
「そ、そんなっ……椛にまで、協力してもらったのに!」
膝をついて叫ぶ。
なぜ、自分は妖精が行方不明になっている時に彼女を放っておいたのだろう。
後悔。後悔。後悔。後悔。後悔。
それだけが彼女の心を侵食していた。
だが———。
「あや〜〜〜〜!!」
彼女の声が聞こえた。
空耳にしてはクリアな声で、はっきりと聞こえた。
目の前には蒼い彼女がいる。泥だらけだが、確実にチルノだ。
彼女に手を伸ばして、すばやく胸の中に抱く。
「あやっ!?」
「あやや、私としたことが……証拠も無しに早とちりしちゃいましたっ」
優しくチルノの頭を撫でる。
数秒して放すと、文はチルノの肩を掴む。
「逃げますよ!」
「うん!」
悪魔がきていることは知っているようだった。
ならば話しは早い早くこの場を切り抜けなければと、逃げる場所を探す。
まだ悪魔は湖にきていない、ならば早く逃げてしまおう。
椛のもとへと向かうために、チルノの手を握って走り出すが、その瞬間、足を止める。
チルノを見て、笑いかける。
不思議そうな顔をするチルノと、目線を合わせるためにしゃがむ。
優しく頭を撫でて笑いかけた。
「文、先に何かあるの?」
チルノには道の先になにがあるのかわからなかった、文が影になっていたからだ。
いつもより優しい顔で文はチルノの頭を胸に抱く。
「大丈夫ですから、早く逃げてくださいね?」
その言葉に、首を横に振る。
文が笑顔のまま、チルノの頬を撫でた。
「文ぁっ!」
「逃げてください……すぐに追いつきますよ」
その言葉に、苦しそうに頷くチルノ。
頷いたチルノの額に優しくキスをして、チルノの背後を指差す。
振り向くと、そちらには森。
「あちらに逃げてください……わかりますか?」
その言葉に頷いた。
「決して振り向いてはダメですよ。後で行きますから、ずっと走り続けてくだい……だれか知り合いと会った時だけ、その人について行ってくださいね?」
チルノは頷く。
彼女をもう一度背後から抱きしめて、背中を押した。
約束どおり振り向かずに、彼女は走っていく。
椛のいる方向へは逃げられないので、吸血鬼たちがいるであろう紅魔館への道を行かせる。
彼女たちなら、チルノをしっかり守ってくれるはずだ。
一安心して、立ち上がり背後を見る。
そこには一人の男が立っていた。
しかし、決定的に違った。
長い金髪で片目にモノクロをつけた男、しかし鼻が以上に長く、耳も長い。
生理的に拒絶している。これはダメだと、しかし逃げ場など無く、あっても自分はチルノを逃がさなければならない。
「っ……あぁぁぁぁぁあっ!!!!」
走りだす。男は笑って長い手を文に伸ばした。
椛が走る。狼たちの増殖がピタリと止まると、山の頂上に煙が上がっていた。
いやな想像が頭をよぎるが、今は文のもとへと急いだ。
湖へと到着して、椛は言葉を失った、そこには文。
だが、自分が想像していたのはチルノと仲良く手を繋いで、自分をからかって、逃げ出す二人だ。
〔そこにいた文は倒れていた〕
嘘だ。嘘だ。射命丸文が倒れるはずがない。
〔そこにいた文は血まみれだった〕
違う。違う。射命丸文はいつも元気だ。
〔そこにいた文は、叫んでいた〕
そうだ。目の前の現実だ。
椛は動けなかった。恐怖で、圧倒的な力を前にして、足がすくんだ。
「ぅぁ、ぁぁっ……」
小さくうめいている。まだ生きている。
だが、文の背中に片足を乗せている男。
そいつは文の片翼を掴むと、ぐっと引っ張った。
「あぁぁぁぁっ!!?」
叫ぶ文、絹を裂くような悲鳴を目の当たりにして、ようやく椛が動く。
恐怖を忘れて走り出した、彼女自身も混乱しているが、目的は一つ。
文を助け、チルノを見つけ、帰る。
「はぁぁぁぁっ!」
大剣をもって走った、しかし相手は腕を振る。
「えっ?」
椛の片腕が、すでになくなっていた。
気付くまでに時間がかかった、地面に自らの腕が落ちて、それを見て、初めて気付く。
じわじわと痛みがやってくる、当初は耐えられる程度の痛みだった。にも関わらず、耐えられなかった。
片腕がなくなる痛みなど感じたこともなく、ひたすら腕があった場所を押さえて叫ぶ。
「ぁぁぁぁっぁっ! っ……あっ、文からっ! 足をどけろぉぉぉっ!!!」
痛みを堪えて叫ぶが、文の翼を掴む男は笑うだけだった。
不愉快な高い声で笑う。
それが気に入らなくて、痛みで涙を流しながらも、どけろと叫ぶ。
男は表情を変えて、文の背中を強く踏んで翼を引っ張る。
「—————!!!!? 」
今まで聞いた事もないような絶叫。
文の声が響く。片腕を飛ばされた椛よりも大きな声で叫ぶ。
一瞬の痛みではなく、少しずつ翼が文の背中から千切れていく。
「やめろぉぉぉぉぉぉっ!!!」
叫ぶ椛。だが黒い羽があたりに散った。
言葉をなくす。男が持つ黒い翼。
文の背中には翼が一枚。ゴミでも捨てるように、男は翼を放り投げる。
叫ぶこともなくなった文。
「コンティニューは残しといてやる」
口が裂けるほどの笑みを見せて、男は去っていった。
椛は、歯を食いしばってじめんを殴る。
「くっそぉっ……くっそぉぉぉぉっ!!」
叫ぶ椛。文の指がピクリと動いた。
その瞬間立ち上がり、片手で文を抱き起こす椛。
だが、絶句した。
「そこ、ですか……椛?」
苦笑する文、その目を見る。血が流れていた。なぜかは知らない。
自分が来る前に、すでにやられていたのだ。
もっと早く来ていればこうはならなかったかもしれないし、あそこで行かせなければこうはならなかった。
「うっ……あぁぁぁっ、わ、だじはっ……」
椛の瞳から涙がボタボタと落ちる。
「椛、泣いているんですか……大丈夫です、大丈夫ですよ」
そう椛をさとす文。
それを最後に話さなくなってしまった。
体中の力が抜けているのもわかる。
「文さん? 文さん!?」
叫ぶと、その瞬間……二人は影に覆われた。
背後を見る。そこには悪魔がいた十数メートルはあろうかという巨大な狼の悪魔。
さきほどの狼たちと見かけは同じなのにもかかわらず、大きさがダンチだった。
カチカチとかみ合わなくなる歯。これが本物の恐怖だと知ったとき、来た。
「—————!!」
狼が叫び声をあげ、倒れる。
その頭を殴った者がいたからだ。
「早く逃げるよ!」
そこには、鬼がいた。
名前は星熊勇儀。
地底で暮らしていたはずなのだが、なぜかここにいる。
なぜだろう、だがそんなことを考えて聞いているほどの余裕はなかった。
「ちっ!」
勇儀は文を肩にかつぐと、椛を立ち上がらせる。
「逃げるよ!!」
そして———。
勇儀と共に山を後にし、地底へと逃げると、そこには山にいた妖怪の5割もいなかった。
文が起きたのは地底の仮設病院。
起きて目にしたのは漆黒であった。
何も見えず、翼も片方しかなく、チルノもいなく。
それから1年後、椛と文は共に悪魔を狩る仕事を始めたのだ。
〜〜〜〜〜〜現在〜〜〜〜〜〜
文の長い話しが終わった。その中には椛に聞いたのだろう話も混ざっていた。
その話しを聞き、理解できたこともある。
一つは文の方翼を奪った悪魔。
「復讐できるじゃないですか……」
「え?」
「それ、たぶんメフィスト・フィレスです」
その言葉に、抱きしめていた文の体がこわばるのがわかった。
それはメフィスト・フィレスに復讐できる嬉々でか、恐怖でか、わからない。
だが、それは自分のターゲットでもあるのだ。どちらにしてもそいつは殺す。
そしてもう一つ。
「チルノさん、生きていますよ」
文の手に力がこもる。
それは怒りでもあるのだろう。
「慰めですか……」
「いえ、チルノさんは生きています」
断言する。なぜなら、小悪魔は———。
「絶対に」
信じているからだ。
そう言うと、文の手の力が緩み怒りは感じなくなる。
「本当、ですか?」
「えぇ、絶対……神に誓って」
そう言うと、文が笑った。悪魔が神に祈るなどとと、小悪魔も笑う。
文の笑顔を見て安心した小悪魔。ようやく見ることができた嬉しそうな顔。
自嘲したような笑いしかしなかった文の嬉しそうな顔。
小悪魔も頬が緩んで笑顔になる。
そして、小悪魔は真面目な顔をして一言。
「行きましょう、過去を振り払いに……」
その言葉に、文は強く頷いた。
洞窟に朝日がさしこむ。
二人は立ち上がり―――走る。
文の走りは、昨日までとまったく違った。
スピードがじゃない。安心するのだ。
昨日まで小悪魔は内心ヒヤヒヤしていたのだが、今日は違う。
安心して前を走らせることができる。
二時間ほどで霧を抜けた。
そして、走りついた先は、神社。
山にある神社など一つしかない。
境内につくと、二人が横に並んで歩く。
「守矢……神社」
小悪魔が呟く。
幾度か来たことがある。
だが、異様な雰囲気につつまれていた。
悪魔が出ないタイプの場所なのは理解しているが、なにかが違う。
文が止まる。長い黒髪が風でなびいた。
「きますね」
その一言で、小悪魔と文が立ち止まると、二人の間に一つの御柱が落ちた。
境内に刺さる御柱。
前方の神社から、出てくる。
それはかの二柱『東風谷 早苗』『八坂 神奈子』。
小悪魔は二柱を視界に捕らえる。
同じく、二柱も二人を視界に捕らえた。
神奈子。あの頃から、見た感じは変わっていなかった。
早苗のほうは、髪についていた蛙と蛇が無くなっているし、どこか疲れているようにも見える。
「射命丸……文か?」
神奈子は少し驚いている様子だった。
まぁそれも当然だろう。髪も長いし、靴も対悪魔戦にそなえ、底に鉄板がある靴。
そしてサングラス。
「そうですよ、貴方達を……抹殺にきました」
そういう文と、拳を構える早苗。
戦い方を変えたのだろうと、ステップをする文。
ボクサーのように小ジャンプしながら、リズムを取る。
その状況で、神奈子が次に見たのは小悪魔。
「そうだ、思い出した。吸血鬼のところの……魔女……その使い魔」
その言葉に、小悪魔は優雅に一礼した。
頭を上げた瞬間、小悪魔は銃を片手で構える。
銃口の先には神奈子。
「Are you ready?」
神奈子が走り出す。
小悪魔も同時に走り出した。
文と早苗が至近距離での戦闘をする。
もとは人だったとはいえ神か、格闘能力はしっかり文に対抗できていた。
ここで文には疑問があった、戦闘中口にするには些か緊張にかけるが、聞いてみる。
「神である貴女方が、なぜ力を保っていられるのです?信仰なんてもう」
その言葉に、今まで無言だった早苗は無言で返した。
睨む、それだけしかない。
早苗の拳と、文の足がぶつかる。
「ぐっ、さすがに!」
足を下げてから、顔をしかめた。
正直、東風谷早苗にここまで苦戦をしいられるとは思わなかったのが事実。
人間もどき、あげくに接近戦もできない、そのはずが強化しているとは意外だ。
八坂神奈子を2対1で倒すはずだったのがとんだ誤算。
「小悪魔さんっ……」
どうなっているかわからないが、銃撃音と何かが打ち立てられる音ばかりが響く。
少しそちらに気をやっていると走る音が聞こえた。
集中して早苗を感知するとそちらに足を振る。
ガードされたが、吹き飛び距離を取る早苗。
「さっさと決めなきゃならないですねぇ」
そう言って笑うと、走り出す。
文は何かを決意した表情だった。
小悪魔が佇んでいた。
当初戦闘していた場所から離れてしまったが、一応文が見えるので良しとしよう。
辺りには大量の御柱が刺さっている。
「なんで御柱は召喚できるんでしょうかねぇ」
「別に能力じゃない、それに……神だからな」
そういう神奈子。その言葉を聞いた瞬間、小悪魔が腹を抱えて笑う。
可笑しそうに、バカにするように笑う。
それに神奈子は怒声を出す。
「なにがおかしい!!」
なお、笑いを止めることはない小悪魔。
「だって、クククッ……そうですか、悪魔の軍門に下るのが……クククッ……神なわけですね?」
その言葉を放った瞬間、神奈子の表情が変わった。
どういう感情をもっているのかわからないが、腕を振るう。
御柱が空から飛んでくる。
小悪魔は後ろに下がって回避しながらも撃つも、全て神奈子は避ける。
「ちっ、さすがに」
その瞬間、背中から衝撃がきた。
振り向かなくても、御柱が背中に直撃したのはわかる。
勢い良く吹き飛んで、神奈子の前に倒れた。
「がはっ……げほっ、げほっ!」
咳き込みながら、神奈子を見る小悪魔。
「貴様に、貴様になにがわかる!」
「わかりたくもありません……悪魔の犬になりさがるなんてね」
腹を蹴られる。
再び咳き込みながら、笑う。
神奈子はそんな小悪魔を不気味そうに見る。
「はぁぁぁっ!!」
そんな声と共に、神奈子の腹部に足が食い込む。
吹き飛ぶ神奈子を見てから、倒れたまま小悪魔が微笑んだ。
「文さん、少し遅いです」
「失礼しました、これでも中断できたので早苗さんは倒せてないんですよ」
小悪魔の手を掴んで立たせると、文は神奈子の方を見る。
腹部を押さえながら立ち上がる神奈子の傍に、早苗が駆け寄った。
「早いですねぇ、これでも飛ばしてきたんですが」
「結構離れちゃいましたね」
神社はそこそこ遠くに見える。
小悪魔が苦笑して、拳銃を構えた。
視界に早苗と神奈子を捉える。
あとは引き金を引くだけだが、手が止まっていた。
文が何事かと思って小悪魔がいる方向に顔を向ける。
小悪魔は拳銃を回転させて、ホルダーにしまう。
「洩矢諏訪子がいない……」
その一言は、神奈子たちにも聞こえたのか、小悪魔の方を向く。
それに何かを気付いたのか静かに瞳を閉じる小悪魔。何を思い、どうしてそんなことを言ったのか文には理解できなかった。
しかし、雰囲気が変わる。
其の場を彩る雰囲気が一切変化。
「メフィスト・フィレスは……高い知能を持った悪魔です」
その言葉の最中、神奈子の顔が真っ青になるのがわかった。
文にすら雰囲気の変化は捉えられる。
「なるほど」
その一言。彼女はいつものおちゃらけた雰囲気を消す。真剣な表情で、微笑する。
小悪魔の真上に一本の大きな御柱が立つ。それが重力にしたがって落ち、地面に直撃し砂煙を上げた。だが、状況を理解できているであろう文に焦った様子は無い。
神奈子も、これで仕留められるとは思って居ない。やはり予想通りなのだ。小悪魔はただ一人そこに立っていた。
「汚いことしますねぇ……」
地面に真っ直ぐ刺さっている御柱の頂点に、彼女は一人立っていた。
それはいつもの彼女だ。おかしそうに、クールに、なおかつ真剣な彼女。
拳銃を抜かずに跳んだ。跳んだ彼女は神奈子と早苗の目の前に降り立つ。
神奈子も早苗も、反応できなかった。ただただ、目の前の悪魔に目を奪われていた。
「お二人とも、私は———」
言葉を紡ごうとした。一瞬の出来事、肉を裂く音。なにかが降り立つ音がした。
神奈子と早苗の目の前にいた悪魔が、串刺しになっている。
目の前の小悪魔は、ガラス細工でできたような紅い槍にさされていた。腹部にそれが刺さっていた。
小悪魔は睨む。神奈子たちの背後にいる———。
「よぉ元気だったか、名無しの小悪魔」
文は震えた。男を見て震えた。決して晴れない過去を思い出し、痛みや恐怖が帰ってくる。文は震えて地面に座り込んだ。
串刺しにされた小悪魔は、今だに立っていた。体をおりまげたまま、紅い槍に刺されたまま、立っている。
「めふぃすと……ふぃれすっ……」
にらみつけるその眼光、そして常人には耐えられないような殺意を丸出しにする小悪魔。
その怒気や殺気はどこからきているのだろう?
文の昔話から?
それとも彼女自身の恨みから?
誰も知らないが、小悪魔はメフィスト・フィレスを睨む。
「さすがに頑丈なもんだな、すぐ再生するだろうし、その前にコロシテヤルよ」
男はそう言って、手に紅い槍を出現させる。ガラス細工のように綺麗で透き通ったそれを構える。
メフィスト・フィレスは小悪魔に歓喜の瞳を向けた。それはこれから小悪魔を殺せるからか、別の理由があるからか———。
「わ、たしは……こんな、とこで……」
どちらにせよ、投擲された槍。その刃で小悪魔を貫かんとする槍。紅の槍は容赦なく小悪魔へと向かっていく。
だが、彼女の目は死んでいない。悪魔でありながら、人のために生きる悪魔はまだ生きているのだ。
「死ねない!!」
それは小悪魔の叫びか、生命の叫びか、それまた別の叫びだったかもしれない。
だがその瞬間、小悪魔に刺さっていた全ての槍がガラス細工のように粉々に砕け散った。
ペンダントが光る。椎名にもらったあの悪趣味なペンダントが輝きをまして、首から外れ小悪魔の手におさまった。
それは光を発した。その光は襲う槍を小悪魔の眼前で砕く。驚愕する。全員。小悪魔も含めて全員が驚いている。
「魔具の一種だったのですか」
そう呟いて手のペンダントを見る。光が消えて、小悪魔の手に収まっていたはずのペンダントは西洋剣になっていた。
その剣は柄に髑髏の装飾がされた悪趣味な剣、だが強さは見てわかる。
魔具についての知識がほとんどない文にすらわかったほどのものだ。
「リベンジャーですか……いい名ですね」
呟く小悪魔に、刺さっていた槍はもう無い。何を言っているのかはなんとか理解できた。剣の名なのだろう。
〔
文は、不謹慎で失礼だが、小悪魔が持つに相応しい名の剣だと考えてしまった。
おそらく文以上に、彼女は復讐のことを考えているのだろうと察した上で、だ。
「メフィスト・フィレス……」
彼女は男をにらみつけた。そして剣の切っ先を男に向ける。恐れる男を鋭い眼光が貫く。
なぜそれほどまでに悪魔を憎むのか、同属嫌悪か復讐か、はたまた職業故だったりするのだろうか? なにかはわからないが、彼女が彼らを憎んでいることは痛いほど理解した。
文も、神奈子も、早苗も、メフィスト・フィレスでさえ。
「八坂、東風谷……しっかりな」
メフィストが走り去る。だが、小悪魔はその後を追おうとする。そんなことは許されなかった。
御柱が上空から小悪魔を狙い、落ちる。
ギリギリ後ろに下がって避けると、次は早苗が突撃してくる。その拳も避けて後ろに下がると、丁度文の隣りに着地した。
そう簡単には進ませてくれない。目の前に文の仇がいる。
そんな歯がゆい状況だが、神奈子と早苗が立ちふさがる。
「どいてください……」
その言葉に、早苗が首を横に振った。
彼女とは良く話した記憶がある、文にも小悪魔にもだ。
彼女が喋らないのが疑問でしかたがない。
ただ、小悪魔が察した。全ては頷き一つ。
小悪魔が頷き、早苗と神奈子が不安そうな顔をしている。
「なるほど、理解しましたよ……早苗さん」
笑みを浮かべる小悪魔、彼女の左右から御柱が迫る。
だが、左右の剣が振られた、常人では見えないような斬撃が、二本の御柱を切り裂く。
細かい破片が小悪魔を襲うが、全てを避けながら剣で防ぐ。それら全ての行動が終わると、小悪魔は剣を片手でふるった。
銀色に光る刃が、小悪魔の紅い髪を映す。
小悪魔の眼光は二柱を貫く。ニッと口を歪めて笑みをみせると、まるで自分の一部のように、手首から先だけを動かして剣を舞わせ、二柱に向けた。
「一曲踊りましょうか?」
その一言をきっかけに、走り出す小悪魔。それに対抗するように早苗が走った。
二人が近距離にまで接近すると、早苗は拳を振るう。霊力が上乗せされた高威力の攻撃。
それにたいして小悪魔は、回避という行動をとる。
「真正面から行くわけないでしょう!」
早苗の真横に小悪魔の顔がくる。フッと微笑んで、小悪魔は早苗に足払いをかけた。
体勢を崩す早苗の頭を掴んで、小悪魔は地面へと叩きつけた。後頭部を強打したが、彼女にとってはそれほどのダメージはないのだろう。
声も出さずに早苗は痛みを堪える表情をした。小悪魔が早苗の喉に手を添える。
「んっ?」
何かに気付いたかのような表情をした瞬間、小悪魔の顔面に早苗の拳が襲い掛かる。
だが、そうはいかない。小悪魔はぎりぎりで跳躍。空中で縦一回転して地面に立つ。
口笛をふきながら楽しそうにしていた。
「~♪」
小悪魔の隣りに文が立つ。何を楽しそうにしているかと聞いても、口笛を吹くだけだ。
疑問を持ちながらも、聞くなということだと理解してステップを開始する。
「文さん、お願いしますね……八坂神奈子はいただきます!」
文と共に走りだした。早苗は文に任せて自分は神奈子と戦う。
だからこそ、走る。ただ走り早苗の目の前で跳んだ。その跳躍は神奈子のもとへとたどりつけるほどの距離だった。
神奈子は驚愕し、唖然としていた。小悪魔はリベンジャーを縦に振るが―――斬撃は神奈子にとどかなかった。ギリギリで体を逸らして避けたのだ。
だが小悪魔は瞬時に、リベンジャーを横に振る。神奈子は跳んで攻撃をさけると、細長い御柱を3本撃つ。
所詮付け焼刃。剣を使うなど———そんな思考を持っていた。
「Break down!!」
小悪魔が右手に持った剣で御柱三本をすばやく切り裂いた。
そして左手で拳銃を一丁抜いて5発撃つ。神奈子はそれに反応して極太の御柱を何本も重ねて、自分と小悪魔の間に壁を作る。よって銃弾はとどかない。
自分と小悪魔の間には極太の御柱。それは言わば極厚の壁。
だが、それら全てに閃光が走る。ボロボロと崩れ落ちる御柱。
その向こうに、神奈子は
「さて、踊りましょうか……Are you ready?」
剣と銃を持った小悪魔は、さも楽しそうに笑っている。
まるでこれからゲームでも始まるかのように———。
次回予告
愛ゆえに選んだ道。それは正しいのか?
復讐ゆえに選んだ道。それは正しいのか?
答えなど無い。未来を選び切り開くことに間違いや正しさがあったのか?
全ての分岐点に正解はなかった。もう過去へは戻れないのだ。
だが誰もが振り返る。自分は正しかったのか、間違いだったのか、そんな言葉に踊らされる。
彼女は一人。舞台で踊る。
次回『過去からの服従』
神は明日のために。
あとがき
さてさて、妖怪の山編の過去と現在。
とりあえず小悪魔にリベリオン的な新武器誕生!
では、次回もお楽しみに♪
あと感想お待ちしています♪