幻想悪魔伝~Nameless Little Devil~   作:超淑女

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Mission07 ~過去からの服従~

 小悪魔を相手に、距離をとった神奈子。小悪魔は口の端を吊り上げて笑う。

 右手に剣を、左手に銃を、そんなスタイルのまま小悪魔は神奈子に近づいていく、ゆっくりと近寄る恐怖のカタチ。

 神奈子は額から冷や汗を流して、後ずさる。

 

「なぜ神様たる貴女が後ずさるんです?」

 

 小悪魔は、からかうように笑って言う。

 笑われた神奈子は内心穏やかではない。

 今の自分の全力である御柱五本、全て防がれてしまったのだから。

 

「退いてください……私の目的はメフィストフィレスだけです」

 

 依頼にこの二人の抹殺を頼まれているのは事実だ。

 だが、小悪魔はそれ以前にデビルハンターである。

 

 依頼の、この二人を倒す内容など二の次。

 自分が成すのは、悪魔の排除と人と妖怪を救うこと。

 それに……。

 

「できれば知り合いは殺したくないんですよね」

 

 そう呟いて、地を蹴った。

 神奈子は焦るような表情のまま御柱を召喚して天から降らす。

 まっすぐと落ちてくる御柱を走りながら横に移動して避けていく小悪魔。

 また一本の御柱が叩きつけられる。

 先ほどと同じように小悪魔の姿がなくなったが、安心はできない。

 一つの影が、御柱の上から飛び出した。

 

 やはりそれは―――小悪魔。

 

 彼女は片手で剣を持ったままもう片手の銃を連射する。

 神奈子は小悪魔と自分の間に御柱を立てて銃弾を防いだ。

 だが、御柱が断たれる。

 

「Let's rock!」

 

 発音の良い英語と共に、小悪魔が目の前に降り立つ。

 神奈子が息を呑むのと同時に、小悪魔は口元に笑みを浮かべて、その剣の切っ先を神奈子の首元に突き付けた。

 不敵に笑う小悪魔とは反対に、神奈子は冷や汗を流す。

 

「聞きたいことがいくつかあるんですよね」

 

 小悪魔の言葉。

 だがその言葉を否定することは現状からしてならない。

 黙っている神奈子に、小悪魔が口を開く。

 

「貴女方が悪魔に、いえ……メフィスト・フィレスに加担している理由です」

 

 黙っている神奈子。

 だがそれでも小悪魔は話を続ける。

 

「候補はいくつか出ているんですよ……ですがね」

 

 それでも沈黙を続ける神奈子に、くすくすと笑った。

 

「では頷くだけでも良いです。答えてくださいね」

 

 そう言うが沈黙。

 

「なにかを握られていますね?」

 

 少し、神奈子の眉が動いた。

 それだけで十分だ。なにがどうなっているのか理解。

 剣を下ろそうとした瞬間、背後から殺気を感じられた。

 

 飛ぶ背後の殺気を出していた彼女よりさらに後ろに飛んで着地。

 自分に殺気を向けていたのは、早苗だったようだ。

 背後から文が走ってきた。

 

「もぉ、文さぁん……せっかく良いところでしたのに」

 

「すみません、取り逃がしましたっ」

 

 あんなことを言ったが、実際小悪魔は気にしていない。

 別に次やっても自分が神奈子に負けるとは思わないし、なによりもあの二人は無視しても別段問題が無い敵のようだった。

 

「オーライ、文さん……私の合図と同時に全力で走ってくださいね」

 

 小悪魔が剣を背中にかけて銃をホルダーにいれた。

 そして両手を早苗と神奈子に構える。

 

「水符『プリンセスウンディネ』!」

 

 昔パチュリーが使っていたそれの少し改造した技だ。

 弾幕の弾一発一発が完全なる水。

 それが放たれた。

 驚愕する早苗と神奈子。

 

 だが特にダメージがあるわけではない。

 濡れるだけだ。

 そう、ならば小悪魔がそんな無駄なことをするはずがなかった。

 

「火符『アグニシャイン』!!」

 

 次は火の弾幕が放たれた。

 それは水の弾幕にぶつかって水蒸気を起こす。

 あたり一帯が白い霧につつまれる。

 白い煙の中、叫ぶ。

 

「文さん今です!!」

 

 直後、小悪魔が文の手をつかんだ。

 文は山を登るときと違い全力で走る。

 それはまさに幻想郷最速と呼ばれた天狗のスピードだった。

 一瞬で水蒸気の中を抜け、遥か先へと走っていく。

 あまりの速度に小悪魔の体は浮いている。

 

 二人を追い抜きしばらくしてから、少しづつ減速していき止まった。

 

「……ふぅ、逃げ切りましたね」

 

「なぜ、逃げたんですか?」

 

 文のその言葉に、小悪魔が笑う。

 含みのある笑いのまま、口を開いた。

 

「文さんはあのお二人を殺したかったのですか?」

 

「えっ……それは……」

 

 小悪魔の言葉に狼狽する文。

 確かに今言っているのはそういうことなのかもしれない。

 

「アハッ♪ 冗談ですよ、少し意地悪でしたかね」

 

 笑い出す小悪魔は軽く謝罪をしてから、少し真面目な表情をする。

 

「確かにあのまま戦っても勝てましたが、それではいけないんですよ」

 

 そう言う小悪魔。

 彼女たちに手をかけたくない小悪魔の気持ち。

 文にもわかるが、あそこまでして殺さずにいようという小悪魔に、やはり小悪魔は悪魔ではないと思わされる。いうなれば中身は妖怪()と言ったところか、いや———。

 

「ヒトより全然優しいんですね……小悪魔さん」

 

「ん? 今なんと?」

 

 なんでもありません、と首を横に振った。

 はじめと違って、表情が柔らかくなった文を見てほほ笑みながら、小悪魔は文の頬を撫でる。

 

「へっ!?」

 

 その行為に、顔を真っ赤に染める文。

 それも当然だった。

 10年前であればそれこそ『なにをしている?』的な感じでいられただろうけれど———。

 

「ん、どうかしましたか?」

 

 ———今の小悪魔は正直かっこいい。

 普通に恥ずかしくなってしまった。

 

「いえっ、あ……あややっ……私は、そのっ……なんでもないです!」

 

 後半は声が裏返ってしまった。

 小悪魔はそんな文を見てくすくすと笑うと、手を放す。

 少し名残惜しそうにする文だが、小悪魔は気づかない。

 文はだいぶ感情らしい感情が戻ってきたことに気づく。

 会って一日ほどしかたっていない小悪魔が、ここまで文を立ち直らせた。

 

 なんだか気恥ずかしくなってきた文。

 

 直後、表情を変える小悪魔。きわめて真面目な表情のまま、先を見据える。

 この先にあるものはわかっていた。

 いや、この先に以前あったものなら文の方が詳しいだろう。

 

 自らの故郷なのだから。

 

「行きましょうか、文さん」

 

「はい、小悪魔さん」

 

 頷くと、二人は歩いていく。

 木がひらけてできた道を、二人は散歩でもするかのように歩く。

 小悪魔は背中に剣を背負いホルダーに銃をさして、笑っている。

 その表情の奥にどんなものがあるのかはわからないが、笑っているのだ。

 

 開けた場所に出た。

 その奥に、家が見ある。

 小悪魔が文を見ると、表情が言っていた。

 知っている家のようだ。

 

「天魔様の……」

 

 山の主の家。

 小悪魔はその家に向けて何度か銃弾を撃つ。

 何かにより弾かれた弾丸。

 

「チッ!」

 

 舌打ちをして、拳銃をホルダーに収めた。

 小悪魔は腰に手を当てて頭を押さえる。

 

「さて、出てきたらどうです」

 

 少し声を張り上げた小悪魔。

 それにこたえて家から誰かが出てきた。

 メフィスト・フィレスだった。

 

「お待たせしました……殺しに来ましたよ?」

 

 楽しそうに笑う小悪魔。

 文はぐっと拳を握る。

 メフィスト・フィレスは頭を抱えて笑う。

 

「アハハハハッ! ヒハハハハッ! なに言ってんだ、逃げてきた分際でよぉ、それにこっちには切り札があるんだよぉ!!」

 

「毎回そんな感じですねぇ、メフィスト・フィレス」

 

 小悪魔は笑顔を崩さない。

 だが、声音が違う。

 いつもより冷たい。

 

「お前は俺に何度負けたんだ!? そのたびに俺が『コンティニュー』をのこしてやったんだぜ? それにアイツが来てたんだよな! アイツがいなきゃお前死ぬぜぇっ!? ヒャハハハハハッ!!」

 

 小悪魔は片手で銃を向ける。

 その銃口の先にはメフィスト・フィレスをとらえていた。

 

「先生は関係ありません、もう私は違う、お前が知っている私じゃない」

 

 文は明確な違和感を感じた。

 少し違う。

 わずかだが一日を共にした。

 だが聞いたことも無いような声音だ。

 

「あぁん、そういえばもう一匹がいねぇな?」

 

「話すだけ……」

 

 メフィスト・フィレスの言葉に、文は違和感を感じた。

 自分のことを言っているわけではない。

 話を聞くからに、小悪魔とメフィスト・フィレスは顔見知りで『先生』という人物が向かし共にいて、さらにもう一匹?

 ならば小悪魔は昔は最低でも三人と一緒にいたことになる。

 

「なんだ、もしかして死んだか?」

 

 小悪魔が地を蹴った。

 走り出す小悪魔。

 

「Wasting time!!(時間の無駄です!!)」

 

 両手で銃を撃ちながらメフィスト・フィレスのもとに走るが、メフィスト・フィレスは体を流れるように動かして銃弾を避ける。

 くねくねと動くさまは非常に気持ち悪いものだ。

 

「Sweet Dream!!(寝てな!!)」

 

 一定の距離までいった瞬間、小悪魔が蹴りを放つ。

 メフィスト・フィレスが体をひねって避けようとした。

 

「雑魚が調子にのるものではありませんよ?」

 

 極めて優しい声音で言う小悪魔。

 そこで蹴りをやめると、メフィスト・フィレスと小悪魔の距離はわずか数十センチ。

 その長い腕でパンチをくり出すメフィスト・フィレスだったが、小悪魔は飛び上がる。

 そして、上空から背中に背負っていた剣を投げた。

 (リベンジャー)は回転しながらメフィスト・フィレスの腕の肘から先を切断し、地面に刺さる。

 

「っぉぉぉぉおおおっ!!?」

 

 断面図を押さえて叫ぶ。

 そんなメフィスト・フィレスの目の前に降り立った小悪魔は剣を地から抜くと、メフィスト・フィレスの鼻 先に銃口を突き付け、何度もトリガーを引く。

 メフィスト・フィレスの頭を突き抜ける弾丸。

 それだけでは止まらないのか、小悪魔は剣で数度メフィストを切ると蹴り飛ばした。

 ボロボロのメフィスト・フィレスが転がる。

 

「……終わりましたよ、文さん!」

 

 そう呟いた小悪魔が文の方を向く。

 笑顔を向けた。

 そんな彼女に、文は嬉しそうに頷く。

 

 ―――だが、文が止まる。

 

 顔を青くしていた。

 

「小悪魔さん後ろ!」

 

 文の声。彼女の感覚の感度は視覚が無い分だいぶ高い。

 その言葉に気づいて振り返ろうとした時、小悪魔の胸の中心から腕が生えた。

 生えたように見えるが、それは貫いた手。

 手で小悪魔の胸を貫いたのは———。

 

「っ……メフィスト・フィレスっ……」

 

 無傷のメフィスト・フィレス。

 たしかに斬った手ごたえもあった。

 なぜ、無傷でここにいる?

 

「ばぁか、コンティニューは残しとくもんなんだよ」

 

「そ、んなっ……げはっ!」

 

 小悪魔は口から血を吐いて、意識をなくす。

 メフィスト・フィレスは小悪魔から腕を抜いて地面に投げ飛ばした。

 血をまき散らしながら転がる小悪魔。

 

「ヒハハハハハッ! さぁ、次はお前か?」

 

 文を殺気が貫く。

 震える足。

 あの時の痛みがよみがえるような感覚だった。

 

「じゃぁな、てめぇみたいな雑魚には用はねぇんだ……コンティニューは残してやるよ、次はもう片方の羽とかももらうけどな」

 

 そういって近づくメフィスト・フィレス。

 文は動けなかった。

 一歩。また一歩。文へと近づいてくるメフィスト・フィレス。

 それに震える文。

 メフィスト・フィレスの背後には胸に風穴を開けた小悪魔。

 

「あっ……あぁっ……」

 

 恐怖で逃げることもできない。

 それは生きながらにして心を壊されていく恐怖。

 メフィストが腕を振りかぶる。

 文は見えないが、何をしているのかは理解できた。

 その手は自分の何を奪うのだろう?

 だが、その腕は文には届かなかった。

 

「平気ですか?」

 

 その声と感覚でわかる。

 ここ10年間、聞き続けた彼女の声だ。

 自分が一番信頼している彼女の声だ。

 

「なんだぁ?」

 

 メフィスト・フィレスの拳は盾にふせがれていた。

 その盾を持つのは、白狼。

 白い髪そこから生える2つの耳。

 少女はメフィスト・フィレスに背を向けた状態で、正確には持っているわけではない盾を使って攻撃を防いだ。

 顔を横に向けてメフィスト・フィレスを睨む。

 

 紅い瞳がメフィスト・フィレスを貫いた。

 盾は、少女の背中についている。

 右手に剣を持ち、左手はない。

 

 それはほかでもない、メフィスト・フィレスがかつてやったことだ。

 

「文さん、おとなしくしておいてください」

 

「も、みじっ」

 

 犬走椛は、体を回転させると同時に蹴りを放つ。

 メフィスト・フィレスは背後に跳んで攻撃を回避する。

 犬走椛は、片足を上げた状態で立っていた。

 

 メフィスト・フィレスは犬走椛を覚えている。

 悪魔の中でも、メフィスト・フィレスは破格の記憶力と知性を持っているのだ、その椛を過去の椛と照らし合わせるなど造作も無かった。

 だが、違うことに気づく。

 

 まず、主な服装は同じだ。

 白い上着に紅葉色のスカート。

 だが、足のつま先から膝上数センチまで具足がついている。

 それは鉄かなにかで、銀色に輝いていた。

 その具足の先には鋭い獣のような爪がついている。

 

 腕もそうだ。

 唯一ある右腕には手甲。

 腕全体かはわからないが、袖から出ている腕には手甲がついている。

 指先は鋭い爪。その手で大剣を持っている。

 椛は自分の体の一部のように大剣を振って、メフィスト・フィレスに向けた。

 

 楽しそうに、メフィスト・フィレスは楽しそうに笑っている。

 

「とりあえず、いろいろなことへの復讐をさせていただきます」

 

 椛が地を蹴る。

 砂煙を上げながら走る椛は、まず蹴りを出した。

 メフィスト・フィレスは飛び上がり、椛の上にいる。

 

「甘いっ!」

 

 大剣を使い、棒高跳びのように飛ぶ。

 そして下から真上にいたメフィスト・フィレスの腹を蹴り上げた。

 しっかりと、具足で腹の肉をつぶしたような感覚を感じ、そのまま地に降りる。

 遅れて落ちてくるメフィスト・フィレス。

 相当のダメージのはずだったのだが、空中でクルンと回転して地面に立つ。

 笑っているメフィスト・フィレスを見ているとなんとも言えない不快感があふれてくる。

 

「おぉ、やるやる……もしかして名無しより強いんじゃないか?」

 

 小悪魔のことを言っているのだろうと、笑う。

 椛は大剣を地面につけたまま、走り出した。

 

「伊達に戦ってきたわけではありません。悪魔たちと、これもすべて!」

 

 メフィスト・フィレスが掌を開いた状態で椛にむける。

 そこから黒い霧がわずかに出て、その黒い霧から黒い槍が飛び出した。

 椛は背中を向ける。

 その槍は、椛の背中につけられた盾により逸れた。

 椛は正面を向いて走ろうとする。

 

「少しもまわりが見えてねぇな!」

 

 その言葉に、ハッとして止まる椛。

 鋭い眼光がメフィスト・フィレスを貫く。

 

「貴様っ……」

 

 椛が、文の方を見る。

 少し先にいる文の喉元に黒い槍が突き付けられていた。

 その黒い槍はメフィストの手から伸びている。

 

「言いたい意味はわかるな?」

 

「きっ、さまぁっっ……」

 

 椛は強い瞳でメフィスト・フィレスを睨む。

 動けない。文のためにも、自分のためにも。

 

 

~~~~~~~

 

 

「げほっ! ごほっ! …うぁ゛っ」

 

 少女は、畳に血反吐を吐いた。

 否、血塊と言ったほうが正しいかもしれない。

 その量は多く、中には乾いている血もある。

 

 今まで多くの血を吐いていたのだろう。

 

 血まみれの畳の上に倒れる少女。

 その時、部屋の襖が開かれる。

 

 少女が見上げる。

 そこには少女。

 

 襖から入ってきた少女は、少女の前で膝をつく。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 槍を突き付けられた文を見て、椛は剣を遠くに投げる。

 両手を上げると、メフィスト・フィレスは笑っていた。

 一方の文は心配している様子だ当然なのだろう。

 

「ほら、武装解除!」

 

 メフィスト・フィレスの言葉に従い、椛は背中に手をまわして盾を外して投げる。

 次にしゃがんで具足を両方外すと、投げ捨てた。

 具足の下には黒いニーソックス。メフィスト・フィレスが口笛を吹いて、椛を見る。

 

「ほら、どうした?」

 

「手甲は外せない……」

 

 基本的につけるときは手伝ってもらっている。

 右手しかないのだ、付け外しは難しいだろう。

 

「じゃぁ、次は服だな」

 

 その言葉に、文が表情を変えた。

 無論、椛はメフィスト・フィレスを睨む。

 

「下種が……」

 

「別に良いんだぜ、どっちでも」

 

 文の首に、槍が触れる。

 わずかに血が流れた。

 

「くっ」

 

 椛は右手一本で、起用に服のボタンを外していく。

 ボタンを外し終えると、次はスカートのチャックを下ろす。

 ―――パサリと、スカートが落ちる。

 そして同じようにシャツも脱いだ。

 

 残されたのは上下の下着とニーソックスだけ。

 

「うん、いいねぇ。次は上だな」

 

 椛が下着に手をかけた。

 その時、天魔の家から銃声がする。

 

「なんだっ!?」

 

 流石に驚いたのか、メフィスト・フィレスは振り向いた。

 その隙を見て、椛が即座に動く。

 大剣を拾いそのまま走る。

 

 椛はメフィスト・フィレスに近づいていく。

 近距離まで近づくと、剣を振る。

 寸でのところで、メフィスト・フィレスはその攻撃を跳んで避けた。

 

「ヒヒャハハハッ! んだぁ、そんな攻撃で……!?」

 

 一瞬。文が目の前に現れた。

 まさに神速。

 目の前の文の足は、メフィスト・フィレスの腹部にめり込んでいた。

 その衝撃を受けて、メフィスト・フィレスは地面を転がる。

 

「うぐぉぉっ!」

 

 地面を転がるメフィスト・フィレス。

 そして文が地に降り立つ。

 震えていないかった、その代わりに強い意志を持って立っているのがわかる。

 

「もぅ、おびえているわけにはいかないじゃないですか……」

 

 そう言って立つ文の横に、半裸の椛が立つ。

 服を着る間も惜しいということだろう。

 瞬間、天魔の家の襖が吹き飛んだ。

 中から出てくるのは、小悪魔。ハッとしてあたりを見まわす文とメフィスト・フィレス。

 いつのまにか居なかった小悪魔。

 彼女はなにかを肩にかついでいる。

 

「まったく、下種も良い所ですね、メフィスト・フィレス……」

 

 片手で肩に担いだものを抑えて、片手で銃を構えている。

 まっすぐメフィスト・フィレスに構えていたが、メフィスト・フィレスは笑っていた。

 その笑顔を見て、小悪魔は舌打ちをする。

 

「行けば良いじゃないですか」

 

 気に入らなさげに言う小悪魔に、驚いた表情を見せる文と椛。

 メフィスト・フィレスは笑いながら、立ち上がって椛と文から離れる。

 

「けっ…ようやく来やがった」

 

 遠くから早苗と神奈子が走ってきた。

 小悪魔と文、椛の間にメフィスト・フィレスがいて、メフィスト・フィレスと早苗、神奈子の間に文、椛がいる。

 動きにくいのは事実だ。

 

「さぁて、俺は一旦撤退するぜ小悪魔?」

 

 肩をすくめる小悪魔。

 

「東風谷!」

 

 メフィスト・フィレスが叫ぶと、早苗が動き出した。

 素早く小悪魔の前に立つと、小悪魔が担いでいるものを彼女が抱える。

 それを、文と椛は知っている。

 

「洩矢、諏訪子……?」

 

 椛と文は心底驚いているようだ。

 文は見えないがわかるだろう。

 とりあえず異臭がする。

 

 そう、むせ返るほどの血臭。

 

「行くぞ!」

 

 メフィスト・フィレスと、諏訪子を抱えた早苗は走っていく。

 どちらにしろ、逃げる場所ももうほとんどない。

 森の中に入り彼らの姿が見えなくなった時、小悪魔がつぶやく。

 

「彼らにバレないようにつけてください二人とも」

 

 その言葉に、椛は服を拾う。

 二人が走り出す。

 

「させるか!」

 

 一人残った神奈子が御柱を召喚して椛と文に放った。

 だが無意味だ。

 小悪魔が飛び出して、御柱をばらばらにした。

 文と椛が神奈子の視界から消える。

 小悪魔と神奈子の一対一になった。

 

「さて、諏訪子さんに事情を聞きましたよ」

 

「諏訪子のやつ、こんなやつに」

 

 その言葉に、小悪魔は露骨に不快感を表に出す。

 それはまぎれもない怒りもふくまれている。

 

「こんな奴? ハッ! 諏訪子さんを、今は満足に神の力も使えない“女の子”一人救えない貴女が言えることですか?」

 

 拳を強く握る神奈子。

 なにがわかる。と言いたい顔をしているというのは小悪魔でもわかった。

 

「悪魔たちが攻めてくる一日前に貴女と諏訪子さんと早苗さんの能力などがすべて消えた。諏訪子さんは焦った……自分たちの信仰がたりずに、消えてしまうのでは、とね?そして、その夜聞いてしまった、悪魔のささやき」

 

 囁いたのはメフィスト・フィレス。

 『何かを得る代わりに何かを捨てる』それが悪魔の契約。

 諏訪子は望んだ。

 『早苗と神奈子に永遠の力を』その望みは果たされる。

 だが、諏訪子の右手にはその日以来、契約の呪印が現れた。

 それは『メフィスト・フィレスと諏訪子』をつなぐもの。

 それがなければ、神奈子と早苗の力はすべて失われる。

 だから、諏訪子はずっとああでいるのだ。

 メフィスト・フィレスが殺されるたびに、その痛みが諏訪子をむしばみ、メフィスト・フィレスは生き返る。

 だが、諏訪子は決して契約を解除しない。

 そして、神奈子と早苗は諏訪子と共に居たいがために奴の下にいる。

 

「こんなところですか……」

 

 だが、神奈子は呆れたように笑った。

 その笑いの理由がわからず、頭を横にかたむける小悪魔。

 

「もぉ、良いさ……諏訪子はまだ生きてると思っているんだな……」

 

 その言葉に、背中をゾクゾクとした感覚が貫いた。

 小悪魔は頭によぎる予感すべてを否定している。

 

「どういうことですか?」

 

 だが、聞く。

 

「早苗はな……とっくに死んでいるんだよ」

 

 頭を鈍器で強打されたような感覚。

 ならば、あの早苗はなんなのだろう?

 

「あの早苗は確かに早苗だ……生き返らせたな」

 

 そんなことが可能なのだろうか?

 いや、可能だ。

 悪魔との契約。しかもメフィスト・フィレスほどの悪魔との契約ならば可能だろう。

 

「なんてっバカなことを……」

 

 これでは殺せない。メフィスト・フィレスを殺すことができない。

 おそらく、奴を殺せば東風谷早苗は死ぬ。

 どうすれば良いかなんて思いつかない。

 頭を抱えることしかできず、小悪魔は苦悩する。

 

「愛ですか……」

 

 小悪魔の皮肉めいた言葉、それに神奈子は口を開いた。

 

「そうだ! 何が悪い! 私は諏訪子を愛している! 同じように早苗だって愛している!! 愛しいものといたいのはお前も一緒じゃないのか! 小悪魔!!」

 

 叫ぶ神奈子。

 いつも冷静な彼女らしくなく、髪を振り乱して叫んでいる。

 彼女は彼女なりの未来を開いたのかも知れない。苦しくても辛くても諏訪子と早苗と、一緒にいたかっただけなのだろう。

 

「私は間違っていたのか!? 蘇生すれば早苗と共にいれる、声がなくても一緒にいられるんだよっ!! 私のなにが悪い! なぜ悪い! 答えろ小悪魔ァァッ!!」

 

 涙を流しながら叫ぶ神奈子。

 死んだ者を生き返らせたい。

 その気持ちがわからないほど、自分は甘い場所にいたわけじゃないと思う。

 死んだ者を何人も見た。

 

 生きて欲しい。生き返らせることができるなら間違いなく、自分はその選択をしてしまう。

 

「神奈子さん、あなたは間違っていません」

 

 その言葉に、驚いている神奈子。

 間違いなく殺されると思っていた。

 小悪魔は穏やかな表情をしている。

 

「そうです、愛しいものと誰もがいたい……ですがそうはならない」

 

 思い出すのは紅魔館。

 咲夜、美鈴、フラン、レミリア、パチュリー。

 自分が愛し愛された家族。

 

 おそらく決して戻らない大事なもの。

 

「神奈子さん、間違ってなんていません」

 

 ゆっくりと神奈子に歩いていく小悪魔。

 神奈子は止まっている。

 

「貴女は貴女の道を選びました」

 

 そして、小悪魔は神奈子の目の前につく。

 数十センチの距離。

 

「ですから……」

 

 小悪魔が動いた。

 直後、神奈子の腹部に響く衝撃。

 そこには、小悪魔の拳。

 

「私は私の道を行きます。悪魔を全滅させて、幻想郷を……もとの幻想郷に戻します」

 

 意識を失った神奈子が地に伏す。

 小悪魔はその場で踵を返し、椛と文が行った道を行く。

 

 彼女は彼女の道。

 

 小悪魔は、走り出す。

 彼女にはすべてを終わらす方法が思いついていた。

 だから、最後は彼女が終わらせるのだ。

 

 悪魔の不始末は自分(悪魔)がつける。

 

 

 

 

 

 次回予告

 

 過去の後悔。

 未来への道。

 

 霧は晴れて、間違ったことを正しいことに修正して———

 一人は二人で、三人は二人で、それぞれが新たな道を行く。

 

 幸せが満ちる中、彼女は一人それを見ている。

 たった一人で、皆の幸せで彼女は幸せになる。

 

 彼女だけが一人なのに関わらず。

 

 次回『幸福の条件』

 

 悪魔は過去のため踊る。

 

 

 

 

 




あとがき
さてさて、妖怪の山編も次回でクライマックス。
二話分だったものを一話にまとめたので思ったより終わりも早かったですね。
では、次回もお楽しみに♪
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