幻想悪魔伝~Nameless Little Devil~   作:超淑女

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Mission08~幸福の条件~

 妖怪の山の中を小悪魔が走る。

 文と椛に追いつくのも時間の問題だろう。

 だが、それにも関わらず敵が現れた。

 

「Heyhey! こんな時に面倒なっ!!」

 

 双銃を抜いて、手の内でくるくると回転させる。

 あたりから次元を裂くように出てきた骸骨たち、それらは大きな鎌を持って小悪魔に襲い掛かった。

 飛び上がり襲ってきた三体を瞬時に撃ち殺す。

 灰へと還る死神のような悪魔『ヘル・サイズ』

 

 だがヘル・サイズは山ほど溢れ出してくる。

 

「Come on Babe!!」

 

 双銃を敵に向けて、唇の端を吊り上げた。

 その不敵で大胆な笑みは、悪魔を貫く。

 

 

 

 文と椛はメフィスト・フィレスを追っていた。

 服を着た後、椛の能力で敵を捕らえて、文の手を引いて連れて行く。

 そして、二人がついた場所は山の一角。

 あたりが岩石でかこまれた空間に、メフィスト・フィレスがいた。

 その背後には諏訪子と、諏訪子を支える早苗。

 

「ヒャハハハッ! どぉしたぁ……名無しはいねぇな、死んだか!?」

 

 嬉しそうに言うメフィスト・フィレス。

 椛のつないでいる文の手は、震えてなどいない。

 彼女は不思議なことに、笑っていた。まるでかつての幻想郷で人をからかう時のように笑う。

 

「あれ、なんでそう小悪魔さんのことを気にするのです?」

 

 文の言葉に、メフィスト・フィレスが不快感を表す。

 笑みを浮かべ続けながらも文は言葉を紡ぐ。

 

「恐れているのでしょう……小悪魔さんの力に」

 

 少し目をそらすメフィスト・フィレス。

 

「バカが、俺はあいつを一方的に倒してやっただろ、コンティニューのチャンスをやっただけだ」

 

「ハッ! 今に足をすくわれますよ」

 

 バカにしたような文の笑い声。

 その言葉に激昂するメフィスト・フィレス。

 

「死ねぇっ!」

 

 メフィスト・フィレス手を突き出すとその掌から紫色の弾丸が放たれる。

 当たればそれなりの威力があるのだろう。椛と文に迫っていく紫色の弾丸、その弾丸が椛と文に近づいていった時、突如かき消された。

 その紫色の弾丸を消したのは銀色の剣。

 

 剣が地面に刺さっている。

 骸骨のカタチをした柄がまるでメフィスト・フィレスをあざ笑っているかのよう。

 

「テメェェェッ!!」

 

 叫ぶメフィスト・フィレス。

 その瞬間、森の中から一体のデス・サイズが吹き飛んでくる。

 文と椛の横を勢いよく通り過ぎて、メフィスト・フィレスの足元に転がり灰へと還った。

 

 現れる人影。

 どこからか跳んできて、剣の横に着地した。

 舞い上がる真紅のコート。

 その手に輝く二挺の拳銃。

 

「Hey もっとCOOLに行きましょうよ」

 

 コートが重力に従い落ち着く。

 紅い髪が舞う。

 紅い悪魔は二挺の拳銃を回転させてからホルダーにいれた。

 

 悪魔は笑う。悪魔はおびえる。

 

「……You scared?(ビビってんですか?)」

 

 そこにいるのは小悪魔。

 悪魔よりもっと下の位の下級中の下級。

 そんな悪魔がそこにいる。

 

「早苗さん、あなたのことも聞きましたよ」

 

 メフィスト・フィレスを無視して、小悪魔は早苗に語りかける。

 彼女は目を伏せたまま、頷いた。

 事情や状況はわかっているようだ。

 むしろ神奈子よりは———。

 

「だがなぁ、東風谷は俺に逆らえないんだよ、理由はわかるか?」

 

 メフィスト・フィレスが得意げに言うものだから、イラッとした様子の小悪魔。

 ため息を吐いて頭を片手で抑える。

 

「私だって末端といえど悪魔です。貴方の力で復活した彼女を、あなたが操れない理由はありませんからね」

 

 そして早苗を操れるということはいつでも早苗を殺せるということだ。

 彼が力を与え続けることで早苗が生きているのだからその力を止めればいい。

 だが、それは諏訪子にもいえることだった。

 上級悪魔との契約とは悪魔に命を握られることと同義。

 つまりメフィスト・フィレスの気分一つで彼女は死ぬ。

 

「おぉ偉いじゃねぇか、なら……さっさとお前を殺さないとな」

 

 会話しながら、小悪魔は諏訪子を見る。

 諏訪子の左手には悪魔と契約した証の赤い呪印があった。

 

「まったく、なんの脈絡もありませんね」

 

 小悪魔は地に刺さった剣を抜く。

 メフィスト・フィレスが先と同じように手を突き出した。

 その掌に集まる魔力が、紫色の弾丸を放つ。

 

 それをいとも簡単に斬り、弾く小悪魔。

 直後、走りだす。

 

「諏訪子さん、我慢してくださいね!」

 

 その言葉に、メフィスト・フィレスの顔に笑みが浮かぶ。

 

「ヒャハハッ! 何度やったって痛いのは諏訪子だけだぁっ! 東風谷ァっ!!」

 

 その言葉に、応じて小悪魔の前に立ちはだかる早苗。

 走りながら溜息を吐いて、剣を背中に背負う。

 拳を構える小悪魔は早苗の目の前で立ち止まる。

 即座に拳を突き出す早苗。風を切る音と共に小悪魔へと拳が迫っていく。

 しかし、小悪魔はその拳を容易に避けて早苗の懐に入り拳を握り締めた。

 小悪魔の体に紅い気が溢れ出す。

 それは早苗からもメフィスト・フィレスからも見えるものだ。

 

「虹符『烈虹真拳』!!」

 

 小悪魔の、友であり家族である彼女の技。

 片手から放たれる連続パンチはすでに見えない領域の速さであり、一撃一撃は重い。

 そして、早苗が空にまった。

 早苗を無視して小悪魔は動き出す。

 メフィスト・フィレスも走り出した。

 

「Blast off!(吹っ飛べ!)」

 

 小悪魔が背中の剣の柄をつかむ。

 そしてメフィスト・フィレスとの距離が詰まってきた時、剣を抜く動作と共に投げた。

 縦回転しながら飛んでいく(リベンジャー)、メフィスト・フィレスが予想外のことに動揺するも、回避。

 だがその隙に、小悪魔は近くにきていた。

 

「気符『地龍天龍脚』!!」

 

 まずは気を練りこんだ足での震脚。

 小悪魔周囲だけの地が揺れ、至近距離のメフィスト・フィレスには衝撃波が伝わり、宙に体が放り出される。

 放り出されたメフィスト・フィレス向けて、小悪魔が跳び蹴り。

 腹部に直撃した蹴りで、メフィスト・フィレスは地面を転がる。

 少しじっとしていたかと思うと、直後に立つ。

 

「ぐぉぉぉぉぉっ! ごあ゛ぐま゛ぁ゛ぁ゛!!」

 

「およびでしょうか?」

 

 笑う小悪魔に、メフィスト・フィレスが怒りの形相で走る。

 メフィスト・フィレスはその手に黒い剣を出現させた。

 走りだす悪魔を見て小悪魔が笑う。

 

「コンティニューなんて、させるかぁぁっ!!」

 

 叫び、走り出すメフィスト・フィレス。

 だが小悪魔は変わらず笑い。

 メフィスト・フィレスに指先を向けた。

 

「貴女がコンティニューできないのです♪」

 

 その言葉と共に、小悪魔の背中から大きな翼が姿を現す。

 小悪魔の体ほどある翼は悪魔のソレ。

 そしてその手に紅い力が渦巻きカタチを成した。

 

「禁忌『レーヴァテイン』!」

 

 その手の力が紅い剣と成す。

 それは彼女のもう一人の主が使っていた技。

 かつては『気が触れている』とまで言われた何も知らない無垢で純粋な彼女。

 その彼女の技を、自分のような汚れた悪魔が使っていいのかはわからない。

 

 だが今は———。

 

「力を借りますフラン様!」

 

 紅い剣が振られる。

 メフィスト・フィレスは飛び上がりそれで避けたつもりだった。

 だが小悪魔が翼をはばたかせて空に舞い上がり、メフィスト・フィレスに飛んだ。

 空中で動く術の無いメフィスト・フィレス。

 

 小悪魔はレーヴァテインをもう一度振る。

 両断され、泣き別れするメフィスト・フィレスの上半身と下半身。

 さらにもう一撃で片腕すらも切断された。

 

「なっ……ななし、あくまっ!」

 

 メフィスト・フィレスは頭を下に落ちていく。

 なぜ回復しないか、なぜダメージが諏訪子にいかないかが不思議だった。

 

 その中見えた諏訪子。

 彼女との契約の証がある彼女の左腕が切断されていた。

 メフィスト・フィレスは『バカな』と心の中で悪態をつく、悪魔以外であの呪印のついた腕に何かできるはずがない。

 そして小悪魔にも近づかせなかったはずだ。

 

「ま、さか」

 

 最初に、小悪魔は剣を投げた。

 その剣を自分は避けた。

 そしてその剣の行先は———。

 

 諏訪子の背後の岩に、剣(リベンジャー)が刺さっていた。

 

「ち、ちきしょぉっ! おのれ小悪魔ァァァアッ!!」

 

 メフィスト・フィレスの上にいる小悪魔が大きな翼をはばたかせながら、銃を抜いた。

 その銃口はメフィスト・フィレスに向けられる。

 不敵な笑みを浮かべる小悪魔。トリガーにかけられる指。

 

「Jack pot!!」

 

 その言葉と共に、メフィスト・フィレスの額に穴が空く。

 

 そして、メフィスト・フィレスは地に落ちる前に灰へと還った。

 わずかな灰のみが地に落ちる。

 そのわずかな灰の上に小悪魔が降りた。

 

 無言の小悪魔の表情は、前髪で隠れてわからなくなる。

 その横を通り過ぎて、だれかが諏訪子と早苗の方へと走った。

 

 

 

 諏訪子は倒れた早苗の頭を膝にのせている。

 左腕が切断されているが、すでに血は止まっているようだ。

 

「諏訪子! 早苗ぇぇっ!!」

 

 走ってくる神奈子。

 早苗の横に腰を下ろす。

 涙を流しながら神奈子は早苗の手を握る。

 

「早苗っ死なないでっ……」

 

 諏訪子も涙を流していた。

 残った右手で早苗の頬を撫でている。

 

 諏訪子はただでさえ体に負担がかかる契約に、蘇生という契約を付け足したのだ。

 相当な負担。苦しさがあっただろう。

 だがそれを受けてと思うほどまでに彼女を、否、彼女たちを愛していたのだ。

 

 それが諏訪子の愛のカタチだった。

 そしてその諏訪子を守るのが神奈子のカタチ。

 かつて早苗は、自ら彼女たちを守るため盾になり死んだ。

 それがカタチだ。

 

 文がチルノをかばったのも愛だ。

 口では言わないが、椛が文を助けたのも愛のカタチだろう。

 

 小悪魔は歩き出す。

 

 早苗の足元に膝を下ろすと、神奈子が小悪魔をにらむ。

 それもそうだ。愛しい家族、諏訪子の腕と早苗の命をもう一度奪ったのだ。

 

「早苗さん……失礼します」

 

 小悪魔は剣を抜いて自らの手首を切り裂いた。

 流れる血。

 それは早苗の足へと落ちる。

 

「契約します……」

 

 小悪魔の血が紅く輝く。

 すると早苗の足に、諏訪子の腕と同じ契約の証が現れる。

 驚いている諏訪子と神奈子。

 

「すみません、蘇生させることはできませんが、少しは持ちます……」

 

 額に汗を浮かべながら小悪魔は早苗の足に触れている。

 所詮小悪魔なのだ。

 できる範囲など限られている。

 

「す、諏訪子さま、神奈子さま……」

 

 その声は、早苗から出ていた。

 諏訪子と神奈子は涙を流しながら早苗を抱きしめる。

 

「すみません、お二人とも……」

 

「謝るなっ、謝るな早苗ぇっ……私は、お前を守れなかった!」

 

「早苗ごめんねぇっ」

 

 早苗は手を動かして、顔のすぐ横にある二人の頭を撫でる。

 儚げな笑みをうかべる彼女。

 

「お二人とも、大丈夫ですよ……大丈夫です、大丈夫ですから」

 

 早苗は何度も、言い聞かせるように『大丈夫』という。

 諏訪子と神奈子はただ泣いている。

 顔を顰める小悪魔。

 

「もう良いです、お別れのあいさつができたので」

 

 その言葉に、小悪魔は手を放した。

 早苗がかわらず儚げに笑う。

 

「お二人とも、今までありがとうございました。幻想郷に連れてきてくれてありがとうございました。楽しかったですよ……本当に」

 

 返事をしないかわりに、ギュッと抱きしめる二人。

 涙は流れては地に落ちる。

 

「お別れです。お二人とも、末永くお幸せに、健やかでいてください」

 

 その言葉を最後に、早苗は灰になり風に流れた。

 抱きしめていた感覚がなくなり、神奈子と諏訪子は残ったわずかな灰を手に泣き崩れる。

 

 

 

 立ち上がる小悪魔。

 剣を拾って、踵を返し歩き出す。

 少しフラフラとしているのは、今さっきのことが理由だろう。

 文と椛の横を通り過ぎると、文が小悪魔の背中に手を伸ばす。

 だが届かない。

 

「小悪魔さ———」

 

「少し……血を流しすぎました……」

 

 死ななかったといえど、胸を貫かれ手首を切った。

 そしてメフィスト・フィレスのもとへ来るまでに多くの敵と戦ったのだ。

 体がフラフラとして、小悪魔の体がかたむく。

 

「小悪魔さんっ!?」

 

 叫ぶ文。

 椛もかけよる。

 

 ―――小悪魔さん! 小悪魔さんっ!

 

 叫び声が聞こえた。

 だが、すでに小悪魔の視界は何もとらえていなかった。

 意識だけで考える。

 

 ―――早苗さんを殺して、諏訪子さんの左腕を奪った、罰ですかね。

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 小悪魔は森を歩いていた。

 紅いコートも着ていなければ剣も銃も持っていない。

 楽しそうに背中と頭の翼をゆらしながら歩いていた。

 抱えてるのは紙袋。その中にはパンや果物が入っている。

 

 めずらしく遠回りをして、湖を通ってこなかった。

 

 彼女の家でもある紅魔館までの道のりは遠回りすればだいぶ変わる。

 

 楽しそうに歩きながら、彼女は紅魔館へと続く道を歩き、ある道に出た。

 そこは帰るための道でまっすぐ行けば紅魔館。

 楽しそうに、彼女は歩く。

 スカートから飛び出している尻尾がフリフリと揺れる。

 

「ただいまです♪」

 

 紅魔館の前へと出た。

 出たのだ。

 数十年も住んでいる彼女が間違えるはずがない。

 

 だが、そこにはボロボロの紅い屋敷。

 

「へ?」

 

 間抜けな声を出して、間抜けな顔をして、その紅い館を見上げる。

 ところどころ煙を上げて、小さな火も出ているし、ガラスも割れていた。

 外壁も壊れていて、庭の花たちも踏みにじられている。

 

 レミリアや咲夜やフランがやった?

 いや、あれは美鈴が大事にしていた花たちだ。

 絶対にそんなことしない。

 

 じゃあ、決まっている侵入者だ。

 

「あっ……あぁっ」

 

 門に、血がぶちまかれていた。

 紅い門にまけじと紅いソレは、主張している。

 誰のものかはわからないが―――誰かのものだ。

 駆け足で門を通って、彼女は庭の中心に立つ。

 あたりには、パーツが落ちていた―――なんの?

 

 もちろん、妖精メイドたちのものだ。

 

「あっ……あっ」

 

 震える足。

 咲夜や美鈴やレミリアやフラン、パチュリーのパーツは落ちていない。

 そんなことを考えて館の中に入ろうとしたが、背後になにかを感じた。

 

「ぅぁっ……」

 

 振り向いて、その表情は再び変わる。

 恐怖ではない。驚愕だ。

 

「あく、ま?」

 

 小悪魔と同族だった。

 それは大鎌をもった骸骨。

 デス・サイズ。

 

「ま、まさか……こんな下級悪魔一体が……」

 

 そう、自分ほどではないにしろ、力が無いことはたしかだ。

 それが紅魔館をここまでできるはずがない。

 そして、アレは小悪魔の前に現れた。

 

「ぉぉ、これはこれは悪魔がいたとは! なんという幸運、なんという興奮!」

 

 空から聞こえた声。

 デス・サイズから目を離して上空の敵を見る。

 それはサソリ。

 だが、頭から男の上半身が生えていて、さらにその男の顔は羊。

 

 そんな生物が複合したような生き物が、地に降り立った。

 その体長は5メートルほどだろうか?

 

「貴様はなんだ、サキュバスか!? おぉ、サキュバスなのか!? なのだな!? ぉぉ、私の大好物、大好物?大好物!!」

 

 狂ったようなしゃべり方をして、小悪魔に近づいていく。

 

「凌辱して心を蹂躙して、蹂躙して、狂わせ狂わせる! さぁぁぁっ!! 貴様は今から私の愛玩具として愛し愛され壊れ壊される! ぉぉぉぉおおおっ!」

 

 誰か理解した。

 小悪魔と言えど、それはわかる。

 色欲の『アスモデウス』と呼ばれる悪魔。

 自らの本能が『逃げろ』と叫ぶが体が動かない。

 手に持つ紙袋がどさりと落ちて、果物やパンがあたりに散乱する。

 

「おぉぉっ美しい! やはり下級悪魔にしておくのももったいない! さぁ、さぁっ!! その体を私にあずけっ! 共にっ! 共にぃぃっ!!」

 

 相手の性格はわかっている。

 魔界でも噂が絶えなかった相手だ。

 惚れっぽいくせに、惚れた相手は徹底的に凌辱蹂躙を繰り返す。

 たちの悪い相手だったはずだ。

 

「ひっ!」

 

 小悪魔の目から涙が流れた瞬間、目の前に大量の弾丸がばらまかれた。

 そして、目の前に立つ銀髪の彼女。

 彼女はこちらを見て、その手を差し出してきた。

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

 小悪魔は、そっと目を開いた。

 真っ白な天井が目に映る。

 自宅の天井はそんな真っ白じゃない。

 

 ~♪~~♪

 

 近くから聞こえた歌。

 目をそちらに向けて起き上がる。

 上体だけを起こした状態でそちらを見るが、相手は起きたことに気づいていない。

 目をつむったまま歌いながら、リンゴの皮を切っている。

 

「ここで……天使さまのラブソングを聞けるとは思いませんでしたよ」

 

 ハッと目を開いて、小悪魔を確認する彼女。

 

「小悪魔さん、ここは地獄の真上ですよ?」

 

 笑っている彼女。

 背中の羽をパタパタとしている。

 上体だけを起き上がらせる小悪魔。

 その体を支える彼女だが、手で制させた。

 

「大丈夫です、悪魔なもので」

 

 その言葉に、彼女は動きを止める。

 小悪魔は上体を起こして気づく。

 自分の胸部分に包帯がまかれている。

 

 下半身は下着だけのようだ。

 

「あっ、とりあえず服は洗濯済みですよ」

 

 そういって彼女は置いてある机を指した。

 その上にある見慣れた服。

 ありがとう、と礼を言う。

 

「ところで、ここはどこですか……ミスティアさん?」

 

 そこにいたのはミスティア・ローレライ。

 彼女もずいぶん大人っぽくなっていた。

 体つきもだが、雰囲気もだ。

 

「先ほど言ったように、地獄の真上……まぁ旧地獄の上と言った方が正しいですが……」

 

 その説明で大体理解できた。

 ここは『地下』だ。

 妖怪たちが避難した場所。

 

「なるほど……」

 

 そう言って立ち上がろうとするが、起きたばかりのせいで動けない。

 小悪魔はしょうがないのでベッドの上で上体を起こした体勢でいる。

 

「どぉも怪我の治りは良いんですが、貧血などはさすがに」

 

「しっかり療養しましょうね、はい……リンゴです♪」

 

 ミスティアの差し出す切り分けられたリンゴを素手で一つ摘んで食べる。

 一気に半分を程かじってシャクシャクと食べていく。

 久しぶりだった。

 そういえばあの日もリンゴを買っていたなぁ、と感傷に浸ってみる。

 

「少しお話でもしましょうか? それとも歌を?」

 

 ミスティアが言うが、小悪魔は笑う。

 

「歌を歌ってください……景気のいいのを一曲」

 

 その言葉に頷くと、ミスティアは一度咳払いをして、歌う。

 小悪魔は、目をつむってその曲に聞き入っていた。

 なんだか穏やかに気持ちになっていく。

 

 

 一曲聞き終えると、小悪魔は軽く拍手をする。

 ミスティアが一礼するとその場の雰囲気が拡散した。

 そこで、小悪魔は気になっていることを口にする。

 

「神奈子さんと諏訪子さん、こちらに来てますよね……どうしてます?」

 

 その言葉に、ミスティアが目線をそらした。

 

「あ、あの二人は……その……」

 

 言いづらそうにしている。

 小悪魔は目を細めた。

 

 

 

「あ〜ん」

 

 大きく口を開く少女が、ベッドの上で上体だけを起こしている。

 そしてもう一人の女性が横で、食べ物を箸でつかむと少女の口に持っていく。

 二人とも幸せそうな表情をしていた。

 

「おいしい?」

 

「うん、やっぱりおいしいね」

 

 まさに新婚という雰囲気をかもしだしながら食べている。

 

「こんな感じです」

 

「オーライ……口の中に砂糖をそのまま入れられた気分です」

 

 神奈子がバッと振り向く。

 そこにいるミスティアと、壁に寄りかかっている小悪魔。

 楽しそうな小悪魔はコートと武器は装備していない。

 書庫につとめていたころの小悪魔の服装だ。

 

 たが、神奈子はそんなことを気にしている暇が無い。

 

「あっ! あうぁぁぁっ……うぅっ」

 

 ぷしゅ~、と音が出そうなほどに真っ赤になってうつむく。

 小悪魔は笑って近づいていく。

 右腕の無い諏訪子に目を向けると、お互いに笑う。

 

「右腕がなくなったおかげで神奈子にこんなことしてもらえるんだ。まったく快適な生活さ、ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 二人はそう言い合ってからおなかを抱えて笑い出す。

 そんな楽しそうな二人を見て、神奈子とミスティアは不思議そうな顔をした。

 斬った方と斬られた方にしかわからないやりとりである。

 

「とりあえず、ありがとね。小悪魔」

 

 笑いを止めて、そういう諏訪子。

 少しびっくりする小悪魔。

 

「あぁ、ありがとう、小悪魔」

 

 諏訪子に続いて、神奈子までもが礼を言う。

 なんだか気恥ずかしくなる小悪魔は軽く頬を掻く。

 

「ま、気にしないでください……私もいろんなことしちゃいましたから」

 

 そう言って笑うと、諏訪子と神奈子も再び笑う。

 そして小悪魔は黙って神奈子と諏訪子を見ている。

 神奈子はなに? という顔をしているが、小悪魔が口を開く。

 

「あ~んの続きはしないんですか?」

 

 その言葉に、神奈子は再び真っ赤になる。

 

「あんまり神奈子をいじめないでよ、小悪魔」

 

 その光景に、諏訪子が小悪魔に言った。

 笑いながら頷く小悪魔。

 本当にわかっているのだろうか?

 

「さて、お二人共続きができないでしょうから、私はこれで」

 

 小悪魔がドアの方に歩いていく。

 ミスティアも一礼すると出る。

 

「ああ、続きができないから早く行ってよね」

 

 そう宣言したのは諏訪子。

 その言葉に真っ赤になる神が一柱。

 最後に一度振り向いて、小悪魔はいたずらっぽく笑う。

 

「結婚式と子供ができたときは呼んでくださいね?」

 

 きゅ~と音を立てて諏訪子のベッドに突っ伏す神奈子。

 小悪魔とミスティアはすでに行ってしまった。

 わざわざドアをしめてだ。

 

 まったく、と頭を抱える。

 

 突っ伏している神奈子の頬に手をまわして、顔をあげさせた。

 案の定真っ赤になっている神奈子。

 その頬を撫でる。

 

「私たち結婚してるんだよねぇ……」

 

 大和大戦直後の話だ。今更という雰囲気はある。

 その言葉に、目をそらして頷く神奈子。自覚はあっても恥ずかしい。

 諏訪子は神奈子の耳元に口を寄せる。

 

「でも、式もあげてないし子供も作ってないよ……ね?」

 

 つぶやいた言葉に、神奈子はふるふると震えながら頷く。

 クスッと笑う諏訪子。

 その顔は、大人の女だった。

 

「神奈子は、私とじゃ嫌?」

 

 再び、耳元で諏訪子がつぶやく。

 神奈子がふるふると震えて、諏訪子の首に腕を回す。

 目をつむる神奈子。諏訪子はほほ笑んで、その唇に自らの唇を当てた。

 

 

 

 先ほどの部屋にはやはり小悪魔とミスティア。

 小悪魔はコートを着て、拳銃を回転させるとホルダーに入れ、剣を背負う。

 手袋を装備してミスティアに笑いかけた。

 

「ここにいても良いんですよ?」

 

 その言葉に、目を伏せて首を横に振る。

 ミスティアはそれだけ聞くと、頷いて礼をした。

 

「また来てくださいね」

 

「はい、また……ミスチーさん♪」

 

 そう言うと、ミスティアの頬を撫でる。

 小悪魔は踵を返して歩き出した。

 その背中を見送って、ミスティアはクスっと笑う。

 

 

 

 地霊殿と呼ばれる建物。

 そこのテラスで柵に、寄りかかる少女。

 彼女は『第三の眼』を持つ少女だった。だが今は違う。

 まったくの無表情のままの彼女だがどこか思うところがあるという表情。

 

「さとり様、どうかしましたか?」

 

 ペットである火焔猫燐が後ろから声をかける。

 振り向くのは古明地さとり。

 相変わらず無表情。

 

「なんだか楽しそうですね」

 

 その言葉に、少しだけ口が緩んだ。

 

「旧都に出たの」

 

 えっ、と燐が驚いている。

 10年前までは静かだった旧都も、今では妖怪たちが住み着いて賑やかになったものだ。

 それに妖怪の山、否悪魔の山の総大将であったメフィスト・フィレスを倒した今、さらに賑やかになっている。

 

「面白いものを見たの」

 

 その言葉で、燐は興味深そうにさとりの隣に立つ。

 さとりは遠くを見るような目をする。

 

「復讐に身を染める闇を心の中に飼わせながら、人を包む優しい光を持って、みんなを幸せにするの……」

 

 第三の目が無くなっても読心術だけは秀でている彼女が、見かけた『人』を話す。

 

「へぇ、あたいもその恩恵にあずかりたいもんです」

 

 燐の言葉に、さとりは可笑しそうに笑う。

 なんだかその表情に不思議な感覚を覚える燐。

 さとりは過去のことを思い出す。

 魔法使い霧雨魔理沙がやって来たときのこと。

 

 彼女の隣にいたもう一人の魔法使い。

 

「だけどね。その人は……自分は幸せになろうとしないの……」

 

 何かを思うような表情でつぶやくさとりが、燐が少し暗い顔をする。

 そんな燐の頭を撫でて、さとりは柵に背中と肘をつけて、真上を見た。

 その上にある地上を思い浮かべ。

 

「貴女に幸福が訪れんことを―――」

 

 目をつむって、祈った。

 

 

 

 小悪魔は地下から出る。

 出口につくまでの間に星熊勇儀や水橋パルスィなどと出会ったが、そこまで接点があったわけでもないので軽く話すだけで時間はそれほどかからなかった。

 太陽が自分を照らす。

 

 そう言えば、道端で会った鍵山雛にメフィスト・フィレスが死んだと聞いてから何日かと聞くと、三日と教えてもらった。

 予想で言えば、大体四日ほど寝ていただろう。

 なんだか、久しぶりの太陽だ。

 

「小悪魔さん!」

 

 遠くから聞こえてきた声。

 そちらをみると、少女が走ってくる。

 黒い少女は走って跳ぶと小悪魔に抱きつく。

 

「おっと!」

 

 戸惑いながらも優しく受け止める小悪魔。

 

「元気ですね文さん」

 

 受け止められた文が離れて笑う。

 サングラスはかけているがその表情が生き生きとしているのがわかる。

 

「幸せそうでなによりです」

 

「はい、幸せです♪」

 

 そう言って、文は首についたチェーンを上げる。

 そのチェーンには指輪がついていた。

 指輪についた宝石は青い。サファイアだろうか?

 

「誰にもらったんですか……といっても一人しかいませんよね」

 

 笑って、文の背後を見る。

 遠くから走ってくるのは白狼天狗。

 文に指輪をプレゼントした相手だろう。

 

「おっと、申し訳ありません」

 

 おちゃらけたように笑った。

 数歩下がって手を上にあげる。

 文の隣に立つ椛は今にも噛みついてきそうだ。

 

(天狗)のモノに手を出すほど無粋なことはしませんよ」

 

 そういうと、椛が少し涙目になった。

 あれ? と笑顔が固まる小悪魔。

 

「いえ、まだ保留です」

 

 なるほど、と頷く。

 だから指ではなく首に下げている。

 そのうち指につけるかもしれないと、そういうことだろう。

 椛の頑張り次第ということらしい。

 

「頑張ってくださいね」

 

 ひそかに応援する小悪魔だが、椛はそんな小悪魔をにらむ。

 理由がわからないが、睨まれている。

 

「ライバルが何を言いますか」

 

「ん?」

 

「なんでもありません」

 

 それだけ言うと、椛はそっぽを向く。

 文は小悪魔に一礼した。

 

「ありがとうございました、小悪魔さん」

 

「いいえ……お礼を言われるようなことは何もしていません」

 

 その言葉に、文は首を横に振った。

 文の中には小悪魔に言うことがたくさん浮かんでいる。

 だけれど今言わなくてはならないことを言うことにした。

 これからはいつでも会える。

 

「私を過去から連れ出してくれました」

 

「それは、あなたの力です……アナタたちには、悪魔に無い力がある」

 

 その言葉で、文と椛は頭の上に疑問符を浮かべた。

 

「その、力とは?」

 

「答えは考えておいてください。私からの宿題です」

 

 そんな意味深な言葉を残して、小悪魔は二人の間を通って歩き出す。

 立ち止まり、振り向くと二人に笑顔を向ける。

 彼女は笑っているのだ。みんなの幸せが嬉しくて笑っていた。

 

「いつでも来てください、私の店はすべてを受け入れますよ」

 

 そう言うと、文が笑う。

 椛も笑っていた。

 

「それは、とても残酷なことですよ?」

 

 文の言葉に目を伏せる。

 そうして彼女は笑った。

 

「結構、残酷でもなんでも……私はみんなを幸せにしてみせます」

 

 彼女はそう言って歩いていく。

 文と椛は、黙ってその後ろ姿を見守った。

 二人ができるのはそこまでだ。

 

 誰も、彼女に干渉することができない。

 できる者がいるとしたら、それはいつかの彼女かもしれない。

 

 

 

 文は椛と共に、地下の自宅に帰ってきていた。

 ミスティアが言っていたが、少し小悪魔が上がったらしい。

 気恥ずかしいが、別に悪い気はしなかった。

 

 文と椛は共に住んでいる。

 一緒に住んでお互いの欠点を補い合っていた。

 

「あれ、こんなとこに手紙ですよ」

 

 椛が言うと、文がそちらを向く。

 何も言わずとも、椛は手紙を開いた。

 

 えっ、と椛が言う。

 

「どうかしましたか?」

 

 そして、椛は手紙を読み始める。

 

『文さんと椛さんへ

 

 今回はお疲れさまでした。

 お二人がいたからこそ、あの山をもう一度妖怪たちの手に取り

 返すことができました。

 

 メフィスト・フィレスは倒れましたが、いまだに少数の悪魔たちが潜めいているのは確かです。

 あとはそれらを片付ければその手に故郷が戻ってくるでしょう。

 これからもがんばってください。

 

 余談ですが、これは文さんにです。

 

 チルノさんは生きています。

 とりあえず、文さんが逃がした後にあっています。

 共に居ました。

 しばらく会っていませんが、まだ生きていると私は思っています。

 だから、彼女が死んだと思わないでください。

 貴方はその目の光と片翼を犠牲に、彼女を助けました。

 

 だから、あなたは幸せになってください。

 

 それはきっと、チルノさんの願いでもあります。

                                  

                                  名無しの小悪魔より』

 

 

 

 その手紙を読み終えると同時に、文の膝が砕けた。

 床に座り込んだ文を、椛が支えて椅子に座らせる。

 

「そっか……生きてたん、ですか……」

 

 文がサングラスを外す。

 その瞳から、涙がぼろぼろと流れ落ちる。

 椛が隣に椅子を用意して座った。

 

「よかったぁ……ちるのさんっ……生きてたんだぁっ……」

 

 ボロボロと落ちる涙。

 椛は文の肩を抱いて引き寄せる。

 

 文は、椛の肩に頭を乗っけると、涙を流す。

 涙が服を濡らすことも気にしない。

 彼女が生きている。

 文はただ幸せだった。

 

 

 

 小悪魔は、自宅である店に戻ってきた。

 文の家に置いてきた手紙は、椛が読んで聞かせているだろう。

 そして、彼女をふと思い出す。

 

「チルノさん、先生……私は、間違っていませんよ……ね?」

 

 指をパチンと鳴らすと、あたりの雰囲気が変わった。

 悪魔が入ってこない場所と似たような雰囲気へと変わる部屋。

 小悪魔はベッドに倒れこむと、仰向けのまま両腕を頭の後ろにまわして枕にする。

 

「……文さん、宿題の答えはもうでましたか?」

 

 早い気がするが、そんなことはない。

 

 まだ疲れている小悪魔は目を瞑る。

 静寂と闇がその空間を包んだ。

 

 ―――そして残るは沈黙のみ。

 

 

 

 

 

 次回予告

 

 依頼は予期せぬところからおとずれる。

 彼女は依頼ついでに花畑へと行った。

 

 そこは過去行った時とは———

 

 依頼をした彼女は何かを求めていた。

 だが、小悪魔はすべての答えを出しはしない。

 

 意地が悪いのは、小悪魔だからだろう。

 

 次回『月の畑』

 

 悪魔は歴史と踊る。

 

 

 




あとがき
妖怪の山編が終わりです!
楽しんでいただけたでしょうか? 今回は妖怪の山奪還! 人里も平和になり、次回はあの場所です!
次回もお楽しみに♪

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