幻想悪魔伝~Nameless Little Devil~ 作:超淑女
幻想郷の人里、妖怪の山、湖からそこそこ離れた場所にある一件の家兼店。
小悪魔は店の椅子に座って、足を机に置いていた。
普段通りの光景。
だらけたような恰好、足でリズムを刻んでいる。
机の上にある二挺の拳銃と、壁に刺さっている剣。
「なんだか、穏やかじゃないですねぇ」
店の外から、音が聞こえる。
悪魔の鳴き声と爆発音。
だがそんな状況でも、小悪魔は机の上に置いてあるピザを口に入れる。
いまだにやかましい外には気をかけない。
「そろそろ店の名前でも決めますか、いつまで“小悪魔の店”なのか……」
そんな風に店の名前を考えていたりすると、外での音が止まる。間もなく店の扉が開いた。
炎をまとった彼女は、店の中に入ってくると、炎をおさめる。
いまだにバチバチとなっている部分もあるが気にせず笑う小悪魔
「いらっしゃいませ」
机に足を乗せたまま、小悪魔が言う。
相手は片手を上げるとソファに座る。
「燃やさないでくださいね」
「わぁってる」
白い髪をポニーテールにしている彼女。
昔とは違う髪型だ。
相手の名前は———。
「妹紅さん、今日はどうしました?」
―――藤原妹紅。
彼女とはかなりの交友があり、何度も共に戦ったこともある
そんな彼女は、こんな風になった世界で数少ない戦友と言えるだろう。
ほかにも何人か友はいるがここで語ることではない。
「外での戦い気づいてたろ?」
「まぁ、気づいてなかったと言えば嘘になると思います」
そう答える小悪魔に、妹紅は深くため息をつく。
胸ポケットから小さな箱を出した。
それは煙草で、箱から煙草を一本くわえて出すともう一度箱を胸ポケットに入れる。
人差し指を煙草の先端にむけると、小さな火が出た。その火は煙草に火をつけて消える。
彼女の『死なない程度の能力』はもう無い。
これは妹紅の能力でもなく、長年でみにつけた技。
「人里から依頼を持ってきた」
その言葉に、ピクリと反応する小悪魔。
妹紅からの依頼はなにかと信用できる。
前回の依頼では悪魔の中で上位であるマンモンがいた。
「私は今回別の依頼がかぶっちゃっていけないんだけどね」
そう言うと、ポケットから携帯灰皿をだして煙草を入れる。
タバコの匂いがあたりをただようが、小悪魔は嫌な顔一つせず笑う。
「
「当たり前だ。まぁ、当たりは期待できないけどな」
妹紅の言葉に頷く小悪魔。
その表情は嬉しいような、そのほかの感情も交じり合っているような表情だ。
「私も外ればかりです」
「Jack potは出ないか」
妹紅は立ち上がる。
白いポニーテールを揺らして、妹紅は机を挟んで小悪魔の向かいに立つ。
小悪魔も足を机から下ろした。
妹紅が数枚の紙を机に置く。 それには内容と場所が記されている。
小悪魔は手に取って資料を見ていく。
「この程度の依頼、あなただけでも可能では?」
「ほかの仕事とかぶってんだ、悪いけど私はそちらを優先にしたい」
そういう妹紅は両手を合わせてウインクをする。
まったく、と息をついて資料を机の引き出しにしまった。
「恩に着る! じゃっあたしは行くから!」
そういうと扉の方に走っていく。
「調子が良いですね」
ため息を付く小悪魔に笑う妹紅、大きな紅いリボンもフリフリと揺れる。
こうしてみるとただの少女なのだが、と肩をすくめた。
「Of course!」
妹紅はそれだけ言って出て行く。
まったく、とだけ言って、彼女は双銃をホルダーにいれる。
剣を壁から引き抜くと、背中に背負う。
そして机の引き出しをもう一度だけ開いて、先の資料となにかを出す。
そのなにかをポケットに入れると、資料にもう一度目を通した。
「行きましょうか……太陽の畑へね」
小悪魔は紅いコートをひるがえして店を出た。
紅い悪魔は闘争に身を染める。
小悪魔が、森を歩く。
何度か襲撃する悪魔も、すべて
だが、太陽の畑に近づけば近づくほど、敵は少なっていく。
一番多かったのはやはり店と畑の間だろう。
つまり畑にも強き力を持つものがいる。
「あそこの主、ですかね」
一人頭に浮かんでいる。
美鈴の花友達であった風見幽香、その人ぐらいだろう。
あそこからの依頼など初めてでなんの依頼かと不安に思った。
よもや農作というわけでもあるまい。
“ゆうかりん”が“のうかりん”になるなど笑えなかった。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
どちらにしろ不吉なことしか待っていない。
気づけば前には光、森の出口だろう。
少し歩くスピードを速めて、森を出た。
少し高くなっているそこから見る景色は、まさに絶景。
こんな幻想郷でまだこんな場所が残っているとは思わなかった。
あまり奥までは見えないが、花畑に近づいていく。
近づいて、気づいた。
「結界ですか、なるほど……」
いつも店に張っている結界とは違い、悪魔すべてを遮断する結界だ。
自分が魔法の知識がなければ入れなかっただろう。
なんとか入ると、溜息を吐いた。
ずいぶん弱っている結界で、それこそ自分の拳銃の魔弾一発でばらばらに砕けるだろう。
「まったく無茶をしますね……そんなにこの花を守りたいですか」
横に生えているひまわりを一度撫でた。
歩き出して、なんだかさみしさを感じ始める。
一つ一つのひまわりに対しての愛情を感じた。
美鈴のことを聞かれたらどうしよう。
死んだと伝えるのは良いとしても、なんだかその先が思い浮かばない。
戦いをしかけてきたりはしないだろう。
だが、正直あの、それこそひまわりのように華やかな笑顔を曇らせたくはない。
昔見ていたらわかった。彼女は友達にはとても優しい。
だから、彼女にそんなことはできれば言いたくはなかった。
だが、そんなことを心配する必要は―――ないようだ。
「……なるほど」
ひまわりだらけの中、一点が開いていた。
数々のひまわりに囲まれた円のように開いた場所。
底の中心には、傘が刺さっていた。
ボロボロの日傘。
日傘には、同じくボロボロのチェック柄のベスト。
それで理解できた―――膝をついて、両手を合わせる。
だが彼女の眼からは涙の一粒も流れない。
慣れてしまっているからというのもあるのだろう。知り合いの死に……。
―――悪魔は泣かない。
数分して頭を上げる。
日傘のそばに置かれたひまわりの花束。
小悪魔は立ち上がり———。
「貴女ですか———」
振り向く、それと同時に拳銃を背後に向けた。
小悪魔の瞳は鋭くなっている。
「慧音さん」
そこに立っていたのは、上白沢慧音。
下げた左手にはひまわりの花束。
右手には水平二連のショットガンを構えている。
「どうして悪魔がここにいる……」
その目は、確実に殺そうとしているモノの目だ。
少なからず自分の知っている慧音はそんな目をする人間ではなかった。
否、今の彼女の目はヒトに非ず。
妖怪のそれと変わりない。
青いメッシの入った銀髪。
青い服は今でもかわらず、ただその目と右手の狂気だけが違う。
「私ですよ慧音さん」
「誰だ? 私は貴様を知らない、言語を解す悪魔とは上級か」
確実にわかっていなかった。
だが、そうそう人を忘れるようなヒトではなかったはずだ。
「私は小悪魔です、慧音さん」
その言葉に、ハッとした表情になる慧音。
銃はおろさずに、まじまじと小悪魔を見続ける。
そして気づいた。
銃を下ろして安心したように息を吐く。
「なんだ、あまりおどかすな……」
そういう慧音は、腰にショットガンをかける。
それと同じように小悪魔も拳銃をホルダーに収めた。
「驚いたのは私も一緒です、背中に氷精でもくっついてるのかと思いました」
笑っていう小悪魔に、慧音はさみしそうに笑う。
なんとなく理由はわかった。
慧音は歩いて、日傘の前にひまわりを置く。
「少し歩くが、家は近い」
そういう慧音に、黙ってうなずく小悪魔。
二人は静かに歩いて行った。
背後の日傘。それにかかったベストが揺らめく。
やってきたのは、幽香の家。
別名『ゆうかりんハウス』そして現在『けーねハウス』だ。
その看板を見て少し笑ってしまうも、慧音に続き家の中に入る。
質素なもので、生活必需品しかない。
かろうじて花がある程度か———。
「あれ、これ……」
それだけかと思っていた部屋。
ベッドの枕元に写真がいくつか並んでいた。
座って写真を見ると、幽香とひまわりたちの写真が目に映る。
「それは幽香の持っていた写真だ」
そう言って、小悪魔の隣に座る慧音。
その横の写真を見る。
幽香と、人懐っこい笑みを見せるチルノ、大妖精。
そう言えば仲が良かったと聞いたことがあった。
なぜ彼女たちと幽香が仲が良かったのかが謎だが、彼女たち妖精は幽香の優しさがわかっていたのだろうか?
その横には、幽香と美鈴。
小悪魔はその写真にくぎ付けになった。
10年ぶりに見た美鈴。
帰ってきた時には、すでに屋敷は無かったのだ。
写真など残っているはずもなかった。
だが、その中にいた美鈴は笑っている。
満面の笑みで、ひまわりを挟んで幽香と二人で笑っていた。
「……小悪魔、紅魔館は?」
その言葉に理解した。
彼女の歴史はとまっている。
10年ほど前からきっと止まっているのだろう。
だから、いろんなことを説明するために彼女は口を開いた。
一時間ほどだろうか?
話を終えると慧音は真面目な表情でうなずいた。
とりあえず話したことは、10年間の幻想郷の現状だ。人里付近が安全になったこと、妖怪の山にもうすぐで平穏が戻りそうなこと。
自分のことは一ミリも話していないあたり、小悪魔は過去を語りたくないのだろう。
「次は、あなたの番ですよ?」
「……私は必要なくなったのさ、砦を作るのを協力した後、私は必要なくなった」
そう言って、真上を向く。
霊夢から聞いた話では、ひどい仕打ちを受けたということだ。
「ん、それは受けたさ……半妖だからな」
そして出て行ってどうしたのだろう。
「出て行った後は悪魔を倒しながら進んだ。昔興味半分で香霖堂から買ったショットガンを持ってな」
そして太陽の畑についた。
そういうことだろう。
質問をしなくても、慧音は口を開いた。
〜〜〜〜〜
彼女、上白沢慧音は森を歩いている。
いたる場所を巡り巡って三日。
悪魔が出ない方出ない方にと進んでいると、彼女はそこにたどり着いた。
知識としてはもっていたが、一度も来たことは無い。
『太陽の畑』
そこに走る。
なぜか張ってある結界は容易に抜けられた。
妖怪よけでなければ悪魔よけの結界だったのだろう。
入って、肩で息をした。
安全地帯。
安心して寝られる場所だ。
とりあえずは眠たかった。
「あら、あなた……」
声が聞こえた。
殺気は尋常じゃなく、重く体にのしかかる。
彼女の声に覚えはあった。
「ま、まってくれ幽香殿」
精一杯でそういうと、殺気がゆるむ。
目の前の幽香は笑っている。
わかっていてやっていたならタチが悪い。
「あなたがどうしたの?」
幽香は日傘をさしたまま聞く。
その言葉に、慧音はバツが悪そうに頬をかいた。
察した幽香は———。
「追い出されたんでしょ?」
直球ストレートに聞いた。
それに驚きながらも、頷く慧音。
その瞬間笑いだした幽香。
「幽香殿、笑わないでもらいたい……」
威厳を取り戻すために少し真面目な口調で話す。
だがその直後、地鳴りのような音が響いた。
逆にキョトンとした幽香。
みるみる内に、慧音の頬が染まっていく。
そして、幽香が笑いだした。
お腹を抱えて楽しそうに笑う。
「アハハハハッ! だめっ! もう無理っ……アハハハハッ!」
幽香が楽しそうに笑っている。
その表情を見ていると、どことなく友人を思い出した。
いつもはむすっとした表情だが、時たまみせる笑顔。
永遠を生きる彼女のそういう所が大好きな慧音は、少し涙腺を刺激された。
「アハハッ……はぁっ、はぁっ……だめっ、笑い死ぬわ。ご飯くらい食べさせてあげるわ、きなさい」
その言葉に、慧音は頷くことにした。
幽香は今だに楽しそうにしている。
それが、彼女と彼女。
慧音と幽香の出会いで『太陽の畑』が『月の畑』になる始まりだった
次回予告。
花は散った。
それは儚く美しい最後。
歴史は悟った。
永遠に慣れすぎた自分の間違い。
異常にも永遠は無い。
悪魔は悟った。
永遠は揺れ動く歴史を求めている。
歴史は、ヒトを求めていた。
次回『月と太陽』
悪魔は歴史と踊るのか?
あとがき
今回は異様に短いですけど、まぁプロローグみたいなものですので!
とりあえず次回は過去話の続きと小悪魔ブチギレです。
では、次回もお楽しみに♪
感想お待ちしています♪