仮題・・・恋姫世界に幕末日本をぶち込んでみた。   作:3番目

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94話 大晩餐会③ 大江戸オーパンバル前編

馬車は江戸市内を抜け御曲輪内水辺を横切り、陽が沈み暗くなった帝国劇場前の石畳に賓客達を乗せた馬車が止まった。

 

先頭の馬車から御者に扉を開けさせ、先に降りた月に手を取られて美羽が馬車を下りると紫色の上衣の衿章及び袖章の大礼服を着込んだ徳川家茂ら帝国の重鎮が出迎えた。

美羽の方も普段の衣装とは違いネックラインが深く大きくカットされ、首元や胸元を露わにしたスタイル、いわゆるローブ・デコルテの姿であった。

 

「美羽。」

「はい、旦那さま。」

 

家茂が手を差し出し、それに応じて手を取る美羽。腕を組んで中へと入って行った。

七乃ら揚州袁家の随行員たちは徳川の役人や会場職員と合流し賓客達の応対や会場の手伝いに回った。

 

帝国劇場はネオ・ルネサンス様式の客席数2324、面積8709平方メートルの大劇場である。この日のために座先はすべて取り外され平土間席のあった所をダンスホールに見立て、5階層に連なるボックス席に各国ごとに食席が設けられ、さらに8万本もの生花で彩られ華やかさが演出される。また、劇場内の装飾のアクセントに金色の縁取りがあしらわれているものの、派手さはありまなく、しかし洗練されていて落ち着きのある佇まいがあり、夕日と鶴の描かれた緞帳が合わさり風情すら漂っていた。

また、オーケストラボックスにはすでに楽団が入り前奏曲を奏でていた。

 

 

次に入ってきたのは家茂の義姉にあたる華北袁家当主袁紹であった。

袁紹もローブ・デコルテで、随行の3人はイブニングドレスかディナードレスを着ている。

彼女は約65メートルの高さの劇場を見上げて一言。

「徳川大日本帝国の旺盛、未だ天井を見せずですわね。」

追従する顔良、文醜、田豊の3人は黙った頭を縦に振った。

「華北袁家の当主として恥ずかしい真似は出来ませんわよ。皆さん気を引き締めていきますわよ。」

大陸有数の勢力の当主と言えども世界の富の集積地徳川大日本帝国の首都江戸の光景に気圧されているようだった。

 

劇場に一歩踏み入れるとそこは、大階段。実際に金を用いているわけではなく照明の関係で黄金に輝いている。モスグリーンの絨毯は落ち着いた雰囲気を演出していた。

 

袁紹達に美羽と七乃が話しかける。

「ようこそいらっしゃいました、麗羽様。」

「麗羽姉さま、このたびは妾達夫婦の誘いに応じて下さりありがとうございますなのじゃ。今日は楽しんでいってくだされ。」

「えぇ、こちらこそお招きありがとうございますわ。ところで家茂さんはどこかしら?」

「旦那様なら、あちらにいるのじゃ」

美羽が指し示す方に、パルティア王国国王ヴォロガゼス6世と王妹アルタバヌス4世とその息子次期国王アルタヴァスデスらパルティア王国一行に応対する家茂と外国事務総裁職川路聖謨の姿があった。

パルティア王国一行の応接を他の徳川帝国役人に任せた二人は美羽と袁紹達に合流する。

 

「本初殿久しぶりじゃな。おぉ顔良殿に文醜殿もご健勝そうでなによりですじゃ。」

「あら、川路殿ではありませんの?お久しぶりですわね。」

「川路さんお久しぶりです。」「川爺じゃん!久しぶり!」

「えぇとそちらはどなたかな?」

「真直さん」

川路の問いに袁紹が応じて田豊を促す。

「姓は田、名は豊、字は元皓。田豊とお呼びください。」

「ほぅ、これはこれは。帝国外国総裁職川路聖謨と申す、以後お見知り置きを。」

「ゴホン!」

川路と袁紹達で盛り上がっている中で話を進めたかった家茂が咳ばらいをする。

それに気が付いた川路が家茂を紹介する。

「失礼しました。こちらが・・・」

「こうして直接会うのは今回が初めてであるな。余が徳川大日本帝国幕府征夷大将軍徳川家茂だ。よろしく頼む。」

「えぇ、初めまして家茂さん。美羽さんの旦那さんと聞いていましたがこれほどの人物なら心配ありませんわね。美羽さんをお願いしますわ。美羽さんが心を寄せる人ならば教えなくてはなりませんわね。わたくしの真名は麗羽ですわ、今後は真名で呼んでくださいな。」

「うむ、では余の真名は新と申す麗羽義姉上。今後ともよろしく頼む。」

その様子を見ていた。顔良達が話しかけてくる。

「では、私達も真名を名乗らなくてはなりませんね。私は斗詩です今後とも袁家をよろしくお願いします。」

「あたしは猪々子!!よろしくな!!」

「わたしは真直と申します。華北袁家では宰相位に就かせてもらっています。」

「うむ、徳川と両袁家の結びつきは重要なものとなる。今後ともよろしく頼むぞ。」

そこに川路も加わる。

「では、この場を借りて儂も真名をあれから名乗るようになっての。今は萬福と言う真名を名乗っておるのじゃ。儂自身も外務省も袁家とはただならぬ仲ゆえに私的な時は真名を使ってくれて構わんぞ。」

 

 

「上様、そろそろ。」

小姓頭の森彦丸が家茂の背後から話しかける。

懐中時計の時間を示された家茂は話を切り上げる。

 

「うむ、もうそんな時間か。川路、袁紹殿のお相手を・・・、麗羽義姉上もまた後で。」

「新さん、義姉上はやめなさい。歳はあなたの方が少し上なのですから・・・・」

「それもそうですな。では麗羽殿、余はこれで。」

 

 

家茂がその場を離れ、徳川の役人や女官達が各国の国賓や国内の招待客である雄藩や親藩藩主に財閥総裁の応対に追われ始める。

幕府の役人や女官達に案内されて賓客達がボックス席へと案内される。

バルコニー席だったところには各自が料理を好きに取り分けて立食するビュッフェスタイルでメインテーブルに料理が並べられていた。また、ボックス席から給仕人に注文をする事も出来るようにしていた為、シャンパンやワインを入れたグラスや切子ガラスの猪口と徳利に入った日本酒や様々な料理を持った給仕人が絶えず行き来していた。

 

また、本来の劇場の来賓席は主賓席とされ天皇家、徳川宗家、御三家、御家門の松平容保と松平定敬、両袁家一行、サータバーハナ朝王室、パルティア王国王家、南方三国王家、琉球王国王室、大朝鮮国王家の席が用意された。

1階から3階まであるボックス席は上記主賓国の高官やクシャーナ朝一行、サーサーン朝(パルティア王国より独立した新興国)一行、パーンディア朝一行、クシャパトラ王国(サカ民族統一による新興国)一行、印スキタイ王国と言った西や中央に南アジア諸国、アステカ帝国一行やインカ帝国一行と言った上都大陸や蓬莱上都中間地域国家、劉備一行、孔融一行、挹婁族一行と言った諸外国が、国内より御三卿、御家門と言った親藩や雄藩、財閥当主が割り振られていた。また、アフリカ系国家には声を掛けておらず、蓬莱大陸の傀儡国家や南天大陸のアボリ国は保護国化、北方遊牧騎馬民族は国家と言う認定が解除され勢力と言う認識であったが、挹婁族族長傉雞の傘下は挹婁族が徳川帝国の後援で烏桓族と匈奴族の一部を吸収し徳川大日本帝国の傀儡国家になることが決まっていた為に新興国見込みで参加することになっていた。

また諸外国の賓客の服装は、徳川大日本帝国内の百貨店で購入したドレスや燕尾服を着た者やその国々の民族衣装で最高位の礼服を着ている。ドレスコードと言うものが一応存在するがその辺はかなり緩く国内の賓客達の中にも直垂・裃の武家装束の者達もそれなりにいた。また、この世界独特の百合文化の影響かエスコート役も女性なんてこともあったりした。

 

 

 

主賓席の家茂がシャンパンを片手に乾杯の音頭を取る。

「この度は我ら夫婦を祝福するために集まってくれて大変嬉しく思う。今回の宴は舞踏会形式だ。皆大いに飲んで踊って楽しんでいってほしい。乾杯!」

 

「「「「「乾杯!!」」」」」

 

そして、3拍子でテンポの良い淡々とした舞曲が流れ始める。

「スローワルツか・・・。美羽、踊ってくれるか?」

「うむ、もちろんじゃ。」

 

比較的踊りなれている国内の賓客達に交じって家茂と美羽もその輪に入って行き、それを見た諸外国の賓客達の中からもその輪に加わる者達が現れて来た。

 

 

 

まだ、宴は始まったばかりだ。

 

 

 


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