仮題・・・恋姫世界に幕末日本をぶち込んでみた。   作:3番目

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95話 大晩餐会④ 大江戸オーパンバル後編

 

 

メヌエットが終わると次はウィンナーワルツが流れ始める。

 

「金糸(きんし)〈越王黄乱の真名〉や日成(ひなる)〈大朝鮮国国主金膺兎の真名〉はいいにゃあ。うらやましいじょ。」

3拍子で軽快な音楽に合わせてクルクルと回るように踊る姿が主賓席からはまるで華の様に見えた。踊る相手を見つけられなかった孟獲(美以)はうらやましそうにメインホールで踊る彼女達を見つめていると後ろから声を掛けられる。

「自分はサータバーハナ朝第一王子カンハ・サータバーハナ。孟獲殿、自分と一緒に踊りませんか?」

孟獲が振り返るといわゆるターバンを巻いたインド風の民族衣装を着た少年が立っていた。

「美以と踊ってくれるのかにゃ、嬉しいんだじょ。」

 

孟獲に手を引かれカンハ王子はメインホールへと連れていかれた。

 

こう言った華やかな晩餐会や舞踏会の裏では壁の花となった者達に紛れて政治が動いている。

 

「うまくやれよ、カンハ。」

父親であるシムカ国王はそう独り言をつぶやき、若い二人を見送った。

「王子と孟獲殿の中が深まれば、我が国と扶南国の国境線問題も解決します。さすれば、我が国は周囲に問題を抱える国が無くなります。」

パルスィ・タタの言葉にシムカ王が反応する。

「うむ、我が国の周辺は同盟国、これ以上の拡大を求めるなら徳川帝国同様に海の向こうを望むしかない。幸いにも我が国は徳川帝国と言う圧倒的な存在を除けば外洋航行可能な艦隊を持っているのは我が国のみだ。他にも同様の船を持つ国はいるが艦隊規模にまで整備したのは我が国のみだ。徳川帝国の許可は得ている。我が国に許可が下りた時点で他の国にもいずれは許可が下りるはず。なれば、我が国は他国に先んじて海の向こうへと手を伸ばすのだ。」

シムカ王はパルスィ、ヒンドゥラ、シャーストラと言った財務大臣他、インド財界の重鎮らを率いて席を移動する。なお、参考までに彼らの容姿であるがサータバーハナ朝の牛系獣人の例にもれずシムカ王が黒い毛皮の角が立派な野牛系男性。パルスィは標準的なホルスタイン系女性、他は水牛系男性でる。また、財務大臣のパルスィであるが外務大臣も兼務している。

 

劇場の喫茶室が解放されており室利仏逝王国女王スリ・シュナーヤと宰相グワン・サンフサイが座って待っていた。

「うむ、お待ちしておりました。シムカ国王陛下、こちらが室利仏逝王国スリ・シュナーヤ女王陛下であられます。」

「シムカ王、よろしくなんだなぁ。」

スリ女王が独特な間延びした声で応じる。

「サータバーハナ朝国王シムカ・サータバーハナだ。よろしく頼む。」

シムカ王の挨拶と同時にパルスィら他の重臣達が頭を下げる。すると対面の室利仏逝王国側の重鎮達も頭を下げる。その中に扶南国外務大臣朶思と越国の外務大臣保大(ばおだい)がいる事に気が付く。

「なるほど、室利仏逝王国は南方三国として海外権益確保を主導するわけですね。」

パルスィの発言にグワンが返答する。

「はい、我が国は海外権益確保における海軍力を、扶南国と越国は統治のための陸軍力を提供することとなりました。」

スリとシムカの王族二人は黙って事の推移を見守り、主にグワンとパルスィで話を進める。

「そうなると、我が国には勝らずともあなた方は世界で3番目に多くの海外領土を持つ可能性が高くなりますな。」

「えぇ、そうなりますね。パルティア王国は海洋航路を用いた領土拡大ではなく従来通りの拡大方法を選択しアナトリア以西の刈り取りに舵を切りました。なればこそ、徳川帝国が抑えなかった土地を我々優位で分割する。それが最良かと・・・」

「我々の懸案であった。扶南国との国境問題もカンハ王子の扶南国への輿入れで丸く収められそうですな。」

パルスィの視線を受け朶思が大きく頷く。それを確認したパルスィが話を進める。それにグワンが応じる。

「先進文明国なら大朝鮮国や琉球王国、後進文明国ならばクシャーナ朝、パーンディア朝、スキタイ王国、クシャトラパ王国、アラビア首長連合が海外領土を得るでしょうね。」

「琉球王国は徳川に次ぐ第二位の海軍力を持つ国、大朝鮮国も徳川追従主義をとる国家何かしらの目こぼしはあるでしょうが、目下の問題は隣の大陸に近しい事でしょう。場合によっては巻き込まれる。クシャーナ朝は内陸国ですが港をどこぞに租借して海外権益確保に回ると言う話もありますが地盤固めが出来ていないようですので心配はいりますまい。気になるのは・・・」

「袁家でしょうかね。揚州袁家は婚姻同盟によって徳川とは蜜月、徳川の後援で出張ってくるでしょうね。揚州袁家の流れに乗る形で華北袁家も出てくるかもしれませんね。出来る事なら、中華の連中には自分達の中だけで可能な限り乱れたままでいてもらいたいものです。」

「違いありませんね。」

「「はっははははは」」

室利仏逝王国が南方三国の添え物などと言われる時代は終わるグワン・サンフサイは変化を感じ取っていた。

「おや、時間ですね。スリ陛下。」

「うむ、行くんだなー。」

グワンの呼びかけにスリ女王が応じその正面でもサータバーハナ朝一行が同様の動きを取る。

「シムカ陛下」

「うむ。」

朶思と保大もそれぞれの主に声を掛けに席を立つ。

ダンスホールから聞こえる音楽をBGMに色々な権謀術数が駆使され歴史は動く。

 

 

 

ホワイエでの立ち話、挹婁族傉雞と幕府大政参与松平定敬の会話。

「徳川帝国の支援もあって周辺遊牧民族の統一もめどが立ちました。」

「傉雞殿は上様の期待通りの結果を出しておいでです。鮮卑との勝率もなかなかですし、北方統監府や遼東総督府などとの共闘体制を早いうちに整備してくださいました。その手腕も考えれば今回の事も十分あり得たことです。」

「わたくしなどにもったいないお言葉でございます。」

「濊族や沃沮族の残党に弱体化した夫余族を吸収した手腕は見事なものです。」

「お褒めに与かり光栄の限りです。」

「建国は確か・・・」

「半年後です。ところで、匈奴の連中にも国を与えるとか。羌と氐にも・・・」

傉雞がかなり気にしたように話しかけると定敬は愛想笑いの混じった笑顔で応じる。

「いえいえ、確かにそういう話もありますが、まだ先方にも話していない様な企画段階の話ですよ。仮にできたとしてもそう言った新興国の牽引は貴国がやることになるのではないでしょうか?我が国としては遊牧民族の中でも最初に首を垂れた貴国に遊牧民族の手綱を握ってもらうのが良いかと考えていますので・・・。我が国と挹婁族新国家との関係が続く限り繁栄をお約束しましょう。」

「はい、感謝いたします。」

 

「定敬様、お時間です。」

二人の会話に入り定敬に耳打ちする。

「おや、そんな時間でしたか。傉雞殿、我々はこれで失礼します。楽しんでいってください。」

「はい、有難うございます。」

定敬は傉雞に別れを告げてその場を離れる。

時間は日付が変わる深夜0時、子の刻。賓客達も早い者達はそろそろ帰り始める時間帯だ。

家茂、美羽や他の主賓達が貴賓休憩室に通される。

周囲には警備の兵が立たされているが正装の為悪目立ちするようなことはなかった。

 

中央に置かれた円卓にそれぞれが座る。

皆が座ったのを確認した家茂が口を開く。

「では、話し合いと行こうか。世界の今後を決める重要な会議だ。」

 

当事者でもあるはずの同盟後進国の賓客達が何も知らずにダンスホールでワルツを踊るその最中、扉一枚を隔てた向こう側で軍事、経済、外交、貿易、金融、人権と世界の言ったありとあらゆる未来を決定づけられる、重要な会議が始まった。

 

 


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