仮題・・・恋姫世界に幕末日本をぶち込んでみた。   作:3番目

19 / 109
14話 南方開拓団外交団

 先行した本隊よりパガン王国及びチャイ王国の降伏の知らせが舞い込んできた。

 南方派遣軍の後詰部隊として総勢900の戦力をもって旧チャンパ王国に駐留する彼らであるが戦後処理も粗方終わり今次戦争が終わったとなれば基本的にやることはなくなる。

 戦後統治は自分達ではなく扶南国の仕事ゆえに自分達が口出しすることはない。あるとしてもそれをするのは南方開拓団の文官たちの仕事だ。

 

 大きな葉っぱと太い枝で作った簡素な掘っ立て小屋の下で、そんなことを考えながら大多喜藩藩主松平正質は、荷物をまとめ次の仕事に取り掛かろうとしていた。

 最近は藩主たちの間でも様々なうわさが流れている。幕府は北方や南方、果ては東方にも入植をはじめ領土化しているという話が聞こえている。そして、そういった拡大する直轄地を諸藩の新領地として配る、もしくは転封の話も聞こえてくる。実際北方では奥羽諸藩に領地拡大の波が訪れており奥羽諸藩が北方領域で馬鹿みたいに広い領地を得たのは有名な話だ。ただただ不毛な地を大量にもらっただけなので特別うらやましいとは思わない。でも、南方は豊かな地ゆえにこれらの土地が手に入れば非常にうまみのある話なのだ。そういったことがあればその藩主は大喜びだろう。

 

 そう、この松平正質には南方に加増の話が来ていた。簿留根緒(ボルネオ)島の紗良和久(サラワク)地域を加増されるという話が幕府側から内々に来ていた。

 すでに下調べも終えており、鉱山資源が豊富で発展性の高い地域であるが、粘土質の土であるために、まともな植物が育たないため食料の確保にしばらくは悩みそうな気がするのだが、その辺も周辺の島々や東南アジアの国々から輸入すればいい。

 

 といっても、次の仕事の成功報酬なのだが・・・

 徳川幕府南方開拓団外交団団長これが彼の次の仕事からの役職だ。かつて城中における武家の礼式を管理する奏者番を経験しており礼式に強いなら、相手に失礼な真似はしないだろうという、なんかふわっとした理由で就任したのだ。

 とにかく、南方の諸民族との国交樹立と通商条約の締結。可能ならば相互保障条約も結んでくるというものだ。

 

「正質様、支度が整いました・・・」

「そうか、今支度を終えたところだよ。よっこいっしょっと」

 近侍の藩士が呼びに現れる、正質は革製のトランクバックを持ち上げて、切り株のテーブルの上に置いていた紐のついた竹水筒を首にかけ山高帽を被る。

 着ている服は小袖の上に裃を身に着けた伝統的な和装だ。いわゆる古式ゆかしい江戸時代から明治という新しい時代への過渡期を象徴する姿といえよう。

「お持ちします。」

「頼むよ」

 近侍にトランクバックを渡した正質は彼について葉っぱの暖簾をくぐり、外に出た。

 外には出発の支度を整えた大多喜藩士達と新見恒興がいた。新見恒興の周りには彼と最近仲良くなった現地人の少女?幼女か?達が集まっていた。

 

「新見殿、この子たちは?」

「はい、彼女たちが越族の村まで案内してくれるそうです。」

 正質は彼女たちを一通り見てから恒興に尋ねる。

「確か彼女は、旧チャンパ国王だったと思いますが?」

 そう言って朶思の方に目をやる。

 恒興が答える前に朶思が正質に答える。

「朶思はもう大王じゃないにゃ、ただの朶思だにゃ。」

「そうですか、あなた方の民族性なのでしょうかね?その切り替えの早さは・・・・」

 朶思は正質の方を見てよくわからないといった感じで恒興の方に駆けていった。

 

「新見殿、とにかく出発しよう。外交団団長としては時間を無駄にはしたくありませんのでね。」

 正質は目の前の籠に乗り込む。

 

 正質と恒興、護衛の大多喜藩士達50人(200人ほどの出兵であったが相手を刺激したくないという考えから外交団には50人程しか同行しないことに、それでも多いのではと正質と思っている。)、そして朶思ら道案内の南蛮人らは越族の住まう地を目指し森や山を進むのであった。

 

 途中海岸沿いを進み、さらに山林を進む。

「放、まだなのか?」

「もう、すぐだにゃん。」

 恒興と朶思の会話に聞き耳を立てていた正質は耳慣れぬ名が聞こえた。

「新見殿?朶思殿の字まで教えてもらえたのですか?ずいぶんと仲の良い。」

 正質が籠の障子戸を開けて恒興に話しかけると、恒興はうっかりしていたと言わんばかりに正質に伝える。

「正質様、彼女のそのそれは真名と言いまして、大陸独自の文化で、心の底から信頼する相手にしか教えてはならない呼び名だそうです。もし、特に仲の良いわけでもない相手が真名で呼ぼうものなら殺されかねないものだそうです。」

「ほう、それはそれは(なんて面倒くさい文化なんだ)・・・・・・では姓名を知らぬ相手に話しかけるときは君や貴方でとおした方が良いな。」

 そう言って正質は帳面を開くと筆に炭をつけ、真名文化のことを記していく。記し終えてから、ふと正質は口を開く。

「新見殿、朶思殿の真名を教えてもらったのなら、その方も真名が必要であろう?お主は仕事の手並みも鮮やかゆえ・・・鮮(せん)と名乗ってはどうだろうか?」

「・・・正質様、そのような格別な計らいは・・・」

 正質に対しかしこまった態度をする恒興。

「新見殿の、南方での仕事ぶりには、私も助けられている。その礼とでも思ってくれればいい。」

「・・・鮮の真名・・・ありがたく使わせていただきます。」

 そう言って恒興は正質のそばを離れていく。おそらく、朶思に自分の真名を教えに行くのだろう。

 正質はそばに置いておいた竹水筒に入れていたお茶をのどに流し込む。

 南方の地は甘い果実が豊富で、資源は豊富。そこに住む住人達も友好的で良い地域だと思うが、この熱帯気候の暑さは何とかならんのか。

 

 何やら前方が騒がしい。開けっ放しにしていた障子から何やら大声で会話しているのが聞こえる。近侍に何事か問いただす。

「なにやら、前方の方で越族のものと接触したようです。」

「おお!左様か。では、外交団団長である私が行かねばならんな。」

 そう言って、籠から降りた正質は現地民に最初に渡すつもりであった友好の品を手にもって、何やら騒がしい前方へ向かった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。