仮題・・・恋姫世界に幕末日本をぶち込んでみた。   作:3番目

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17:30頃加筆修正。
致命的ミス、鬱林行くって言って、なぜか台湾に行っていた矛盾を修正。


26話 遣漢使帰宅道中

 洛陽にとんでもない嵐を起こした日本外交団は数日のうちに洛陽を後にした。

 まあ、この話は外に漏れることは全くなかったので、どこぞのテロリスト的な大陸人に襲われることはなかったが、洛陽より暗殺者とかが放たれる可能性はあったので逃げ道のない水路は避けて、安全圏(越国)へ出ようとした。実際の所、暗殺者は放たれていなかったのだが・・・

 その過程で袁紹の従妹が治める汝南に立ち寄った時の話だ。

 袁紹の紹介状のおかげで汝南でも高待遇を受けられて一息であった。

 挨拶を済ませた聖謨達は都城の客室でゆっくりしていると、扉をたたく音が聞こえた。

「どうぞ。」

 文官の一人が答えると

「失礼しま~す。」

 確か、彼女は袁術殿の側近の大将軍の張勲殿だったか。

 洛陽で気を張っていたため聖謨含めて皆ぐったりしていた。

「あー、えっと、確か張勲殿でしたかな。」

「はい、袁術様の側近の張勲ですよ。」

 しかし、彼女達とは謁見の時に話すことは話してしまったのだが・・・

 

「何かご用ですかな?」

「はい、洛陽での武勇伝をお聞きしたいと思いまして~」

 

 !?なぜ知ってるんだ。汝南から洛陽まで距離もある、常駐の密偵でも送り込んでいるのか。

 

「なんでも、宮廷内でも大立ち回りだったとか?」

 無論これは彼女ブラフである宮廷内、それも天子に近しい位置なのに密偵など、いくら腐った漢王朝であっても不可能だ。

 だが、洛陽で神経をすり減らした聖謨達には、それに気が付ける余力はなかった。

「な!?なぜそれを!!!・・・しまった!?揺さぶりか!!」

「はは~ん、わかりましたよ。あなた達、洛陽で相当なことをしでかしたようですね?ただ表ざたになっていないということは、あなた方にそれほどの非はなく、漢王朝が知られたくないような秘を知ってしまった。といったところでしょうか?」

 聖謨は眉間にしわを寄せる。

「ぐぬぬ。」

「ここまで来るまでかなり慌てているご様子。暗殺者でも放たれるほどなのでしょうか?」

 聖謨は頭を押さえる。

「あら、本当みたいですね。」

 張勲は自身の頬に指をあて、かわいい系のポーズをとる。

「そんな、困った皆さんにいいお話がありますよ。」

 聖謨は頭を押さえた手をどけて張勲の方を向く。

「それは?」

「荊州のあたりまででどうです?」

 聖謨は長江の流れを思い出す。

「いや、だったら交州の鬱林まで送ってはくれんか。同盟国がある。」

「同盟国ですか?」

 聖謨は再びしまったと感じて舌を巻く。

 失言だ、今ので彼女に我が国と越国の関係がばれてしまった。

「これはこれは・・・・いいですよ。鬱林までお送りますよ。」

 もう、開き直ってしまおう。むしろ、水軍を動員してくれるなら・・・

「いや、失礼した。鬱林ではなく台湾まででよろしいか?」

「え、台湾ですか?あんな辺境に?別に構いませんが?」

「それはありがたい!なにか、交換条件でも?」

「たいしたことではありませんよ~。ただ、貴国との関係を結んでおきたいと思ったんです。」

 聖謨は少しだけ訝しげにする。

「ただ、関係を持つだけでよいのか?例えば、賄賂の要求とか、そう言ったものはいらんのか?」

「はい、わたしは貴国と友好な関係を結べただけでも万金に値する価値があると思います。」

「ありがたい。」

 本人がそう思うなら、それでいいかと思い礼を言った。

「受け取り方は人それぞれでしょうけど・・・。尋常でない財力を持ち、漢王朝に前代未聞の要求をのませる政治力を持った国家。要求内容と城外での態度を見るに戦争になっても構わないのでは思わせる毅然とした態度。武力もそれ相応にあるのでは?」

 するどい。それに、これはわしへの発破をかけているのじゃな。

「発破かけはよして欲しいのじゃ。我が主、徳川家茂公は恩を仇で返すような男ではないゆえ。後日、必ず借りは返すゆえ、探りを入れるのはご勘弁願いたい。」

 すると、張勲は少し目を丸くする。

「男!?徳川家茂様は男なんですか!?」

 え、そこ!?そこに驚くのか!?漢王朝全体に女尊男卑の考えが大なり小なりあるからか?だがその割にはこの娘から拒否感は感じられんが・・・なにを考えているのやら。

「そ、そうだが、なにか?」

「い、いえ、なんでもありませんよ~。では、わたしはそろそろ失礼しますね~」

「あ、ああ」

 

 

 

 

 翌日、紀霊と言う汝南袁家に仕える宿将が護衛に着いた。

 汝南袁家の水軍を多数動員したようだ。

 1隻の楼船に乗せられた外交団の周りに複数の露橈や艇と呼ばれる中小多数の船が見えた。

「ずいぶんと袁術殿は我らを買ってくれたようだな。諸侯の中には我らを面白く思わないものも出てくるだろうに?」

 そう声に出すと紀霊と言う将軍、張勲と同じ服を着て濃紺色の長髪を後ろで束ねた上方の彼女は応答してくれた。

「わたしは専業の武官ですので、詳しいことはわかりませんが美羽様はともかく、七乃はかなり買っているようですね。道中、あなた方に傷が一つもつかぬよう言い含められましたので。」

 しばらく話していて気が付いたが、武官だからだろうか?本来なら黙っていた方がいいような内容もポロポロこぼしている。持っている情報はたいしたことはなさそうだが少し探りを入れてみるか。

「しかし、たかだか東夷の一国が張勲殿、ひいては袁術殿には大変な恩を受けてしまった。上様にはしっかりとお伝えするが、どのように恩を返したらよいやら。」

 困ったなと言う表情を露骨に出す聖謨。彼女の善意に漬け込むようなやり方だが、重要なことゆえにご勘弁願おう。

「・・・・あ、えっと。川路殿、私が言ったとは言わないでくださいね。」

 彼女がそう前置きする。わしらと直接会った高官なんて張勲と紀霊しかいないのだから、その前置きは無駄だと思うが・・・まあ黙っておこう。

「張勲様は汝南袁家の膿を出すためにあなた方の援助がほしいのではないでしょうか?」

 ふむ、面白い情報が得られた。上様への手土産にいい話を得たのぅ。

「どうかされましたか?」

「いえ、袁術殿と張勲殿のお気持ちにはそれ相応の形でお返しせねばならないと思いいましてね。」

「それは、ありがとうございます!」

 しかし、愚直な彼女にこのような権謀術数を仕掛けて少々罪悪感を刺激されてしまうな。

「紀霊殿、わしは船室に戻ることにするのじゃ。」

「はい、わかりました、ごゆっくり!台湾島に着いたらお呼びしますね。」

 

 聖謨は船室に戻ってから思い出した。

 台湾島って琉球王国の領有じゃ・・・と、聖謨は慌てて日本国旗を楼船の穂先に着けるようにお願いした。

 紀霊は少々混乱していたが承諾してくれた。

 変に我が国に義理立てした琉球が漢の船であるこの船に銃や弓矢で攻撃するような事態は事前に防がれたのであった。

 

 赤青黄色の巴の紋が入った国旗を掲げた小型ジャンク船が数隻接近してくる。

 琉球海軍の船から黄色い煙弾が直情に向けて放たれる。

 その瞬間、聖謨の顔が引きつった。

 これは日琉扶越室百新伽の八か国間で取り決められた海洋法における不明艦に対する対応の一つ警告だ。連中変に我が国に義理立てしてきた!?

 琉球海軍はこの船団を海賊か何かと思っているのだろうか?

 まずい、これは不味い!!今頃琉球海軍の艦船内では大砲に玉が装填され、銃兵もしくは弓兵が甲板に集結しているはずだ。だが、どうして?日本国旗が掲げられているはずだが?

「紀霊殿、我が国の国旗は?」

「それなら、あそこに。」

 そういって彼女が指さすと楼船の頂上部分に飾られている。しかし、不運なことに袁家の牙門旗に完全に隠れてしまっている。あんな遠くでは取りに行っている時間はない。

 なんということだ!!このままでは、鐘の音が聞こえる。琉球海軍の開戦準備をしている兵士たちに向けてなる鐘の音だ。

「あ、青い煙幕はないか!!」

 青い煙幕は敵意なしの合図、これなら臨検を受けるだけで済む。

「そのようなものは、ありませんが?」

 状況がわかっていないのか、のほほんとしている彼女に何か言ってやりたいが、仕方がない。

 なにか、何か策は!?外交団の文官の一人が何かを抱ええて走ってくる。

 あ、あれは徳川葵の旗印!!

「振れ!!旗を振れ!!」

 文官が徳川葵の旗を大きく振る。

 向こうから見えることを祈るばかりである。

 琉球海軍の直上に青い煙幕が見える。敵意なし。

 危機は去った。汝南袁家及び日本外交団の一行は琉球海軍に誘導され、台湾の基隆港に上陸した一行の前に程なくして顔を真っ青にした琉球の文官が、栗鼠の尻尾を付けた栗色の小柄な少女である。たしか、台湾の直轄地統括代官の具志仁椎(ぐしじんしい)だったか。

 彼女は真っ先に聖謨の前に行き、ものすごい勢いで土下座した。

「このたびの日本国高官に対する非礼の数々、平に!!平に!!御容赦をぉおお!!!」

 漢の人間を完全無視して真っ先に自分たちへの土下座を実施したのだ。

 武官の彼女が気が付いたかはわからないがこの行動は周辺国の力関係が如実に出てしまっている。あまりいいものではない。

 具志仁殿に土下座をやめるように言って、話を進める。

 汝南袁家及び日本外交団は台湾で一泊し、それぞれ帰国の途に就いた。

 


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