仮題・・・恋姫世界に幕末日本をぶち込んでみた。   作:3番目

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36話 汝南袁家武器輸出交渉

 

 すこし、ヒヤッとする思いをした家茂達は下邳を後にした。寿春を通過し、汝南の領地に入ると、境界線を警備する袁術軍の一隊が袁術の命を受けたらしく30名ほどの部隊が護衛兼先導として加わった。

 

 汝南の町の門に来ると袁紹の時同様に高官による迎が来ている。

 袁術軍の宿将紀霊と3人

 共通の制服に白いコートを羽織った長い炎髪のスタイルが良い女性と黒髪目隠しショートボブの少女、もう一人は同じ制服に半ズボンのマイナーチェンジをした。ショートヘアで半ズボン、背も低年齢なのか相応に低く、ショタに類する少年だろうか。

 恒興は気を付けながら、挨拶をする。

「これはこれは、紀霊殿。お出迎えありがとうございます。」

 恒興は相手がお世辞だとわかる程度の社交辞令的な挨拶をする。

「日本の正式な外交団が来るのは2度目になりますね!!こちらこそありがとうございます!!」

 ちなみに非公式な使節と言うのは事前交渉の為に先遣的に派遣する使節、正式な使節を立てずに交渉する事務官レベルの交渉隊などを言う。

「そういえばこちらの方は?」

 そう言って恒興は紀霊の方を窺うと

「皆、ご挨拶を。」

 

「わたくしは、雷薄ともうしますわ。軍の兵站を中心とした後方支援を一手に引き受けていますの、よろしくお願いしますわ。」

「・・・・・・陳蘭。」

「楽就だ!!よろしくな!!」

 紀霊に促されて3人の高官たちが挨拶をし、紀霊がその補足を行う。

「雷薄に関しては言わなくて大丈夫ですね。では陳蘭、彼女に関しても皆さんの方が詳しいかもしれませんが親衛隊に新設されました新武装試験隊の隊長です。そして、この楽就ですが先月より親衛幹部候補に加わりまして私の補佐をせています。」

 

「えぇ、こちらこそよろしくお願いします。」

 恒興が礼をするのに習って随行の者達も頭を下げる。

 汝南袁家は漢王朝において帝室を除く諸侯の中で最大の資金力を持つ勢力だ。しかも、帝室の資金の何割かは日本より手にした財宝だ。ゆえに実質的にはこの汝南袁家が最大の資金力を持つ勢力なのだ。肥沃な汝南を治め、同様に肥沃な寿春にも影響力を持つ汝南袁家に幕府が興味を持たないわけがない。詳細は後程説明することになるが、汝南袁家と徳川幕府の癒着度合いは半端ではない。そういう経緯で汝南袁家では幹部候補を幕府の上役及びその候補が訪れた際は互いに顔合わせをする。気が付けば、そういう慣例が自然と出来ていた。

 

 

 恒興たちは汝南の都城にある客室に案内された。

 団長の恒興などは1人で1室だ。他の外交役人達も3・4人づつで振り分けられている。

 その日の晩は友好諸侯の間では通例になってきているが宴が開かれる。

 ただ、ここで他の諸侯と違うのは参加している汝南袁家側の高官が袁術・張勲に付き従う派閥の者しかいないということだ。

 

 

 

 

 後世の研究者たちは第一回の外交団の手助けをした経緯から、徳川幕府と汝南袁家の繋がりが始まったとされ、後世において日本外交団の帰路の護衛をした時、はたまた徳川家茂の返礼の使者を迎えた時と諸説あるが、汝南袁家当主袁術の懐刀であり、袁術領を実質的に差配していた張勲と何らかの密約が交わされていた事は間違いないとされている。

 なぜならこの時、すでに袁術に敵対する派閥はほぼ壊滅状態で黄巾党の乱が終わるころには完全に袁術派が主導を握りそれ以外の派閥が潰されていたのだから・・・・

 

 

 

 翌日、汝南袁家と徳川幕府の交渉が行われる。

 この交渉は殆ど張勲一人との交渉だ。彼女は謀略や政治において稀代の天才と言って間違いない才能を持っていた。無能な袁術が確固とした地盤を維持し今も力をため続けているのは彼女あってのものであった。

 

「はい、華北袁家に新しい鎧の素材を提供しているのは知っています。私が言いたいのは華北袁家に軍備強化に繋がる支援をしたのですから、汝南袁家にも同様の援助をいただきたいと言っているのです。」

「えぇ、わかっています。上様も汝南袁家との関係は非常に重要視していおりますので・・・」

 少々早口の張勲に対して恒興も押され気味だ。

 押され気味の恒興を支援する形で家茂(徳田新之助)が尋ねる。

「張勲殿は具体的にどのような軍備強化を望んでいるのでしょうか?華北袁家は鎧に黄金を使っており金銭的負担と鎧そのもの脆弱性の解消を目的としたものでしたが、袁術様の軍の鎧は鉄を艶出ししたものと聞き及んでおりますが・・・・」

 張勲はすぐにその問いに答える。

「はい、確かに鎧兜等の防具に関しては十分だと考えています。汝南袁家の軍部が考えているのは攻撃力の強化です。」

 恒興が応じる。

「と、いいますと?剣?弓?それとも攻城兵器でしょうか?以前にもお伝えしましたが火器は我が国の最重要機密ですので直間接的な取引は一切いたしませんとお伝えしましたが?」

 恒興も火器の提供は一切できないということを改めて張勲に伝える。

「もちろんそれは、理解しています。私は貴国ならば火器以外にも私たちに提供しても構わない程度でなおかつ強力な武器をお持ちなのではとうかがっているのです。」

「火器以外の巨力な武器ですか・・・・?」

 恒興は考え込んでしまう。そこへ角田門脇が提案する。

「でしたら、打矢等はどうでしょう?」

「あ、そうだ打矢!!悪くない!!」

「そうですね。あれはいい案です。」

 門脇の案に家茂と恒興が賛意を示す。

「すみませんが、私にもわかるように説明してくれませんか?」

「これは失礼、打矢と言うのはおよそ一尺(30センチ)程度の大きさの投擲武器で筒の中に入れて振って飛ばしたり、直接手で投げて使用する武器です。確か私と徳田殿が持っていたはず。君、ちょっとわたしと徳田殿の部屋から打矢をもってきてくれ!」

 恒興が部下の一人を走らせ二人の打矢を持ってこさせた。

 テーブルの上には二つの打矢が並べられた。内一つは打根であった。

 恒興が打矢を示し、説明を始める。

「投擲武器ですので距離は弓矢以下ですが、短中距離武器と考えていただければ・・・。使い捨てにすることもできますが紐を付けて引き戻してもう一撃と言う使い方もあります。少なくても投石よりは殺傷力があります。それに命中率も比較的高いので乱戦時にも使えるかと思います。」

 説明を受けた張勲の反応は良好だ。

「なるほど・・・、これは使えますね。とりあえず親衛隊様に5000程用立ててください。それと、もう一つの方は?少し形も大きさも違うようですが?」

 張勲が家茂の打根を指し示す。

「あ、これは私の打根ですね。この打根は打矢の原型でして一見しても用途が分らず飾りの置物のようにも見えるため、どこにでもそっと忍ばせておくことができる利点がある武器でして重臣や私のような政府高官が保有していることが多いのです。」

「貴人の護身武器ですか。そうですね、私や美羽様にも少し用立ててもらいましょうか。」

 それを聞いた恒興が提案する。

「でしたら、将の方々全員の自宅においていただきたいです。護身用の武器でわかりにくいと言うのは暗殺者対策にもなりますので。」

 

「皆さん商売がお上手ですね。」

 と張勲は軽く笑った。

 

「おや、そろそろお昼ですね。続きは食事を済ませてからと言うことでどうですか?」

「おお、それがいい。」

「そうですね。そろそろ放がお腹をすかせている頃でしょう。あまり待たせると可哀そうですので・・・」

「うむ、腹が減っては頭も回りませんのでな。」「左様・・・」「では、食事としよう」

 張勲の言葉に家茂と恒興、門脇ら他のが高官たちが口々に口を開いたりしていた。

 

「ちょっと待ってくださいね。書類に印鑑を押しますので・・・あ、印鑑は執務机の方でした。」

 張勲が背を向けて机の上の印鑑を取る。

 恒興と家茂は印を押すときの邪魔にならないようにとそれぞれの打根を懐にしまい、邪魔になりそうなものを簡単に片づけた。

 張勲は印を書類に手早く押して外交官たちに呼びかける。

「では、昼食の席は庭園に設けましたので、そちらの方に移動しましょうか。」

 

 


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