仮題・・・恋姫世界に幕末日本をぶち込んでみた。   作:3番目

62 / 109
当作品の七乃さんは美羽様といる時以外は、悪の女幹部です。


56話 反董卓連合⑤ 張勲の神算鬼謀

 天幕の中に兵士が入ってくる。

「義勇軍の劉備殿の一行が来ましたが、ご案内しますか?」

 

「そうですね。ここにそのまま通してください。」

 

 七乃の命令で兵士が、劉備達を案内してきた。

 先ほど見かけた劉備本人と天の御使いこと北郷一刀のほかに直臣であろう少女幼女たちの姿があった。

 

「それでは、兵糧18750斤(1トン1250キロ)お渡しします。後程お貸しする兵士と一緒に劉備さんの陣に送ります。」

 

「ありがとうございます。張勲さん!」

 劉備が笑顔でお礼を言うが、七乃がそれを遮る。

「はい、もちろん兵糧は差し上げますよ。ですが、いくつか私たちの質問に答えていただきましょうか?北郷一刀さん?そう硬くならないで皆さんもお掛けになって下さい。大久保さん、どうぞ。」

 

 黒髪の少女や、青髪の少女に薄紫髪の女性、背の低い軍師風の幼女二人、確かうち一人の水色髪の少女は趙雲と程昱から説明されている。

 

 大久保が再びパイプに火を点け始めて北郷一刀含む彼女達に問いかける。

「ふむ、君は日本人なのは間違いなさそうだ。だが、我が国の戸籍謄本からは君の名前はもちろん、君の家族すら発見できなかった。薩摩藩士の北郷家や他の北郷性や北郷部曲も調べさせた。君はどこから来た?君の言う天の国とはどこの事を言っているんだ?」

 

 大久保の質問攻めに対して北郷は重い口を開く。

 さすがに、大久保の質問攻めの様子を見た劉備達の空気もあまりよくないが、こちらの方が立場は上、後でどうとでもなる。飴と鞭、もうすでに兵糧と兵士と言う飴を与えた、質問攻め程度の鞭なら耐えてもらいたい。

 

「俺は、平成と言うここより、もちろん大久保さんよりも後の時代から来た。」

 

 北郷一刀の未来談義は省力する。

 

 彼の話は本来なら荒唐無稽であったが、自分達も似たような境遇だ。転移の事など理解しているのは国や藩の重鎮達だけだ。庶民や多くの武士階級や公家階級も長きにわたる鎖国体制の影響で転移以前の世界を知るものは極端に少ない。

 話した感じ、さほど学があるわけではないようだ。むしろ、国語数学の学力がずば抜けて優秀だった時代の日本人とゆとり世代の学生を比べるのは酷な話だ。

 

 ただ、彼は人を引き付ける才能があるようだ。ゆえに劉備や関羽に張飛と言った逸材をつかんだのだろう。

 

「まあ、有り得ん話ではない。我々も似たような話だ。今後は似たような境遇同士よろしくやろうじゃないか。張勲殿、後は頼むよ。」

 聞き出すべき情報を得た大久保は北郷を脅威ではないと判断し、何人かの幕府役人を残してパイプをふかしながら退出していく。

 

「大久保さんの用は終わったようですね。では、劉備さん、それと北郷さんでしたか?これも何かの縁でしょうかね?何やら複雑な事情があるようですが、お互い話したいことは離したようですし・・・今度は私から話しますよー。」

 

「はい、なんでしょう?」

 今度は劉備が応じる形になる。北郷は大久保との会話で疲れたようで少し後ろに下がっている。

 

「今回の戦は色々と裏があるようでしてー、後ろのお二人は何かしら把握しているのでしょう?水鏡塾の伏龍殿?鳳雛殿?」

 そう言って七乃は幼女軍師二人に声をかける。

 

 二人は少々驚いたようで目を丸くしたがすぐに平静を装う。

 七乃は明命を通して、各地の情報を集めていた。徳川日本国が情報の収集に重きを置いていることに倣い汝南袁家も明命を隊長に諜報部隊を創設している。

 

「相変わらず、情報をそこかしこから集めていたんですねぇ・・・。では、張勲様はそこからどのような推測をされたのでしょうか?」

 

「程昱さんはご存知でしょうに・・・。いいでしょう、教えて差し上げましょう。徳川の役人の方々はある程度推測しているでしょうけど。この戦いが終わったら間違いなく大きな戦乱の時代が来るでしょう。ここにいる軍師や知恵者の皆さんは、群雄の誰かがこの大陸を統一して終わりと思っているでしょう。候補は・・・」

 

「「袁紹、曹操、劉表、劉焉・・・、そして袁術さん。」」

諸葛亮と鳳統が同時に呟く。

 

 そんな二人を指さして張勲は少々興奮気味に話しだす。

「そうですよね、皆さんそう思いますよね、そう思っちゃいますよねー。でもでも、それは違います!統一は絶対にありえません!!徳川日本国がそれを絶対に許さないからでーす!!」

 

 七乃の語りを聞いた徳川の役人が心底嫌そうな顔をしている。

 

「そ、それはどういうことですか!?」

 劉備が普段とは違い声を荒げる。関羽、張飛、趙雲、黄忠と言った劉備側の武官が周囲に気を払う。

 

 徳川の役人たちが2・3歩下がり、机の中をいじる。中の拳銃を探しているようだ。

 紀霊と兵士たちが七乃と程昱の前に立つ、明命達影の者達が周囲で殺気立つ。

 

 一瞬で天幕の中が殺気にあふれる。

 

 その殺気の中で、七乃は構わず続ける。

「袁紹さんは、徳川の援助を受けて天下の統一を狙っています。ですが、袁紹さんも統一は出来ない徳川がそれを許さないから、袁紹さんが一定以上勢力を広げたら、今度は別の誰かを援助するでしょう。曹操さんかもしれないし、私たちかもしれない。徳川の望みは割れたままの大陸。徳川の息がかかってない勢力が間違っても統一なんてされた日には徳川は何としても、その勢力を滅ぼしにかかるでしょうね。」

 

「なぜ、張勲さんは、それがわかるのでしょうか?」

 諸葛亮の問いに七乃は答える。

「それは、顧問団の面子ですね。特に福沢さん、彼は漢学儒学の否定論者です。彼の理論は汝南袁家の首脳部に行き渡り浸透しました。もう、どうしようもありません。元よりどうするつもりもありませんでしたが、美羽様のためにも徳川に逆らう気はございませんよ。勝てない相手に逆らうような真似は致しません。」

 徳川方はこの発言で落ち着いたようだ武器をしまって七乃のそばに戻る。

 

「では、私達に伝えた真意は?」

 鳳統の問いに七乃は応じる。

 

「一つは貴女方が出世頭だからです。天の御使いなんて象徴、人が集まるに決まってます。なら、今から関係を持つのが得策でしょう?それにあなた達、相手にきれいごとは通じないでしょう?他の武官の方々なら、それでも良さそうですが、諸葛亮さん・鳳統さんは騙せないでしょう。でしたら、最初から話すことを話して判断してもらおうかと思ったまでです。あなた達二人は合理的ですので・・・、ここまで話して今後の戦乱の流れが読めない軍師殿ではないでしょう?」

 

 七乃の発言に軍師二人は目を伏せて深く思案しているようだ。

 他の武官たちは好意的ではないにしろ、軍師二人の思案と自分達の大将である劉備の判断を待っているのだろう。

 

「まあ、いうなれば大陸を仲良く分割統治しましょうって話ですよ。悪い話ではないと思いますよ~。この連合が解散するまでにこちらにつくか?はたまた楯突くか?考えておいてくださいね。ふふふふふ。」

 

 そう言って、張勲は紀霊・程昱と言った部下に徳川の役人を引き連れて席を立つ。

 ただ、天幕の出口の前で振り返り劉備に告げる。

 

「それと、うちの軍は基本後方で傷病への治療や兵站管理をしています。特に傷病兵の治療は徳川日本国の御高名なお医者先生がいらっしゃいますので、他の陣の医療より格段に上なのは保証しますよ?劉備さんも傷病兵が出たらこちらに送ってください。他の群雄の皆さんからも受け入れていますが、劉備さんの所は特別優遇しますよ?では失礼~」

 

 劉備達の雰囲気は少々暗くなっているのがわかる。七乃の発言は彼らの大志を砕く発言だった。だが、現実を知ってどうすればよいか見失っているのだろう。しばらく時間を与えてあげればよい。どう動くかは彼女たち次第。

 

「張勲殿、ずいぶんと派手にやってくれましたね。」

 天幕の外では大久保がパイプをふかしながら待ち構えていた。

 

「あら、何のことでしょう?」

 少し歩いたところで、七乃と大久保はそれぞれの部下をバックに向かい合う。

 

「部外者に、よくぞここまでペラペラと話してしまった事だよ。」

「あら、それは違いますよ。彼女達はこちらに靡きますよ。それに、徳川も大陸が細分化することをお望みなのでしょう?彼女達が靡けば大陸はさらに細かく分かれますよ?」

 

 大久保は苦虫を噛んだ表情で、七乃を見る。

「張勲殿、あなたの諜報組織は優秀なようだ。我らの事すら把握しているのだからな。」

「そんなに警戒しないでください。汝南袁家は徳川日本国にこんなにも尻尾を振っているのに傷つきますねー。」

 ヨヨヨと泣き崩れる真似をする。その様子を大久保はあきれを交えた困惑の表情で見る。

 

「袁術第一主義の張勲殿なら家茂公を害する真似はしないだろう。」

「御理解いただけて幸いです。美羽様共々、汝南袁家をよろしくお願いします。」

 

「ところで、なぜ劉備にあんなに優遇したのだ。衛生部隊の事などで優遇などと言わなくても普通に対処すれば・・・」

 大久保の問いに七乃は頬に手を当てて答える。

「あー、それはですね。万が一に劉備さんたちが変なことを考えて、私達を削ろうなんて考られては困りますので、予防線を・・・。傷病兵を必死に看護している私達を罠にかけるような非道な真似してほしいくはないですよね。」

 七乃の答えに程昱は解説を加える。

「なるほど、弱者を献身的に助けている。軍を罠に嵌めたら相手の軍の評判は地に落ちますからねぇ。馬鹿なことを考えるなよっと言う事ですねぇ。」

 

 大久保はそれを聞いて、さらに顔を渋くして呟く。

「あなたは本当に底が知れない恐ろしい方だ。」

「女性に対して恐ろしいとか失礼だと思いますよー。」

「よく言う・・・」

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。