仮題・・・恋姫世界に幕末日本をぶち込んでみた。   作:3番目

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62話 反董卓連合⑪ 洛陽懇談会 前編

 虎牢関にて董卓軍の主力を殲滅させて、洛陽へと入城した連合軍。

 その途上での董卓軍の抵抗は微々たるもので、洛陽はすんなりと制圧できたのであった。

 

 洛陽では美羽を中心に大きな店を貸し切っていた。

 主催はもちろん、袁術公路こと美羽。袁術軍からは七乃と紀霊、程昱が参加。

 徳川からは大久保利通と福沢諭吉。孫家からは孫策が出たがらないため、代理に孫権と甘寧、そして、孫権の配下である若手軍師の呂蒙の三人が、他にも北海国相孔融、徐州牧陶謙、呉国白虎山山主厳白虎、袁紹配下の沮授、そしてこの会の中では新参の劉備の代理として諸葛亮と龐統がいた。

 本来なら、主催は美羽ではなく袁紹が引き受けた可能性もあったが、袁紹には洛陽の掌握及び董卓の捕縛などがあったため、沮授と言う代理の派遣にとどまった。

 この会に提供されている料理は海鼠と鮑の煮込み・鮒の魚唇と熊の手のひらの煮込み・猫の腸の煮込み・糟漬けの猿の唇と豚の脳みその煮込み・駱駝のコブを煮た料理・梨と山猫の肉を蒸した料理・鹿の尾の蒸し料理・雌羊の乳房の煮込み・豚の胃袋と貝柱に家鴨の舌を煮込んだ料理・鵞鳥の砂肝と水かきの料理・牛肉の舌とモツの刺激あえ・冬虫夏草スッポン壺スープ・金脚帯と地鶏を壷蒸スープ・チョウザメと真鯛と鮍のしゃぶしゃぶ・蒸し蟹や蟹爪・各種点心・月餅に杏仁豆腐等のデザート類と言った百を超える料理が並べられていた。

 そう、これこそが後の世に言われる食道楽における究極の姿満漢全席である。

 主催者である美羽は給仕達に主客である他の牧や相、そして彼らの同行者の家臣に酒をふるまわせる。合間合間に楽師や芸人などの観劇が入り、贅の尽くし方も細やかであった。

 無論、調理師達も洛陽からかき集めた特級厨師達だ。

 

「この度は、妾たちの洛陽制圧の宴に参加してくれてうれしく思うぞよ。董卓よりこの洛陽を奪還できたことは誠に喜ばしきことじゃ。」

 美羽の演説から始まり、乾杯の音頭で始まったこの席は両袁家と徳川日本国及びそれに追随した一部諸侯の中で巡り肥やされた金の流れが生み出した究極的に狂気じみた食文化体系であった。

 世間では飢えに苦しむ庶民がいる中で、このようなことが出来るのだ。

 食事の席で会議をすると言う徳川日本国の文化が混ざって出来上がった食事会形式の会議では、高級料理を食べながら今後の流れを話し合いどのような連携をするかなどが話し合われる。軍事的な物や政治的な物、経済的な物と色々だ。

 しかし、会話の仕方は趣味の雑談をするかのようなゆったりとしたものであり、諸葛亮や龐統が想像した真面目なものではなかった。

 

「孔融殿、あの後どうなりましたか、北海国の壁は?」

「あぁ、あれはいいものです。黄巾の残党ではもはや突破どころか接近だってできませんよ。壁の存在で民も私も枕を高くして眠れますよ。」

「たしか、そちらは亀山財閥でしたか?わしのところは大倉財閥が入りましてな。今回の出征においても軍需物資は彼らが用立てた物を使っておるぞ。」

 これは、孔融と陶謙の会話である。

 

 もしこの世界に正義の主人公がいたのなら、間違いなく醜悪なる邪悪として裁かれる光景である。しかし、この不平等こそ、世界のあるべき姿なのだ。一部の者達が富を独占してそれ以外の者が貧しい、古今東西過去未来この法則が変わることはない。もし、皆が幸せに暮らせる世界を望むならそれこそ全知全能の神になるか、国民すべてにロボトミー施術を施したうえで共産主義国家を作るかだ。

 

 隆盛期となっている徳川日本国ならまだしも混迷の時代を迎え民が明日を生きるために四苦八苦しているこの大陸において、この光景は真面目な物や心優しき者には躊躇させるものであった。

 

「下の者が肥えれば、我々上の者も贅沢できるのですよ。」

 七乃が自身の横に座る孫権に話しかける。彼女の性格的にこの光景にギリギリ嫌悪感こそ抱かなかったが困惑しているのだろうと察したからだ。

「そ、そういうものなのかしら・・・。正直、漢の民の事を思うと食が進まないわね。」

「あら、頭の良い孫権さんも、異なことを言うのですね。私たち統治者と言うものは自国の利益を最優先に考え自身の民に還元するのがお仕事でしょう?孫権さんの仕事は孫呉の民の利益と命を守る事でしょう?」

「えぇ、まぁそうなのですが・・・。」

 頭では理解しても心が納得できないと言った感じの孫権に七乃が畳みかける。

「仮に、漢王朝が再興できたとして、民達にも食物や利益がたくさん齎されたとしましょう。そうしたら今度は五胡や他の国々が利を失うことになります。そうなれば彼らは豊かな大地を求め漢の領地を犯すでしょう。」

「なら、武を持って討ち払えばいい。」

 甘寧が答える。七乃はそれが聞きたかったと言わんばかりに声のトーンを上げる。

「それではだめなんですよー。その光景は何度も繰り返された光景、豊かな国でも五胡と←五胡との 戦いは国を疲弊させ、不満を持った者達が内乱を起こす。国力が落ちて群雄が割拠する。これが永遠←延々 と繰り返されたのが今のこの大陸なんですよー。だから、どこかで線引きをしなくてはならないんです。」

「それしかないのでしょうか。」

 孫権は少々表情を暗くして七乃に尋ねる。

「そうですね。何せ大陸は広すぎますので、元々は長江・黄河・遼河の三つの文明が合わさってできた物、言語の種類は方言を含めれば10の違う言葉を話し、思想など諸子百家などと言っていまだに絞れない。元から無理なんですよ、この広ぎる地を治める事なんて。できもしないことをやるよりも、自分達のできることを着実にやっていくことが肝心なのですよ。」

「・・・・・・妥協ですか。」

「否定はしませんよ。でも、あなた達は無自覚かもしれませんが、やろうとしているのは私達と同じではないですかー。『孫呉の民のため』っていつも言ってるじゃないですか?自覚、ありませんでしたか?まぁ、あの環境下では難しい話です。私が言いたいのは孫堅文台の頃から孫呉は孫家は孫呉の民の事のみに注力するあまり、外に注視することを怠り協調性が全くなかった。自国の利益を守るにはただただ武力で解決するのが能じゃありません。今のお嬢様のように協調できる味方と組み、強大な力に寄りて、ようやっと手に入れる物なのですよ。孫仲謀殿、姉を討てとは言いません・・・ですが、政権はあなたが手に入れなくては孫呉は潰れます確実に・・・」

「私に姉を差し置いて孫呉を主導しろと言うのか!?」

 孫権は困惑と不快感を露にして七乃に詰め寄る。しかし、七乃は気にした風もなく話し続ける。

「そうです。今の孫家で本当の意味で政治が出来るのは周公瑾でも張子布でも魯子敬でもないんですよ。この前の万国博で世界を見て、徳川日本国の強大さをその身で理解した貴女だけなのです。誰を味方とし誰を敵にするべきか・・・孫仲謀ならわかるはずでしょう?」

「流石に、私には姉妹や親同然の古参臣達と争う気にはなれない。だけど、張勲殿の言うことが分からないわけではない。出来るかどうかは分からないが、やってみようと思う。」

 その言葉を聞いた七乃は先ほどまでの引き締まった真面目な表情を崩して、一枚の書面を渡す。

 それを受け取り読んだ孫権は驚きを隠さなかった。

『袁公路は孫仲謀が揚州において呉・准南・丹陽・新都及び会稽の一部を継承することを認める。』

「こ、これは!?」

 

「私達、汝南袁家の誠意とでも受け取っていただければいいですからね。お嬢様も私も、孫家とは争いたくはないのです。その事は孫仲謀殿もご理解ください。」

「・・・・・・これほどの御厚意・・・ですが、この書状の使い時は私が考えます。それでいいでしょうか?」

「もちろんです。お嬢様もそれで構いませんよね?」

 他の主客と話していた美羽は急に声を掛けられて動揺したが、詰まることなく返事をした。

「う、うむ。妾は異存はないぞよ。孫仲謀殿は真面目な方ゆえ、不義はせんじゃろうからな。」

 何度も言うが美羽には悪意や七乃の様に言葉に裏があるわけではない。この言葉は本心からくる言葉である。それが分かるゆえに孫権も美羽を裏切るような真似をする姉のやり方に不満を持ち始めていた。

 

 

 


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