仮題・・・恋姫世界に幕末日本をぶち込んでみた。 作:3番目
美羽と七乃が率いる一団は呉の道中として建業に立ち寄る。
この総勢約1650からなるこの一団は軍事における戦力と言うよりは外交における使節団に近いものがあった。内訳は親衛隊500、輜重部隊1000(呉まで同行)、侍女・料理人・楽師他150からなるもので、途中拠点への補給部隊としての側面が強かった。
この事態が発生したのは以下の様な不幸と偶然が重なった結果ともいえる。
・美羽・家茂ともに早く会いたいという気持ちが先行し事を急ぎ過ぎてしまった事。
・呉の袁術軍主力及び先発していた大久保使節団が文字通り全滅してしまっていた事。
・汝南袁家最優秀の隠密である明命を同行させず第二陣に割り振ってしまった事。
・もう一つの主力である仕士の部隊も遠く離れた蘆陵にいた事。
・一時とは言え孫策に他の家臣と合流する機会を与えてしまった事。
・副業軍師の詠に情報を当日になって上げたこと
これらの要素がこの事態を起こしてしまうのだった。
美羽率いる一団は建業の街門の近くまでやってきた。
「おかしいですね~。早く開けてくれませんか~?」
様子がおかしい、七乃がそう思い始めた頃。詠が月を連れて慌てた様子で飛び込んできた。
「大変よ!!あんた達!!孫策が裏切ってるわ!!」
「ん、どういうことだ?」
一団の軍指揮官として同行していた華雄が説明を求める。
「門の袁旗を見なさい!!微妙に薄汚れて、ところどころ破れているわ!!それにあんた達がいるのに迎えの一つもないなんておかしいじゃない!?」
そこまで言われて七乃も状況を理解する。七乃は副官の兵士に命じる。
「しまった!!全部隊反転!!引き返してください!!」
しかし、時すでに遅し・・・
一団の背後には複数の孫策軍の小集団が迫ってきており、建業の街門も開かれ孫策軍が出陣しようとしていた。
すぐに反転し、建業から距離をとるも非戦闘員を多く抱えるこの一団ではすぐに追いつかれてしまう。
建業の後方から現れた小集団も合流して半包囲の形が出来上がっている。
華雄の部隊が半包囲を食い破りかけているが、一団の後方にはすでに建業の孫策軍が食いついて来ている。
「七乃・・・」
「お嬢様、大丈夫です。お嬢様はこの七乃がお守りします!」
怯える美羽を抱き寄せて落ち着かせる七乃。
「脱出口が開いたわ!!急ぎなさい!!」
七乃に代わって軍の指揮をしていた詠が叫ぶ。その横の月も頷いている。
親衛隊隊員の一人が御者となり馬車を付ける。
「袁術様!!張勲様!!敵がすぐそこまで来ています!!お早く!!」
親衛隊隊員が叫ぶ。剣戟の音がすぐそこまで迫っている。
「さぁ、お嬢様。こちらへ」
七乃が美羽の手を引く。
「うむ、わかったのじゃ。」
「こちらへ・・・」
先に乗り込んでいた月が美羽の手を引く。
「ここだ!!袁術がいるぞ!!」
踏み込んできた孫策の兵が大声で周囲に知らせる。
孫策軍の兵と袁術軍の兵が集まってくる。
「お嬢様!!早く乗って!!」
そう言って七乃が美羽の背を押そうとしたその瞬間。
ザシュッ
美羽の手を取ろうとした月と美羽の間に割って入る孫策の姿と振り下ろされる剣。
「な、七乃・・・妾は死にとうない・・・た、助けて・・・旦那様・・・」
「お、お嬢様!?死んじゃダメです!!そ、そんな・・・」
血を流しその場に倒れた美羽を抱きかかえる七乃。
「袁公路、討ち取ったり!!」
孫策の勝鬨を耳にした、周囲の親衛隊隊員が一斉に孫策にとびかかる。
「張勲様!この場は逃げてください!」
七乃はすでに茫然自失で膝をついていた。
詠と月、そして親衛隊隊員が七乃と美羽を馬車に乗せる。
親衛隊隊員を中心とする袁術軍兵士達が孫策達と七乃らが乗った馬車の前に立ちふさがり、馬車が動き出す。
華雄に先導させて御者台の詠は馬車を走らせる、その隣には月が、馬車の中にはぐったりとした美羽と呆然自失になりながらも美羽を抱き続ける七乃がいた。
「詠ちゃん、どこに向かってるの?」
「虎林港よ。」
「どうして、虎林港に?」
「今の美羽を助けられるのは、虎林港に仮設救護施設を開設している南方先生しかいないのよ!」
美羽達は虎林港にて程なく保護され、南方仁医師の手によって恐らく大陸初の外科手術及びABO型血液輸血が行われた。
一命を取り留めたが、美羽の意識は回復せず。
孫策軍はその頃に、袁術の討ち死を喧伝。袁術軍は否定したが表舞台に美羽が現れなかった事で孫策軍の発表が真実味を帯びることとなった。
その後、虎林港の袁術軍及び孫権軍は孫策軍の先遣軍交戦した後、柴桑の袁術軍拠点へと撤退。