仮題・・・恋姫世界に幕末日本をぶち込んでみた。   作:3番目

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77話 揚州動乱⑦ 虎林港の戦い

 

大陸では袁公路死亡の情報が流布されるようになった。

虎林港の孫権の下に最悪の知らせが届く。

 姉孫策の決起、姉の決起は大成功を治め、揚州の反袁術勢力を次々と傘下に収め、袁術軍の主力軍の一つ陳紀の軍勢を殲滅した。さらにその周辺の中小規模の袁術軍の集団も次々と撃破、唯一南部で兵力を維持している仕士率いる南下軍は反転攻勢に出る構えを見せていたが孫策と繋がっていた劉繇の軍に抑え込まれどうにもならない状況であった。

蓮華は思春と今後について話し合っていた。

 

「すでに孫策様は、袁術軍東進軍を撃破、王朗及び劉繇の軍と連携し揚州一帯の袁術派の豪族や袁術軍の小中集団を次々と撃破し揚州北部を掌握しつつあります。紀霊殿の軍勢は現在揚州南東部を維持しておりますが、北に孫策様、西に王朗と足元に反抗的な豪族の残党と厳しい情勢です。じきに虎林港にも孫策様の兵が姿を表すでしょう。・・・・・・蓮華様」

「えぇ、わかっているわ。私達は袁公路の・・・美羽の側について戦うわ。思春、兵を集めておいて。」

「分かりました。蓮華様、急ぎ兵を集めます。」

「それと、敵になった以上、姉さんに様は付けなくていいわ。姉さんもきっとそうしているはずよ。」

 

思春が蓮華に一礼し部屋を後にしようとした瞬間。

勢いよく扉が開かれ、ひどく慌てた様子で亞沙が飛び込んでくる。

 

「袁公路様が!!袁公路様が御危篤状態で運び込まれてきました。現在仁友堂仮設診療所で治療中とのことです!!」

「な、なんですって!!」

 

駆け込んできた亞沙の言葉に蓮華は驚きの声を上げる。

横に控えていた思春の視線を受けて平静を保ち、亞沙に問いかける。

 

「美羽がいると言うことは七乃殿もいるはずよね。とにかく、七乃殿と今後の事を協議するわ。」

「それが、七乃殿は袁公路様の事で相当気を病んでられまして、軍議が出来る状態ではないとの事です。」

「では、美羽の軍の指揮は誰が取ってるの?」「詠殿です。」

「あの、女中の子?」

「はい、本業は女中ですが七乃殿や風殿の手伝いもしていたようで、その関係で現状の指揮をしているようです。」

「とにかく、袁術軍と連携が取れないと困るわ。すぐに詠殿に会いに行くわよ。二人ともついて来て。」

「「っは!!」」

 

 

蓮華は思春と亞沙を連れて仁友堂仮設診療所へ

 

仁友堂仮設診療所の玄関口では現在袁術軍を指揮している詠と橋蕤とか言う袁術軍の将だ、周辺の哨戒部隊や輜重部隊の生き残り部隊の代表らしい。

 

「北揚州における袁術軍は壊滅状態よ。今ここにいる兵はだいたい2000くらいかしら。」

「ほとんど全滅ね。」

 

詠から説明を受ける蓮華は状況の悪さに苦虫を噛み潰したような顔になる。

 

「一応、まだ集まるとは思うけど・・・所詮は敗残兵、士気は最悪よ。戦力としてはあなた達に期待するしかないわ。どれくらい集まったの?」

「何とか1000は集めた。でも、姉はそれ以上集めているわ。正直言って戦える戦力じゃない。」

「でも、美羽様の施術は終わったけど、まだ動かせない・・・だから、ここを死守しないといけないわ。今ここを守り切れないと、私達はみんな死ぬわ。だから、死守した前提で話を進めるけど柴桑への脱出手段は確保できてるのかしら?」

「それに関しては心配ないわ。むしろ思春のおかげで長江の一帯の河賊達の支援は取り付けている、だから水軍戦力だけなら姉さんに勝ることが出来たわ。」

「物資も兵力も敵の方が圧倒的だけどね。」

「嫌なことを言う、耳が痛いわね。どのみち、虎林港は放棄するしかないわ。各所に土塁や見張り台を作ってるけど・・・どれほど持つか・・・」

「船が付き次第、荷物の運び込みを始めるわ。それくらいなら敗残の袁術軍でも出来るわ。」

 

美羽がいる病室へ二人が足を踏み入れると、病室内は暗く静まり返っていた。

七乃が美羽の手を握ったままでベットの横に置かれている椅子に座り暗い表情をしているのが見える。その横に侍従長の月が控えていた。

何をしているのかは分からないが南方医師をはじめとする医師や医官達が美羽に管を繋げたりしている。

南方らがこちらに気が付き頭を下げる。

 

「これで、全員ですか?」

「えぇ、これで全員よ。」

南方の問いに蓮華が答えると南方が話を続ける。

「そうですか。では、袁公路様の状態をご説明しようかと思いますが・・・張勲様・・・大丈夫ですか。」

美羽がこのような状態になって以後、精神的に一杯一杯だろう七乃の方を見て南方が尋ねると七乃は南方の方を向いて応えた。

 

「大丈夫です。お嬢様の事は私が一番知ってるんです。だから、私がお嬢様をお守りしなくては・・・」

美羽に対する親愛の情や忠誠等の色々な感情が渦巻いているであろう七乃の姿は影が差している。それでも、何かしようと動く当たり美羽に対する思いが見受けられた。

南方は蓮華や詠の方に視線を向けて二人の了承を得ると説明を始める。

 

「公路様は胸部から腹部に掛けて刀傷を受け、骨や内臓、神経系に傷を負いましたが手術で何とか治癒の目途が立ちました。出血に関しても輸血で解決できましたし、ペニシリンを今後は傷口に使って感染症を防ぎます。先ほど間で意識があったのですが今は意識を失っています・・・いずれ目を覚ますでしょう。ただ、かなりの衰弱が見られますので、当分は安静にしていただきたいです。・・・・と言っても難しいのでしょうね。」

 

南方はそう言って窓の外で戦支度をしている兵達に視線を向けた。

 

 

 

数日後、孫策軍1万の軍勢が姿を現す。

対する孫権・袁術連合軍は3500、そのうち2500の袁術兵の士気は追い詰められている事もあって高かった。

 

虎林港は孫策に付いた豪族を中心にした1万に包囲され、連合軍は港に籠り弓矢による射撃戦が繰り返していた。甘寧が水賊を纏め上げ虎林港へ迎えに来るまで耐えなくてはならない。

孫策軍は何度も降伏の使者を出していた。一気に攻め立てないのは殊の外連合軍の抵抗が激しかった。ここで負ければ皆殺し、良くて奴隷だ。それが分かっているから彼らは死兵となって戦った。むしろ、揚州の民である孫権軍よりも袁術軍の方が奮戦したと言える。

敵が外壁に梯子を掛ければ梯子を押し返した。

梯子を上る孫策兵には煮えたぎる湯を浴びせ掛け、石材を投げつけた。

外壁に上ってきた兵士とも必死に戦い何とか押し返した。

後方の衛生部隊に仁友堂の医師や医官達が多く加わったことが傷病兵の回復率を上げたことも、この防戦を長期化させた理由の一つであった。

また、孫策に対する点数稼ぎでしかなかった豪族軍は連合軍が思いのほか激しく抵抗し豪族軍に出血を強いたため。次第に城攻めの回数が減り包囲するだけになっていた。

だが状況は悪化した。程普率いる直参の孫策軍1万が到着したのだ。豪族軍の出血も相当であったが趨勢がはっきりし始めると日和見をしていた豪族がこれに加わり、孫権・袁術連合軍は10倍近い敵に包囲されることになるのであった。

 

孫策軍の程普は連合軍に対して降伏を勧告したのだが、一度姉と敵対する道を選んだ以上降伏はありえないと降伏の使者を突き返した。

 

2万の孫策軍は3000の連合軍がこもる虎林港に攻撃を仕掛けんと進軍を開始した。

多くの兵が進軍してくる、先鋒隊はすでに外壁に梯子が掛けられたいる。

 

蓮華や詠達も外壁に立って兵達を鼓舞しているが、後続の敵部隊が攻城を始めたら人の波に飲み込まれてしまうだろう。心の中で覚悟を決めていた時。

後方の陣が文字通りはじけ飛んだ。

 

一瞬何が起こったかよくわからなかったが、詠はすぐに気が付いたようで叫ぶ。

 

「恋!!来てくれたのね!!」

 

孫策軍を次々と弾き飛ばしていく。それを見た蓮華は好機と兵達を鼓舞する。

 

「あの牙門旗は!?呂布か!!・・・・・聞け!!皆の者!!あれに見えるは袁術軍の呂奉先の部隊だ!!この戦勝てるぞ!!外壁を守り切れ!!」

 

次々と撃破される陣をみて孫策軍に味方していた豪族達が恐れをなして兵を引き始める。

程普も城攻めをさせていた兵達を下げさせる。

その結果、恋は後方を突き破り前線をかき乱して虎林港へと凱旋した。

 

救援に駆け付けた恋と音々々は歓待を受け迎え入れられた。

そして、その日の夜、水賊を纏め上げた甘寧が到着し夜闇に紛れて柴桑へと撤退した。

 

虎林の戦いの後、孫策軍は袁術の死亡を喧伝。

しかし、袁術軍では虎林港の攻防戦でも、撤退した柴桑でも美羽は姿を見せることはなかった。もし、この時点で美羽が無理を押して表舞台に立って自身の姿をさらせば持ち直すことも出来なくもなかった。その時は運悪く美羽の意識がなくなっていたのだから仕方がないと言えば仕方がないのだが・・・・・。

 

 


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