バルタン星人の奇妙な野望   作:チキンライス

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第六話 途方

 

 

 

 

 

 

 

 

 一同が驚愕、呆然と立ちすくむ中、一足先に驚愕から立ち直り、亜神であるロゥリィは行動に移していた。

 地を割れんばかりに蹴って、目の前の異形に必殺の一撃を振り下ろす。

 果たして、ロゥリィの一撃は対象を二つに割った。

 凄然とした笑みが、ロゥリィの口元に現れていた。

 しかし次の瞬間、その笑みが瞬く間に曇ってしまう。

 代わりに現れたのは、困惑。

 左右二つに分かれたバルタンの体から、それぞれ別の体が()()()()()のである。

 右半身が残っていたのなら、左半身が。その逆もしかり。

 ロゥリィが渾身の力を込めて、横薙ぎの一撃を見舞う。

 遠心力で強化されたハルバードは、二体ともの体を上半身と下半身とに分断した。

 別れた体は、失った部分を生やしてまたもや復活する。

 彼女が繰り出す一撃一撃が、空を割り、大地を削るほどの威力をもっていた。

 しかし、彼女が一体一体を両断するごとに、数が倍、倍にと増えていく。

 苦い、苦い表情を宿しながらも、愛斧を振るい続けるエムロイの使徒。

 対する相手は、ロゥリィに対して何の感情の色も見せない。

 喜びも、怒りも、哀しみも、何の反応も見せなかった。

 霞を切っているようだった。

 いや、彼女の一撃で巻き起こる風で、霞や煙ならば退散していくだろう。

 何よりも、実体があるものではない。

 だから、怖くはない。

 しかし目の前の異形はどうだ。

 身体がある。実態がある。

 ハルバードが相手の肉をえぐる感触を、触感を伝えてくれる。

 実態があるのならば、殺せるはずだ。

 そう思っていた。

 しかし実際は違った。

 異形は確かに、切り裂くことができた。

 しかし殺すことは叶わなかった。

 それどころか、数を増やしてこちらに向かってくるのである。

 何も変わらない、何も変えられない。

 今や視界を覆いつくすほどの異形の軍勢に、ロゥリィは荒い息を吐いた。

 

「……こんなの、反則よぅ」

 

 そのすぐ後で、近づいた異形の一体がロゥリィから得物を取り上げた。

 ロゥリィは、抵抗する力も残っていなかった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ロゥリィがバルタン星人に対して得物を振り回している最中。

 自衛隊も特地の住人も、異形が起こす奇跡の数々を見ていた。

 彼らにはその「理」が理解できなかった。

 一体どんな「理」が、あのような現象を引き起こすのか。

 正しく、彼らは魔法を見せられているようだった。

 そこに、分裂したバルタン星人の一人が、ロゥリィの元を離れてこちらにやってきた。

 自衛隊が手に持った小銃を構える。

 彼ら一同には、皆緊張感が漂っていた。

 バルタン星人はその光景を目にし、フォッフォッフォッフォと笑った。

 面白いものだなと、バルタンが語り掛ける。

 

「世界が変わっても、文明が進化したとしても、人間の本質は変わっていないな」

 

 バルタン星人テラーには、狙い定める自衛隊も、離れた場所で戦っているロゥリィも変わらないように思えた。

 武器が違う。彼らは銃で、彼女はハルバードだ。

 文明が違う。彼らは近代的火器で、彼女は前近代の呪術的武装だ。

 存在が違う。彼らは人間で、彼女は亜神だ。

 世界が違う。彼らは地球人で、彼女は異世界人だ。

 これだけ違っても、バルタン星人に対して刃を突き立てようとする行動は変わらなかった。

 何となく、バルタンはおかしくて笑い声をあげた。

 

「撃ちたまえ」

 

 バルタンが両手を広げた。

 ちょうど、どうにでもしてくださいよと誘っているようだった。

 

「君たちが納得できるまで、好きなだけその鉛の弾を私に浴びせればいい。それで君たちの気が晴れるのなら、好きにしたまえ」

 

 自衛隊員の表情が引きつった。

 彼らが今回特地に持ち込んだのは、前時代の骨とう品ともいえる火器だ。

 特地に派遣するにあたって、どのような脅威にぶち当たるのかが未知数であったために、高価な最新式の重火器を持ち込むわけにはいかなかったのである。

 しかし、仮に最新式の重火器で武装し、戦車や装甲車を持ち込んだとしても、彼らの心の曇りは晴れなかったろう。

 1が10になったとしても、届く存在ではないのだ。

 

「……ああ、的が小さくて敬遠しているのか」

 

 そんな見当違いの見解を、バルタンがすると、彼の身体がみるみるうちに大きくなっていく。

 影が自衛隊員を、コダ村の人々を、覆っていく。

 それは先ほどまで絶対者として君臨していた炎龍よりもはるかに大きかった。

 人々の中には、耐えきれずに意識を闇に落とした人々もいた。

 あまりの出来事に、温かい液体を股間から垂れ流した人がいた。

 口を開け何も言えず、ただ立ち尽くす人がいた。

 

「……全員、武器を捨てろ!」

 

 自衛官たちが手に持った銃を捨てた。

 そして抵抗の意思がないという証に、両手を上にあげる。

 バルタン星人があの笑い声をあげながら元の人間台のサイズへと戻っていく。

 離れた場所で分裂していた個体たちも、皆こちらの個体の元へとやってくる。

 別れた個体が、吸い込まれるように先ほどまで大きくなっていた個体に吸収されていく。

 最後の一体の片手には、借りてきた猫のようにおとなしくなったロゥリィの姿が。

 彼女の頭につけられた大きなリボンが、こころなしか動物の耳のように力なく垂れさがっているように見える。

 バルタンが腕を振るうと、ロゥリィが放り投げられる。

 尻から落ちた彼女は可愛らしいうめき声をあげ、自らの愛斧を大事そうに抱えながら伊丹の後ろに隠れた。 

 

「大丈夫か?」

『……反則、あんなの反則よぅ…』

 

 そう言って伊丹の背後からちょこんと顔を出してバルタン星人の方を伺う。

 彼女の顔にはまぎれもなく怯えが見て取れた。

 伊丹は空を仰いだ。

 彼の頭には、『ウルトラマンガイア』の歌詞の一節が流れていた。

 ギリギリまでやった、これ以上は無理だ。

 ウルトラマンに来てほしい。

 彼はそう思いながら、途方に暮れていた。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 同じころ、バルタン星人テラーも頭をかかえていた。

 もちろん、自衛隊員や特地の人々がその表情から読み取ることはできないが、内心思っていたのである。

 やりすぎた、と。

 彼の当初の考えでは、平和に話を進めるために、武装解除を勧めようと考えていた。

 そのため、攻撃しても無駄だということを理解させるために、無限増殖するクローン技術を駆使したのだった。

 そして、自衛隊員たちの火器を一番わかりやすく無効化しようと思い、巨大化したのだ。

 弾がなければ、銃はただの鉄の塊だ。

 彼らの選択に任せようと思った。

 どうせ、バルタン星人とまともな話が最初からできるとは考えていないのだ。

 彼らが疲れ、行動できなくなったときにこそ、口先の力が生きてくる。

 結果、やりすぎた。 

 驚愕、畏怖、恐れ、その他もろもろの負の思いを見て取れる。

 彼らの眼には、自分のことを悪魔とみているだろう。

 実際、ビジュアル的には不気味だし、敵キャラだし、悪魔っぽいし。

 自衛隊員は全員、武装を解除して手を挙げている。

 特地の人々は皆一様に恐れをなして、腰を抜かしている。

 これからどうするべきなのか。

 交戦の意思はないと応えても、聞き入れてくれるのか。

 このまま消えてしまいたかったが、デシのことが気にかかった。

 彼の父は、あの亜神が言ったとおりに、黄泉の世界へと旅立ってしまった。

 テラーがあの場に現れるのがもう少し早ければ、助かったのかもしれない。

 バルタン星の科学にも、死者を蘇生させることなどできない。 

 ウルトラマンのように、自らの命を分け与えることもできない。

 せめて残った小さな命だけでも助けようと、デシの記憶から父の複製を作り上げ、そこに乗り移っていたのである。

 デシはまだ幼い。

 彼が独り立ちするまでには、様々なことを経験しなければならないだろう。

 それを親なしに生きるには、幼い彼には厳しすぎる。

 いつまでもこの世界にいるわけではないが、せめて少しでも、彼の力になろうとヨタの姿を借りていたのだった。

 それを、これほど早く見つかってしまうとは……。

 幸い、デシは今気絶しており、ヨタがバルタン星人であることはこの場にいる人々しかわかっていない。

 記憶操作して、ヨタ=バルタンの記憶を消去すれば、何とか……。

 しかしそれでは、人間に危害を加えないというゼロとの約束を破ることになってしまう。

 テラーは頭を抱えていた。

 彼の緻密な脳を以ってしても、この局面を乗り越える妙案を浮かべることができなかった。

 彼のまた、空を仰いだ。

 助けてくれ、ウルトラマン。

 果たして、祈りは届いた。

 空に不思議な赤い光の玉が、突如として浮かんでいたのである。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 突如として現れた光の玉が発する輝きに、一同は目を細めた。

 次の瞬間には、玉は巨人へと変化していた。

 僕らが待っていた、ウルトラマンであった。

 

「……ウルトラマン」

 

 自衛官たちは一同、胸をなでおろした。

 特地の人々は、その正義の巨人を初めて目にした。

 その神々しさ、あの悪魔と対比するようないで立ち、巨人としての姿に、神の姿を見た。

 彼らは一同自然とひざまずき、手を合わせていた。

 

『バルタン星人テラー、こんなところで何をしている?』

『やあ、ウルトラマン。来てくれて助かったよ』

『まさかゼロとの約束を破って、人間たちに危害を加えたのではあるまいな?』

『誤解なんだ、話を聞いてくれ!』

 

 念話(テレパス)にて会話をしているため、伊丹たちには会話は聞こえてこない。

 しかし、感受性の高い者たちには、確かに反応があった。

 エルフ族のテュカ、及び魔法使いとして卓越した才を持つレレイなどは、頭を揺らす()に揺り動かされ、苦しそうにしている。

 他にも何人か、テレパスの影響を受け、苦しそうに頭を押さえている者がいる。

 この世界の魔法は、ある種の「理」に沿って発動することができる。

 魔法使いとしての才をもつものや、エルフのように精霊たちと交信する者にとって、「理」は身近な存在である。

 常にアンテナを張っていると言ってもいい。

 もしも、宇宙人が話す宇宙言語、及びテレパスが別の「理」に沿うものだとしたら、彼らのアンテナが無差別に拾ってしまったとしたら。

 人間よりもはるかに進化した光の巨人や、バルタン星人の常識を受け入れることなど、彼らにできるのだろうか。

 それが、答えだった。

 

『場所を変えよう、ウルトラマン』

『そうだな』

 

 バルタン星人テラー、そしてウルトラマンは同時に姿を消した。

 彼らがいなくなったことで、頭を謎言語で揺さぶられていた者たちも、正常に戻った。

 残った者たちは、生き残ったことをまだ実感できないでいた。

 

 やがて、アルヌスに建てられた自衛隊の仮設基地に、伊丹たちから一報が届けられる。

 

『特地にて、ウルトラマンとバルタン星人出現!!』

 

 その一報はすぐさま、日本の首脳の元へ、また世界の首脳の元へと届けられた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 寺島は自室のちゃぶ台をはさんで向かい合っていた。

 彼の目には、壮観な光景が広がっていた。

 ウルトラマン。

 ウルトラセブン。

 ゾフィー。

 ウルトラマンメビウス。

 彼らの手首には、地球で長時間活動するためのエナジーコンバーターがはめられている。

 五人で囲むには、いささかこの部屋は狭い。

 妙に圧迫感のある中、寺島が口を開いた。

 

「来てくれてありがとう、光の戦士たちよ」

「ゼロから話は聞いている。それで、私たちに何を頼みたいと言うのだ?」

「それよりも異世界での出来事だ。それをまず説明してもらおう」

 

 ウルトラセブンの言い分をさえぎって、ウルトラマンが問い詰める。

 部屋が狭いこともあって、彼がすごむと押しつぶされそうになる。

 

「なぜ、お前は門を超えた?」

「単に興味本位だ。……といっても、君たちは信じないだろうね」

 

 寺島が語ったのは、リスク管理のことだった。

 光の国の技術から見ても、世界を、次元を超えることは容易ではない。

 さらに異なる世界をいつまでもつなげるためには、膨大な、それこそウルトラ戦士の力を結集せねばならぬほどの大きなエネルギーが必要となる。

 バルタンの科学力でも、そこまでの装置をつくることはできない。

 しかし、現在この地球上に出現している「門」は、あきらかに二つの異なる世界をつないでいる。

 それはどんな利益を、リスクをもたらすかわかったものではない。

 下手をすれば、大災害を引き起こす可能性がある。

 放っておくには、あまりにも危険で未知数だった。

 そのため、寺島はテラーとして、特地に潜入し情報を集めていたのだった。

 しかし、彼が現地住民に変装して平和に情報を集めようとした矢先に、今回の騒動が起こったのである。

 彼が思っていたよりも、異世界には未知があふれていた。

 魂について感じられる存在がいたことを、彼は想定しえなかった。

 後は、なんとか話し合いで落ち着けようとした矢先に、ウルトラマンが現れたのだった。

 

「……なるほど、事情は理解した」

「君の言い分もわかった」

「それで、私たちに頼みとは?」

 

 彼らに一先ずの納得を取り付けることができたようだった。

 そのことに安堵し、寺島は疑問に応える。

 

「私の頼みとは―――――――――」

 

 

 

 

 

 


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