東方讃歌譚 〜Tha joestar's〜 作:ランタンポップス
ピンセットに摘んだ歯をトレーに落とす。軽快な音が鳴り、歯は付着した血を流しながら静止する。少女は本当に歯なのかと今一度観察するが、形状はどう見ても歯であるし、人間の前歯だとも分かった。
「歯を、打ち込んだって訳なの……!?」
永琳はピンセットを置き、顎に手を当てて死体と歯を交互に見やりながら熟考している。
難しい問題を解く学生のように「うーん」と唸って、絞り出した見解を述べた。
「そうね、打ち込んだは半分正解で、正確には撃ったね」
「撃った?」
「左目の傷穴、まるで銃で撃ち抜いたように直線的な形状なの。押し込んだ、とも違うわ。なら必然的にねじ込む事になるから傷穴が食い込み抉れるハズだもの……その上で脳に達する程だなんて、かなりの速度で撃ったとしか思えないわ」
ならもっと訳が分からなくなる。犯人は被害者の前歯を抜いて、それを弾丸のように撃ったと言うのか。そんな芸当、可能なのか。
「この前歯は本人の物で間違いないわ。目視だけど、大きさが一致している。確定したいなら、歯の成分を照合してみる?」
「いや……信じるよ。こう言う事に関しては、幻想郷一だと知っているわ」
「まぁ、恐縮ね。それで聞きそびれていたけど、里はどうなっているの?」
少女は頰をかいて、言いにくそうな仕草を取ったものの、話してくれた。
「朝から大騒ぎ」
「で、しょうね」
当たり前かと、永琳は自嘲気味に笑う。
「妖怪の仕業って言いふらす人が多くてね、印象が悪くなるんじゃあないかなと慧音は危惧していたよ」
「早とちりはやめて欲しいけど……まぁ、人間には無理よね、歯を撃つなんて」
「だからて聞いた事ないわよ、そんな妖怪の話は」
犯人像が掴めない、知識の中から見つけ損ねてしまったのだ。少女は首を傾げて、難しい顔を見せながら押し黙る。
「取り敢えず、『犯人は誰か』は流石に分からないけど、どんな犯人かは分かるわね」
あぐねる少女を見かねた永琳が、一つの見解を提示する。
「……? それは?」
「簡単な話よ。殺されたのなら理由があるハズじゃないの」
「無差別って、事はないのかな」
「あるかもだけどね。そうだとしても、考えなくちゃならない事はあるわよ」
苦悶の表情で死す男の身体を指差し、彼女は少女へヒントを与えた。
「いたぶるような殺し方でしょ? 残虐で非道徳的で惨憺たる有り様」
「…………相手は『殺し慣れている』訳ね」
彼女の答えに対し、永琳は満足そうに微笑んだ。
男の殺され方は常軌を逸したもの。腕を砕き、歯を撃つと言う奇妙な芸当。殺しの中で、己の加虐嗜好を満たすかのような、拷問性を含んだものだった。
「こんな殺し方、初めての者には無理よ。明らかにこの男の前に数人は殺しているわね、人を傷付ける事に手慣れているわ」
「傷付ける事に手慣れている……」
「その点なら妖怪よね。でも里で人間を襲うなんて、妖精でもしない事をするものかしら?」
人の里内で人を襲う事は禁じられている。禁じられてと言う事は、お目付役の存在があると言う事だ、その存在を認識していない妖怪は恐らくいないだろう。認識している、と言う事は発覚を恐れてもいると言う事で、仮に里の中で人間を襲うならさっさと殺害して立ち去るだろう。時刻は深夜帯であったが寧ろ、夜中は妖怪の活動時間だ、尚更焦る。
犯人が妖怪だとしたら、かなり悠長だ。
「更に、殺した人間を一口も食べていないわ。殺しただけのようね。意味あるの?」
妖怪が人間を襲う時は、大抵食べる為である場合が多い。だが今回はそれすらも無く、永琳の言う通りただ殺しただけ。動機が全く掴めないのだ。
「……ねぇ、貴女の予想が聞きたいのだけど」
なかなか結論を言わず、焦らすような彼女に少し反抗心でも湧いたのか、少女はムッとして永琳を急かす。
「そうね。私なら……」
永琳はそんな彼女の意図を斟酌した上で、少し考える仕草をしてから口を開いた。
「犯人は『酔っている』と予想するわ」
「……へ?」
予想を求めたが、その予想が自分の予想と掠りもしなかった為に、少女からは呆気に取られたような声が出された。
「……お酒の匂いでもしたの?」
「違う違う、酩酊って事じゃあなくてね……『自己陶酔』って意味よ」
自身の予想の真意を理解させてから、彼女は続ける。
「目に歯を撃つ……まず犯人は私たちみたいに特殊な能力を使える存在ね。だけど腕を折れる程の力と距離まで接近していたなら、さっさと自分の腕力で始末すればいいじゃない。喉を潰して声を出させないように出来たなら、首の骨を折れる事も出来るでしょうに。下手に能力を使用したなら、特定されてしまうわ。例えば火の気の無い所で焼死体があった場合、疑われるのはあなたよね」
「例えが嫌らしいわね……あっ……」
「察してくれたようね」
少女もまた頭の回る人物であったようだ。察した彼女に、永琳は学校の先生のように答えの発言を譲り、返答を待った。永琳の沈黙をそう解釈した少女は、答えを述べる。
「犯人は試しているって事ね、『自分の能力』を。つまり……犯人は後天的に得た能力を行使したいが故に、辻斬り同然に殺害した?」
少女の答えに「お見事」と言って、永琳は小さく拍手をした。少女としたら死体の前で少し不謹慎だろうかと、気にしてはいたのだが。
「補足すると、能力はつい最近に得たようね……理由は分からないけど、呪物でも手に入れた辺りかしら。一ヶ月か二ヶ月? 私が知らない訳よ。どんな能力かは分からないけど」
「いや……もしかしたら、幻想郷の新参者って事は……」
「それなら結界とかに形跡があるハズでしょう。あの『紫』が気付かない訳がないし、いきなり幻想郷にやって来たとしても即適応出来る訳がないし、まず新参者の噂は聞いていないわ。犯人は間違いなく、幻想郷の者よ」
「んん……ますます、犯人の特定が難しくなるわ」
「それならば、調査の軸を変えてみるのよ」
「調査の軸?」
検死が済み、セットを片付けながら永琳は提案する。
複雑に動く彼女の手の動きを目で追いながら、少女は深く耳を傾けた。
「さっき言ったでしょ? 犯人は『殺し慣れている』のよ。ならばあるでしょうね、『別の被害者』が」
悪夢が如き彼女の推測に、少女は眉間に険しいシワを寄せて嫌悪感を示す。その嫌悪感の中には愕然と言った、撃たれたような感情も混じっているだろう。
「当分は、里の行方不明者を洗い出したらいいわ。そこから分かる事もあるハズよ」
「わ、分かった……しかし、まさか私たちに隠れて殺人なんて……」
「憶測よ、過度に捉えないで。調べる場合は、行方不明者の家や素行、性別に消えた日付も纏めておく事ね。例え無差別だとしても、時間とか時期とか場所なりのパターンも把握出来ると思うし」
「何から何まで有り難う、参考になったわ。何か分かったら、また伺いたいのだけど」
「……私は薬師であって、探偵じゃあないのだけど。まぁ、安楽椅子探偵になら構わないわよね」
永琳は冗談めかしたようにそう言うと、足元に置いてあった桶にセットを入れて、部屋から出ようとする。
「所で、この仏様はどうするの?」
「仏様って……身元不詳でね、誰の子か分からない状態なの。自警団の人らは、この人は荒くれ者で有名だって言っていたから、親が見つかっても引き取るかどうか……」
「絶縁されている可能性もありね。なら早々に埋葬した方が良いんじゃない? 後腐れないだろうし、荒くれ者とて一生を終えられた者……弔ってあげないと後味悪いわ」
最後に「裏口は閉めて行ってね」と残して、永琳は部屋の扉に手をかけた。
すると、思い出したかのように少女が尋ねて来る。
「そう言えば患者がいるって行っていたわね。ここ最近、誰も永遠亭には案内していないハズだけど……里の人?」
「里の人ではないわ。外来人よ」
「外来人? それはまた珍しい……」
「あ、言うけどその患者ならシロよ。大怪我しているし、昨夜は私が説教していたし」
「誰もその人を疑っているなんて言ってないわよ……」
「無神経だけど、面白い人間よ。見て行く?」
少女は呆れたように首を振った。
「遊びに来たんじゃあないわ。貴女に聞いた事を慧音とかに相談しないと」
「そう。まぁ、近い内に里へ行くと思うし、その時は宜しくしてあげて?」
「暇があったらね……当分、暇はないかな」
真剣な眼差しを受け、永琳は意味深長に微笑むと部屋から出て行った。中には少女がまだいるが、死体も一緒にある為に扉は閉められる。
血の付いたピンセットを見られないように、桶の上に持っていた布を被せて隠し、彼女は水場へ向かう。お湯を沸かして、セットの消毒をしなければならないからだ。
永琳が水場でピンセットの煮沸消毒をしている時、ジョセフを食事を終えて、処方された痛み止めの薬を飲んだ後であった。
「〜〜〜〜ッ!! に、にげぇ!! 昨日よりもぜってぇぇ苦いッ!!」
口の中に広がる、良く分からないがとても苦い味覚に悶絶しながら、奥歯を噛み締めるような表情で鈴仙に訴える。勿論、鈴仙は、薬の苦味は師匠がわざとそうしていると言う事を理解しているので、心の中で大笑いしていた。
「まぁ苦いでしょうね、師匠の薬は良く効きますから」
「いいや、ぜってぇこれは味覚を操作しているぜ! 俺には分かるッ!!」
「味は兎も角、効果は絶大でしょ? お陰様でジョジョさん、幻肢痛に悩まされず済んでいるんですから」
「だとしても俺は認めねぇぞぉ! 薬ってのは、飲み易くするもんだろーがよぉ! 異議あるかぁ!?」
「じゃあ、飲まなけりゃいいんですよ。一回痛い思いしたなら、師匠のお薬の有り難みが分かるってもんです」
キッパリと言い切り、鈴仙はジョセフの食器を下げる。言い切られたジョセフは「くぅぅ!」と子供のように悔しがり、結局は拗ねたようにふて寝に入った。何から何まで、子供っぽい性格だなと、鈴仙は失笑する。
「所でレーセン、そう言えば人間の住む里に薬売りに行くって言っていたじゃあねぇか」
「ええ、それが?」
「人間の里ってよぉ、何があんだ? 昨日は幻想郷の何やかんやしか聞かなかったし」
「普通の里ですよ……まぁ、ジョジョさんにとったらまるで新鮮かと思いますが、人間文化で言ったらあまり特出するような物はないですよ。平和ですし」
それを聞きジョセフは、顎に手を当てて何か考える仕草を取り、次にはニヤニヤと笑い出した。
「なぁるほどなぁ〜、それは楽しそうだ……」
「駄目です」
「まだ何も言ってねぇじゃねぇか!?」
「どうせ里に連れてけなんて、言うつもりだったでしょ?」
キッパリと彼女は先回りして断った。
当たり前であろう、ジョセフは現在、重傷患者である。左手は喪失し、骨折も多々あり、正直危篤状態ではない現状が異常であって普通なら一ヶ月以上は絶対安静の怪我だ。当分は出る事は叶わないだろう。
「けっ! 言っとくが、今は足が包帯ぐるぐる巻きなもんで動かしづれーが、本当はピンピンなんだぜレーセン?」
「言っときますが、血も多量に失っていますし、怪我も尋常じゃあない数なんです。本人が知らない所で、身体には負担がかかっているハズです。いざ立ったら、容態が急変するなんて事もありますよ?」
「だから大丈夫だっつってるだろー! 僕ちゃん、寝たきりは暇で暇で仕方ないのよぉ〜ん、身体がウズウズしてんだ。これは健康な証拠だろ!」
「精神状態は良好ですね。でも身体への影響に限界はあります。どれだけ健気な人でも、心臓が破裂寸前では動かないでしょ」
鈴仙は面倒になったのか、会話を途中で切り上げてさっさと部屋から出て行く。呼び止めるジョセフだが、引き戸は閉められて、廊下から水場へ小走りで去る足音が聞こえて消えた。
今日も出られないかと、彼はぐったりとする。
静かな部屋の中、奇妙な音が鳴り響いた。鉄琴を響かせた音のような、拡散する妙な音。部屋は木造で、金属製の物がない為に非常に場違い的な音であろうと分かる。
そしてその音は、ジョセフを中心に流れていた。
「コォォォォォ……」
口から酸素が漏れるような音を鳴らす。ジョセフの呼吸音だ。その呼吸音に合わせ、金属音が空気の波に沿って振動する。
目の錯覚ではない、その妙な呼吸をするジョセフの身体には、金色の光が宿っていた。
「……レーセンの言う通り、身体にはダメージはあるようだが、『波紋』の力はだいぶ強くなって来たぜ」
彼はそう言いながら、右手を開いたり閉じたりを繰り返している。この不思議な現象『波紋』を発生させた事で、身体の痛みが緩和させているのだ。
(まぁ、まだ血が足りねぇようだし、レーセンの言う通り今日は安静にしといてやるかぁ)
心の中で呟いた瞬間に、身体に纏っていた光は段々と静まり、消え去った。消え去ったと同時にジョセフは再び物思いに耽る、彼は表面上の性格に反して、思慮深い人だ。
それにしてもと、ふとジョセフはここに来る前の出来事を想起していた。幻想入りする、寸前までの記憶。
確か自分は、完全体となった『カーズ』との激戦を終えた後だった。成層圏近くまで岩石と共に吹っ飛ばされ、降下を初めて自分は…………
ここからの記憶は無い。恐らく、海に落ちた時のショックか何かで気絶したのだろうか。言えどそんな状況下でこの地に飛び、生き長らえているのは流石自分の悪運と言うべきものか。
永琳曰く、何かの拍子で次元の歪みのような物が出来て、そこから幻想郷までトリップするような事があるらしい。所謂『神隠し』と言う消失現象として認知されるものの、原因だとか。
ただ、遠方の地から遥々日本の幻想郷に飛ばされる事象はあまり見られないそうな。
「……『死者としてなら別……だが』……か」
幻想郷は『あの世』に一番近い地、らしい。死者の魂が自然の原理として流れ着き、稀に何らかの力を得る場合があるそうだ。その場合、霊体は肉体を持てるようになるとか。
考えたく無いが、自分は死んだのだろうかと、一種の不安が彼を巡った。そうならば、もう自分は先生や友人たちに、会えないのだろうか。
「……ケッ!! なにしみったれてくれてんの!! オレはジョセフ・ジョースター! 真面目に暗くなるのはキャラじゃねぇぜ!」
暗くなりそうな自分を、何とか鼓舞してやる。
確かに自分はここにいる、自分の身体は自分の身体だ。何としてでもイタリアに戻り、先生に出会って、アメリカに帰って……『エリナおばあちゃん』と再会するのだと、ジョセフは固く誓う。
そして、『亡き友』の墓を作ってやらねば。彼の故郷に作ってやろう。ジョセフは得意顔になって、自身の髪の毛を弄り始めた。
「あ、いたいた」
「ん?」
決意を固めた時に、彼の元へ来訪者がやって来る。
小さな女の子だ、桃色のふわりとしたワンピースを纏い、唸ったショートカットの黒髪。
しかしそれらよりも一番目に付くのは、鈴仙同様に頭から突き出た兎の耳であろう。ジョセフは彼女と面識があった。
「おめぇ、『てゐ』じゃねぇか」
「ただの人間が妖怪にオメーってねぇ……私だから良いけど、他にゃ頭低くしていた方がいいよ」
「うるせーな! てめぇにゃ、昨晩の恨みがあるってんだ!!」
ジョセフと談話する少女____名を、『因幡てゐ』と呼ぶ____は、ジョセフの言う通り、昨夜彼へ悪戯を施したのだ。
「何を言うか。遠い異国の来訪者さんに、日本の食の良さを実感させてあげたのだよ」
「あんなもん食いモンでも何でもねぇよ!!」
「ほーほー、あんたは『ワサビ』を愚弄するんだね」
昨日の晩食での事、彼女はジョセフの食事にワサビをうんと絡ませた、お茶漬けを振る舞ったのだ。
ワサビの存在を知らない彼は何の疑いも無くそれを口にし、悲惨な目に遭った訳である。
それが原因で大騒ぎし、永琳に咎められる一因となったのだが。
「愚弄以前にてめぇ、俺のだけ多量に混ぜただろ!!」
「それが日本なのさ」
「俺はぜってぇー許さねぇぞ! エーリンに怒られるしよぉ!!」
「いや、それはお茶漬けの他に、漬物とかにも難癖付けていたからじゃ?」
「兎も角、食べ物の恨みはコエーって事だ! 怪我が治ったらいじめてやるからな!」
恨みタラタラのジョセフに失笑しつつ、てゐは彼の近くへ行く。表情から察知出来るが、悪い笑みと言うものを浮かべている。
「妖怪が人間をねぇ〜。ま、せいぜい知恵を振り絞りたまえ」
「偉そうに……兎人間ってのは、レーセンもそうだが意地汚ねぇ奴しかいねぇのか?」
「年季故の余裕だよん」
何が年季だこの小娘が、とジョセフはてゐを睨んだ。
そうは考えていたものの、仕切り直しのように彼から質問をする。
「んで、何しに来たんだ? お見舞いか?」
「残念ながらお土産はないよ」
「言ってろー」
「単なる暇潰しだってば、暇潰しぃ。鈴仙も人里行っちゃうし、弄る相手がいなくなったんさね」
「帰れ帰れ!」
堂々とジョセフを弄る姿勢でやって来たようだ。鬱陶しがるように右手でしっしっと、てゐを帰らせる。
てゐは依然として変わらない、余裕ぶった態度を崩す事なく、意地悪そうな笑みで彼を眺めた。
「それにしても凄い筋肉だ。人間の大工でもそんな逞しくないよ」
「へっ! どうにも俺の家系の男ってのは、みんな体格が良いそうなんだよなぁ。なんだ、惚れたか?」
「まぁ、本人がボロボロじゃ無用の長物だけどね」
「嫌味言いに来たのかてめぇは!?」
身体を起こして殴りかかるポーズを取れば、てゐは笑顔のままスタコラサッサと距離を取る。ジョセフが歩けない事を見越し、離れた所から「にしし」と笑って挑発。
「所で、えぇと、ジョセフだっけ」
「ジョジョで構わんよ」
「じゃあジョジョ。ちと、面白い話があるんだけど」
「ん? どした?」
「はい、これ」
そう言っててゐは、懐から四角く折り畳められた紙を取り出し、ヒラヒラと見せ付けた。
形状は、ジョセフの飲む痛み止めの粉薬を入れる、薬包紙と似ている……いや、それであろう。何かしらの薬を彼女はジョセフに提示しているようだ。
「んだそれ? 薬か? 薬ならさっき飲んだばっかだ……飛び切り苦いのをな!」
「それは痛み止めだろう? これは、永琳の部屋からくすねて来た物でね」
「お、おめぇ!? ドロボーッ!?」
「永琳から『いつでも良いから持って行って』と頼まれたから、ドロボーじゃあないのよん」
ジョセフは顔を歪める。
「…………頼まれたぁ?」
「うん」
彼女は薬包紙を揺らしながら、またあの悪い笑みを浮かべる。
何やら自分に都合の良いとも思わせるような、悪戯っ子の笑み。ジョセフは怪訝に思いながらも、彼女の説明を待つ。
「効能は、『自己治癒能力の促進』。まだ出来たばかりで試験段階だから保証出来ないけど、永琳からは誰かに試薬投与してってさ」
中の人的にジョセフが幻肢痛だと、カズを思い出してしまうメタギア脳。