全部仕事ってヤツが悪いんだ。
ーー攻めの軍神、守りの剣鬼ーー
凍えるような北風の中、俺は大洗の商店街の入り口で立ち尽くしていた。冬休みに突入した翌日の12月24日。俺は……いや、俺と宮本。それと西住達のグループは連絡船に乗って大洗へと戻って来ていた。元々実家で祖父と修行しようと思っていたら、クリスマスなんだからパーティしようと宮本が騒ぎ出し武部がそれに乗っかり、最終的に宮本の家に集まってパーティする事になっていた。そして今はその買い出しの為の集合場所にいる訳なのだが、
「来ない……」
約束の時間からとうに10分は経過している。別に待つのが嫌いな訳ではないが、この寒さは身に堪える。どこかの店に入って待とうかとも思ったが、男より女の方が多いこの状況で寒空の下、女の子を立たせてしまう事にもなりかねない為我慢する。
ファー付きの膝まであるモッズコートのポケットに手を突っ込み首をすぼめて寒さに耐える。フードを被りたいのは山々だが顔が隠れてしまうためやめておく。海沿いの港町な大洗は吹き付ける風が強く、体の芯から凍っていくようだった。そこから更に5分、音沙汰無しなので流石に誰かに連絡をしてみようとかじかんだ手で携帯を取り出すと、
「ごめんなさい金城君!待ちましたか?」
「いや、大丈夫だ。俺もさっき来たところだ」
頬を上気させた西住が俺の元へと駆け寄ってきた。必死に走って来たのだろう、額には薄らと汗が滲んでいた。ここで待っていたと言うほど野暮じゃないので、適当に言葉を濁し西住の息が整うのを待つ。ふぅと息を吐いた西住がキョロキョロと周りを見て首を傾げる。
「あれ?宮本君は一緒じゃ無いんですか?」
「そういう西住こそ、武部達と一緒じゃないのか?」
俺と西住以外の誰も来ないこの状況。何かあったと考えるべきか、何か企んでるととるべきか。と、西住の携帯が鳴り、少し遅れて俺の携帯も震え出す。西住と目配せし、携帯を見る。着信の相手は、予想通り宮本だった。
「おい、宮本。どうした?」
『わ、悪ぃ!麻子が起きないんだ!』
「……は?」
『だから、麻子が部屋に引きこもったまま出てこないんだよ!こんな日に限って鍵のかかった部屋で寝てやがって起きて来やしねぇ!俺とさおりん、秋山の総出で起こしにかかってるから、悪いけど西住と先回っててくれ!!』
「……了解。出来るだけ早く来いよ」
『おう!じゃあな!』
プツッと電話が切れる。冷泉の寝起きの悪さは聞き及んでいたが、ここまで悪いとは。携帯をポケットに仕舞い、西住に目を向けると西住も通話が終わった様で、申し訳無さそうにこちらを見ていた。
「華さん、家の都合で少し遅れるそうです」
「五十鈴もか。宮本と武部、それに冷泉と秋山も遅れるそうだ。先に買い出ししててくれだと」
「え、あ。わ、わかりました。……じゃあ、行きましょう」
「そうだな。店に入らないと、そろそろ凍えそうだ」
少し顔を赤くした西住を連れ立って商店街に入る。買い出しのメモは俺が預かっていたので、目当ての店までの道のりを頭の中で組み立てる。商店街の中はクリスマス仕様の飾り付けが施されていて、色鮮やかになっている。まだ陽がある為イルミネーションの光はないが、夜になったらより華やかになるのだろう。街行く人もどこか幸せそうで、やはりというべきかカップルが多かった。そこでハッと気が付き隣の西住を横目に見る。顔を赤くしたまま、恥ずかしそうにしていた。クリスマスイブに男女のペア、周りから見たらカップルに見えることは間違いないだろう。気付いた途端、顔に血流が集まってくる。チラッと俺を見た西住がそれに気付き余計に赤くなる。二人して真っ赤な顔で歩くことになり、すれ違ったおばさんの「あらあら」という声がやけに大きく聞こえた。終始無言のまま、目当ての店へと足を進める。後で宮本に八つ当たりしよう、そう心の中で呟いた。
***
「これで買う物はあらかた揃ったな」
「そうだね。後はプレゼント交換のプレゼントかな?私はもう持ってきてるけど金城君は?」
「オレも持ってきている」
買い物を終えた店の前で買い忘れが無いか確認する。夕食に使うであろう食材とケーキの材料、サンタの帽子やトナカイの角が付いたカチューシャ等のパーティグッズ。それぞれをメモと照らし合わせ、問題ないと安堵する。流石にこれ以上西住と2人きりで散策するのは、精神が持ちそうに無い。
「じゃあ宮本の家に行くとするか。連絡を入れておけばあっちで合流できるだろ」
「そうしようか。あ、荷物持つよ?」
「大丈夫だ。これぐらいなんともない」
食材やらパーティグッズなんかが入った袋を両手で持ち上げる。パーティグッズの袋はともかく、食材の入った袋は流石に重い。それに加え、寒さでかじかんだ手にビニール袋の持ち手が食い込み少し痛みが走る。手袋を持ってくれば良かったと心の中で後悔する。
「だ、駄目だよ!それにこれじゃあ私が金城君に荷物持たせてる見たいだし……」
「あ、それは確かに」
デート中の(ように見える)男女の男だけが荷物を持って女の方が手ぶら。言われてみれば見た目があまりよろしくない。
「じゃあこの袋を頼む」
「うん、わかった」
俺は左手に持ったパーティグッズの袋を西住に渡す。モコモコしたミトン型の手袋をつけているようだし、手が冷えることもないだろう。西住の歩幅に合わせ商店街を抜ける細道に入っていく。左手をポケットに突っ込んだり、時折右手をさすって暖をとりながら歩いてると西住が少し心配そうな目で俺を見ていた。
「どうした?」
「あの、右手寒いのかなって」
「うん?ああ、確かに寒いけど手袋を忘れた俺のミスだ。西住が気にするようなことじゃ……」
「だから、その……。右手、これ着けて?」
「……は?」
そう言って西住は自分の右手に着けていた手袋を俺に差し出した。西住の手に合うような小さい手袋。俺は行動の意図が読めず、ただ困惑した。
「その、サイズ合わないと思うけど、重い物持ってて手痛そうだし!それに金城君剣道やってるんだから手は大事にしないと!!」
「あ、ああ。わ、わかった」
勢いで了承してしまったが、別に重い方を持つのは男として普通だと思うし、剣道で手は大事といえば大事だが別に凍傷になるほど寒いわけじゃない。断る理由が受け取ってしまった後に出てくるあたり、俺もかなり動揺していたみたいだ。渡された手袋はやはり俺には小さく、親指の付け根くらいまでしか入らなかった。それでも外気に晒される事がなくなり暖かい。手袋に残っていた温もりが冷たくなった右手に染み込み、気恥ずかしく心臓の脈が変な感じにうるさくなった。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
顔がまたも赤くなる。普段はこんなにも赤面したりする事はないのだが、如何せん季節は冬。ちょっとの運動で体を解すのに慣れた俺の体は、寒さで白くなった頬を簡単に染め上げてしまう。西住も西住で顔を赤くしながら、えへへと笑っていた。……まあ西住が機嫌良さそうだしいっか、と思考を放棄した。左手をポケットに突っ込み歩いていると、隣の西住が右手をポケットに入れずそのままにしていることに気づく。咄嗟に左手で西住の右手を掴む。
「え、ええ!?か、金城君?」
「……冷たい。そのコート、ポケットがないのか?」
「あ、えぇっと。そうかも?」
西住の右手は既に冷えきっていて、ポケットで暖をとっていた俺の手から熱をどんどん奪っていった。
「やっぱり手袋返す」
「だ、駄目だよ!そしたら金城君の手が冷えちゃうよ」
「だからそれは俺のミスだって」
「でも……あ。だ、だったら!」
「?……ッ!?」
握手みたいに繋いだままだった手に指が絡む。宮本が前に言っていた、恋人繋ぎと言うやつだ。普段の西住では考えられない行動に思わず息を呑む。
「こ、これなら二人とも温かいかなって」
「そ、うだな」
人通りの少ない細道で手を繋いだまま動けなくなった俺と西住。今日の西住はいつもと違うというか、妙に積極的というか。ただ、ここまでされて、男として何もしない訳にはいかない。
「確かに温かい。だが……」
「え?ふえぇ!?」
「……こっちの方が温かいだろ?」
西住と繋がった手を俺のコートのポケットに入れた。必然的に俺と西住の距離はゼロになる。百面相している西住の表情とか揺れる髪から漂うシャンプーの香りが間近で感じ取れる。
「ほら、行こうぜ。寒いのは苦手なんだ」
「え、あ。うぅ……」
先程までとは比べ物にならないくらい赤くなった西住と歩き出す。ゆっくりと時間をかけながら。
ーーホワイトアウトクリスマスーー
「ああぁ~!寒いなコンニャロー!!」
一面の銀世界に向け俺は叫ぶ。大寒波の影響で一晩にして積雪量が一気に増えた学園艦の上は、もはや人が出歩ける状況では無かった。それなのに必死こいて雪かきしているのはひとえに、
「コラァボルシチ!!手が止まってるわよ!そんなんじゃツンドラ行軍終わらないわよ!」
「うるせぇカチューシャ!何がツンドラ行軍だ!戦車出せねぇから雪かきさせてるだけじゃねぇか!」
カチューシャのいつものワガママだ。冬休みに入り昼まで寝ようと思っていたら、電話で叩き起され防寒対策もそぞろで学校に向かうと、案の定の雑務。惚れた弱みというのか、今日も今日とてカチューシャの頼みを断れない。ぶつくさ文句を垂れ流しながらも雪かき用のスコップで雪を遠くへ投げ飛ばす。幸い新雪の雪はふわふわしてるからあと数十分で雪かきは終わるだろう。ただまあ、寒いことに変わりはない。
「つーか、カチューシャ!1人だけ暖まってんじゃねぇ!」
「カチューシャは偉いからいいのよ!」
「横暴過ぎるわ!?」
雪かきで体は多少熱くなるものの、風が吹けば汗が冷やされ余計に寒い。こんな命令を出したカチューシャはといえば、手伝う訳もなく俺が最初に作ったかまくらの中に七輪を持ち込んで暖まっていた。しかも俺がコートと手袋だけに対し、カチューシャはモフモフのコートに耳を隠すパイロットキャップ。首から膝まで垂れてる長いマフラーまで着けて完全防備だ。どれか1個くらい分けてくれ。
「……あとどれくらいで終わりそう?」
「あん?まあかかって四十分ってとこだ。出来るだけ早く終わらすよ」
「……ありがと」
「え、なに?よく聞こえなかった」
「早く終わらせなさいって言った、の!!」
「冷たっ!雪玉投げんなよ!」
本当は聞こえてたけど、カチューシャはふんぞり返ってるくらいが丁度いい。殊勝な態度でお礼を言われるのは、ちょっとむず痒い。
それに冬休みの、こんなに天候の悪い日でも練習を欠かさないカチューシャの努力の手助けをしたいと、俺は思ってしまうのだ。
***
「……どーすんだよ、これ」
「カチューシャに聞かないでよ」
雪かきを終わらせカチューシャが戦車の練習も終わって、じゃあ帰ろうかって話になった時、風と雪が強くなり数分後には世界がホワイトアウトしていた。咄嗟に逃げ込んだ俺お手製のかまくらから1歩も動けず、カチューシャと並んで呆然と外を見つめていた。かまくらの中に用意してた七輪の火は消していたので、温かさも半減している。
「クソったれぇ、早く家帰って風呂入りたいのに……へくしッ!!」
「ちょっと!カチューシャに唾飛ばさないでよ!」
「お前のせいでこんなに体冷えてんだろうが!!」
雪かきでかいた汗が冷えて、体から熱を奪っていく。寒さでカチカチ鳴る歯を止められず膝を抱いてこれ以上冷えないように努める。けど、そんなのは焼け石に水ってレベルで、体の芯まで冷えていくのが感覚でわかった。
「ちょ、ちょっと。大丈夫?顔が青白くなってるわよ?」
「し、心配しゅんな。これ……ふらいで、風邪引くような、たまじゃ……にゃいぜぇ」
「呂律回ってないわよ!?それに目がグルグルしてるけど!!」
「大丈夫だ、問題ない。……まだ慌てるような時間じゃあない。……あぁ、雪冷てぇ~」
「全然大丈夫じゃないでしょ!もうっ!ボルシチ!こっち来なさい!!」
「おうよ。俺はいつでもカチューシャのそばにいるぜ?」
「~~っ!?」
視界がボヤけ、体の感覚が遠ざかっているのに、頭が異様な程に熱い。かまくらの壁にもたれ掛かり、頭の熱を逃がす。自分が今言った言葉すら思い出せないとは……。これ結構重症なんじゃなかろうか?
ーーフワッ
首を唐突に柔らかくて暖かい感触が包み込む。甘い香りと共にやってきたそれは、暖めると1番効果的な首に巻きついた。一気に体がポカポカし始めたような気がする。冷えた体だからなのか、余計にそう感じられた。
「カ、チューシャ……?」
「こ、この私がここまでしてあげてるのよ!?風邪なんて引いたら許さないんだから!」
まだ寒気が酷いが、それでも意識は回復してきた。揺れなくなった焦点が捉えたのは、顔を赤くしながらも俺の首にマフラーを掛けてくれているカチューシャの姿だった。少し離れた場所にいた筈なのに、俺の為に寄ってきてくれたらしい。
「やめろ。……カチューシャも風邪引いちまう」
「なにもう風邪引いたこと前提なのよ!」
「……ああ、まあ。体、冷えたままだから。このままなら、風邪、引くな。ふつーに」
朦朧としなくはなっても、モヤがかかったみたいに思考が鈍い。あわあわと焦っているカチューシャの姿を視界に捉えながら、ああやっぱり可愛いなと場違いなことを考えていた。愛おしい。溢れ出る想いを止める理性は、熱のせいか作動せず、本能のままにカチューシャを抱き寄せた。
「!?ボ、ボボボルシチ!?」
「ほぉら、こうやって一緒にマフラーすればあったかぁい」
「正気に戻りなさい!きゃあ!?あ、頭の匂い嗅ぐなぁ!!」
「いい匂い~。モフモフ~」
「もうっ!なんなのよ!?」
「抱きしめてるんだよぉ。ずっとこうしたかったんだぁ」
「にゃぁ!?」
「やぁらかぁい~。いい匂い~かわいい~」
「う、うぅ~」
その後、数十分にわたりカチューシャを愛で続けた結果。
「……」
「……」
「……カチューシャってさ。体から何か薬品分泌してたりする?」
「ある訳ないでしょ!バカァ!!」
体の芯に寒気は残っているものの、正気は取り戻していた。体調が戻ったのである。つまりは、抱き寄せてからしたアレコレや言っちゃったアレコレも明確になってしまった訳で。
「……いい加減離しなさいよ」
「い、いや!まだちょっと寒いかなぁって」
ぶっちゃけ顔見れないです。抱きしめたままのこの体勢も恥ずかしいけど、顔を見たら確実に悶え死ぬ。絶対に。
「……まあいいわ。今回は許してあげる。感謝しなさい」
「……そいつはどうも」
俺が無理して風邪引いたんじゃないかと気にしてるのか。変なとこを気にするやつだよ、まったく。
「……ボルシチ、私も少し寒くなってきたわ。もっと強く抱き締めなさい」
「あいよ」
カチューシャの体を強く抱く。カチューシャが俺の胸元に顔を埋め、背中に手を回して抱き返してくる。外の吹雪の音を聞き流しながら、俺とカチューシャは互いの体を温め合う。
冬の始まる、クリスマスが近い日のことだった。
おまけ
ーーサンタの赤は鮮血の赤ーー
ーー大洗学園艦ーー
『カンパーイ!』
ようやく全員が揃い、始まったクリスマスパーティ。料理を食べ、プレゼントを交換しようかって時に、武部が女性陣を連れて一時退室。ケーキとプレゼントを一緒に持ってくるんだと思っていた。その時は。
「じゃーん!お待たせ!どうどう?みんな可愛いでしょ!」
「おおおおっ!!」
「……」
何故か全員、サンタのコスプレ姿になっていた。しかも、ミニスカートの。
「こ、これはつまり。プレゼントは……わ・た・し(はーと)ってことか!!」
「宮本、いっぺん死んどくか?あと裏声気色悪い」
「こいつぁオレの中のトナカイさんが暴れちまうぜ」
「本気でぶっ飛ばすぞ?」
その後、武部のパンチと冷泉のパンチラで血の海に沈んだ宮本。自業自得だな。
「え、と。金城君、どうかな?」
「あ、ああ。似合ってるんじゃないか?」
西住が恥ずかしそうに俺を見上げながら聞いてくる。丈が短くて気になるのだろう、スカートの裾を引っ張る西住。その仕草で強調される胸元で出来る谷間が見え隠れする。そういえば、買い出しの時、肘にとても柔らかな感触が……。
「……金城。……鼻血出てるぞ」
「……なん……だと?」
鼻の辺りを手で拭うとヌルッとした感触が手に残る。見事に鼻血が出ていた。
「西住殿のサンタ姿で鼻血を出したであります!」
「なっ!?」
「やだもー!はしたない~!」
「いや違っ!」
「その反応はよろしくないと思いますよ?」
「話を聞いてk「……やらしいな」
「……西住」
「……金城君の、えっち」
女性陣全員から絶対零度のような視線を受け、俺は跪いた。今は少しだけ、この視線に晒せれない宮本が羨ましかった。
ーープラウダ高校学園艦ーー
「メリークリスマス!ノンナ、プレゼントは!?」
「料理を食べたあとですよ、カチューシャ」
クリスマス当日。サンタの格好をしたカチューシャが俺のベッドの上で仁王立ちしてパーティの開催を告げる。何故俺の家でクリスマスパーティが開催されているかといえばノンナ曰く、どれだけ汚してもいいから。俺ん家はゴミ箱じゃねぇ。その毒舌ブリザードは一心不乱にカチューシャのサンタ姿をカメラに収めていた。
「意外と片付いているんですね」
「そりゃまあ。大掃除したばっかだしな」
「ボルシチ先輩、掃除やるようには見えねけどなぁ」
「んだんだ。服とか脱ぎっぱなしのイメージだばあっけどの~」
「おいこら後輩。面と向かってそれはねぇだろ」
来ているのはカチューシャはじめノンナ、クラーラ。ニーナにアリーナ。いつもと代わり映えしないメンツだ。ちなみに結局風邪で寝込んでいた俺はカチューシャと会うのは久しぶりだ。
「じゃあ早速料理を食べるわよ!ボ、ボルシチ!取り皿はどこ!?」
「あ、ああ。こっちに置いてあるぞ!カ、カチューシャ!!」
つまり、すげぇ気まずい。カチューシャもあの日の事を意識してるのかどこかぎこちない。あの日は吹雪が止んだあと無言のまま帰ったくらいだし、俺の家に来てからまだちゃんと顔も合わせられないくらいだし。
「?ボルシチ先輩、隊長と喧嘩でもしたんですか?」
「ぅえ?別にそんなことねぇけど?」
「んですか!隊長とボルシチ先輩、なんだがよそよそしいんでてっきり喧嘩でもしたんだがど思いましたよ~」
アリーナ、この場でそういう鋭い発言はやめてくれ。ノンナがヤバイくらいの眼光で俺を睨んでるから。
「だ、だいたい俺冬休み入ってすぐくらいに風邪引いて寝込んでたんだ。その間、カチューシャに会ってねぇし」
「……カチューシャもこの間まで風邪を引いてましたね」
「「ビクッ!?」」
風邪を理由に上手く誤魔化せるかと思ったけど、余計ノンナが怪しんじゃった!一緒にビクついてしまったカチューシャから恨みがましい視線を受け取る。が、そこからカチューシャの顔が赤く染まってしまった。恥ずかしくなるなら見んなよ!?
「そういえば、風紀委員長が冬休み翌日くらいに二人を見たと言ってましたよ、同志ノンナ」
クラーラさん、追い討ちはやめてください。ノンナの視線が明らかに疑いの目になってしまったじゃないか。
「……そういえばキスをすると風邪が移るようですね?」
「そ、そこまでしてないわよ!」
「そこまで?ではどこまでされたんですか?」
「……あ」
カチューシャのバカヤロウ!簡単な誘導尋問に引っ掛かりやがって!!頼むから、下手な返しはするんじゃねぇぞ!無難に戦車の練習してたって言えば、丸く収まるんだ!!じゃないと俺の生死に関わる!
「な、なんて事ないわよ!言うほどの事もないし!!」
「だったら言っても問題ないですよね?」
「うぅ……。だから何も無いの!ただボルシチに抱かれただけ!!」
『!?』
「……」
何故……そこだけ切り取ってしまったんだ。抱き締めたヤツだって転びそうになったとか言えばいいじゃん。しかも言い方……抱かれたって……。アウトやん。
「どういうことですか?ボルシチ?」
「なんていえばいいかなぁ。とりあえずその物騒なマカロフはしまおうか」
「そうですね。撃ってからしまうことにします」
「待て!話せばわかる!!」
「問答無用!!」
今年のクリスマスは、空から雪の変わりに、俺の血の雨が降るのだった。
***
という訳で、クリスマスのお話です。
タイトル誤字じゃないですよ。ifのお話なのです。
本当はクリスマス当日あげれると思ったんですが
「あれ?クリスマスほとんど関係なくね?」
ってことでおまけ急遽書いたんですが、間に合いませんでした。
今年はこれで最後かもですが、来年も見ていただけたら幸いです。