この話は作者の妄想全開につき
原作崩壊・キャラ崩壊が激しいです。
それでも大丈夫という方だけお進みください!
職人とスピード狂
「テメェは何回壊しゃあ気が済むんだァ!!」
聖グロリアーナの優雅な放課後に、粗野で野蛮な怒声が響き渡る。英国式の校舎の一角、ここでは戦車道チームのお茶会が開かれている。聖グロリアーナ戦車道隊長ダージリンは先程の怒号に動じることも無く紅茶を口元に運ぶ。ダージリンと同学年のアッサムや一番年下のオレンジペコも同様に優雅に紅茶を嗜んでいた。しかし、オレンジペコは辟易とした表情を隠しきれていない。原因は扉を壊さんばかりの勢いで入ってきた男と、
「うるさいですわよスミス!せっかくのお紅茶が不味くなってしまいますわ!!」
対面に足を開いて座り紅茶をがぶ飲みしている、淑女とは程遠い振る舞いの同級生のせいである。
「んなもん知るか!!テメェはなんでただの練習で昨日やっと整備が終わった戦車を大破に出来るんだよ!!!」
「私、練習に手は抜きませんの!!!!」
「今日は隊列での行進と砲撃だけだったろうが!!!!!」
「……貴方達、もう少し声を落として。これでは本当に紅茶が不味くなりそうだわ」
まるで相手より声が小さかったら負け、みたいに段々と声を大きくしていく二人にダージリンが待ったをかける。すでにアッサムは耳を塞いでおり、オレンジペコはあまりの音量に目を回している。少し落ち着いたのか、スミスと呼ばれた男は溜息を吐いた。
「だがよ田尻、いい加減整備する方の身が持たねぇんだ。このスピードバカ、どうにかしてくれ」
「ダージリンよ。全く、貴方も聖グロリアーナの生徒なら紳士らしい振る舞いを身につけて欲しいものだわ」
「論点がズレてるぞ。そうやって毎回煙に巻くじゃねぇか」
「そんなつもりは無いわ。ただローズヒップも大事な戦力、この子の意思を尊重したいだけよ」
「それでオレが寝不足になってもいいのかよ!?」
「その為のローズヒップ専用整備士でしょう?」
がくっと肩を落としたスミスはいつの間にか用意されていた椅子に腰掛ける。スッと目の前のテーブルに紅茶が注がれたティーカップが差し出される。差し出した方には燕尾服を身に纏う男の姿があった。
「ローズヒップでございます」
「なあ仙波、オレ緑茶がいいんだけど」
「セバスチャンとお呼びください、スミス殿」
「相変わらず、堅ぇなお前は。三年間同じ教室で過ごした仲じゃねぇか、柳原か伊澄でいいってぇの」
「そういう訳には参りません。私は紳士たる振る舞いが、些か足りていないので」
「お前で足りてなかったら、オレなんか全然だろうよ!」
カカッと笑うスミスと静かな笑みを浮かべるセバスチャンの2人をオレンジペコは見比べる。
丁寧な口調と柔らかい物腰、髪はオールバックでキッチリ整え、燕尾服をピシッと着こなすセバスチャン。本名、仙波優。
乱暴な言葉遣いとガサツな動作、ボサボサの頭にはタオルを被りツナギの上をはだけさせタンクトップ姿のスミス。本名柳原伊澄。
ダージリン様と同じ三年を過ごして、どうしてこうも差が生まれたのか。オレンジペコは少し頭を抑えたくなっていた。そもそも本名まで勘定に入れなければならないのはスミスの、
「そういや今日は橙が紅茶入れてるんじゃねぇのな」
「オレンジペコです」
「あ、あと朝海」
「アッサムです」
「お前、課題再提出だって」
「!?」
絶対にあだ名で呼ばない性格にあった。優秀な隊員に贈られる紅茶の名前、それを1回でも呼んだ試しが無い。ダージリンとアッサムは三年間で慣れているが、オレンジペコはそうもいかない。このあだ名は誇りなのだ、それを無視して呼ばれる事をよく思わない者も多い。故にオレンジペコはスミスを苦手としている。
「つーかなんでローズヒップなんだよ。落ち着きが無くなりそうじゃねぇか」
「それは私が遠回しに馬鹿にされてる様に聞こえますわ」
「直接バカにしてんだよ」
「ローズヒップの効能はリラックスや免疫力の向上ですよ、スミス殿」
最後のセバスチャンの言葉は、一気にギアが5速に入った二人には届いていない。優雅で気品溢れる聖グロリアーナ学院、そこに似つかわしくない喧騒が数分の間続いた。
***
「ゴクゴク……。ぷはぁ!仙波、おかわり!!」
「セバスチャンですよ。今お持ちします」
口喧嘩で乾いた喉に少し冷めた紅茶は相性バッチリだった。カップを仙波に預け、木製の椅子にもたれ掛かりながらテーブルの上からサンドイッチは摘む。
「スミス、私達も三年生なのだからもう少し礼儀作法やマナーを守って貰えないかしら?」
「あ~無理無理。ほらオレ、江戸っ子だから」
「それは本当の江戸っ子に失礼でしょう。それに貴方、出身は千葉じゃない」
「気分はいつでも江戸っ子でぃ!」
「今更取ってつけたように口調を変えない。貴方だってちゃんとすれば……」
「堅っ苦しいのは苦手なんだ。知ってんだろ?」
「全く、貴方と来たら……」
苦笑混じりの溜息を零し、田尻は紅茶を飲む。洗練されて美しい所作、本当に淑女みたいな振る舞いをする奴だ、同い年とは思えない。ふと右側から視線を感じ、目を向けると赤い頭のオレの宿敵がジトーとした目でオレを睨んでいた。
「なんだよ野薔薇、オレの顔になんかついてるか?」
「ローズヒップですわ!」
「じゃあ薔薇尻」
「ロ ー ズ ヒ ッ プ!!ですわ!」
「わかったわかった。んで、なんだよ」
「いえ。前から思っておりましたけど、貴方。ダージリン様と随分仲が良いのですね?」
「そうか?三年も一緒にいりゃこんなもんだろ、なあ仙波」
「そうですね。特に私達の三年間はとても密度の濃い三年でしたから」
野薔薇の質問に紅茶のおかわりを持ってきた仙波と共に答える。思えば色々あった。まだ三年になったばかりだが、少し感傷的な気分になる。まあ野薔薇も一応女子だ、きっと惚れた腫れたの想像をしていたのだろう。
「そ、そうでしたの。てっきりお2人は恋仲なのかと」
「ハッハァ!無い無い!」
予想通りの言葉に息を吐き出す。オレと田尻じゃ釣り合わねぇし。それに、
「田尻には好きなーー「こんな格言を知っている?」
オレが続きを口にする前に、田尻が食い気味に言葉を被せてきた。ゾクッと変な寒気が、オレの背筋をなぞる。油を差さなかった機械の様な鈍い動きで田尻に目をやると、
「足を滑らせてもすぐに回復できるが、口を滑らせた場合は決して乗り越えることはできない」
笑顔だった。ただ後ろから滲む怒りのオーラだけは100%オレに向けられていた。一年生組は気付かないだろうが付き合いの長いオレ達には十分過ぎるほどに伝わった。
「ベンジャミン・フランクリンですね」
「そうですわ」
何も気付いていない橙が、あっさりと誰の格言かを言い当てダージリンの話は終わった。が、威圧感はそのまま残っていた。
「ダージリン様の好きな……なんですの?」
「……食べ物はミートパイだ」
「そんなこと知っていますわ!」
「さいですか……」
うまく誤魔化すことができるか心配だったが、この単純バカ相手にそれは杞憂だった。ホッとして仙波が入れてくれた紅茶を啜る。ん……?
「これ、ダージリンか」
「正解です。スミス殿が一番好きな紅茶ですよ」
「このタイミングじゃあ皮肉にしかなんねぇな」
恋仲を疑われた時に田尻のあだ名のダージリン。この優男は爽やかな顔して時折黒くなる。ほら、また野薔薇の奴がジトーとした目でオレを見てきやがる。
「……本当に何も無いですの?」
「無いっての。仙波のちょっと苦目な冗談だよ」
「そう、ですの。で、では!今お付き合いされてる女性はいますですの?」
「あん?いねぇよ。つか口調おかしいぞ?」
変な敬語使う人になってる。あ、元からか。
「そ、そうですの!まあスミスは粗野で野蛮な乱暴者ですから、しょうがないですわね!!」
「うるせぇよ、喧嘩売ってんなら買うぞ?」
まあ実際、この学校は紳士淑女を育成することに重きを置いている。そのせいか女子は紳士的な男子を、男子は淑女の様なお淑やかで品位のある女子を好む傾向が強い。その真逆を行くオレは好かれるどころか、敬遠される不良みたいな立ち位置だ。とてもじゃないが男女交際なんかにはならないだろう。それに高3になったのだ、今更彼女を作ろうとは思っていない。
「そういう野薔薇はどうなんだよ。彼氏の1人でもいんのか?」
「そ、それは……」
少し頬を染めそっぽを向いた野薔薇。まさか……いるのか?
「いませんよ。男子から少し苦手に思われてるみたいですし」
「ぺ、ペコ!?」
「なんだ同じじゃねぇか。人のことバカにできねぇな」
珍しく口ごもったと思ったら橙にあっさりバラされた。まあコイツも淑女らしさからは縁遠いからそれもしょうがないだろう。ただまあ、
「持ったいねぇな、お前可愛いのに」
「かわっ!?」
思ったことをそのまま口に出すと、野薔薇の顔が髪と同じくらい赤くなった。もしかして、言われ慣れてないのか?……遊べるな。
「野薔薇、可愛いな。めっちゃ可愛いよ。うん、可愛い」
「~っ!わ、私で遊ばないでくださいまし!!」
「ちっ。いい玩具になりそうだったのに」
「怒りますわよ!」
「あ、でも可愛いと思ってるのは本当な」
「ーーッ!?」
ゴンッと盛大な音を立てテーブルに轟沈した野薔薇。遊び甲斐のあるやつだ。
「スミスも。か、カッコイイですわよ!」
「おう、あんがとさん」
「……全然動じませんわね」
「そりゃ世辞ってわかってる言葉に動揺なんてしないだろ」
「ほ、本心ですことよ!?」
「へ~。あ、口調また崩れてるぞ」
悔しそうにぐぬぬとオレを睨んで来る野薔薇。しかし、すぐに顔が真剣なものに変わった。
「……一つ、聞いてもいいですの?」
「ん?なんだよ」
「その……スミスの好きな異性のタイプは、どういう感じですの?」
「物を大事にする子」
ゴンッとまたもやテーブルと正面衝突した野薔薇。テーブルに頭突きするのがコイツのマイブームなんだろうか。
「さて、休憩も終わったことだし整備に戻るかね」
「あら、もう少しゆっくりしていけば良いじゃない」
「どっかのバカが大破させたから、のんびりしてらんねぇの」
ビクッと野薔薇の肩がはねる。が、反論してこないところを見るに少しは反省しているようだ。この調子で改心して貰いたい。
「こんな言葉を知っていて?
急ぐな、しかし、休むな」
「ドイツの詩人、ゲーテの言葉だろ」
「そうよ。よく知っているわね」
「まあそこそこな。そういう訳だ、急いじゃいねぇが休まないように整備に行ってくる」
田尻の引き止めようとした言葉を受け流し部屋を出ていく。田尻の困った様に肩を竦める動作が印象的だった。
***
「うぅ~ペコぉ~」
「はいはい。ローズヒップは頑張ったよ」
スミスが去った部屋でローズヒップは項垂れたままオレンジペコに抱きついていた。いつもの元気印の様な笑顔はなりを潜め、落ち込んだ表情にはうっすら涙が浮かんでいた。理由は単純明快。
「スミスに嫌われましたわぁ~」
「自業自得ですけどね~」
「そこは慰めてくれてもいいんじゃないですの?!」
ローズヒップはスミスに惚れている。オレンジペコには理解出来なかったが、一目惚れしたという。
「このままだとローズヒップの告白成功率はゼロですね」
「アッサム様ももう少し優しくしてくださってもいいんじゃないですの!?」
アッサムのバッサリと切り捨てるような一言。その言葉で力尽きたのか両手足を床につけ絶望し始めたローズヒップ。目からは滂沱のように涙を垂れ流している。
「落ち着きなさい、ローズヒップ」
「ダージリン様……」
紅茶を飲み終えたダージリンがローズヒップに目を向ける。その表情は慈しみに溢れた聖母の様にローズヒップには見えた。
「この言葉を貴女に贈るわ。
恋愛は、チャンスではないと思う。
私はそれを意志だと思う」
「意志……」
「貴女が信じるように行動なさい。結果は後からついてくるものよ」
「ダージリン様、わかりましたですわ!」
「あらローズヒップ。どこへ行くのかしら?」
「スミスの所ですわ!一緒に整備、するのですわ!!」
「そう、頑張りなさい」
最後の言葉を聞かず、部屋を飛び出していったローズヒップ。相変わらずそそっかしいとオレンジペコは困り顔だが、あの行動力は見習いたいとも思っていた。
「ダージリン様もお遊びが過ぎますよ」
「あら、私は素直に応援しているのよ。あの頭の固い職人気質をどう攻略するのか、見物だわ」
「楽しんでるじゃないですか。その為にわざわざローズヒップ専用整備士にしたんでしょう?」
「それは実益も兼ねての事よ。実際、彼以上に腕の立つ整備士はいないのだから」
修理が多いクルセイダー、それを1日で完璧に直すことが出来るのは聖グロリアーナでもスミスただ1人だ。そもそも整備士としての腕を買われて入学しただけに、この結果は目に見えていた。
「これからも楽しみね」
「不謹慎ですよ」
嵐のような二人が去った部屋は静かでセバスチャンが紅茶を入れる音だけが奏でられていた。
という訳で妄想が暴走したので少しばかり説明を。
・ダージリン=田尻
これは非公式でメジャーな奴なのでそのまま採用しました。
・オレンジペコ=橙
完全に色だけで決めました。ごめんなさい。
・アッサム=朝海
アッサ→あさ→朝
って具合に決めました。申し訳ございません。
・ローズヒップ=野薔薇
これは非公式の薔薇尻と悩みましたが、野薔薇って苗字の方が庶民派なローズヒップに合うと思い決定しました。
色々思うところがあるとは思いますが、全部作者のせいです。罵倒される覚悟は出来ています。
それでも楽しめたという方、また次回で。