吶喊の行く末は?
「すまない、今日は戦車道の練習も無いのに集まってもらって」
「気にしないでください西隊長」
「それで話とはなんでありますか?」
知波単学園戦車道、いつもミーティングに使う掘っ建て小屋に一年から三年の受講者全員が集まっていた。隊長の西の表情は試合前の様に固い。その表情にメンバー全員は練習試合でも決まったのかと釣られて表情を引き締める。
「ああ、実はな……好きな殿方が出来た」
『……え?』
しかし、西の発言で全員の緊張の糸が切られる。辛うじて声だけは出せたが、驚きで声が出なかった訳ではなく。
(今更気づいたんですか!?)
呆れが十割を占めていることにあった。想い人であると予想する男性に心当たりがあり過ぎるのだ。
「しかし私は恋愛に疎い。そこで皆に集まって貰ったわけだ」
「恐れながら申し上げますが、私も恋愛に疎いであります」
「それに博識な西隊長と違い我々には学がありません!」
眩しい笑顔で助力を請う西に、申し訳無さそうに手を挙げ自身の恋愛経験の薄さを暴露する福田。そしてそれに同調する他のメンバー。
それもその筈、なにせ彼女らは目標を目指したら猪突猛進に突き進む知波単学園の生徒だ。頭の中は戦車で吶喊する事、それ以外の余計な物は入らない。
「大丈夫だ。三人よれば文殊の知恵と言う。こんなに集まればいい案も出るだろう!」
『なるほど!』
そして誰か1人の前向きな発言で流されるのもこのチームではよくある事だ。……良いか悪いかはともかく。
「それならば突撃でしょう!」
「突撃以外に何がありましょう!」
「突撃して華々しく散りましょう!!」
「いや、散ったら駄目だろう!?」
……当然の帰結と言うべきか。三人よれば文殊の知恵とはよく言ったものだが、同じ思考回路の人間が何人集まろうと出てくる結果は同じだった。
「というか、恋愛で突撃って何をするんだ?」
「勿論、呼び出して直ぐに告白するのです!」
「まどろっこしいやり方は我々には合いません!」
「兵は拙速を尊ぶと言います!」
「少々拙い作戦でも突撃あるのみです!」
「恋愛だとそれは失敗するんじゃないか!?」
恋愛でも突撃しか案が出ないチームメイトに少し頭が痛くなった西。しかしそこでまたも福田が手を挙げた。
「それならば、呼び出す方法を少々変えてみてはどうでしょうか?」
「どういう事だ?」
「ですから、ーーーー」
「な、なるほど、それは確かに女性っぽいな!」
「はい!そして呼び出した所に突撃あるのみです!」
「あ、結局突撃は変わらんのだな……」
結局元の状態に戻ってしまうことに少し落ち込む西だが、周りのものはただ漠然と突撃しろと言っている訳では無い。そもそもこの告白に失敗などありえないのだから。それでも一応の確認の為か、代表して玉田が問いかけた。
「西隊長、確認なのですが、その殿方の名前は?」
「ん?ああ、名前はーー」
***
「おーい、五十六~!」
「む?幸徳か」
「そろそろ練習切り上げろって。……ってうわぁ、これまた派手にやったもんだねぇ」
知波単学園のグラウンド、そこは男子生徒が死屍累々といった具合に倒れていた。その中に1人。目深に被った学帽でも隠しきれない鋭い眼光の持ち主が軍刀を地面に突き立て仁王立ちしていた。
「訓練だと言って、手を抜く気は毛頭ない」
「だからといってやり過ぎ。月1の恒例行事だからってここまで追い込むことないでしょ」
男子生徒限定、月1の軍事訓練がここ知波単学園では行われている。軍事訓練と言っても、実際に戦う場面がある訳では無い。強靭な肉体には強靭な精神が宿る、その考え方の元行われているに過ぎない。主に隊列を組んでの行進や2人組で行う武器(木刀や刃を潰した軍刀など)を使用しての組手。冬には寒中水泳や雪山登山などもある。そして、その教官として選ばれているのが、五十六と呼ばれた男だった。
「前年度で一番訓練に真摯に取り組み、体力、技術、精神の三つが育った者を教官にする。言ってることは最もだけど、今年ばかりはミスチョイスじゃないかと思ってるよ」
「何を言う。自慢じゃ無いが、産まれてから1度も病気には罹って無い。武芸も幅広く、深く研鑽した。そして強い忍耐力を持っている自負もある。自分以上に教官が出来る者がいるとは思えん」
「なるほど、名選手名監督にあらずとは上手く言ったものだね」
「?別に俺は何かの選手では無いぞ?」
「そういう鈍い所も原因なのかな?……とりあえず、今日やったメニューは?」
「なんて事は無いぞ。10キロのマラソンに筋トレ各種500回。模擬戦を5分で組む相手を変えさせながら一時間。最後に全員とオレが模擬戦をして終了したところだ」
「うん、やり過ぎ」
「なんだと?俺の朝の訓練よりも少ないのだぞ!」
「自分基準で物事を見ちゃうからいけないのかなぁ」
鋭い眼光を更に細め、柔和な笑みを浮かべる幸徳と呼ばれた男を睨む。五十六とは対象的な優しそうな糸目を今回ばかりは困ったように歪めていた。
「そもそも軟弱者が多過ぎるのだ!日本男児たるものもっと硬派に行かねばn「そういえば、意中の西絹代さんとはどこまで進んだのかな?」
「……」
「……」
「それ今関係なくね?」
「素が出てるよ教官殿」
ニコニコとした笑みで追い詰めてくる幸徳に、情けない表情で五十六は溜め息を零した。
「……場所を変えるぞ。ここは人が多い」
「りょーかい」
未だ地に伏している生徒に解散を告げ、荷物を置いたままの教室へと足を運ぶ。道中、五十六は目をゴシゴシと擦る。すると、人を射殺しそうな眼光から力が抜け年相応の幼さが残る目付きになっていた。もっとも、生まれ持っての無表情と三白眼は治ってはいないが。
「相変わらず目付き悪いねぇ」
「ほっとけ」
「あと、性格偽ってて疲れない?」
「好きでやってる事だから、別に」
先程までの古風な口調ではなくなり高校生らしい砕けた言葉遣いに幸徳は嬉しそうに頷く。
「つーか偽ってる言うな、なりたい自分を演じてるだけ」
「やっぱ偽ってるんじゃん。だいたい、高校入った時はひょろひょろだったくせにさぁ」
「……昔の話はやめてくれ」
今でこそ引き締まった体つきの五十六だが、入学当初は痩せ気味のなよっとした普通の男の子だった。それが筋肉をつけ教官に選ばれる程に自身を磨き続けたきっかけとなったのは、
「教官になってやっと西さんの傍まで来たんだから、何か進展はあったのかい?」
「……まあ、ぼちぼち」
知波単学園では男子生徒の選ばれた数名と戦車道の生徒で会食したり合同訓練を行う事がままある。特に男子生徒の教官と戦車道チームの隊長との交流は多い。
「最初は選抜メンバー入りを目標に頑張ってた五十六が、まさか教官にまで上り詰めるとはねぇ。一目惚れしたって理由でよくここまで来れたね」
「正直、俺もびっくりした」
「しかも、西さんも隊長になったし。これは進展しない方がおかしいよねぇ」
「そうだな」
「で、どこまで行ったの?」
「……土曜日、一緒に出掛けた」
「知ってる。今度の合同訓練の買い出しでしょ?え?まさかそれだけで進展したとか言わないよねぇ?」
「……それ意外、何もない」
「はぁ~。本当にヘタレだねぇ」
「……面目ない」
段々と声のボリュームが小さくなっていく五十六、だがこの男、本当に何も出来ていない訳では無い。
出掛けた時は常に車道側を歩きエレベーター内では壁になるなど、さり気ない気遣いを行っていた。が、口下手で常に無表情の五十六は相手を退屈させているのでは無いかと気が気じゃない為、無自覚に行うそれらがいい事だとは思っていないのだ。
そのため日々の小さな積み重ねにより、西に好かれよく行動を共にする様になったのは教官という役職のお陰と勘違い。顔を赤くしつっかえながら西が話すのを自分の目つきのせいと思い込む。とどのつまり、五十六も知波単学園の生徒で思い込んだら一直線の馬鹿なのだ。
「今日あたり、一緒に帰ろうって誘ってみれば?」
「今日は戦車道の練習無いから帰ってると思う。それになんかナンパっぽくてやだ」
「変な所でお固いねぇ」
「男なんだから硬派にいきたい。……ん?」
教室に到着し自分の荷物を手に取ろうとした五十六はその上に置かれた手紙に気づいた。封筒に入れられた手紙の差出人の名前は空欄となっている。
「……これ、なんだと思う?」
「普通に考えればラブレターじゃない?」
「……」
「……」
顔を見合わせ、驚愕の表情を浮かべる二人は唾を飲んだ。そして、爆弾を処理する様な慎重な手付きで封筒を開き、手紙を開く。そこに書かれていた内容はーー、
***
「……西隊長、ちゃんと恋文を書いたでありますか?」
「勿論だ福田。心を込めて認めた、現に五十六殿はここに来ているではないか」
夕闇迫る体育館裏。そこの影に西初め戦車道チーム全員が集まっていた。そして覗き込んだ先には五十六の姿があり、近くには幸徳が控えていた。確かに文は届いてる様ですね、と玉田が言う。が、
「五十六殿、凄く臨戦態勢じゃないですか?」
『……』
細見の言葉に全員が沈黙する。そう、五十六は漆黒の外套を身に纏い杖の様に地面に立てた軍刀の柄に手を置き鋭い眼光で前を見据えていたのだ。とてもじゃないがこれから告白される様な雰囲気ではない。
「西隊長どんな文を書いたのですか!?」
「アレでは突撃出来ないです!」
「と、突撃は置いておくとして。"夕刻、体育館裏にて待つ"と書いたぞ、筆で」
「それですよ!」
「それでは果たし状みたいであります!」
「というか、なんでそんな曖昧に書いたんですか!?」
「ちゃんと名前は書いたでありますか?!」
「だ、だって。告白する前に気付かれたら恥ずかしいだろう!?だから、名前も書いてない……」
いつもは突撃一辺倒な彼女らも流石にこの呼び出し方は拙いと思ったのだろう、一斉に騒ぎ出した。西も反省したのか尻すぼみに声が小さくなる。が、騒いでしまったが為、
「む、来たのか。ならばさっさと姿を見せろ!!」
『ビクッ!?』
当然、バレてしまった。どうしようもなくなくなり、意を決し西は体育館の影から姿を現した。
「すまない、こんな呼び出し方をして」
「に、西さn……んんっ!西殿、どういうことですか?こんな呼び出し方をされて」
現れた人物が意外だったのか、素が出そうになった五十六は直ぐに持ち直し語調を改めた。隣で見ていた幸徳は呆れたように溜め息を吐く。
「じ、実はな。五十六殿にどうしても伝えねばならない事があるのだ」
「さ、さようで。だが別に携帯でも良かったのではないか?」
「いや、直接言いたかったのであります!」
「は、はぁ?」
顔を赤くし声を震わせる西の様子に、五十六は困惑を隠せずにいた。西からの話といえば戦車道のことか合同訓練の事ばかりで、その他の心当たりが全く無いからだった。
「わ、私は」
「うむ?」
「い、五十六殿の事が」
「……おう」
ここまで来ると流石の五十六でも要件の察しがついたのか、声を固くし姿勢を正した。が、
「ーーと」
「……と?」
予想外の単語に首を傾げる。そして、
(もしかして、友達になってくれ、とか?友達にはなってたつもりだったんだけどな)
と、またも自己完結してしまった。思い込みが激しいこの男はバレない様に溜め息を吐き出し体から力を抜いた。
「と、とととっ!」
「そんなに緊張しなくていい。ともd「吶喊ッ!!」ってええっ!?」
緊張を解そうと声をかけた瞬間、食い気味に叫ぶと西は五十六に体当たりをかまし地面に押し倒した。突然の事に目を白黒させる五十六。真っ赤な顔で息を荒くした西。居心地の悪い沈黙の後、
「五十六殿!私は貴方が好きだ、付き合って欲しい!!」
「は、はい」
なんともまあ、男女が逆転した様な告白が成立したのだった。途端に湧き上がる歓声。戦車道チーム全員が西を祝福した。寺本は写真を撮り、福田は西に抱き着く。まるで試合に勝ったような喜び方の彼女らを呆然と眺めていた五十六は、後ろから近づいてきた幸徳に頬を思いっ切り抓られた。
「痛たっ!?」
「良かったねぇ、夢じゃなくて」
「そりゃそうだが、力入れすぎ」
「そうかな?でも、とりあえずおめでとう」
「……おう」
幸徳の差し出された左の拳に右手で作った拳をコツンとぶつけた。
「さあ五十六殿!二人並んで!写真を撮るのであります!」
「なんならどこまでも突撃していっても構いません!」
「むしろここは突撃すべきでしょう!」
「すまん。突撃ってこういう場面で使う言葉だっけ?」
声高に突撃を連呼する彼女らに、意味がサッパリわかっていない五十六は頭を捻る。それでも西にはわかるのか、赤い顔のまま五十六に近づき、
「五十六殿、彼女らが言う突撃とはーーん」
「んっ!?」
少し背伸びをした西が五十六の唇を奪う。驚きの連続でもはや頭がパンクした五十六は、それでも西を支えるように背中に手を回した。
「ん……はぁ、こういう事であります」
「……了解であります」
ようやく発することの出来た言葉は、戦車道チームの歓声、というか鬨の声に掻き消された。
ーーちなみに、この吶喊告白が知波単学園戦車道チームの伝統になったとかならないとか。
今回もキャラ崩壊とかオリジナル設定多かったのですが、どうでしょうか?
登場キャラが全員暴走し始めるので苦労しました笑
機会があればまた次のお話で。