「相変わらず殺風景な部屋だからかしら?」
戸口に立っていたのは犬飼先輩…ではなく加古さんだった。豊かなブロンズの髪をかきあげるその姿は気品すら漂う。
加古望ー
A級8位隊長にして射手の女王。特筆すべきは…二宮さんとは犬猿の仲だと言うことー
「何の用だ。」
その短く、低い声は既に二宮さんが臨戦態勢に入っていることを物語っていた。
「二宮くんにお礼を言うついでに、新しい部屋の様子を見ておこうと思って、」
黒子(ほくろ)が印象的な口元に微笑をたたえながら、加古さんは二宮さんに近づく。と、その後背をカバーするかの如く、小さな陰が寄り添って動いた。殺気のこもった目線で辺りを素早く伺う二つ結びの少女は加古隊アタッカーの黒江双葉ー
加古さんの"懐刀"だ。まだあどけなさを残す容貌とは裏腹の、鋭い眼光と不覚にも目が合う。心底肝を冷やされるその眼圧は、"懐刀"と言うより、"狂犬"のそれに近かった。
「…礼?」
二宮さんの怪訝な顔は、まさにこの部屋の空気感を体現したものだった。
「そう。あなたたちと影浦くんのチームが降格してくれたお陰で、うちのチームは二階級特進ー
晴れてA級6位になったから。」
悪びれもせず笑う加古さんとは対象的に、二宮さんの眉間に縦皺が刻まれる。
「フフ、冗談に決まってるじゃない。風間さんとこの菊地原くんと歌川くんが揃って熱を出したそうだから、急遽"風間隊と防衛任務を変わってくれ"って本部長に頼まれたのよ。」
「そんな事をわざわざ報告しに来たのか?」
眉間に刻まれた二宮さんの皺が一層深まる。
「あら、いけなかったかしら?それじゃあこれでお暇(いとま)させていただくわ。さ、行くわよ双葉。」
そういうと加古さんは踵(きびす)を返して立ち去り、こちらに鋭い一瞥を放つ黒江がそれに続く。室内を大時化(しけ)にさせた嵐がようやく過ぎ去る。最後に痛烈な一言を残して…
「せいぜい足を引っ張らないでね、B級の隊長さん。」
無機質なドアの閉まる音が止むと、再び室内に静寂が訪れる。ただし、この沈黙は先刻のものよりもずっと重く、暗いものだった。
どのくらいの時間が過ぎたのだろうか?もはやこの苦痛は永遠に続くのじゃないかとさえ思えてくる。その時だったー
"ゴゥーン"
「お疲れでーす!」
場違いなほどに朗らかな声が室内の無音を打ち破る。
"犬飼先輩!"
僕は危うく歓喜の声をあげる所だった。しかしー
「あれ?ひゃみちゃん、大丈夫?」
珍しく、くぐもった表情を見せる犬飼先輩の言葉に、僕は"ハッ"となってひゃみさんの方を振り返る。
「大丈夫…じゃないかもしれません」
恐らく熱があるのだろう彼女は頬を真っ赤に染め、立っているのもやっと、と言うあり様だった。
加古 望
年齢 19歳
誕生日 12月25日
身長 173cm
血液型 B型
星座 かぎ座
好きなもの ドライブ・リンゴ・炒飯作り・ 才能のある人間