二宮隊の夏   作:てしてし

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15.虎穴猛進ー後編ー

ーマップ上部ー

先手こそ取られたものの、それ以降、村上先輩は大きく踏み込んではこない。振りかざされる斬撃は明らかに本気のものではない。

 

"時間稼ぎ……だが、それはこちらも同じことだ。"

 

敵が全力で無いのなら、たとえ格上とは言えど、少しでもダメージを与えておきたい。孤月両手持ちの剣速をいかし、俺は一気に反撃に移る。

 

しかし、その斬撃のどれもが最短の動作で孤月一本に阻まれる。

 

"剣の軌道が完全に読まれているな。"

 

幾度もの攻撃が凌がれ、再び孤月同士で競り合いながら、次の一手を素早く逡巡する。

 

"立ちはだかる壁をどう攻略するかー"

 

その時、対面の村上先輩が、組合う右手はそのままに、"レイガスト"を握る左手を大きく振り上げた。

 

"来る!"

 

咄嗟にそう判断した俺は、組合を解き、素早く距離を取って孤月を構え直す。

 

「スラスターオン!」

 

左手を天に突き上げた村上先輩は、しかし、その手を振り下ろすことはなく、そのまま推進力を活かして上昇し、背後上段の民家に飛び移ろうとする。

 

頭に疑問符を抱きつつも、身体が反射的に敵の着地硬直を狙う。

 

(旋空ー

 

その時、視界の片隅・左上方でマズルフラッシュの瞬きが見えた。

 

"しまった!"

 

思う間もなくー

 

「ガキン!」

 

迫り来た弾丸は、俺の間近に突如現れた厚い円形シールドに受け止められた。

 

「遅くなってごめんね、辻ちゃん。」

 

普段と変わらぬ笑みをたたえながら、犬飼先輩が右手後方より駆けつけた。正直、犬飼先輩の到着が一瞬でも遅れていれば、既に俺はベイルアウトしていただろう。

 

"動きに焦りが出たか……"

 

が、反省は後だ。すぐさま通信を開く。

 

「隊長、狙撃手の位置を確認。」

 

(5秒でいい。動きを止めろ。)

 

沈着な声に、犬飼先輩が応じる。

 

「了解!」

 

そのまま先輩は、民家の屋根に立つ村上先輩に銃口を向けた。

 

ガガガガガガガ‼‼ー

 

盾を突き出す村上先輩に襲い掛かるー

かに見えたトリオン弾はしかし、その脇をすり抜け、さらに後方へと弧を描いて伸びていく。

 

「⁈……太一!」

 

犬飼先輩が放ったハウンドが鈴鳴第一のスナイパー、別役太一を襲う。

 

「ひぇ⁈シールド!」

 

当然ながら、距離があり過ぎるために、その銃弾は容易に防がれてしまう。

 

「あらら、防がれちゃった。」

 

「お前達の相手は俺だ!」

 

目前の民家の上を振り仰ぐと、村上先輩が、言葉通り、仁王の如くそびえ立っていた。その眼圧は、普段の彼からは想像もつかないほど鋭く、俺は内心気圧(けお)されていることを悟った。

 

 

ーマップ下部ー

「5秒でいい。動きを止めろ。」

 

沈着な声に、犬飼が応じる。

 

(了解!)

 

返答を聞くや否や、二宮はポケットに収めていた両の手を抜き出し、左右に特大のキューブを出現させ、それらを眼前で一つの塊に合わせる。その間、僅かに2秒。

 

誘導炸裂弾(サラマンダー)!」

 

6分割の光弾が天高く舞う。

そのうち三条の光が、前方上段の来馬に降り注ぐ。

 

「シールド‼」

 

あまりに突然の強襲に、かろうじて対応した来馬。しかし、既にかなり削られていたそのトリオン体は、シールド共々、粉々に爆散した。

 

(命中……っ⁈後ろです‼)

 

常に沈着な冷見の声が僅かに上ずる。

 

二宮が不動のまま、視線だけを移すと、孤月を手にした笹森がすぐ背後に迫っていた。二宮が両のトリガーを使用した一瞬を突く奇襲ー

 

しかし、何ら動じることなく二宮は、視線誘導で真後の笹森に、未だ滞空する三条の光弾を叩き落した。

 

「ーっシールド!!」

 

間一髪直上にシールドを展開した笹森だったが、あまりの火力と爆圧に、なす術なく、地に叩きつけられる。

 

(警告、トリオン流出甚大)

 

その四肢から立ち上る無数の粒子は、笹森のトリオン体が既に戦闘不能である事を物語っていた。

 

直近の爆風にジャケットの裾をはためかせながら、二宮は素早く思考を巡らせる。

 

"あの距離でよくも対応できたものだ……まさか、陽動?"

 

(右手にレーダー反応!)

 

その一瞬の逡巡を、明らかに取り乱している冷見の叫びが妨げる。

 

二宮が右に目を見遣ると、道路の右手よりこちらに一直線に駆けて来る堤の姿があった。両手に散弾銃を構えていることを確認した二宮は、しかし、慌てることなく再び両手左右にトリオンキューブを出現させる。

 

通常弾(アステロイド)!」

 

堤を指さすようにして、二宮は6分割のトリオン弾を素早く放つ。右(メイン)の"アステロイド"は射程重視ー堤の射程外からの攻撃だ。

 

「シールド‼」

 

地に伏したまま、笹森が叫ぶ。堤の眼前に張られたシールドはすぐに粉々になり、その体は無数のトリオン弾の餌食となる。しかし、まだ致命傷には至っていない。堤はなおも前進するー

 

(戦闘体活動限界ーベイルアウト)

 

最後の仕事を果たした笹森のトリオン体は静かに消滅した。

 

二宮は堤を指さした右手でそのままシールドを展開した。

 

「こっちだ二宮ァ‼」

 

(っ⁈今度は後ろです!!)

 

背後すなわち、道路左手から響く諏訪の声。

 

だが、二宮の動きに迷いは無い。そのまま振り返りもせず、左手を背後に伸ばす。最初から第三の奇襲に備えて保持していた"アステロイド"が、その掌中から放たれ、諏訪を襲う。

 

「フルガード‼」

 

叫んだのは正面の堤。二宮とそれに迫る諏訪の中間に張られた二枚の防壁は、砕かれつつも、諏訪をアステロイドの弾丸から辛うじて護りきった。

 

無傷の諏訪が二宮の真後に迫るー

 

「ちっ!」

 

舌打ち一つうち、振り返る二宮はシールドを展開ー

 

が、間に合わない。

 

「ふっ飛べーーーー!!!!」

 

諏訪の左右の銃口から目映いばかりのマズルフラッシュが放たれる。

 

極至近から最大火力の攻撃を受けた二宮のトリオン体は、凄まじい衝撃音が響く中で粉砕された。

 

(トリオン供給器官破損、ベイルアウト)

 

「っっしゃぁぁあああああああ!!!」

 

一転静寂を取り戻した住宅街に、再び諏訪の咆哮が木霊(こだま)した。

 

 

 

 

 




諏訪 洸太郎

年齢 20歳
誕生日 8月1日
身長 178cm
血液型 A型
星座 ぺんぎん座
好きなもの タバコ、ビール、肉、麻雀、推理小説

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