二宮隊の夏   作:てしてし

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17.鈍い刃ー後編ー

村上はほんの一瞬、目を瞑る。その目蓋の裏には、つい先日の光景が鮮明に映し出されていた。一秒にも満たない時間のはずなのに、不思議な事に、そこに立つ来馬先輩はゆっくりと、そして優しく語りかけてくる。これが世間一般で言われる走馬灯と言う代物なのか、それとも自らの特殊体質によるものなのか、長年この現象と付き合ってきた村上自身にも今だ判断が着かなかった。

 

「鋼は鋼なりのやりかたで強くなってもいいんだよ」

 

「近界民と戦うときは味方同士なんだから、きっとみんな「鋼が強くてよかった」って言うと思うよ」

 

"来馬先輩は、忌み嫌っていた己の異能を初めて肯定し、あまつさえ必要とさえしてくれた。俺がこの部隊の為に剣を振るうことに、他にどんな理由が必要だというのか。いや……"

 

村上はゆっくりと目を開ける。黒く澄んだ瞳が露わになった。

 

「太一、仕掛けるぞ」

 

両の得物を固く握り、屋根の淵に立つ。眼下にいる二宮隊の二人も身構え直した。

 

(了解!どっち狙います?)

 

相変わらず陽気そうな声が返って来る。

 

「辻だ。」

 

"太一は"だが。

 

真の狙いは、犬飼。先程の敵の攻撃には、今までと違って確実に焦りがあった。加えて犬飼の負傷。なんとしても、諏訪が来る前に落としたい。もはや勝負を掛けるのにこれ以上のタイミングは無いように思えた。

 

(あんまり無茶しないでね、)

 

珍しく勇みたつ己の心中を慮るかのような、オペレーターの今結花の声に苦笑しつつ答えた。

 

「己の分は弁えている」

 

ふっと、村上から笑みが消えた。澄んだ瞳の鋭さが増す。

 

「旋空孤月!」

 

遂に村上は口火を切った。眼下の二人はサッと左右に散り、その間の地面が一直線に抉れる。

 

(太一!)

 

(こん)の掛け声に応じて、引鉄が引かれた。

 

"ドン!"

 

「スラスターオン!」

 

同時に村上は矢の如く犬飼に迫った。

 

"ガキン!"

 

イーグレットの弾丸が弾かれた音を尻目に、最大加速の孤月の一閃を犬飼にお見舞いする。

 

"ズカ!"

 

(シールド)を出す暇もなく、犬飼は咄嗟に後退するが、躱しきれず、腹部に刀傷を負う。村上は間髪入れずにもう一方の(レイガスト)を振るう。それを阻むかのように横合いから孤月が割り込んできた。

 

"ギャリン!"

 

孤月()レイガスト()の接触によるスパークが爆ぜた。犬飼に向けた二振り目は、辻の助太刀によって阻まれた。間一髪、窮地を脱した犬飼は村上の後方に素早く回りこむ……と見せかけて戦域を離脱し、スナイパー別役に一直線に向かっていく。二宮隊が遂に壁を突破したのである。

 

「太一っ!」

 

仲間を心配するー

その一瞬の心の間隙を突くかのように、辻が怒涛の蓮撃を繰り出す。が、村上の立て直しは早かった。

 

"その剣筋は全て見えている"

 

村上は(レイガスト)を握る左手をさりげなく後ろに引きながら、やはり右手に握る孤月一本で辻の斬撃を捌いていく。

 

"やけに前掛かりだな"

 

一刻も早くケリをつけて、太一の援護に向かわなければいけない……その思いとは裏腹に、村上は冷静に敵の太刀筋を伺い、隙を探る。対して、辻の剣筋には普段の鋭さが見られない。その上、一向に村上にダメージを与えられないためか、一振り一振りが徐々に雑になっていく。

 

「チッ!」

 

業を煮やした辻が大きく振りかぶった時だった。

 

「スラスターオン!」

 

村上は自らの体で相手から隠していた(レイガスト)を、加速をつけて辻に叩きつける。大きく踏み込みをかける、その最も無防備な状態で、正に隠し玉をくらった辻は、大きく体勢を崩した。そこへ、狙いすました村上の一刀が振り下ろされる。孤月一閃。辻のトリオン体は袈裟斬りに両断された。

 

「その鈍い刃じゃ、俺は斬れない。」

 

栞)決まったーー!アタッカー対決は来馬隊、村上隊員に軍配が上がりました!辻隊員も気迫のこもった怒涛の蓮撃をみせてくれましたが、新進気鋭のNo.7アタッカー、村上隊員の穏当な一撃の前に、敢え無く敗れてしまいました。

 

餅)オントウ?

 

栞)穏やかで道理にかなった、と言う意味です。

 

餅)なるほどな。だとするとさっきの表現は間違いだな。いや、むしろ真逆だと言っていい。

 

栞)と、言うと?

 

餅)村上の剣には今までに無いくらい凄まじいまでの気合が乗ってた。必ず点をあげるって気合がな。だからこそ、隙が無く、無駄も無かった。まるで、何か吹っ切れたみたいな……逆に辻の動きからは終始、何も感じられなかったな。ただただ心の焦りが剣を振るわせているような、そんな"空っぽの剣"ってところか。まあ、俺は精神論なんて信じちゃいないから、あくまで二人の剣筋を客観的に見た意見なんだがな。

 

栞)客観的って……普通は剣筋だけでそこまでわかりませんよ笑

 

餅)ま、おれh…

 

東)太一が犬飼に捕まったみたいですよ。

 

栞)あーと、別役隊員絶対絶命!援護に向かう村上隊員、果たして間に合うか⁈

 

"バリン!"

 

犬飼の執拗な銃撃(アステロイド)の前に、遂に別役のシールドが割れた。

 

「ひぇ⁈」

 

別役、無数の傷を負いながらも、咄嗟に路地へと逃げ込む。

 

(あ、太一!そっちは!)

 

「うわあぁ⁉行き止まりだ!」

 

太一が逃げ込んだ通りは、袋小路になっていた。

 

「終わりだね!」

 

不気味なほど碧く澄んだ瞳を歪め、犬飼も路地へと突入する。

 

(警告!村上先輩が来ます!)

 

ひゃみの声は依然心許ない。

 

犬飼はすかさずレーダーを確認。後方から迫る敵との距離を測った。

 

"アタッカーの間合なら間に合わないーいや、"

 

一瞬の逡巡のあと、犬飼は背後に集中シールドを張った。

 

その直後ー

 

"ガンッ!"

 

スラスターによって加速した村上の投げ"(レイガスト)"が、そこに突き刺さった。間一髪。しかし、犬飼は動揺することもなく、まして振り返りもせずに、正面の別役に照準を合わせてトリガーを引く。その餌食となった別役は、見事に蜂の巣になった。

 

(戦闘体活動限界ーベイルアウト)

 

犬飼はすぐさま踵を返すが、そこから動かない。ここを死に場所に定めたのである。本来ならば、路地を上手く利用して細かく削っていけば、村上と言えど落とす自信を持つ犬飼だったが、二度も深手を負い、戦闘を継続してきた結果、今やそのトリオン量は僅かだ。とても、長期戦には持ち込めない。短期決戦ーいや、刺し違える覚悟で突撃銃(アサルトライフル)を構える犬飼。そこへ、新たに生成した(レイガスト)を突き出して村上が迫る。

 

ガガガガガガガガガ!!!

 

犬飼の弾幕をものともせず、村上はスラスターで一気に距離を詰める。しかし、銃撃を一身に浴びる(レイガスト)は確実にダメージを負っていた。

 

"バリン!"

 

村上が犬飼の目前に迫った時、遂にその(レイガスト)が破られた。が、それと時を同じくして村上の孤月が犬飼のトリオン体を両断した。煌めく粒子をまとわせながら、犬飼は村上に倒れかかる。村上は僅かに体を左に逸らしたが、そこへ犬飼がもたれかかった。

 

"ドシュ!"

 

「⁈」

 

驚く村上の右胸には、犬飼の胸部から生成された"(スコーピオン)"が深々と刺さっていた。

 

「あらら、若干右に逸れちゃったか……」

 

(戦闘体活動限界ーベイルアウト)

 

ピンポイントにトリオン供給機関を狙う犬飼の奇策は失敗した。しかし、この奇策によって村上の頭からは、ほんの一瞬だけ、最警戒していた敵の存在が消えていた。そう、諏訪の存在が……

 

「ご苦労だったな、村上ィ‼」

 

背後の声にすかさず振り返る村上。しかし、その左手に持つ(レイガスト)は既に割れていた。

 

"ドバッッ!!"

 

強力なフルアタックをもろに受けた村上の戦闘体は、早々に崩壊した。

 

「不覚……」

 

村上のトリオン体は一条の光となって戦場から消えた。

 

勝利の余韻に浸るかのように、諏訪は火の付いていないタバコを味わった。

 

栞)B級ランク戦ラウンド1昼の部、遂に決着!最終スコア、諏訪隊4点、二宮隊3点、来馬隊2点。諏訪隊の勝利です!

 

 

 

 

 




村上 鋼

年齢 17歳
誕生日 6月15日
身長 172cm
血液型 B型
星座 うさぎ座
好きなもの ざる蕎麦、白米、自己鍛錬
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