その日の放課後、僕は本部基地に向かった。本当は昨日行くべきだったのだけれど、生憎おとといの晩から本当に熱を出してしまった僕は、昨日は一日中ベッドの中で過ごした。
僕は徒然なるままに、二宮隊の作戦室にむかった。両側に開いたドアの先には、もう、先日までの面影は一つもなかった。その殺伐な迄に物寂しい空間に耐えきれず、僕は部屋の照明を消して、室内に足を踏み入れる。闇の中で僕の瞳は少しずつ、その部屋の姿形を映し出していく。それは幻覚なのか、それとも記憶の投影なのか、あの日の会話、あの日の出来事、あの日の思い出までもが次々と暗闇に映し出されていく。ひゃみさんとはとさんのくすくす笑い、犬飼先輩の笑い声、二宮さんの溜息混じりの苦笑。何も無いこの部屋はしかし、未だ二宮隊の残り香で溢れていた。
「ゴゥーン」
無機質な音と共に、扉から通路の灯りが漏れこみ、部屋は再びその荒涼とした空間を露わにした。
「辻ちゃん、どうした?」
扉の前に立つ犬飼先輩は、僕の不審な行動に、驚くでもなく、咎めるでもなく、飄々とそう言った。どうやら、魂の抜けたような足取りでふらふらと、もぬけの殻となった部屋に入っていく僕の後ろ姿は先輩にハッキリと見られていたようだった。
※
僕が今日、本部基地にきた目的の一つ。それは、先日退去させられたA級の作戦室の代わりに割り当てられた、新たなB級用の作戦室、そこに案内してもらうべく、あらかじめ犬飼先輩にお願いしていたからだった。
「で、どうだった?あの後。うまくフォローできたの?」
「分かってて言ってますよね?それ。僕は犬飼先輩みたいなスキルを持ち合わせていませんから。」
「ん?何か嫌味っぽく聞こえるんだけど?気のせい?」
「本心ですよ。僕も伝えたいことぐらいハッキリ言えるようになれたら…」
「大丈夫だよ。辻ちゃんは器用だから、いつかはきっと女の子とも上手く会話できるって!」
「いいですよね、先輩はポジティブで…」
「あ、今のは絶対嫌味だよね」
他愛ない会話を交わしながら本部の長い廊下を歩く。犬飼先輩がポジティブだというのも決して嫌味なんかじゃない。現にその明るさに今日もまた僕は救われていた。と、同時に、あの日のひゃみさんを前にして何も出来なかった自分の無力さを改めて思い知らされることにもなった。
「…それはそうと…あの後…二宮さん…どうしてました?」
恐る恐る尋ねると、先輩は足を止め、その顔からは笑みが消えた。